僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

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 36、決着③

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(こんな奴に、またも愛する人との未来を奪われるのか···?)

 次第に思考力が落ちてきて、何を考えていたのかもよくわからなくなってきた。
 そのとき、頭の中に声が響く。

『ヴァイス、愛してるわ』
『私、待ってるから!』

 これまでのリフィアとの会話、笑った顔、照れた顔、いろんな表情の彼女が走馬灯のように頭の中に流れ込んでくる。

(リフィア···そうだ、リフィアが待ってる!こんな所で死ねない!)

 ヴァイスは、薬の効果によって遠くなりそうな意識と脱力した体に、それを上回る強い意志で抗った。
 思いきり唇を噛み、痛みで意識を繋ぎ止め、なんとか剣に手を伸ばした。
 だが、戦うにはまだ不十分だ。
 掴んだ剣の柄を全力で握り、自分の太ももを刺す。
「くっ···!」
 思わず叫びそうなほどの痛みが走るが、太ももから剣を抜くと、意識がはっきりして体の鈍い動きも解消された。

「なっ···なぜ動ける!?くそっ!」
 ルナントフはそう言うと、剣を振り下ろした。

 ヴァイスは柄を握り直し、降りかかってくるルナントフの剣を受け止めた。
 そして思いきり押し返す。
 数歩下がったルナントフは目を見開いている。
 ヴァイスは腹や足の痛みを堪えて立ち上がった。

(いける!頭も体もちゃんと動く。でも早く決着をつけないと、今度は出血多量で気を失いそうだ)

「···貴様は、本当に何度殺されそうになっても死なないな!しぶといんだよっ!」
 ルナントフは剣先をヴァイスに向けて動き出す。
 余裕のないヴァイスは、剣を下に向け全力を込める。

「僕は絶対お前に勝つ!リフィアとカナのために!!」

 そしてルナントフの剣を勢いよく斬り上げた。
 するとルナントフの剣は手を離れ、空中を飛び地面に落ちた。
 二人がその剣に目を向けた、そのとき。

「そこまで」

 二本の大木から声が聞こえた。
 二人が振り返ると、大木の生い茂る葉から人が三人飛び降りてきた。
 黒色の生地に、金色のラインが施されたマントを纏い、腰には剣が下げられている。
 フードを被り、口元は黒色のマスクで覆われている。

 ルナントフが叫ぶ。
「誰だ!?」 
「我々は、国王陛下に仕える者」
「こっ、国王陛下だと!?」

(この三人、もしかしてシャッテンか?)

「お二人の勝負、決着がついたように思います」
 もう一人が続けて言う。
「ルナントフ・ハイルトン、ヴァイス・トリガーの殺害をフォグに依頼した件で話を聞かせてもらおうか」
 突然現れた男たちに、ルナントフは動揺している。
「待て!俺たちの勝負に、なぜ国王陛下が出てくる!?」
「それは、いずれわかることだ」
 そう言って、黒いマントを纏った者はルナントフの腹に強力な拳を打ち込み、気絶させた。
「私は一足先に、この者を連れて行く」
 他の二人にそう言って、ルナントフを肩に担いで去って行った。

 

「お疲れ様でした。見応えのある戦いでしたよ」
 シャッテンだと名乗る男はそう言って、地面に座っているヴァイスの唇と腹と足の傷を応急処置している。
 ヴァイスは痛みを堪えながら尋ねる。
「いつから見ていたのですか?」
「あなたがここに到着する前からです」

(やっぱりバレてたか)

「それならもっと早く助けてくださいよ」
 男の顔は目元しか見えていないが、微笑んでいるように感じる。
「一人の女性を巡って、命がけの戦いに手を出すなんて野暮でしょう。それにジュリアの愛息なら、きっと勝利すると思っていましたので」

 この男は、ジュリアの先輩だと言う。
「娘からも話を聞いていましたし」
 そう言って、横でルナントフの剣を抱えているもう一人のシャッテンを見た。
 その者はフードとマスクをはずす。

「サンワイア嬢···」
 リフィアの親友アーラで、クラスメイトだ。 
「ごきげんよう、トリガー様。なんて痛々しいお姿なのかしら。リフィアが見たら泣きますよ?泣かせたら許さないって言いましたよね?」

「お叱りは後日にしてほしいな。それより、君はやはりシャッテンだったのか」
 ヴァイスは学園でアーラに助けてもらってから、もしかして···と予想はしていた。
「まだ三年目ですけどね」

 タリダルがシャッテンの協力をジャックに仰いでから、アーラは学園でのヴァイスとリフィアの護衛という任務に就いていたという。
 リフィアが毒を舐めたことを阻止できず、相当落ち込んだらしい。

「ちなみに、学園では毒以外で計十三回殺されかけていたんですよ」
 衝撃の事実を知らされてしまった。
 学園でフォグに狙われたのは、一回だけではなかったのだ。
「そんなに!?知らないところで世話になっていたんだな。心から感謝する。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」

 黙って二人の会話を聞いているアーラの父親は、騎士隊所属と言われているが、実際はシャッテンが本職なのだという。
「騎士隊では時々指導をしているだけです」
「なんかもう、身近な人全てがシャッテンに思えてくるな」

 ヴァイスは空を見上げた。
 先程まで斬り合いをしていたとは思えないほど、鮮やかな青空とゆっくり流れる雲は穏やかだ。

「リフィア、終わったよ」
 やっとルナントフとの勝負に決着がつき、肩の力が抜ける。
 体に残る痛みと疲労に満ち足りた気分だ。

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