世界の破壊と終わりの先でさようなら

ryuu

文字の大きさ
11 / 12
第1章 警察殺しの切裂き魔

情報収集

しおりを挟む
 喫茶店にて、間食をとりつつ、俺は現場の状況証拠をまとめて読んでいた。
 その目の前でぎこちなくコーヒーを飲む彼女、リリシア。
 軍事武器生産国でもトップを誇るアリルテッド皇国の皇女がまさかこんな喫茶店でコーヒーを飲んでいるなんて誰も思うことはないだろう。
 周囲には警察官が多く居座っているので彼女の身柄は絶対に大丈夫と言える。
 書類を読みながら、ふと思うことがある。
 あの争いの時に見えた彼らの身体の一部にある紋様の存在。
 それは示すのは明らかに過去のあの忌まわしい事件のことだ。
 もしも、確実にアリルテッド皇国が密接に零の事件と関りがあるのだとしたら俺には彼女をこの捜査状況に付き合わせたくはなかった。
 なのにもかかわらずアリスの奴は護衛兼相棒とよくわからない立場に皇女様を押し付けた。

「あの、ユウタさまここに来たのはないか理由があったんですよね? いつまでこうしているんでしょうか? 私に捜査の仕方とかアリス様から教えてくださると聞き及んでいるんですが」
「……アリスはアリスで、俺には俺なりの考えがあるんだ。捜査の仕方はとりあえず見て学べ」
「ええ……」

 アリスに言われたからと素直に従うほどやさしくはない。
 彼女を適当に突き放しつつ、周囲の警官の話に耳を傾けていたところへ穂波がやってくる。

「ちょっと、新しくできた後輩にもう少し優しくできないの? もうちょっと先輩らしく教えてあげたらどうなの?」
「部外者が勝手に口出しするな」
「あら、ここで無断でコーヒー飲んでおいて部外者って言える? ああたの食費をサポートしてあげてるのは誰? なんだったら、今すぐ今までのツケを返してもらって構わないのよ。そうしたら何も言わない」
「…………」

 威圧的な彼女の言葉には俺も逆らえない。
 食費は生命線で、個々の利用を失えば貴重な警察の情報を聞きいることもできない。
 素直に従うほかない。

「わかったよ」

 根負けした俺はしぶしぶ、書類の読む手を止めて、メモ帳とペンを取り出した。
 ようやく、その仕草を見て穂波も安心を示した。
 リリシアも安堵したように息をつき、穂波に目を向けた。

「あ、あの穂波様ありがとうございます」
「いいのよ、コイツにまたいじめられたら言ってちょうだい。ちょっとひねくれてるけど私に言ってくれたらスグになんでもいうこと聞くから」
「なんでも誰がきくかよ」
「あら、マスターに今すぐユウタがつけを払いたいって言ってくる?」
「すみません」

 ひらひらと手を振りながら彼女が去っていく後姿を見ながら俺は適当に状況を説明を始める。

「ココに来たのは理由がある。周囲を見てみろ」
「周囲ですか?」
「ココは穂波も言ってたとおり、警官がよく出入りしている喫茶店だ。ここでは多くの事件の情報を仕入れることができる」
「情報……」
「普段俺らは民間警備会社だから、警察の筋とつながりはあってもすべてを得ることはできないというかアイツらがよこすことはない。だから、こうしてこういう現場で情報を集める。だけど、穏便に」
「直接話を聞きに行けばいいんじゃないですか?」
「バカ。それをしたら怪しまれて捕まるだけだ。だから、おおよそ、俺はこうしてコーヒーをここでいつも飲みながら聞き耳を立てて情報を集めてるんだ」
「それで、何かわかったんですか?」
「おおむね、知っていることしか入らない。だけど、一つだけ知らないことも分かった」
「何を?」
「あの第5区で術式を展開しようとしてた痕跡があったということだ」
「術式って……転送式のようですね」

 おもわぬ返答に俺は目を数回瞬いた。

「聞こえたのか?」
「少しだけ。やり方はわかりました。ここでただ無駄に無銭飲食をしていただけじゃないんですね」

 なんだか遠回しに馬鹿にみられていたようなことを含ませる言い回しだったがとりあえずスルーをした。
 タイミングよくおかわりのコーヒーを注ぎに来た穂波がにこやかに笑う。

「なにか悪だくみしていない? あまり警察と揉め事はやめてよね。私にも職務質問が来るのよ」
「別にただ捜査をしているだけだ。それより、例の猟奇殺人事件を知っているか?」
「ああ、あの酒屋の店主亡くなったのよね。ニュースに出てたくらいしか聞いてないわ」

 やはりそういう反応を返したがただどこかに目を泳がせた素振りが気になった。

「ここ最近、もう一つ事件があっただろう?」
「なんだ、知っているの。なら捜査も進めてるの?」
「そっちは十分に集まってない」

 鎌をかけた言い回し見事に穂波は食いついた。
 別に俺はその他の事件があったことなど知らない。
 だけど、彼女のふるまい一つは長い間の経験で熟知した。

「そっちの犯人は捕まってるの?」
「まだ。そもそも担当は俺じゃないんだ」
「そう……」

 俺は席を立つ。
 その様子を見て慌てて、リリシアも立ち上がった。
 ちょうど、食事も終わっていたのだから彼女も頃合いだろう。

「ちょっと、お金支払ってないんだけど!」
「ツケといてくれ。急用を思い出した。また来る」


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...