【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏

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第28話 主人公と友人とMVP

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白百合さんからバトンを貰った昴は、綺麗なスタートダッシュを決めて、後ろとどんどん差をつけて走っていく。

「頑張れ~!」
「3組の子速い!かっこいい!」

そんな黄色い声が聞こえる。

オレが巻いた赤いハチマキがひらりと靡く。滴る汗がキラリと光る。
そうだろ、カッコイイだろ!なんて、内心では、そんな声援にむけて鼻を高くしていた。

練習では減速していた200メートルに差し掛かる。
割れるような大歓声の中、オレも腹から声を出して、彼を応援する。

それに応えてくれたかのように、勢いを止めることはなく、どんどんスピードは上がっていく。

努力は報われる。

それを体現する走りに感極まって、オレは、こちらに向かって走ってくる主人公の名前を呼んだ。

「昴!」

オレの呼び掛けに昴はニコリと微笑みを返す。


それは最後の直線。あと数十メートルで、オレにバトンを渡せる距離だった。

砂埃の向こう、膝をついた昴がこちらを見ている。
その時、オレの頭は真っ白になった。

「あぁ、3組、いい調子だったのに、ダメだな、これ……」
「だな……無理だよな。」

観客席からため息混じりの声が聞こえた。

しかし、倒れていた彼はそんな声なんて、気にしていなかった。ただ、真っ直ぐ揺るぎない瞳で、ゴールオレの方だけを見据えていた。

「っ!まだ、あと、ちょっと……!」

潰れた声。それでも、必死に自分を奮い立たせるような彼の言葉が、微かに聞こえた。

「……!」

そんな昴のひたむきさに、オレの胸は劈かれた。

「瑛……」

オレの名前を呟くと、昴は大きく息を吐いて、ふらついた脚のまま立ち上がる。

「……昴」

顔を歪め、涙と汗にぐしゃぐしゃになりながら、それでも前を向いて。

「そこで、待ってて。行く、から。ぜっ、たい。」

嗚咽が混じるボロボロな声で叫ぶ。
必死にオレへと訴えてくる。

赤くなった膝を引きづって、1歩ずつ、1歩ずつ、彼のゴールである白線に近づいいく。

そんな昴の姿を見て、オレは何も出来ず固まっていた。

なんで、なんでそこまで頑張れるんだよ。
出来なかったはずのことなのに、どうしてそこまで克服できるんだよ。
そんなボロボロの姿になっても、どうしてまだ立ち上がろうって思えるんだよ。

どこまで……かっこいいんだよ。
どこまで、オレの好きな主人公なんだよ。


『友人キャラ』なら、どうする?
がむしゃらに立ち上がる主人公を腕を組んで見守る?
これも試練だと、ここから動かずに待つ?


違うだろ。


キャラ?そんなの関係ない。
頑張っている、今にも苦しんでいる友人に手を差し伸べるのが、友達だ。

「昴!」

オレは練習していたテイクオーバーゾーンの奥から手前ギリギリまで駆けて、昴にできる限り歩み寄る。

そして、手を差し出した。

「よし、あとちょっと、頑張れ!」

オレの声に昴の表情が少し、ほんの少しだけ明るくなる。

「すばる君!頑張れぇぇぇぇ!」
「頑張れ!酒神!」
「「頑張れ~!」」

翔馬の声を始まりに、それに続いて亮介やクラスメイト達の声が昴の背中を押す。

ぐらついた足元の中、何とか昴はオレに手を伸ばす。

震えていた昴の手をギュッと掴んで、グイッと引っ張って、白線の内側に彼を引き込む。

指先の感触が確かにオレへと繋がった瞬間、胸の奥で何かが熱く弾けた。


オレの横でバトンを待っていたライバルたちはもう、走り出していて。
テイクオーバーゾーンにはオレと昴の二人だけ。

涙が混じった声で、昴は言葉を絞り出す。

「て、瑛、ご、ごめん、俺……あの、ほんと」

「すげぇよ、昴。頑張ったな。」

自分を責める声を遮って、オレは昴の大きな背中をさする。

「怪我は?」

「……擦りむいただけ。」

オレの問いかけに、昴は視線を逸らして、血が出ていた膝を手で隠した。

「よし、昴、バトン、貰っていい?」

「う、ん……」

「それと。ハチマキも。」

オレは昴のずれ落ちたハチマキの端を掴み、きゅっと引っ張ると、緩く結んでいたからか、簡単に解けてしまう。

そして、昴のハチマキを受け取ったバトンと一緒に左手に巻き付ける。

これはオレの決心だ。
昴の想いと一緒に走って、昴の努力を無駄になんて絶対にしない。

「オレ、全員抜いてくるから。
あまりの速さでバトン落ちないように巻いとく。
だから、しっかり見といて。」

「……っ!ごめん……」

溢れ出そうな涙をグッとこらえて、昴は下を向く。

オレは昴の頭を優しく撫でて、心からの言葉を紡ぐ。

「謝んな。かっこよかったよ。
練習の時から、ずっと。
がむしゃらに頑張ってて。」

ポタリと昴の瞳から1滴の雫がこぼれ落ちる。それが涙なのか、汗なのか、それを追及することはしなかった。

「これで1位とったら、それは昴のおかげだから。昴のあんなに頑張ってる姿見なかったら、オレはきっとここまで、走れなかっただろうから!」

オレはそう言って、頭に乗せていた手を離し、肩を2回叩く。
そして、オレが走るべき方を見る。

「じゃあ!いってくる!」

「瑛……」

昴に向けて笑顔を見せて、今度は応援席の方を指さす。

「お前ら、最後までオレらを応援しろよ!」

「「「「「はい!」」」」」

これまで、空気を気にしていたオレなら言わない命令口調のセリフ。
でも、今は心の底から溢れ出るそれを口にした。


地を蹴った瞬間、足に伝わる反発が全身を突き上げる。
爆発したみたいに体が前へ飛ぶ。
風を切り裂く音とスタンドから割れるような歓声が押し寄せる。

「てる、いっけぇ!!!!!」
「まだいけるぞ!抜けーッ!」
「瑛、頑張って……」

視界の先には、もう前を走る背中しかない。
昴の想いを絶対に無駄にはできない。
絶対にクラスを優勝に導いて、昴にMVPを。昴の願いを叶えたい。

あんなに必死に、頑張ってたヤツが泣いて終わる展開なんて、オレは大嫌いだ。

変えてやる。こんな展開変えてやる。

オレは主人公が……いや、昴の頑張りが認められて。そして、昴が笑顔になる展開しか望んでない!

静かに見守る『友人キャラ』からは逸脱するかもしれないけれど、そんな役割以上に、これが今オレがしたいことだ。

一人目を抜く。
二人目を抜く。
息が焼ける。脚が悲鳴を上げる。
けど、それ以上に胸の奥で燃えるものがオレを突き動かす。

前しか見ていないオレには、もう何人目抜いたかなんて分からない。

目の前を走っていた背中が、ゴール前で加速する。
だけど、昴のハチマキがチラリと視界に入った瞬間、全身の力がさらに引き出された。

「うおおおおおおお!!!」

視界が真っ白になった。
気づけば、オレの胸をゴールテープが切り裂いていた。

歓声、ざわめきがグラウンドを包み込む。ふと、想いを引き継いだ場所の方を見てみた。

そこには、すぐに駆けつけて来たのであろう翔馬と亮介の肩をかりながら、オレの方をじっと見つめる昴がいた。

オレが左手に巻いていたハチマキとバトンを掲げて、大きく振ると、昴は赤くなった目を細めて、はちきれんばかりの笑顔を見せた。

ーーオレは、その時、昴から目が離せなくなってしまった。

早くなる鼓動はきっと、全力で走りすぎたせい。
熱くなる身体もきっと、全力で走りすぎたせいだ。

……きっと、そうだ。
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