【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏

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第15話 主人公が家に来た

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急いでエントランスを出て、マンションの外の方へ向かう。
ふと辺りを見回してみれば、スマホとマンションを交互に見ながらキョロキョロしている背の高いイケメンが一人。

「昴~!」

オレが手を振りながら、彼の方に走っていく。
オレを見つけた様子の彼は、表情を緩ませて手を振り返す。

「ごめんな。」

昴の隣に着いたオレは息を切らしながら手を併せて、自分の配慮のたりなさを謝る。

「う、ううん!こっちこそ、わざわざ、迎えに来てもらって、申し訳ない、です。」

昴は気をつかってくれたのか、オレの謝罪に首を振って、今度は頭を下げて謝罪を重ねた。

エントランスを開けて、エレベーター使って上階にのぼる。

「じゃ、どーぞ。」

オレが扉を開けて先に入る。

「は、初。タ、タワマン……」

震えながらなかなか入ることを渋っている昴を安心させるため、オレはくるりと彼の方を振り返り笑顔で柔らかく言った。

「いらっしゃい~。」

それを見てか、昴の緊張で上がった肩がストンと元の位置に戻って、一歩を踏み出してくれる。

「お邪魔します。」

腰を低くしながら家に上がった昴は辺りを見回して、持っていた紙袋をオレに差し出す。

「あ、これ。親御さんに……」

そう言って、丁寧に菓子折りまで。

「ありがとう。でもオレ一人暮らしだから、気にしないで。」

「え?!こんな広い部屋に?!」

「そう。」

「……本当に王子様なんだが。」

きっと昴なりの気遣いの言葉なのだろう。
そんな昴の呟きを深堀することはなく、オレは彼を自室に案内する。

「じゃあ、オレの部屋へどうぞ。」

「お、お邪魔します。」

なんか、普通に緊張する。
自分の脳内を見られているようで、恥ずかしい気持ちさえ芽生えてしまう。

「意外?」

そんな緊張も相まって、昴の反応を見る前にオレがそう聞くと、昴は少し笑って答えた。

「てっきり美少女フィギュアとかポスターとかいっぱい貼ってあるのかと。」

昴の中でオレは、そんなラブコメファンとして写ってるのか。
それが少し面白くてオレは笑みを浮かべながら、昴の中の俺のイメージを変えようとしてみる。

「まあ、確かにラブコメのヒロインも可愛いし良いけど、オレは主人公が好きだから。」

オレの発言に昴は目を丸くしながら呟いた。

「……それなら、グッズがないのも納得か。」

「まあ、しっかりハーレムラブコメコレクションはあるんだけどね。」

そう言って本棚をスライドしてコレクション面を見せると、昴は目を輝かせて手を叩く。

「かっこいいと好きが詰まってて、最高だね。」

詰まってる。こんな空っぽな部屋を見て、そんな感想を言ってくれるなんて。
たとえ気遣いでも、オレはそれが無性に嬉しかった。


折り畳みのローテーブルを出して、そこに参考書や課題たちを広げていく。

「さて、始めますか。」

参考書を開いたオレは、胸の前で手をパンと叩いて意気込むと、昴は丁寧に頭を下げてそれに反応する。

「お願いします。」

「どこら辺が分からない?」

頬杖をつきながら、正面にいる昴に一先ず尋ねる。
昴は視線をオレから徐々に外し、下を向いてボソリと呟いた。

「……分からない所が分からないです。」

あの点数から薄々感じてはいたが、状況はあまり良くないらしい。

「これは教えがいがありそうだな。」

結局、単元の一から教えることになり、公式の仕組みから理解をするのに相当な時間がかかってしまった。

「んじゃ、この問題は?」

オレが練習問題を提示し、昴はその解き方と答えをノートに記していく。

「こう?」

書き終わった昴が恐る恐るそのノートをオレの方に差し出す。

「そう!正解!」

オレが赤ペンを出して昴の答案に花丸を付けると、無邪気な子どものようにパァっと明るくなる。

「てる~!すごいよ!ありがとう!」

「すごいのは頑張った昴な。」

キラキラした瞳で感動する昴を見て、オレも思わず笑顔になった。

ふと、スマホを見て時間を確認すると、19時になろうとしていた。

昼から勉強していたから、だいぶ時間が経っている。

昴の集中力に驚きつつ、オレは息抜きにとある提案をした。

「お、もうこんな時間か。何か頼む?」

「頼むって?」

「デリバリー。何がいい?」

オレはデリバリーアプリを開いて昴の希望を聞く。

「……瑛はいつもどんなの食べてるの?」

「ピザとかハンバーガーとかあと、たまに唐揚げ弁当とか……」

昴の問いにオレはアプリの履歴を見ながら答えた。

「毎日?」

「うん。」

オレが短く返事をするが、昴からは何も返ってこない。 


「………………」


「何その沈黙。」


オレはスマホから視線を外し、昴の方に移した。
すると、目の前には俯いて肩を震わせている昴の姿があった。

急にどうしたのかと思い、顔を覗き込むと、その瞬間、その整った顔をこちらへ向けて、身を乗り出してくる。彼の勢いに圧倒されて、オレの方が身を引いてしまう。



「良くないよ。」



「え。」

昴の聞いたことのない低い声にオレは思わず、そんな声を漏らす。




「成長期の男子がしちゃいけない食生活すぎる。」

「え、」




オレが困惑している間に、昴はバッと立ち上がり、オレに鋭い視線を向けながら告げた。




「瑛、台所貸して。」



「い、いいけど……」

オレは慌てて立ち上がり、昴をキッチンに案内する。
ムッとした表情のまま、昴は冷蔵庫の前に立ち、「開けていい?」といわんばかりに指をさす。

「これ、だけ……?」

冷蔵庫の中身をため息をついた昴は、渋い顔付きで、なけなしの食材を取り出して、キッチンに置いていく。

キッチンの棚を見ていい?と目で訴える昴にオレは首を縦に振る。
昴はそこから、オレも見たことがない、まな板と包丁を発見する。

そして、もう一言。

「フライパンは?」

昴の強い圧のある問いに、オレはビクリとして直ぐに持ってこようとするが、ふと、立ち止まった。

自炊をしたことがないから、この家にフライパンがあるかどうかが分からない。

一か八かでオレはクローゼットの方に向かい、母から送られてきたダンボールを引っ張り出した。

「……えっと、確かここに……」

ダンボールを探って数分。

「あ、あった!」

俺ん家にフライパンあったんだ。
この発見には自分でも驚いてしまった。

急いでキッチンに戻ってそれを昴に見せる。

「使っていい?」

「う、うん。」

オレは頷くことしか出来なかった。
昴が作業を始め、手があき、落ち着かなくなったオレはその後ろを行ったり来たりしていた。

「オレ、なんか手伝おうか?」

「ううん。瑛は座って待ってて。」

キッパリとそう言われてしまったため、オレは大人しく一人では大きすぎるソファに座った。

十数分後。

「はい、どうぞ。」

鍋敷きの上に置かれたフライパンには、たくさん入った肉野菜炒め。

「封印された冷凍の野菜と謎にあった豚肉を使わせてもらったよ。賞味期限とかは確認したから大丈夫。」

豚肉はうちでは食べきれないからと父から送られてきたものだ。
どうしようと思っていたが、昴がデキる男すぎる。

「嘘、だろ。まさか、家で昴の料理が食えるなんて!」

「俺も。まさか瑛がそんな食生活を送っていたなんて、だよ。」

ため息をつきながら、昴もソファに腰掛けると、オレに割り箸を手渡してくれる。

「「いただきます!」」

フライパンもないことからも明白だが、オレん家に皿もない。デリバリー生活で割り箸潤沢にあるが。

そのため、フライパンに盛られた料理を二人で分け合い、そのまま箸で取って口に運ぶ。

「美味い!」

弁当でも思っていたが、温かい昴のご飯は美味すぎる。

幸せを噛み締めながら無我夢中で食べていると、それを見ていた昴が箸を止めて、口を抑え優しく微笑む。

朝、オレが食べる姿を飽きずに見守る表情と同じように。

夕食を誰かと食べるのなんていつぶりだろう。


「「ご馳走様でした!」」

オレがガッツいてしまったこともあり、あっという間にフライパンは空になった。

昴が慣れた手つきでそのまま空のフライパンをキッチンに持っていこうとするから、オレは慌てて自分が洗うからと彼を静止した。

昴は少し微笑んだあと、立ち上がって言った。

「お言葉に甘えて。じゃあ、俺はそろそろお暇するよ。」

「分かった。今日はありがとう。」

一旦オレの部屋に戻って昴の荷物を拾って、オレはエントランスまで彼を見送った。

「今日は本当にありがとう。
あと、栄養バランスとかも考えること!
ほんと、毎日でも作りに来たいくらい。」

そんな昴の感謝を述べてから、しっかりとオレに釘を刺す。

毎日でも。そんな昴の冗談に、変な妄想が過ぎる。
昴のガチ唐揚げも食べられたりするのかな、なんて。

「なあ、昴。」

「どうしたの?」

「テストまでの間でいいから、さ。夜ご飯作って欲しいっていうか……もちろん、勉強分かんないとこはとことん教えるか、ら……」

それは無意識に出た図々しいにも程がある提案で、オレは慌てて自分の発言を訂正する。

「ご、ごめん!朝も作ってくれてんのに、家の用事とかもあるだろうに、流石に、厚かましすぎるよな、今の話忘れて」

「いいよ。」

「え。」

それはあまりにも短い了承の言葉で、オレは理解できずにいた。

「料理は趣味だし、いつも暇してるし。
何より、瑛が心配だし。」

「しん、ぱい?」

『瑛はしっかりしてるから……』
そんな言葉をかけられることが多かったオレが、心配されるなんて……新鮮で、その言葉に胸が熱くなる。

オレはグルグルした意識の中、ポケットからあるものを取りだし、昴に手渡した。

「これ、スペアキー」

「ドドドドドウシテ??」

昴の動揺が目に見えてわかる。

そうだよな、たかが友人にこんなモノ渡されても、意味不明だし、怖いとか重いとか思うよな。

……でも、今日、昴と食べる夕食を知ったオレが、明日ちゃんと一人に戻れるのかが不安になって。

オレは尽かさず最もそうな理由を並べた。

「オレ、部活で遅くなる日あるし、自習室代わりにでも使って。できるだけ早く帰るけど!」

「…………うん。」

昴は瞳孔を開けながらも、オレの理由に納得したようで、ゆっくり頷いて受け取ってくれた。



***


酒神昴は歩いて帰路に着く。
自宅の扉を開けると、兄の帰りを今か今かと待ち構えていた妹が出迎えた。

「お兄、おかえり~!」

「ア、アノアッ…」

「なんかバグりながら帰ってきてるし。」

妹は兄の手を凝視して首を傾げる。

「ん?そんな大事に何かを手に閉じ込めて。季節外れすぎる蛍でも捕まえた?」

「スッ、ス、スッススペアキー貰ったんだがコレはプロポーズということでよろしいかいやよくないだろよいだろ、え、通い許可も貰ったんだがもう新婚ということでよいか」

「え?」
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