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19、危機
しおりを挟むそれから一ヶ月。
前世の記憶が甦ったリフィアは吹っ切れたのか、初デートのときにヴァイスから贈られた髪留めを毎日身に着けるようになった。
水色と白色のリボンの真ん中に、青く輝く石が嵌め込まれている。
ヴァイスの瞳と同色の石だ。
その髪留めを見つめるヴァイスは悩んでいる。
「水色のリボンじゃなくて、緑色にすればよかったかな・・・」
緑はリフィアの瞳の色だ。
「ヴァイス様の瞳と同色の石が付いていれば、何色でも構わないわ」
「次は、緑と青の宝飾品を贈るよ」
リフィアはなにやら考えている。
「私もヴァイス様に何か贈りたいわ」
初デートのとき、ヴァイスは贈り物をしてくれたが、自分は何も用意していなかったことを気にしていた。
だが転生後、男性に贈り物をしたことがないリフィアは、何を贈っていいのかわからない。
前世では、航太の誕生日に名刺入れやキーケースを贈ったことがあるが、前世と現世では立場も生活環境も全く違う。
「欲しい物ある?」
「リフィアが側にいてくれたら、何もいらないよ」
そう言われて、一瞬で顔が赤くなった。
「そうじゃなくて、物とか!普段使う物で、何かない!?」
ヴァイスはリフィアの緑の瞳をじーっと見つめる。
「じゃあ、お揃いのピアスはどう?指輪でもいいね」
二人とも、左右の耳に一つずつピアスホールがあるが、学園では宝飾品を身に着けていない。
「緑の石が付いた物がいいな」
「私は・・・着けるなら青い石がいいわ」
「色違いで探そうか」
「うん!」
二人の会話を隣で聞いていたアーラは微笑んでいる。
「リフィアに元気が戻ってよかった。以前は死んでたからね、表情も心も」
「アーラ、心配かけてごめんね」
現世の記憶が戻ったことは、アーラやクラスメイトたちに伝えていた。
「トリガー様、リフィアを泣かせたら許しませんよ」
「肝に銘じておくよ」
最近のリフィアは、学園ではヴァイスと行動している。
以前リフィアの隣は、いつもルナントフの姿があったが、クラスメイトたちはその変化について触れない。
ルナントフの束縛で、辛い思いをしていたことを知っているからだ。
さらに、リフィアを叩いたことも噂になっている。
そんなルナントフは、リフィアに挨拶はするものの、それ以上話しかけてこない。
そして何事もなかったかのように過ごしている。
リフィアはそんなルナントフを見ながら、隣のヴァイスに話しかける。
「以前の雰囲気に戻ったみたい。婚約解消は、まだしてくれないけど」
「そのうち、化けの皮が剥がれるよ」
そう言って、クラスメイトと楽しそうに話をしているルナントフに冷たい視線を送った。
「うん?」
ある日の放課後、ヴァイスは街で買い物を楽しんでいた。
普通なら使用人を使いに出すのだろうが、前世の記憶があるヴァイスは自分で買い物を楽しみたい。
必要な物を買い揃え、ぶらぶらと街を歩く。
そして誰もいない薄暗い路地に入る。
誰かを誘うように。
ほどなくして、三人の男がヴァイスを取り囲んだ。
旅人風のローブを身に纏い、フードを深く被っている。
顔はよく見えない。
「何か用か?」
ヴァイスは冷静に尋ねた。
「・・・お命頂戴する!」
そう叫びながら、一人の男がナイフで切りかかってきた。
ヴァイスは持っていた護身用の短剣で受け止める。
短剣とナイフのぶつかり合う音が、何度も路地に響く。
なかなか仕留められないことに業を煮やしたのか、残りの二人もナイフを手に動き出す。
そのとき、まるで援護するかのように、ヴァイスの後ろから三本のナイフが飛んできた。
それは全て三人の男の腕に刺さった。
「ぐっ・・・!くそっ!護衛がいたのか!」
三人の男はじりじりと後ずさる。
はあ、はあ、と大きく呼吸をしながらヴァイスは問う。
「逃げるのか?」
「・・・今日は引かせてもらう」
そう言って、男たちは高く飛び上がった。
建物の壁をトントンと蹴り、あっという間に屋根の上を走って行った。
「忍者みたいだな」
そして、気配を消し三本のナイフを命中させた後方の人物に向かって叫ぶ。
「ナタリーゼ姉上!」
「まっかせなさーい!」
ナタリーゼも屋根を走り、男たちを追跡した。
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