三十路AV女優、青春始めていいですか?

江多 煙

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 現在、足路ゆりこと白川遊理子はAV女優であるが、幼い頃はそれなりの夢を持ち、幸せな人生を送るつもりであった。しかし、遊理子が中学生の時、親の営む中小企業が倒産したことにより遊理子の生活は一変した。父親は大量の借金を残して蒸発。母親は精神的なショックにより病を患う。ドラマのような貧しい生活へと変わったのだった。そして、遊理子は中学卒業後、当時の成績は決して悪いものではなかったのだが、家庭内の金銭的な問題により遊理子は近場の名門私立高校ではなく、遠くの公立高校に通うことになった。更に遊理子は自分も少しは家計の足しにならないといけないと感じ、部活にも入らず、バイトを夜遅くまで掛け持ちしていた。お陰で学校での成績はずるずると下がっていき、大学への進学も断念せざるを得なくなったのである。彼女は進学のお金も時間も学力もなくなり、母の介護にバイトの掛け持ち、身体は労働という労働に蝕まれつつあった。そんな時に遊理子はこのAV女優という仕事に出会ったのだった。とは言っても遊理子が自らこの仕事を望んだわけではない。
 それは真冬の早朝に遊理子が駅前でティッシュ配りのバイトをしていた時だった。モデルの仕事をしないかとスカウトされたのである。しかし、勿論、これは噓。遊理子はのうのうとスカウトマンについて行ってしまい、騙されたのである。しかし、遊理子にとって仕事内容はあまり関係なかった。AV女優の仕事は給料が良かったのだ。前々から遊理子は風俗で働こうと思っていたが、親に精神的負担をかけないようにしようと悩んでいた節々があった。なので、遊理子にとってはAV女優として働くということはその箍が外れた程度のことだったのである。「親には言わなければいい。どうせ気付かない」そんな心持ちを遊理子はしていたのである。そして、遊理子はAV女優として売れてもう十年。今に至るのであった。
 「相変わらずゆりの部屋って綺麗よね、AV女優なのにって感じ」
 「それ、彩月じゃない人が言ってきたら絶対殴ってるわ」
 遊理子の誕生日から四日が経った。今日は親友の彩月と休みの日が被ったということで遊理子の家で誕生日パーティーを行っていたのである。
 「ではこれより三十路ゆりの誕生日パーティーを行いたいと思いまーす」
 「っていっても二人だけだけどね」
 遊理子は苦笑しながらも、冷蔵庫から大量の発泡酒を取り出した。
 「えー。ゆり、こんな早朝から飲むの~?」
 「何言ってんのよ。私もあなたも夜勤明けでしょ?今飲まないでいつ飲むっていうのよ」
 「いや、そりゃ、飲むけどさあ」
 二人は夜勤明けであった。遊理子は地方のDVDイベントの仕事で家に帰った時には早朝の四時だったのである。一方、彩月は某製薬会社の臨床開発職に就いており、夜遅くまで治験についての話し合いをしていたのだった。臨床開発職というのはどういう仕事かと簡単に説明すると研究所で作られた薬が安全でかどうかやちゃんとした効き目があるかどうかを動物や人を用いて確認する仕事である。彩月はその中でも三十歳の若さでグループリーダーを任される優秀な人物であった。
 二人は安い発泡酒で乾杯をすると彩月が行きに買った大量の料理をつまみながらここ最近の現状を津々浦々と話し始めた。
 「それで彩月は最近、何やってんのよ」
 「いや、ゆり、それ毎回訊くけど答えても全く理解できないじゃない」
 「それもそっか」
 二人の学力に差こそはあるが、二人は同じ高校出身であった。遊理子は先ほど述べた通り、現状に甘んじて致し方がなく、公立高校に通っていたが、彩月は違った。彩月は頭の良い名門私立高校に通える程の学力を持っていたのにも関わらず、単純に家から近いという理由で公立高校を選んだのである。彩月は高校一年生の時に遊理子と出会った。遊理子とクラスは隣のクラスであったものの二クラス同時に行う体育の授業であっという間に仲良くなった。一見、二人には何の関係性や、共通性が無いように思える。しかし、彼女達には一つの共通点があった。それはクラスで孤立しているということだった。遊理子は決して話しかけにくい人物ではなかったが、最近の話題にはついていけず、放課後はバイトばかり。挙句の果てには授業中にいびきを立てながら寝てしまうということも初中後あったのだ。そして、彩月はその場違いな天才肌から周りに疎まれていたのだ。
 「今思えば、私達よく仲良くなれたよね。」
 二人の話題は最近の話から昔の話へと思い出に花を咲かせていた。
 「ホントそれ」
 「三十路AV女優と東応大学薬学部卒のエリート様よ?」
 「自分が第三者だったら絶対に『それ接点ある?』ってツッコんでたわよ」
 「第一にあの底辺みたいな公立高校からよく東応大学出身者がでたもんよ」
 「先生たちも『我が校では君が初めてだよ』って泣きながら喜んでたよね」
 「あー覚えてる。芝先なんか鼻かみ過ぎて鼻血出しちゃってたし」
 「芝先とか懐かしっ」
 二人は酔いが回り始めたのか、会話が段々と覚束なくなっていった。
 遊理子はふらついた勢いでテレビのリモコンを押すとそれとちょうどスイッチが入れ違いになったのか如く、パタンと床に寝転んでしまった。彩月はいつの間にかソファーで寝息を立てている。今日は遊理子の誕生日から既に四日経過している上に誕生日当日は仕事仲間の誰も私の誕生日に気づかなかったし、返せてない借金だってまだまだ山のようにあるが、こうやって自分のことを祝ってくれる親友がいることを再確認出来たことに遊理子は少しだけ幸せだと感じた。
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