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消える白パンの謎
消える白パンの謎 3 赤屋根の家
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赤屋根の家に到着したリーナは、ふと過去の記憶を呼び起こしていた。 以前この家へ配達した際、妙齢の御婦人がパンを受け取ったことを覚えている。だが、その記憶を深く考え込むより先に、リーナは配達を果たすべく、門のベルを鳴らした。
暫くすると扉が開き、例の男性が姿を現す。
「パンをお届けに参りました」
リーナはいつも通り、明るく笑顔を向ける。
「ありがとう。わざわざ済まないね」
男性は門を開き、柔らかく微笑みながらパンの袋を受け取る。
「では数を確認していただけますか」
少々無作法かもしれないが、毎日『数が足りない』と言われている以上、ここでの確認は欠かせない。
男性は静かに頷き、一つ一つ指で確かめる。
「1、2、3、4、5。間違いなく白パンが5個。確認したよ。ありがとう」
問題なく受け取られた事で、リーナは安堵の息をつく。しかし次の瞬間、男性はリーナの手をそっと取り、何かを握らせた。
「これはちょっとした気持ちだよ。受け取って」
男性の手が離れ、何かを掴まされたリーナが自身の手を開いて見ると、金貨1枚と小さく折り畳まれた紙があった。
「えっ? いえ。代金は頂いてますから」
慌てて返そうとするが、男性はゆるく微笑みながら、強い意志を込めた視線を向ける。
「気持ちなんだよ。受け取ってもらえないか」
その目の真剣さに気圧される様に、リーナは「お気持ちありがとうございます……」と小さく呟きながら、しぶしぶ手に収めた。
「じゃあ、確かに受け取ったよ。帰り道も気を付けて。店主にもよろしく伝えておいてくれ」
そう言い残し、男性は静かに門を閉じると扉の向こうへと消えていった。
横に立っていたアンが、軽く声をかける。
「配達完了、って事でいいのかな」
「うん…なんか、申し訳ない気もするわ。ただの配達に金貨一枚なんて」
「まぁいいんじゃない? お金の価値観は人それぞれだし。ありがたく頂戴したら」
「そうね…。帰って父さんに渡すわ」
リーナは金貨をポケットへ潜ませた後、ふと脳裏にある感触が蘇る。
「あっ、そういえば」
彼女はポケットから小さく折られた紙を取り出し、ゆっくり開く。そこには整然とした几帳面な文字が並んでいた。
『今日は配達をありがとう。妻が今不在で不便が続いていてね。助かったよ。妻が無事に戻ればまた、君のところのパン屋に行かせてほしい。その時は妻と一緒に。その日が来ることを楽しみにしてる』
「奥様、ご病気なのかしら」
紙を見つめながらリーナは呟き、アンも読んでみてと紙を渡す。
「そうだねぇ…。奥様が今居られない。つまりこの男性は今一人暮らし……でも、白パン5個?」
「一人で毎日、白パン5個はちょっと多いかな」
「見かけによらず大食いなのかも」
「そうかもだけれども……。でも毎日一個足りないって、店に言いに来るのよ? それにお遣い程度の配達で、金貨1枚もくださったのよ。お金に困ってパンの数を胡麻化してるって訳でも無さそうだし」
「それにこの手紙、妻という言葉が何度も出てくるね。奥様の事を、とても大事にされてるんだろうなぁ」
「ええ、そうね……」
二人は手紙の内容を思案するしつつ歩いていた。が故に、ゆっくりとした歩調だった事、それが幸いした。角を曲がってすぐ、アンの視線の端に、見覚えのある男性の姿がちらりと留まった。
「あら? あの人、さっきの旦那さんじゃない?」
アンがリーナの肩をトントンと叩き、顎で男性が歩いている方をくいっと指す。
「ほんと。さっきのお客様だわ。なんだか急いでるようね。それに。手に持ってる袋。あれうちのパン屋の袋だわ」
「……こっそり後をつけてみる?」
アンの言葉にリーナは一瞬眉をひそめたが、こちらは毎日パンが足りないと言われているのだ。もしかしたらパンが足りない理由があるのかもしれない。そう思うと、小さな探求心が芽生えた。
「そ……そうね。よくない事かもしれないけれども。数の謎が解けるかもだし」
「よし、そうと決まれば。こっそりよ? つけてみましょう」
こうしてアンとリーナは、一定の距離を保ちつつ、男性に気づかれないようにこっそりと、後をつけることにした。
暫くすると扉が開き、例の男性が姿を現す。
「パンをお届けに参りました」
リーナはいつも通り、明るく笑顔を向ける。
「ありがとう。わざわざ済まないね」
男性は門を開き、柔らかく微笑みながらパンの袋を受け取る。
「では数を確認していただけますか」
少々無作法かもしれないが、毎日『数が足りない』と言われている以上、ここでの確認は欠かせない。
男性は静かに頷き、一つ一つ指で確かめる。
「1、2、3、4、5。間違いなく白パンが5個。確認したよ。ありがとう」
問題なく受け取られた事で、リーナは安堵の息をつく。しかし次の瞬間、男性はリーナの手をそっと取り、何かを握らせた。
「これはちょっとした気持ちだよ。受け取って」
男性の手が離れ、何かを掴まされたリーナが自身の手を開いて見ると、金貨1枚と小さく折り畳まれた紙があった。
「えっ? いえ。代金は頂いてますから」
慌てて返そうとするが、男性はゆるく微笑みながら、強い意志を込めた視線を向ける。
「気持ちなんだよ。受け取ってもらえないか」
その目の真剣さに気圧される様に、リーナは「お気持ちありがとうございます……」と小さく呟きながら、しぶしぶ手に収めた。
「じゃあ、確かに受け取ったよ。帰り道も気を付けて。店主にもよろしく伝えておいてくれ」
そう言い残し、男性は静かに門を閉じると扉の向こうへと消えていった。
横に立っていたアンが、軽く声をかける。
「配達完了、って事でいいのかな」
「うん…なんか、申し訳ない気もするわ。ただの配達に金貨一枚なんて」
「まぁいいんじゃない? お金の価値観は人それぞれだし。ありがたく頂戴したら」
「そうね…。帰って父さんに渡すわ」
リーナは金貨をポケットへ潜ませた後、ふと脳裏にある感触が蘇る。
「あっ、そういえば」
彼女はポケットから小さく折られた紙を取り出し、ゆっくり開く。そこには整然とした几帳面な文字が並んでいた。
『今日は配達をありがとう。妻が今不在で不便が続いていてね。助かったよ。妻が無事に戻ればまた、君のところのパン屋に行かせてほしい。その時は妻と一緒に。その日が来ることを楽しみにしてる』
「奥様、ご病気なのかしら」
紙を見つめながらリーナは呟き、アンも読んでみてと紙を渡す。
「そうだねぇ…。奥様が今居られない。つまりこの男性は今一人暮らし……でも、白パン5個?」
「一人で毎日、白パン5個はちょっと多いかな」
「見かけによらず大食いなのかも」
「そうかもだけれども……。でも毎日一個足りないって、店に言いに来るのよ? それにお遣い程度の配達で、金貨1枚もくださったのよ。お金に困ってパンの数を胡麻化してるって訳でも無さそうだし」
「それにこの手紙、妻という言葉が何度も出てくるね。奥様の事を、とても大事にされてるんだろうなぁ」
「ええ、そうね……」
二人は手紙の内容を思案するしつつ歩いていた。が故に、ゆっくりとした歩調だった事、それが幸いした。角を曲がってすぐ、アンの視線の端に、見覚えのある男性の姿がちらりと留まった。
「あら? あの人、さっきの旦那さんじゃない?」
アンがリーナの肩をトントンと叩き、顎で男性が歩いている方をくいっと指す。
「ほんと。さっきのお客様だわ。なんだか急いでるようね。それに。手に持ってる袋。あれうちのパン屋の袋だわ」
「……こっそり後をつけてみる?」
アンの言葉にリーナは一瞬眉をひそめたが、こちらは毎日パンが足りないと言われているのだ。もしかしたらパンが足りない理由があるのかもしれない。そう思うと、小さな探求心が芽生えた。
「そ……そうね。よくない事かもしれないけれども。数の謎が解けるかもだし」
「よし、そうと決まれば。こっそりよ? つけてみましょう」
こうしてアンとリーナは、一定の距離を保ちつつ、男性に気づかれないようにこっそりと、後をつけることにした。
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