3 / 37
3、記憶喪失
しおりを挟む「頭の怪我は良くなってきていますが、記憶が失われておりますな」
医師はリフィアを診察し、細かな質問をし終えたあと、そう告げた。
リフィアは医師が到着するまでの間、母親から色んなことを教えてもらった。
名前はリフィア・オルドリーで、十七歳。
王族や貴族、平民も通う学園の三年生になったばかりだ。
オルドリー伯爵夫妻の一人娘で、人見知りなところはあるが、貴族令嬢という立場に相応しい品と聡明さを持ち合わせているという。
その他にも、好きな食べ物や趣味のこと、子供の頃の思い出話も聞いた。
アニメという言葉は聞いたことがない、と言われた。
頭の怪我は学園の階段から転げ落ち、そのときに出来たのものだ。
そして気を失ってしまったらしい。
二日経ち、やっと目を覚ました。
「全く覚えてないわ・・・」
ここはリフィアの自室で、部屋には医師のほか、先程入ってきた女性二人が母親と侍女、連絡を受けて帰ってきたリフィアの父親、そしてリフィアの婚約者・ルナントフが呆然と立っている。
この顔ぶれを見ても、やっぱり何も思い出せない。
「そんな・・・記憶喪失だと!?」
父親は声を荒げて言い、母親と侍女は俯いて泣いている。
ルナントフは真顔で少し俯き、胸の前で腕を組んでいる。
婚約者のルナントフは、学園のクラスメイトで侯爵家の次男だ。
土色の少しクセのある髪と瞳を持ち、整った顔立ちだ。
父親が医師に尋ねる。
「記憶は戻るのだろうか?」
医師は首を横に振る。
「記憶喪失には、薬や治療法がありません。突然思い出すこともあれば、一生思い出さないかもしれません」
部屋は静まり返ってしまった。
ルナントフはこの重たい雰囲気を変えようと、リフィアに歩みながら口を開く。
「記憶がないのはつらいことだが、リフィアは目を覚ましたんです。僕はそれが何よりも嬉しい」
そう言ってリフィアの横に腰を下ろすと、「そうね、その通りだわ!」と、母親は笑顔を浮かべ、他のみんなも頷いている。
「リフィア、これからたくさん思い出を作ろう。そうだ、以前デートした場所にも行ってみようか」
ルナントフは、カフェと公園と・・・とブツブツ言っている。
他にも一緒にこんなことした、こんな会話をした、などと思い出を語ってくれた。
そして頭の包帯に手を伸ばす。
「君が階段から落ちたと聞いて、心臓が止まるかと思ったよ。結構出血したみたいだけど、大きな怪我じゃなくてよかった」
頭の怪我は、小さな切り傷である。
それとたんこぶが出来ている。
「本音は、君に記憶を思い出してほしい。でも無理に思い出す必要はないからね」
包帯から手を離し、リフィアの頬を撫でる。
「ゆっくりお休み。元気になったら学園においで。クラスのみんなも待ってるよ」
「はい・・・」
リフィアはクラスメイトの名前も顔も誰一人思い出せない。
これからどうなるのだろう、と不安が募る。
3
あなたにおすすめの小説
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
【13章まで完結】25人の花嫁候補から、獣人の愛され花嫁に選ばれました。
こころ ゆい
恋愛
※十三章まで完結しました。🌱
お好みのものからお読み頂けますと幸いです。🌱
※恋愛カテゴリーに変更です。宜しくお願い致します。🌱
※五章は狐のお話のその後です。🌱
※六章は狼のお話のその後です。🌱
※七章はハシビロコウのお話のその後です。🌱
※九章は雪豹のお話のその後です。🌱
※十一章は白熊のお話のその後です。🌱
ーーそれは、100年ほど前から法で定められた。
国が選んだ25人の花嫁候補。
その中から、正式な花嫁に選ばれるのは一人だけ。
選ばれた者に拒否することは許されず、必ず獣人のもとに嫁いでいくという。
目的はひとつ。獣人たちの習性により、どんどん数を減らしている現状を打破すること。
『人間では持ち得ない高い能力を持つ獣人を、絶やしてはならない』と。
抵抗する国民など居なかった。
現実味のない獣人の花嫁など、夢の話。
興味のない者、本気にしない者、他人事だと捉える者。そんな国民たちによって、法は難なく可決された。
国は候補者選びの基準を、一切明かしていない。
もちろん...獣人が一人を選ぶ選定基準も、謎のまま。
全てをベールに包まれて...いつしかそんな法があること自体、国民たちは忘れ去っていく。
さて。時折、絵本や小説でフィクションの世界として語られるだけになった『花嫁たち』は...本当に存在するのだろうかーー。
皆が知らぬ間に、知らぬところで。
法によって...獣人の意思によって...たった一人の花嫁として選ばれた女の子たちが、個性豊かな獣人たちに溺愛される...これはそんなお話です。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
生まれ変わったら極道の娘になっていた
白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。
昔、なろう様で投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる