僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

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 33、果たし状

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 リフィアが毒を口にした日から、十日ほど経った。
 クワオラに処方してもらった薬を飲み、数日で完治したリフィアはすでに学校に復帰していた。

 ヴァイスはその日のリフィアとの会話を思い出しながら、快い気分で学園から自宅に戻ると、執事のコールが手紙を持ってきた。
 真っ白の封筒は、蝋封されているが印は捺されていない。

(差出人はだいたい予想できるけど)

 封を開けると、一枚の紙が入っていた。
 それには日時と場所の他に、“一人で来い”と、書かれている。
 何をするかは書かれていないが、果たし状と見ていいだろう。

 ヴァイスはコールに尋ねる。
「この手紙は誰が届けに来たんだ?」
「平民の男です。私は見覚えのない者でした。怪しく思い尋ねたところ、旅人風のマントを纏った男に、トリガー公爵家の嫡男に届けるよう脅されたそうです」

(フォグだな···だが手紙を書いたのはルナントフ本人だろうな)

「手紙にはなんと?」
 コールは芳しくない内容だと気づいているようだが、ヴァイスは詳細を伏せる。
「···決着をつける日が来たようだ」



 ヴァイスは帰宅したタリダルに尋ねる。
「父上、シャッテンの調査は終了しそうですか?」
「大詰めと聞いているが···どうした?」
「差出人は不明ですが、果たし状が届きました」
「はあ?」
 タリダルは眉間に皺を寄せている。
 ヴァイスはジャックの言葉を思い出す。

『二人を同時に捕まえたい』

(襲撃も毒殺も失敗し後がないルナントフは、おそらく自分で決着をつける気だ。僕は勝って、ルナントフを捕らえる。そうなると、父親のほうも捕らえる準備ができていないと···)

 ヴァイスは真剣な眼差しでタリダルを見つめる。
「数日後、決着をつけます」
「···わかったよ。陛下に伝えておこう」
 タリダルは、果たし状の差出人がルナントフなのだろうと察し、息子の覚悟を感じとったのか、止めることもなく手紙の詳細も尋ねなかった。
「必ず勝て。決して死ぬな」
「はい!」



 ヴァイスは自室に戻った。
 ベッドに寝転がり、これまでのフォグの手口やルナントフの思考を頭に思い浮かべ、当日の決着のつけ方を何通りも考える。

(ルナントフはどんな手を使ってくるかわからない。ましてや、一人で来るとも限らない。リフィアには伝えるべきか?でも心配するだろうな···)







 数日後の放課後、ヴァイスは図書室でリフィアに告げる。
「明日、ルナントフと決着をつけるよ」
「えっ?」
 ヴァイスは、突然の話に首を傾げているリフィアを抱きしめる。
「ルナントフに勝って、必ず戻ってくるから」
「···それって、危険なことをするの?」
 できれば話し合いで方をつけたいが、それで解決するような相手ではない。
 これまでのことを思い出すと、危険は避けられないだろう。
「大丈夫。僕、けっこう強いんだよ」

 リフィアの瞳には涙が浮かんでいる。
 もしヴァイスが怪我をしてしまったら、死んでしまったら、と不安が募る。
 それだけでなく、ルナントフの前世のストーカー行為や現世での束縛や暴力、そしてヴァイスの命を狙っていることは到底許せないが、ヴァイスには人を殺めてほしくないと思っている。

「ルナントフ様を···こ、殺すの?」
「いや、彼には生きて罪を償ってもらう」
「···うん。無事に帰ってきてね!私、待ってるから!」
「リフィアが待っていてくれると思うだけで、力が湧いてくるよ。必ずルナントフに勝って、前世の無念を晴らす。そして、前世で奪われた僕たちの幸せな未来を、この世界で実現しよう」

 リフィアはヴァイスの頰に手を伸ばし、キスをした。
 何度も唇を重ね、ヴァイスの無事と勝利を祈った。







 そして翌日、決着の日を迎えた。

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