魔王エルデネス3

葉雲屋

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シキ教団の章

3.

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この、月の制約。

それ自体を何とかしようとは、エルデネスは思わなかった。

ツキコは炎に姿を変えて、エルデネスに襲い掛かり、また戻る。

魔王は、くるりと反転し、軍刀の腹でそれを流す。

ツキコが、次は、炎の渦に姿を変える。

(変幻自在だ。気を抜けば、飲み込まれかねんな)

エルデネス、これから退避。

相手の先を読み、躱すのは身体で、あくまで、軍刀一本。

ツキコの炎の攻撃は、自由だが──

狐の方が、焦れた。

ならば、直接。この牙で、この爪で。

月夜に、グググと、今までより大きい白狐が出現した。

紫の炎を、取り込んでいる。

エルデネスが、軍刀を構えて、笑う。



「何をしている、ツキコ!」

神殿では、ネオが、

「はやく、エルデネスを殺せ!」

と、焦っている。

アキは静かに、祈り、ツキコに力を送っている。

魔王の戦いぶりが、ツキコの身体を通じて、アキにも伝わる。

(何て、鋭い……)

アキは、思った。

ツキコは、実体になった。

その暴力を、エルデネスは軍刀でさばき、躱し、狐の身体を斬りつける。

(魔王は、魔力だけではない……?)

「アキ!」

ネオが怒鳴る。

「もっとだ!もっと、ツキコに力を……!あの魔王、刀だけとなっても、なお化け物か!」

(──余の刀は)

軍刀が、ギィン!と鳴く。

軌道を逸らした獣の爪が、傍の地面を掴む。

(これを、まともには受けきれぬ。よって、逸らすように使う)

ツキコの頭と、エルデネスの身体がすれ違う。

狐が、右目で見る。

先程のは左前足。右前足が浮かび、払うように、魔王へ。

エルデネスは躱すが、直後、ツキコの身体は炎となり、夜空に打ちあがった。

(この紫の炎。恐ろしいが、余には通じぬな)

炎が、獲物を攫う鳥のように、エルデネスを突き抜け、また空へと。

通り過ぎる轟音の中で、エルデネスが察する。

……か)

ツキコは、空中で実体になると。

そのまま、エルデネスに向かって落下した。

狐の、衝突。地面が潰れる。



「……やれやれ」

宵闇に、土埃。

エルデネスが、立ち上がる。

「そんな顔をするな、狐よ。余もこれで、なかなかフェアに戦っているつもりだ」

ツキコはクルルと鳴き、牙を剥く。

エルデネスが、制帽を直す。魔王といえども、体格は人間と変わらない。軍刀も、狐に比べれば小さく、細いものだ。しかし──構えた。

「まあ、どこまでいけるか。試してみようではないか」




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