ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第2章 ここはシンデレラの世界らしい

31話 0時の再会(三人称視点)

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「ガ、ガラス、の、靴……!殿下、そういうことでございますね!」

サンはレイモンドが自身の真意とは違う言葉の解釈をしていたことは察していたが、今は誤解していた方が都合がいいと判断しそのまま頷いた。
そして、協力者を低い声で呼ぶ。

「シャルル」

エラの去った方向を見据えたサンの前に、薄らと笑みを浮かべた妖しげな男が歩み寄り頭を下げる。

「はい、ここに」
「あの青い騎士を見張っておけと念話で伝えたのに、合図を出す前に離したな?お陰で取り逃しただろ」
「すみません。ひ弱な者で」

サンはわざとらしく身体を縮ませるシャルルに睨みをきかせた。

「どの口が言うのか……。まあいい、今すぐに王都全体に魔法結界を貼れ。今度は手を抜くなよ」

そんなサンの言葉に先程まで余裕綽々だったシャルルの額が青くなる。

「そんな大きな魔法……私を数日ベッドに縛り付ける気ですか?」
「暇を持て余して、性欲の慰めしかしてないお前にはお似合いだろ?」
「他人を扱き使って……ほんっと良い性格してますね」

シャルルの返答する声は尖っていたが、サンはチラリと彼の表情を見るとその態度を鼻で笑った。

「嫌味ったらしい言葉の割には悦んでいる顔をしてるように見えるが?」
「ふふ、流石、私の弟子ですね~」
「弟子ではない」

慣れたやり取りを通して、シャルルは軽く笑い飛ばすと髪紐を締めて、サンの1歩前に出る。

前に伸ばした手のひらに意識を集中させ、一言。

「《結界》」

シャルルの足元に薄紅色の五芒星を囲む魔法陣が現れると、それはみるみるうちに会場、王宮、そして王都まで広がっていく。隅まで行き届いたら、それは更に天に昇り、王都の空をも包み込んだ。

その光景はまるで芸術で、花びらが舞うような細かな魔法の粒子は王都全体に降り注ぐ。
もちろん源に一番近い舞踏会会場では、月の姫が去った
ことで起きていたざわめきを打ち消すほどの眩くも優しい桃色の光と、魔法の花びらが包み込む。

まるでそれも月の姫の逃亡を物語の一説にしてしまいそうなほどの美しい演出となる。

結界の生成を同時に令嬢の逃亡による会場の困惑を鎮めたシャルルの手腕に、サンは素直に感心していた。

「助かった。それと……結界を貼るついでになんだが、調べてもらいたい事がある」

シャルルが首を傾げると、柔らかな桃色の髪が揺れる。

「魔女の森に隣接する……焼却炉に繋がる城門で人の出入りはあったか?」
「では、その辺を探索してみますね」

元々閉じていた目にぎゅっと力を入れる。
自身の魔力を伝って、結界内の様子を確認していく。
それに意識を割きすぎれば、結界の崩壊を招く極めて繊細な行為だが、シャルルはいとも簡単にやってのける。

「……ああ、1人だけ、少し前に通った形跡がありますね。マントのようなものをかけていて、よく見えませんが」

シャルルの答えを聞いたサンはニヤリと微笑んで、青い瞳をゆらりと揺らして輝かせる。

「そうか、ではそのまま結界を保ち続けてくれ」
「はいはい、せいぜい働きますよ~」

シャルルはそんな適当にそんな返事をしては、その場に座り込んで膝を抱えた。

結界魔法はその中心に術者がいないと形を保てないため、シャルルはサンが辞めろというまで、魔力が限界を迎えるまでこの場にい続けなければならなかった。

その鬱憤をぶつけるように唇を尖らせた。

「これで何びとたりとも王都からは出られないわけですけど。一目惚れして再会した方を閉じ込めてしまうなんて、サン、あなた意外と重い男なんですね。重い男は嫌われますよ?」
「節操のない軽い男よりかはマシだ」

サンはその指摘を少しだけ認めながらも、それを指摘した人物には納得いっていない様子で腕を組みながら突き返す。

「……経験則からこうなってしまったのですがね」

誰にも聞こえぬように小さな声で呟いては、コロッといつもの剽軽な態度に戻る。

「まあでも、一国の王子、それも国一の美男子からの求婚を断る者などいませんよ。経験豊富な軽い男からのアドバイスです!どんどん押して行きましょう!」
「それはありがたく受け取っておく」

王子はその美しい額に自信と期待をのせた。
そして、靴の創作者の手がかりを追うように命じていた側近を呼び戻した。

「レイモンド」
「はっ、ここに」
「王宮に仕える者の仕事を全てこの指示書通りに振り分け手配しろ」

サンが指を鳴らすと、青い星屑が彼の手に集まり、それがいつの間にか上等な羊皮紙へと変化していた。
それをそのまま側近に託す。

「……これは……しょ、承知しました」

受け取ったレイモンドはその紙に書かれていた内容にたじろぎながらも、最後は頷く。
内容が気になったシャルルは、サンの魔法の形跡を辿って記されたものの透視を試る。

注意深いサンが織り成す魔法だが、容易に中身を見ることが出来た。これはシャルルにも見せていいと判断し、敢えて制限を緩くしたものだからだろう。

内容を覗いたシャルルは思わず吹き出してしまった。

「さすが完璧王子。反逆者を炙り出す薬の流通といい、想い人を囲む準備といい……万全ってワケですね」


***

「エラ様!早く乗って」

タルタルは滑り込むように王宮の玄関前に付けた馬車に乗り込んで、後続のエラに手を伸ばした。

「……ごめん、失敗した」
「気にすんな!こっからまた練り直そう。行くぞ」

萎れたエラに御者席に座っていたクリスが砕けた言葉を使って彼女を励ます。
クリスは既に手網を握りしめており、すぐに出発できる状態だったが、肝心のエラが乗り込もうとせずに立ち竦んでいた。

「……待って。リヨからもらった靴を片方落としてきたんだ」
【ゴ-ン】
エラの言葉に重なるように、0時の5分前を告げる鐘がなる。

「戻ってたら、魔法溶けちまいますよ!」

クリスもタルタルから命令でのっぴきならない事情ということは分かっているようで、気迫のこもった声でエラを説得する。
それでもエラはなかなか諦められなかった。

「でも……でも」
「伯爵邸に帰るのが先決です。靴は、また、リヨにお願いしましょう」
「やだ!僕以外がリヨのモノを持っている、触れるのが嫌なの」

胸を押えて強く抵抗する主にタルタルは痺れを切らして彼女の腕を掴んで馬車の中に引入れる。

「クリス行ってください!」
「了解だ」
「……っ!」
タルタルの合図で、クリスが手網を緩め、馬に語り掛ける。

「よぉし!ビンビン!お前にできる最高速であっちに向かってくれ!」
「なんですかその、意味深で、少し……ひ、卑猥な言葉はっ?」
「この馬の名前。ハクビシンだからビンビン。行きに意気投合してだいぶ仲良くなったから、もう本気の爆速だぞ?!」
「……そんな純粋な回答をされると、変なことを考えていた私が変態みたいではないですか!」
「ん?」

噛み合わない会話にクリスは困惑して首を傾げながらも、馬に号令を出す。

「さあ、イケ!ビンビン!」
「……もうやめてっ!」

クリスの号令にタルタルが頭を抱えて絶叫した次の瞬間。馬車は音を置き去りにしてしまうほどのスピードで発進する。

風にも優る速さに、さすがのタルタルも驚いて、車内から御者席に向けて声をかけた。

「クリス飛ばしすぎでは……?」
「ここまで飛ばさねぇと間に合わねぇだろ」
「……確かに。でも曲がれるくらいの余裕は残しておいてくださいよ……」

タルタルがそう言った束の間。
ビリッと何かが破れる音が聞こえて、彼は恐る恐るその音が聞こえた御者の方を見た。

そしてその御者も、震えながらゆっくり振り向いて、相棒に助けを求めるように瞳を潤ませる。

「……タルタル、まずい」
「え?」
「……手網が、ちぎれた」
「この馬鹿力が!目の前のこのままだと城壁にぶつかります!」

ビンビンは興奮しているのかクリスがどれだけ声をかけても止まることはなくそのまま壁に一直線に進んでいく。

「エラさま、踏ん張って~!」
「……え?」

心残りを置いてきたエラは消沈しており、クリスの叫びがどんな状況を指しているのか想像できなかった。
エラがそれに気付いた時にはもう遅く、豪奢だったかぼちゃの馬車は、

【ガシャン】

と鈍い音を鳴らして壁に激突していた。
吹っ飛ばされた騎士達とエラは、地面に這い蹲る。

「派手にやっちまった」
「クリスお前は本当に最後にやらかしてくれるな……」

タルタルはクリスの行動に頭を抱えた。

「最悪だ。こんなタイミングで……」

タルタルの嘆きの言葉に割り込むように、長い鐘の音が王都に響き渡る。

【ゴーン】

それが鳴り終わった時、騎士たちも夜空の姫もバラバラになった大きな馬車も、駿馬も、全てが眩しい星の光に包まれる。

光が止むのと同時に、タルタルは先程の言葉の続きをボソリと呟いた。

「……魔法が解けてしまうなんて」

馬車もバラバラになり、ここまで三人を連れてきた馬もハクビシンの姿に戻り、すぐさまこの場から逃げていく。

騎士達の美しい服も消えてしまい、彼らのその肉体が露になる。
それは、エラも同じだった。

胸の膨らみはなくなり硬くなる。
骨格は角張り、程よく付いた筋肉、薄らと垣間見える6つに割れた腹筋。
下半身には男性を象徴するものがしっかりと生えている。

「……はぁ。なったことはしかたない。タルタル、クリス、歩いて別邸に戻ろう」

エラが身体に巻き付ける布を探しに立ち上がった時だった。

淡い桃色の光の粒が降ってきて、それが再会を演出する。

「……あれ、エラ?」

聞き覚えのある声が遠くの方からエラの元へ届く。

「……!」

彼女に近づく足音はだんだん大きくなっていき、彼女の鼓動は破裂寸前になる。
咄嗟にその場にへたりこんで、頬を紅潮させながら大事な所を両手で押える。

それに気付いたクリスは驚き混じりの声を張り出す。

「やばい、今のエラさまに1番会ってはいけない人と会ってしまった」

そんな脊髄反射の言葉から出た情報の不味さに危機感を覚えたタルタルは、クリスの口を抑えて力ずくでこれ以上の発言をさせないようにする。

しかしらクリスの発言は彼の耳に届いていたようで、彼はより彼女に向けて歩みを進める。

「さっき、エラ、さまって……やっぱり、キミ、エラだよな?」
「……」 

エラは目を伏せて口を噤んでいた。

その様子を不思議に思ったマントを被った青年は、エラに向けたその真っ直ぐな視線を、上から下に移す。
そして青年の視線が下に向いた瞬間、彼の動きが止まった。
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