サ終手前の元覇権ゲームを極めた俺、再ブームした世界で無双する。

文字の大きさ
29 / 35
第2章 第1回エリアイベント編

第14話 合わせと見知り

しおりを挟む
時は少し遡り、
きたるエリアイベント初日の朝。

集合時間は17:30である為、タスクは早めに終わらせておくべきだろうとせっせと動いていた。とは言っても無理のない仕事量だ、早めにこなすのも難しくなく無事時間には始められそうである。


途中日照ハルから少し遅れるかもしれないけれどイベント開始時間18時には間に合う、俺とウカが生理的に難しい人じゃなければ私も大丈夫だと思う、と連絡をもらった。平日の社会人だ、在宅ワークとはいえ彼女も忙しいのだろう。

全員で楽しみたいから無理せずにログインしてくれ、と返信しなるべく明日以降も楽に動けるようにと時間まで仕事を潰していくのであった。


================================


人間は集中するといつも以上の実力を発揮できるとはよく言ったもので、なんかめちゃくちゃ進んだ。そんなにAVOやりたかったんだろうかと自分でもドン引きの内容だ、集中しすぎて昼すら食べていない。

健康に悪いとは自覚しつつも少し早いが昼夕2食分を込みで栄養を摂取し、シャワーを済ませる。その時点で大体17時だ。

今回は昨日と違って森の中ではないためもうログインしてしまってもいいだろう。また遅刻しないようにしないとと思いながらAVOにログインする。

さーてどうしようかなと待ち合わせまでの時間の潰し方を考えていると、背後から声をかけられる。


「失礼、そこの方。少しお時間よろしいでしょうか?」

振り返るとそこに居たのは白いローブを着た若めの女性、日本における高校生くらいだろうか? ゲーム的に例えるならばヒーラーとか聖女とか、感覚で言えばそんなビジュアルをしていた。


「えーっと? どうしました?」

「私はクレア教団のしがない信者なのですが、道に迷ってしまったのです…」

クレア教団。
この世界、AVOにおける創造神。…よーするに運営様であるクレアトールを信仰の対象としている宗教団体である。
教団、と言ってもその規模は国家クラスであり、昨日手に入れた【聖教本入門】を出している聖国の定める主教だ。つまるところ本ゲームにおける最大手の宗教団体、と言ったところか。

自由を売りにしているAVO、当然プレイヤーも入信することができる。が、現在この日本エリアにて既に入信したプレイヤーが彷徨いているとは考えにくい。よって目の前にいるのはNPCという予想が容易に立てられた。


「なるほど。どちらまででしょう?」

「冒険者ギルドのオーレン支部なのですが…」

そのくらいであれば予定の時間内で余裕の案内ができるだろう。


「案内できますよ。行きましょうか?」

と先導するのであった。


================================


道中、世間話をしながら道を進む。
この女性、【マール】さんはどうやら仕事を上司に任されこの街に訪れていたらしく、その内容が俺達にも関係があるようだった。

「くろいゴブリン、ですか。」

「はい。秘匿されている訳ではないので明かせるのですが、なにやらそこらの魔物とは色々と違っているようでして。 こちらのオーレンにて報告がされたのでお話を伺いに参った次第なのです。」

報告した当人ではあるのだがここで首を突っ込むと間違いなく待ち合わせの時間には遅れてしまう。首を出そうとしてくる好奇心をなんとか抑え込み、さも何も知らない風を装い案内を続けた。

しかしなるほど、これで聖教本に繋がる訳か。黒ゴブリンの話が簡単に途切れるようなフラグではないと思っていたが、どうやらメインシナリオに関わってくるような起因になるかもしれない。
どう絡んでくるのか今から楽しみである。


話しながら歩いていると早いもので、無事マールさんを冒険者ギルド前まで送り届けることができた。しかし何かさせてほしいと言う彼女に気にするなと断っていたら、ぜひご連絡先を、と言われた時は驚いたものである。なんとNPCとフレンド登録をする事ができるようだ。フレンドとはこれ如何に案件ではあるが、もしかしたら今後メッセージから個別でクエスト。なんて事があるかもしれない。なんて良い新要素なんだと感動しつつ、NPC事にも気づいた。何度も言うが自由だ。自由が売り故にプレイヤーがNPC同様市民として活動していようと、敵対して襲いかかってこようと、フレンドとして一緒に冒険に出ようとどちらか区別がつかない可能性がある。

今回、案内をしたマールさんは流石に入信が早すぎる為NPCだと分かるが、今後プレイヤーとNPCの境目はぼやけていくのだろうなとぼんやり考える。


しかしどちらだろうと接し方は変わらないなと考えは行き着いた。プレイヤーに失礼な事を言うつもりはないしPKなんて非道徳な事もする気はない。またNPCだからといって失礼なことを言えば不利益を被るのは自分なのだ。結局一緒なのである。


またひとつ新要素を知れて良かったと、人助けを終え集合場所へと向かうトーマであった。


================================


集合時刻10分前。
街の中央から少し外れて、人通りも控えめであり顔合わせにはちょうどいいだろうとこの場所を選んだ。


少し早かったかなと思考が行き着く前に猫耳が視界に入る。どうやら今日も1番にはなれなかったようだ。


「おはようウカ。 今日も早いな?」

「ん、トーマ。 たまたま、だよ?」

「ハルは用事があって18時くらいに来るそうだ、顔合わせは2人でやるぞ。」

「りょー。」

挨拶もそこそこに2人で時間を待つ。
前からの仲だからだろうか、そこに静寂があっても気まずさはなく、むしろ心地いいものがあった。


「トーマさーん! お待たせー!」

暫くして約束の時間になったのか、アメさんがぱたぱたと走ってくる。


「センパイ!お久しぶりっス!」

彼がアシスタントに選ばれた人だろうか。しかし俺を先輩と…。 この喋り方には聞き覚えがあった、忘れもしない。


「その呼び方喋り方… ヤイチか?」

「覚えててくれたんすか!? よかったっス!」


間違いなくヤイチだ。
ヤイチは転生前、レイド組に属していた言うならばの1人。良くパーティも組んでいた。終盤は飽きたのかなんなのか、しばらく見なかったが。 何が彼の琴線に触れたのかわからないが、よく俺の後ろをついて来ていた気がする。


「ヤイチ、 うるさい。」

「その喋り方はタマっちっすか!? センパイと組んでるの羨ましいっすね…」

当然ウカとも顔見知りである。


「え、ダーシュさんお知り合いだったんですか!?」

そんな関係値を当然知らないアメさんは大困惑していた。アプデ前の知り合いだと伝えると納得したのかほぇーと納得していたが。


しかしまた顔見知りか、何故こうも集まってくるのか。何か作為的な、運命的なものを感じるが… 運営側が手引きしているとはなかなか考えづらい。運が良かった…という訳でもないがたまたまだろうとその疑惑を飲み込んだ。


「まぁヤイチ…、 ダーシュなら顔見知りだし人となりもそれなりに知ってる。 俺はパーティに意義はないよ。」

「ん。トーマがいいならいい。」

「あざっす! イベント頑張るっス!」

「見切り発車の勢いで決めちゃったのでマネさんにも怒られちゃったんですけど… 常識ある良い人が勝ち抜いてくれてよかったです。」

一応受け付けた時点でスタッフによるある程度の面接があり、それを抜けた者だけがトーナメントに参加できたらしい。昨日の今日で決定戦が決まったというのによくやるものだ、と素直に感心した。
余談だが乱入してきた彼は面接を突破できなかったらしい。まぁあれだけの騒ぎを起こしていれば順当ではある。


そうして雑談しているとハルが走って来た、どうやら開始前に間に合ったようだ。
ダーシュの変な癖が出なければいいが…


「先輩! お待たせしましたー!」

「…は? センパイこいつ誰っすか?」

「何この人… 先輩もしかしてこの人が? …あの!先輩呼びは  で十分です!」

「そっくりそのまま返してやるよ! センパイ! 俺の方が後輩に相応しいっスよね!?」

「ヤイチ。 うるさい。」

「ウカっち! これはアイデンティティに関わる問題なの! てか前の名前で呼ぶなよ!」

「なんか楽しくなりそうです…ね?」


…こんなパーティで大丈夫だろうか?



================================
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

処理中です...