6 / 153
第6話 婚約者候補
レイフォナーはワインを一口飲んで、はあ、とため息をついた。
「おーい、パーティーの最中だぞ」
「帰りたそうだねぇ」
そう言ったのは、レイフォナーの幼馴染で護衛のショールとチェザライだ。
ショールはオレンジ色の短髪でレイフォナーよりも背が高く、服の上からでもわかるほど鍛えられた体をしている。
チェザライは緩やかなうねりの銀髪が肩まであり、小柄であるが風の上級魔法士だ。
「クランツを寄越せばよかったな。私でなくてもいいと思わないか?」
クランツとは、レイフォナーの四歳下の弟で第二王子だ。
「いいわけないだろ」
「今日はレイくんの婚約者候補様の誕生日パーティーなんだから」
レイフォナーたちは今、メアソーグの東隣・ブランネイド帝国に来ている。
誕生日パーティーの招待を受けたのだ。
その主役はレイフォナーの婚約者候補の一人、帝国の第一皇女・ユアーミラで十八歳を迎えた。
婚約は帝国が打診してきたものだが、レイフォナーはユアーミラに一切興味がないし、正直言って苦手である。
だが両親である国王と王妃が彼女の妃としての素質を気に入ってしまい、とりあえず婚約者候補として保留している。
その苦手な人物が近づいてくる。
腰まである縦ロールの薄紫の髪、濃い化粧に真っ赤なドレス、豪華な宝飾品をジャラジャラと身に着けている。
鼻を覆いたくなるほどの強い香水は頭が痛くなりそうだ。
ユアーミラはアメジストのような大きな瞳を向けてきた。
「レイフォナー様、もう一曲踊りません?それとも、お疲れならわたくしの部屋でお休みされてはいかがです?」
上目遣いで、あからさまに誘ってきた。
レイフォナーは背筋がゾクッとしたあと、腕に鳥肌が立った。
「・・・お心遣いに感謝します。ですがこれから大臣方に挨拶がありますので」
ユアーミラは拗ねた表情を見せる。
「殿方はいつも難しいお話ばかりでつまらないわ。今日はわたくしの誕生日パーティーなのに」
そう文句を言いながらも、他国との交流は一応大事だと理解しているのか去って行った。
そして苛つきを発散させるためか、付き人に当たり散らしている。
ユアーミラは身分も教養も申し分なく、火魔法使いでもある。
だが魔法は苦手なようでほとんど使わないらしい。
それを差し引いたとしても妃として相応しいかもしれないが、レイフォナーはどうしても彼女の性格を受け入れることができない。
国王と王妃に文句を言ってやりたいし、婚約者候補から外したいとさえ思っている。
「あれが私の婚約者候補か・・・嫌なんだが。高飛車でケバケバした女性は苦手だ」
「お前の周りにはそういう女性ばかりだぞ」
「でもあの皇女、美人だよね」
レイフォナーは面白がっているショールとチェザライを睨む。
「お前は素朴な女性が好みだもんな」
「うんうん、村娘とかね」
二人は護衛なので、常にレイフォナーに同行している。
アンジュが王都で襲われていたときも、村への橋の視察にも、王都の巡回中にも。
村娘と言われて真っ先に思い浮かべるのはアンジュだ。
まだ三回しか会っていない彼女に、心動かされているのは事実だ。
自分の周りにいる権力や美へ執着する女性たちとはタイプが全く違っていて、王都で初めて会ったときから可愛いと思っている。
自分に媚びてこないところ、美しいと言われて顔を真っ赤にするところ、刺繍が上手なこと、風魔法使いであること。
それらを思い出すと、飾りっ気がなくても彼女を美しいと思う。
「別に、アンジュが好みだというわけではない」
二人には、彼女を可愛いと思っていることがバレていそうだが一応否定してみた。
「俺たち、アンジュちゃんだとは一言も言ってないけど」
「ふふっ、墓穴」
「・・・お前たち、少し黙ってろ」
「はいはい」
と、二人は口を揃えて言った。
あなたにおすすめの小説
マジメにやってよ!王子様
猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。
エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。
生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。
その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。
ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。
「私は王子のサンドバッグ」
のエリックとローズの別世界バージョン。
登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
モブ令嬢は脳筋が嫌い
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
恋愛
イーディスは海のように真っ青な瞳を持つ少年、リガロに一瞬で心を奪われた。彼の婚約者になれるのが嬉しくて「祖父のようになりたい」と夢を語る彼を支えたいと思った。リガロと婚約者になってからの日々は夢のようだった。けれど彼はいつからか全く笑わなくなった。剣を振るい続ける彼を見守ることこそが自分の役目だと思っていたイーディスだったが、彼女の考えは前世の記憶を取り戻したことで一変する。※執筆中のため感想返信までお時間を頂くことがあります。また今後の展開に関わる感想や攻撃的な感想に関しましては返信や掲載を控えさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
生徒会の期間限定雑用係 ~庶民の私が王子に囮役としてスカウトされたら、学園の事件に巻き込まれました~
piyo
恋愛
平凡な庶民の少女クィアシーナは、フォボロス学園への転校初日、いきなりこの国の第二王子にして生徒会長ダンテに目をつけられる。
彼が求めたのは、生徒会での“囮役”。
学園で起きているある事件のためだった。
褒美につられて引き受けたものの、
小さないやがらせから王位継承問題まで巻き込まれていき――。
鋭すぎるツッコミを武器に、美形の生徒会の仲間たちと奮闘する庶民女子。
これは、無自覚な恋を抱えながら学園の事件に首を突っ込んでいく少女の物語。
※全128話
前半ラブコメ、後半第二章以降シリアスの三部構成です。
※「私にキスしたのは誰ですか?」と同じ世界感ですが、単品で読めます。
※アルファポリス先行で他サイトにも掲載中
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。
Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。
歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。
気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。
私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。
しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。
いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね!
悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。
魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。
やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。
そして、鍵とはいったいーー。
※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む)
★小説家になろうでも掲載しています。