俺がペットでペットがご主人さまで~転生者の殺戮場~

ryuu

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第1章

第2話 ピノの決断

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「うっ‥‥」
「やっと目覚めたのね、馬鹿ご主人さま」
「ピノ?」
  
 閉じた眼を開花させ、すぐ目線に一人の白地のローブ姿の美女の姿が映る。それは記憶に先刻に衝撃的に刻まれたマイペットの転生後の姿。その美女が嫌悪のまなざしで見下ろすようにして一言告げた。

「ここはどこなんだ?」
「さぁね、私も必死に抵抗したけど無理だったし目隠しされた状態で連れてこられたものだからわからないわ。まぁ、服をもらったのは感謝してるけどね」

 竜生と美女と化したピノが連れてこられたのはどこかの地下監房のような場所だった。鉄格子の向かい側の外を伺うと薄暗く中世時代そのままの鉄格子と岩の壁で囲まれた個室がずらりと並んでる牢屋の集まった部屋だとわかった。自分たちはその一室である牢屋にいることは確実だった。
 牢屋の一つにそれぞれ押し込められ、竜生とピノは一緒に投獄されたようだった。
 手足は足枷手枷をされてるので下手に動けはしない。
 近くに騎士がいたことにここで初めて気づいた。それは例の赤髪の美女騎士だった。彼女はキツイ目つきを向けながら告げる。

「王女の謁見の時間までそこでおとなしくしてるんだな」

 彼女はその一言を告げると後から来た看守の騎士と交代をして去っていく。今来た看守の騎士はむさい感じの男性だった。竜生は男よりも女の方がよかったなどとこの状況下で考えてしまう。

「なんだよ……。ここのことまだ分からない状態でこんな状況っ……クソッ!」
「うるさい!」

 ピノは怒り乱雑に鉄格子を殴り叩いた音が響き牢屋に反響した。
 それに煽られてか他の牢屋からも「うるせえぞ新入りどもぉ!」「その頸斬ってやろうかぁ!」と狂気の声が荒ぶるように上がってこだましていく。看守からも「黙れ」と怒声を浴びせられた。
 竜生はおとなしく後ろに下がって壁に身を預けて座り込む。

「あー、くそー」

 このような事態は望んではいなかったために現実的に精神が絶えられてはおらず混乱という意識が頭を支配していく。
 何かを行動していないと落ち着かない。

「はぁー。混乱しても始まらないでしょ、馬鹿ご主人」
「……もともとはお前のせいだろう。なんで、あんな格好で……、しかも、抵抗するなんて……」
「裸は私が望んだことじゃないわよ! あの爺がこの姿に転生させたの! それに抵抗しておかしいの? 誰だって弁明を聞かずに捕縛はいい気がしないじゃない!」
「まぁ、確かにそうだけど頭を使って少しはおとなしくして投降すれば話に耳を傾けたかもだろ?」
「馬鹿ご主人。そんなの甘い考えよ」

 ピノがあきれたように嘆息してそれ以上言葉を発しなくなった。
 だが、しばらくしてまた口を開いた。

「状況を整理しましょう。私と馬鹿ご主人はどういうわけかこの世界の法律のような違反を起こして捕まった。あの人たちからの発言から察するに私たちの犯した罪は重罪ではないように感じられるわ」

 冷静な分析した発言をする。
 竜生も「そうだな」とその分析結果に間違いがないことを合わせるように言う。

「たしか奴らは『公序陵辱違反』とか言ったよな。そこまで重い罪ではないのだろうよ。『謁見の時間までここにいろ』みたいなことを言ってたことから察するにまだ弁解の余地はあるかも」

 事の内容を言い続けながら考える。
 『公序陵辱違反』は竜生のいた世界でも法律的罰する行為であったことは確かである。
 これがこの世界でも同様の刑罰に値するとするのなら大した刑罰は起きないはずであり死刑にはならないだろう。

「それよか、ピノ。なんか俺に対してすごく怒ってるだろ? 馬鹿だのクズだの。俺が何かしたか?」
「……馬鹿ご主人はそれだから馬鹿ご主人なのよ」
「はぁ? 言ってもらわなきゃ分からねぇだろ」
「一度でも私の気持ちを考えたことある?」
「いつも考えてただろ」
「全然考えてなかったわよ!」

 意味がわからなかった。
 しっかりと竜生は餌も水も教科書通りにやってきていた。時にはピノがストレスにならないように外へ出したり一緒に遊んだりもした。
 夏の日の対策に冬の日の対策だって欠かさず忘れたことなどない。
 それのどこに気持ちを考えていなかったというのか。

「俺はお前のことを第一に考えて生活してきていただろう」
「ええ、たしかにそうね。私のことを気遣い毎日いろいろと親切にしてくれたわ。そのことは感謝してる」

 一息ピノがつく息使いを耳にした。
 そうして――

「でも、私にしたら恥ずかしいったらないわ」
「は?」
「トイレの時や餌の時間、水を飲む時ですら一々見てくれては私を子供でもあやすように「よくやったねぇ」と言う。私は子供じゃないのだからそんなこと言われるだけで腹立たしいし恥ずかしいのよ! それに外へ出すタイミングよ! なによ! 私は外へ出たくないのにあなたがゲージの扉をあけるたびに出なくてはいけないみたいなっ。あれだから私はいやいや出てるということすら気付かずに――」
「いやいや、待て待て」

 ピノの愚痴が永遠と続きかけたその口を閉ざすかのように竜生はストップをかけた。

「何よ!」
「それはお前が動物であったからしてきた行為で、そりゃあ会話できてればそれなりに対応したさ。だけど、意志疎通できないのに言われたことに対して恥ずかしかったとかしょうがなく従ったとかいわれてもわからないって。態度で示してくれさえしなかっただろ」
「示したわよ。足をドンとやってたじゃない」
「やってたけど、『スタンピング』のときは大抵やめてあげただろ」

 ウサギの習性の一つであるスタンピング。怒った時やストレスで嫌がった表現を現すときに足を強く踏み込むようにする動作のことである。竜生もピノがそれを行ったときは基本は放置を行い気を利かせていた。

「ええ、だけど、私は同時にそれ相応のお詫びの品としておやつをもらいたかったのよ!」
「お詫びの品っ!?」

 あまりに動物とは逸脱した感覚をもっていたようだったピノ。
 普通はお詫びの品でおやつをあげるだろうか?
 つか、そんなことに気を回せることはないだろう。

「ゲージも狭いしもっと広いゲージですみたかったわ! 何より最悪なのがあんたの自慰行為を見せられる苦痛よ!」
「っ!? な、なんで見られてんだよ!」

 自慰をするときはいつもタオルをかけてゲージを隠すのが常だった。
 なんだって見られてるんだよと軽いパニック状態だ。

「あなたはいつもタオル乱雑にかけてるからよ。わずかな隙間から見えるの。それにあなたの自慰をした後の臭いは好きじゃないのよ! 手を洗ってくれた後で触っても私にしたら不快だったのよ!」
「やめてぇ! そのカミングアウトは一番聞きたくなかったぁああああ!」

 竜生は耳を押さえてうずくまる。
 もう、思い切り精神をえぐられた。
 でも、わかったことがある。
 彼女が竜生をどれだけ嫌いなのかわかる発言がズバッと発言されただろう。

「私はねぇあんたのような屑にペットでいたという生活が苦痛でしょうがなかった。でも、ペットで入れさえすれば生きてけるから従ったけど今日でおしまいよ」
「ま、待てよ。おしまいってなんだよ?」
「私はこの世界で一人で生きてく。あなたの力は借りないわよ」

 その宣告をした後だった。
 監房に誰かが訪れた足音が響く。そうして、竜生らの牢屋の前で誰かが立ち止り施錠扉が開いた。

「出ろ、謁見の時間だ」

 ピノの宣告に対しての答えを聞く前に謁見がやってきてしまったようだった。
 竜生は最悪の気分を感じた。

 *****

 騎士に竜生とピノが連れて来られたのは大きな部屋。
 レッドカーペットが敷かれた床、周りを支柱で囲い、国の徽章の垂れ幕を下げてあったりというようなまるで大仰な一室。
 前方には一つの椅子。そこに鎮座するのは部屋の天窓から差し込む光によりきらびやかに輝く銀髪に端正な美貌と神に愛されたと評価すべきスタイルの美女。傍らには鎧を着こんだ二人組の騎士が護衛のように立っていた。
 想像の中に一つの言葉が思い浮かんだ。
 ここはいわゆる王座の間と言う場所なのであろう。
 雰囲気からしたらまさにそうで中世時代の王座の間を想起させる。まさにファンタジー要素の王道だ。
 竜生とピノは部屋に入るや否や騎士に無理やり膝まづかされた。
 騎士が妙な動きをすれば斬るとばかりに背後に控えて威圧を向ける。
 竜生は体が震えるもピノはほくそ笑んでいた。
 この状況で笑うピノに身震いする。
 左隣の奥に控えた黒の喪服のような格好をした初老の男性が罪状を言いつけた。
『公序陵辱違反』罪状でありそれは一般的に竜生も知ってる犯罪の名称だった。この世界はどことなく竜生のいた世界と似ている面も持ってるのであろうことはわかった。

わたくしはこの『アリルアンヌ大国』王女リーシア・アリルアンヌとしてあなた方に懲役10年の禁固刑を言い渡します」

 たった一言告げる。呆気なく宣告されたことに対して呆けるしかあらず反論をどう述べようか考える。
 喪服の男が続けるように「弁解の余地があるのならば王女の御前で双方申し立てなさい」と申告した。

「あるわよ。私たちは別にいやらしいことをしていたわけじゃないわ!」
「そ、そうだ! だいたいここにきてから間もないのに何が何やらわけわからない」

 その弁論にたいして周りにいた騎士や傍観者気取りのシャレている服装を着た連中が嘲笑した。それにカチンと頭にきたピノが犬歯をむき出して睨みつけた。
 その行動を見咎めた背後の騎士がピノに手を挙げようとしたところを竜生が身を呈してかばう。

「ちょっ、馬鹿ご主人さま!」
「っ‥‥少しは状況を見た態度を示せよ」

 ぐらついた頭を床に擦りつけた。
 無理やりまた体を起こされて王女と視線を再度合わす。
 喪服の男が王女へ一枚の書類を手渡し王女は顔をゆがめた。

「本当にゲスイですわね。あのような大広場で愛しあうなどモンスター以下ですわ」

 こちらを蔑むようにして罵詈雑言を言い始める。

「なっ! 冗談じゃないわ! 私はこんなバカ――」

 とピノが反論を言いかけたが、背後の騎士に剣の柄で肩に強打させられ呻くようにうつぶせに倒れこんだ。今度ばかりは竜生も反応が遅れピノを守れなかった。

「てめぇ! コイツに手を出すな!」
「その態度はなんだ!」

 剣を振りかぶろうとした騎士に王女が怒声を浴びせやめさせたことで一命を取り留める。

「威勢がよいのは結構なことですわ。ですが、ここはどこかわきまえた上で発言をいたしなさい下郎」

 この場の支配権はすべてが彼女にあるという主張的発言だった。
 竜生らはただの捕虜だ。下手な行動に出れば首をはねられるのであろう。
 ピノにはしばらくその状態でいてもらうしかない。

「それで、先ほどの弁解、変態な行為に及んではないと申したてましたが裸になっておいてそれは如何なものなのですの? 裸で公共の場を乱した行為を変態な行為ではなくなんと申しましょう?」
「……」

 口をつぐみ、一切の受け答えをしない態度を示すも背後の騎士が手を挙げ竜生の口を割らせようとする。
 頑固にも一切の返答をしない。

「ふーん。あと、あなた方の素性が調べてもわからないのだけどもしやあなた方は他国の偵察兵かしら? そうやって、わざと捕虜になるように仕向けた行動を出したとかも考えられますわね」

 勘ぐるような視線が竜生の体をなめまわすように向けられる。
 恰好は死亡したときのままの格好であり、ジーパンにTシャツ姿とカジュアルスタイルな色彩の格好をしていた。
 対してピノは捕虜にされたときに渡された白いローブを羽織っている姿。

「見慣れない服装から察するとやはり他国の偵察兵? まぁ、そうした場合はあなた方を尋問させてもらうわよ。もし、偵察兵ではないというのなら言いなさい。その奇妙な服装をしてどこに弁解の余地があるのかはわかりませんけどね」

 そう言って喪服男が見せびらかすように竜生のパーカーを広げた。
 王女はこれでもかと言うほどにパーカーを奇妙な面持ちで触りまくっている。そして、こちらの姿も見比べていた。
 竜生は再度弁解の余地をもらえているが彼女は弁解をしてもその処遇は変わらないという。
 処遇を覆す発言はあるにはある。それは事実をそのまま伝えるという方法。
 しかし、それは信用たる発言ではないのもまた事実であった。とある世界から死んでこの場に転生したばかりなどという理屈など誰が信用する話だろうか。
 それこそ、竜生は妄言者というレッテルになるだけである。

「どうしましたの? 図星かしら?」

 彼女が決定してしまえばこのまま尋問コースだ。そうなれば、撲殺されてもおかしくはない。

「くふふっ、馬鹿ね。私たちのような人たちが偵察兵に見えるの? この国の王女は見る目がないんじゃないの?」

 傍らから挑発的な口調でピノが吐き捨てながら立ちあがった。
 背後の騎士が怒り、刀身の方側で今度は斬りかかった。咄嗟に飛び出そうとしたが間に合わない。

「ピノっ!」

 しかし、竜生の動きよりも早くピノの体が素早く動いていた。
 ピノの体はコマのように体を高速回転して拘束が唯一とかれた足を使った回し蹴りで剣の刀身をたたき折った。
 ピノはそのまま騎士の足を払い折れた刀身を手に取り、騎士へ馬乗りになって喉元に折れた刃先を突き付けた。拘束された手でそれだけの行動を起こせた彼女に誰しもが意識を持ってかれ口をあんぐりとあけ硬直し唖然となった。

「ははっ」

 硬直した空気に竜生の笑いだけがこだました。
 今の一瞬で何が起こったのかさえ目で見た光景が認識を拒絶してる。
 たかが、元動物だった彼女に一体全体何が起きてるのだろうか。

「やはり、その動き、捕縛した当初から怪しく思いましたがあなた方は他国の偵察兵ですわねっ! 今すぐ尋問室へ――」
「待ちなさいよッ」

 王座の間が震えんばかりの一喝する声が反響した。
 誰しもがその声に従うようにして体が動けなくなり静寂に包まれる空気の中に、人質を取って立ち上がるピノの言葉が続いた。

「ちゃんとこっちの話を聞く態度を示したらどうなの。いくら服装がおかしいからって他国の兵とは限らないって思ってくれてもいいじゃない。事実私は偵察兵じゃないわ。ただの旅人なの。そっちの彼は私を襲ったただの人でなしな男ってだけよ」
「はぁ? 何言ってん――」

 ピノからみぞおちに強烈なひじ打ちをくらってそれ以上の発言は止められたというよりも竜生は息苦しさでしゃべれなくなった。

「私の名前はアルピノア、そっちの馬鹿は最上竜生。素性は明かした。他国の兵なら容易に素性は明かさないでしょ?」

 王室の間が妙なざわつきを見せた。
 突然として彼女は自分の名だけを偽り竜生の名前を明かしてみせた。そうして、自分らは敵ではないという明確な主張を行った。
 しかし、それに対して王女の疑心の目は変わらない。

「旅人ですって? にしてはずいぶんと武芸が達者ですわよね? その動きで旅人笑えますわね。それにあなたと男の関係はずいぶんと親しげに見えますわ。他にも男はあなたを知ってる素振りですし「ピノ」と呼称してるようですけど」
「身を守るすべが旅人には必要なの。男の関係については確かに嘘をついたわ。男とは長い付き合いなのよ。まあ、知り合いってだけ。良き間柄ではなかったために寝込みを襲われかけたのよ」
「話に筋は通ってますがそれだけでは偵察兵ではない証明になりませんわ」 
「……なら聞くけど、もし仮に偵察兵で私があったとするならこれだけの実力を持ち合わせて捕虜として潜入なんてするわけあると思うの? しかも、あんな往来で公序陵辱行為をするメリットは?」

 ピノは騎士を人質にとり続けながら持論を語りだし始めた。

「これだけの実力があれば捕虜になるより騎士として潜入したほうが有意義な情報を得られるでしょう? 捕虜なんて情報を得る数は知れるし何より命の綱引きになる立場よ。そんな馬鹿な潜入の仕方あるわけないでしょ?」

 その説明に王女の意志が揺れ動いたのか彼女の疑心のまなざしが揺らぐように目を伏せって沈黙をした。
 周りの者たちも「たしかに」「ならば、やはり彼女はただの旅人?」「しかし、名前すら本名かどうか」という意見のぶつけ合いが始まる。
 その時だった。この王座の間に慌ただしく場違いなほどの仰々しさで駆け込んできた騎士が現れる。

「何事か! 謁見中だぞ!」
「も、申し訳ありません! ただ、早急にお伝えしたいことがあり参上いたしました」

 騎士が竜生やピノの横を通り過ぎ王女の前に深く腰掛け騎士座りで申し上げる。
 それに対して、王女の目も鋭く座る。

「いいわ、いいなさい」
「ハッ。現在、他国の調査に出回っていた偵察隊からの伝令でヒストリア国が亡国の軍団に落とされた模様だという情報が入り、亡国およびモンスターの軍団およそ2万がそのまま降下しこちら攻めてきてるという情報が入った次第です」
「ッ」

 騎士の説明で空気ががらりと変わり、緊張の糸が走りだした。

「なんてことですの……。軍事国家のヒストリアが……。謁見は終了ですわ。後日改めていたしますわ。アカネ今すぐに門前に軍隊を配置し数が足りないようであれば近くの冒険者や傭兵を集って待機させなさい」
「了解です、王女殿下」

 アカネと呼ばれた王女の傍らに控えていた一人の赤髪の女騎士が行動を開始した。
 あとに残された竜生たちは背後の騎士が監房に移送するように動きだす。

「ちょっと待ちなさいよ」

 ここで、またしてもピノが口を開き態度に反抗的意識を示し始めた。

「何かしら自称旅人さん」
「私にもその戦を手伝わせなさい」
「っ! ……どういうつもりですの?」
「私は職探しで旅をしていたのよ」
「だからなんですの?」
「私の実力は見たでしょ? 私はあんたの騎士よりも使えるわよ」

 品定めするかのような王女の目つきがピノに注がれる。ついには王女は笑い、「いいわ」と一言口にした。
 それには周りの貴族らしき人物が「正気ですか」などと口にしてるが彼女は一蹴した。

「いいですわ。彼女はどうせ捕虜。反抗的態度を示したところでここには多くの騎士がいますし数で取り押さえが効きますわ。彼女もそれは理解していますし反抗的な態度はしないでしょう。それに彼女にとっても今攻め込んでる亡国の軍団の方が厄介な相手に決まっていますわ」

 その言葉で言いくるめてピノと目線を交わす王女様。

「なら、旅人さん、あなたの実力を検分いたしますわ。では、彼を牢屋へ――」

 竜生は自分のみがそのまま牢屋に連れてかれると悟る。

「おい、ピノ! お前正気か! 牢屋で言ったのはこういうことか! ――ざけんなっ! この放せ! 俺に対しての恩義を忘れたのか!」
「あなたに恩義ってて何? あなたは私のただのストーカーでしょ」

 まったく眉一つ動かさず表情を崩さないままに受け答えたピノに怒りが煮えたぎった。
 ピノはこのまま貫き通すつもりなのであろう。
 旅人アルピノアとして――
 くそっ、くそぉおおお!

「たのむ……たのむからぁ……ぴのぉ……何でも言うこときく……だから、
 みすてないでくれぇえええ!」 

 最後の最後で心の奥底から叫んだ。
 徐々にピノとの距離は離され王座の間から追い出されていくように騎士に連れられ、言葉は届くことはなく王座の間の扉は閉ざされた。
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