ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第2章 ここはシンデレラの世界らしい

32話 本当のエラ

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ガラスの靴を作り終わって、そのまま眠っていた俺が目を覚ますと辺りは真っ暗だった。

徐冷炉を見てみるとそこにあったはずの作品はなくなっていた。置き手紙を読んだショウがきっと取り出してエラに届けてくれたのだろう。

役目を終えられたことにほっとすると、俺が寝ていた床に豪華そうな封筒が置かれていた。
封蝋を開けて中身を見てみると、それは王宮からの舞踏会の招待状らしかった。

俺の作った作品を身につけたエラを見たい。

異世界に来て最初は未知の魔法に恐怖を抱いていたけれど、誰かに幸せを与えるような魔法も見てみたいと思った。
そんな魔法にかけられて、幸せを掴むエラを見たい。

世界の命運からの重圧から解放された今、この童話の物語の行先をみたい。
ショウが夢を叶える瞬間を見たい。

そんな想いから俺は迷わずそれに参加することにする。

流石に汗臭かったので、適当に体を洗って、腹ごしらえをして、黒髪を隠すようにマントを被って、それをエラからもらったブローチでとめて、工房の外に出る。

王都へ続く道のりには、スイが通った跡があるようだった。

ショウが安全は保証するって言っていたけれど、見知らぬ世界で自由すぎるだろ、あの黒猫は……。

スイを心配しながらも、それを伝って歩けばすぐに城門にたどり着けた。

***

それで今に至るのだが。
城壁の門に入って直ぐに、とんでもない衝突音が聞こえ、慌ててそこに向かった。
目に映るのは潰れたかぼちゃに何故か全裸の赤髪の男性と、青髪の男性。

そして目の前にいるのは、エラの面影が拭えない人影が一人。

彼女を「エラ様」と呼ぶ声が聞こえ、確信に近づいたはずだった。

しかし、俺が尋ねても、目の前で座り込む彼女は俯いて口を噤むだけ。

何かわけがあるのかと思い、俺は彼女にむけた視線を上から下に落とす。
そして、視線が一番端にたどり着いた時、俺は思わず目を見開いた。

「ってる……」

俺の口が反射的に動く。
その囁きを聞いたのか、目の前にいるエラと思しき人が怯えた表情を浮かべているのが読み取れた。

紳士な男ならここできっと、その表情の理由を聞くのだろうが、俺はどうしようもないほど自分の気持ちに忠実な人間らしい。

彼女の足にキラリと光る自身の作品を見て。そして、片方だがそれを履いている彼女を見て、俺は興奮を隠しきれなかった。

「超似合ってる……ガラスの靴!」

俺がショウに託したエラのガラスの靴。
彼がしっかり彼女に渡してくれたことに感謝しつつ、実際に履かれている俺の作品を見ると、気持ちがふわふわしてしまう。

右足しか履いていないのはきっと、王子様の元から逃げたあとだからだろう。
一連のシーンを見られなかったことは残念だけれど、物語通り、上手くいってる!

エラのために作った銀のガラスが結ぶラベンダーの花びらの装飾。
それが彼女のラベンダーの花を思わせる淡紫の瞳と……特別なガラス玉のように輝く銀髪の……あれ、よく見ると銀髪じゃない……?

彼女が履いているのは唯一無二の俺の作品。
ショウが渡し間違えた?
いや、ガラスの靴を渡すシーンは魔女にとっては超重要な場面。ちょっと抜けてるところはあるが、神様になるって頑張ってる彼がそんなミスするはずないし。


「……え?靴?あ、いやこれはっ、違っ」

俺の言葉を予想していなかったのか、彼女の方は靴を脱ぐと背中に隠してあからさまな誤魔化しを見せる。

「ち、違う、僕は……キミのことなんて知らない」

確かに髪色は銀髪に少しの金を混ぜたようなプラチナブロンドだけれど、ラベンダーの瞳やガラスの靴、そして俺の直感が目の前にいるのはエラだと告げている。

何故、彼女はそこまで頑なに隠そうとするんだ?その意図が分からず困った表情をしていると、彼女が震えた声で俺に尋ねた。

「……もし、僕が、キミの知っている、エラだったとしたら、どう、思う?」

「……どうって。俺のガラスの靴、履いてくれて、嬉しい、と思う」

彼女は肩を少しだけ弾ませると、さらに問いを投げかける。

「……それ以外は?変だとは思わないの?」

「銀髪じゃ、なかったんだ……って。ごめん、今の髪ももちろん綺麗なんだけど、俺はやっぱり月に映えるあの銀髪が特に好きというか、それをイメージして靴を作ったっていうか……」

俺のたどたどしい答えに、エラは目を丸くした後、大きく口を開けて笑い声をあげた。

「ふふ。ふふふ、そこはなんで男の姿になってんだよ、って言うところでしょ。なのに、ガラスに真っ直ぐすぎるし、あの銀髪が好きだって……ふふ、リヨは優しいね」

「え、男……?」

俺はガラスの靴に向けていた視線を少しズラして、大事な物が付いている方を見る。

と。モジモジと隠している手の奥から垣間見えてしまった。めちゃくちゃご立派なモノが付いているじゃないか!

「エラ、お、男だったの?!」
「今、言われて気づいたの?!」

俺の遅すぎる気付きに、彼女は目に涙を浮かべ、過呼吸になるほどさらに笑う。
やっと乱れる息を整えては、瞼に溜まった涙を脱ぐって、その淡紫の瞳を俺の方に向けた。

「キミの言う通り、僕はエラだよ。3日とちょっとぶりだね、リヨ」

そうやって微笑む姿は、まるで楽園の花畑に住まう天使のように神々しくて、俺は思わず息を飲む。
視線をずっと合わせていると身体が燻るように熱くなって、思わず目をそらす。
しかし、視線をむけた先には彼女……彼の身体があった。

「……!とりあえずこれ着て。そんな姿じや、風邪、引くから」

俺が慌てて被っていた薄汚れたマントをエラに掛けると、その瞬間、目の前にいる彼に作務衣の衿を引っ張られバランスを崩してしまう。

「……っ!」

気が付けば俺の唇に温かな何かが触れた。
エラの美しい額が、色素の薄い睫毛が目の前にある。
これは……キス……?!
頭が真っ白になって、体が動かない。
なんで、エラが、俺に?!

数秒経つと、互いの息のかかる距離から徐々に遠ざかっていく。
彼の髪はプラチナブロンドから美しい銀髪に戻っていく。

このキスは、きっと、髪色が変わる魔法?呪い?かなんかを解くために必要なものだったんだろ。
御伽噺にはありがちな展開だし。
いや、そう説明付けないと、頭が爆発する。

ショート寸前の俺にはお構い無しに、エラは月光に輝く銀髪を一束掴んで、俺に見せながら満面の笑みで言う。

「見て!リヨの好きな色っ!」

そんな愛らしい姿に俺は言葉を紡ぐのすら忘れてしまっていた。

俺の心に追い打ちをかけるように、エラは唇をペロリと妖艶に舐めたあと、にっこりと花が咲いたように微笑む。

金髪の彼とのファーストキスは作業行為のようだったけど、エラとのキスはなんかしっかりと熱があるというか、心臓が破裂しそうになるというか。

意識したら、エラの顔、見れない。

エラに向けての話しかけ方を考えていた時、横から大きな裸体の男に抱きつかれる。

「リヨ~!お前、良い奴すぎんだろ!?」
「……ええっと、どなた?」

赤髪に八重歯が覗く彼。
どこかで見たことがあるような風貌をしている。
目を細めた俺の姿を見て、クリスはさらに口角を上げると、最大のヒントを出してくれた。

「気付かない?チュッ!」
「も、もしかして、クリス?」
「正解!」

お茶目でお調子者、ネズミの姿の彼に抱いていた印象とピッタリだ。
それなら横にいる静かな青髪の青年は。

「じゃあ彼が、タルタ……」
「タルタルと言うな!」

やっぱり、タルタルって名前嫌なんだ。

「あぁ、えっと……大体わかったかも」

クリスとタルタルは魔法でネズミに変身していた。
そう。全部全部魔法のせい、という説明ができてしまうから。
すごく便利だな、異世界。

「察しもいい!最高だよ、リヨ」

クリスは俺の肩を組んでくる。
前提は何となく呑み込めたが、3人が全裸になっているこの今は何がどうしてこうなったんだ?

「えっと、それでこの状況は……」

「魔女さまが俺たちを魔法で着飾ってくれて応援してくれたんだけど、タイムリミットになってぜーんぶ魔法が溶けちゃったってとこ」
「そう、なのか」

確かに鐘が鳴って零時になってしまっていたらしい。
エラがガラスの靴を履いて、ドレスを着ているところ、見たかったな。
俺の靴をどんな顔で受け取ってくれたのかも。

「おいクリス、あまり話しすぎるな」
「分かってるよ。エラさまが元々男なんだけど、王子様を落とすために魔法で女の子になっていた、なんて絶対に言わねぇから」

「……王子様を落とす?」

なんか童話のシンデレラでは全く聞かないような単語が聞こえたような気がするのだが!?
この物語のヒロインであるはずのエラが男っていうのも、なんかズレがあるのに。

ショウ、本当にこの世界は大丈夫なのか?思わずそう叫びたくなってしまう。
俺が天を仰いでいると。

「……リヨ」

エラに声をかけられて心臓が跳ねるが、その音は極めて真剣で、俺も浮ついた心を鎮めて彼の話を聞く。

「キミには詳しい事情をしっかりと話すから、まずは僕の部屋に一緒に行こう」

そう言って彼は俺に手を差し伸べた。
エラの話につけ加えて、タルタルが補足する。

「そうですね。先程降っていたピンクの魔法の跡からして、王都には今、ド派手な結界が敷かれてしまっているようです。残念ながら出られません」

「ま、まじ?」

俺にはどうやら彼の手を取る以外にないようだった。
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