僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

文字の大きさ
30 / 37

 30、犯人捜し

しおりを挟む


 翌朝、ヴァイスは学園に向かう前にオルドリー伯爵家に立ち寄った。
 リフィアは明け方、目を覚ましたそうだ。

 部屋に通されたヴァイスは、ベッドで体を起こしているリフィアを見て涙ぐむ。
「リフィア!!」 
「ヴァイス、おはよう」
 微笑んでいるリフィアに駆け寄り、ベッドに腰を下ろす。
 両手で頬を包み、唇、瞼、耳を撫でて確認する。
「ちゃんと生きてる···」
 顔を歪め、涙を流しながらリフィアを強く抱きしめた。
「ごめん!君を守るなんて言ったくせに、危険な目に合わせて、ごめん!」
「泣かないで。私は助かったし、私にも責任があるわ。指に付いたソースを舐めるなんて、お行儀が悪いわよね」
 そう言って、ヴァイスの背中をトントンと宥める。

 母親から事情を聞いたであろうリフィアに、ヴァイスは改めて毒殺について説明する。
 さらに、ルナントフの依頼でフォグに襲撃されたこと、ハイルトン家を調査しているのがシャッテンという組織であることも伝える。
 シャッテンについては、リフィアに話してもいいとタリダルに許可を得ていた。

 一度にたくさんの情報を聞き、リフィアは呆然としている。

「そんなことになっていたなんて···」
 ヴァイスの命が狙われていたことにショックを受ける。
 しかも殺そうとしているのが、ルナントフだということに動揺する。
「君に心配させたくなくて黙ってた。ちゃんと話をしていれば、君は毒を口にすることもなかった···僕の責任だ。ごめん」
 リフィアは、気落ちしているヴァイスの頭を撫でる。
「黙っていたのは、私のためを思ってなんでしょ?気にしないで。これからは私も気をつけるわ」

(優しくて強いな、リフィアは)

「···うん。リフィア、愛してる」
「私も愛してるわ」
 ヴァイスはキスをしようとするが、リフィアは人差し指でヴァイスの唇をムニムニと押し返す。
「私よりも、あなたのほうが危険なのよ!油断大敵!気を引き締めて!」
 リフィアは少し怒った顔をしている。
「ははは、そうだね。君を怒らせると怖いな!」

 

「痛いところはない?」
「喉と胸のあたり···食道かな?あと胃も。でも少し痛む程度だから大丈夫」
 メブリードの言った通りである。
 リフィアは微かに声が掠れていて、キブエラ毒のせいで荒れているのかもしれない。
「そうか···今日学園は休むんだろう?ちゃんと医師に診てもらってね」
「うーん···お医者様に毒を飲んでから痛みます、って言ったら大事になりそうだわ。といっても、学園ではすでに噂になってるでしょうけど」
 食堂での出来事は何十人にも見られている。
 口止めする余裕なんてなかった。

「じゃあ今日の午後、事情を話しても大丈夫な医師を連れてくるよ。午後は休診の日だから、きっと来てくれるはず」
「それって、もしかして···」
「ふふ、楽しみにしてて」
 ヴァイスはリフィアの頬を撫で、キスをする。

「じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
 久しぶりのこの挨拶は前世以来だ。
 懐かしくて、二人とも声を出して笑う。







 ヴァイスは学園に着くとすぐに、授業そっちのけで毒を盛った犯人捜しを始める。
 教師たちやメブリードも参加しており、事態を重く見ているようだ。

 取り調べはあっけなく終わった。
 料理人の中に、明らかに顔を青くし震えている人物がいたからだ。
 問い詰めると、素直に白状した。



 話によると、旅人風のマントを纏った男が、液体の入った小瓶を渡してきたという。

『ヴァイス・トリガーの食事に混ぜろ』

 料理人は、その液体が怪しい物だと察し拒否したが、『家族がどうなってもいいのか』と脅されたため従った。
 小瓶を渡してきた男はフードを深く被り、顔はよく見えなかったという。

(街で僕を襲ってきた連中と同じ格好だ。フォグで間違いないな。つまり、毒殺はルナントフの指示か···)

 メブリードが口を開く。
「キブエラ毒は無色透明で、無味無臭。料理に混ぜても全くわかりません」
 料理人は小瓶を受け取った日から、ヴァイスが食堂で注文する度に毒を仕込んでいた。
 五回は盛ったという。

(解毒薬を開発したメブリード先生には、本当に感謝だな)



 取り調べを終えたヴァイスは教室に戻り、ルナントフと目が合うと舌打ちされた。

(毒を飲んでも死なない僕に、相当苛ついていそうだ)

「ヴァイス様、朝リフィアに会いに行ったのでしょう?目覚ましてましたか?」
 アーラが尋ねてきた。
 リフィアの朝の様子を伝えると、ほっとした表情を見せた。
「私、絶対に寿命が縮みましたよ。こんなこと、二度とご免です」
「う、すまない···」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

処理中です...