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ガルノ公国の章
1.
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「……二人の元へ、行ってきたの?」
「ああ、言った」
「そして最後に、私の所で寝る、と」
「寝づらいのでな」
「そういうの、気にするのね」
「やる事はやるが」と、エルデネスがカグラに言う。
燭台が、シーツを被る二人を照らしている。
「やる事はやる、って、さらりと言うのね。……けど、三人の中から選ばれているなら嬉しい。王妃争いも私がリード中……って、貴方、王妃は?」
「魔王妃か」
エルデネスは、天井を見上げている。「いない。今も、娶る予定はないな」
その答えに、カグラがちょっと口を尖らせる。
しかし、
(今は──か)
と、思う事にした。
「魔王妃でなくても、子供でも産めば、それなりに遇してくれるわよね」
「無論。約束と対価、だ」
「なら良いです」
カグラは、エルデネスに抱き着いた。
「連れて行って、貴方。私をどこまでも」
翌朝。
エルデネスが玉座に座っていると、ソガークがやってきた。
「毎晩、お楽しみですね」
「と、言いに来たのかね。また魔界から」
「手が空いておりますので」ソガークが、頭を下げる。「魔王様が留守にされていても、平和なものです。皆、帰ってきたときの事を恐れて手を出してきません」
そうそう、ベルジフトが……と、ソガークの話は続く。
エルデネスは頬杖をつき、静かに聞いた。
「ところで、魔王様。いよいよガルノ公国ですね」
「ああ」
「もはや、残された最後の勢力ですが……公国は、存外呑気にやっているようです」
「呑気にか」
魔王の顔が、少し動く。
「公国の技術開発。それしか考えていないようです。変わった国もあるようですな」
「ふむ。……ともかく、言ってみるとしよう」
ソガーク、と、エルデネスが、立ち上がってから言う。
「手出しは無用だぞ」
「無論、公国との戦いにも、戦利品にも手は出しませんよ」
魔王はククと笑い、収納玉をかざした。
ガルノ公国は、大きな島にある。
技術開発が盛んで、沿岸は全て要塞のようだ。砲台などは、撃つ相手がおらずとも、日々改良が続けられている。必要か、ではなくこだわりとして、そうなってゆくらしい。
熱意がひたすら、内に向かっているような公国の一画を、エルデネスが爆破した。
「何だ!?」
と声をあげたのは、技師長のパーナ。短く、煤でくすんだ金髪が、石畳の上を動く。
「パーナ様!」
「ビビ!今の爆発音を聞いたか?」
「はい!何やら、魔王エルデネスらしいです」
ビビは、真っ赤な髪を三つ編みにした、パーナの相棒だ。
その眼は意外にも、怖れではなく、好奇心で輝いている。
「ああ、言った」
「そして最後に、私の所で寝る、と」
「寝づらいのでな」
「そういうの、気にするのね」
「やる事はやるが」と、エルデネスがカグラに言う。
燭台が、シーツを被る二人を照らしている。
「やる事はやる、って、さらりと言うのね。……けど、三人の中から選ばれているなら嬉しい。王妃争いも私がリード中……って、貴方、王妃は?」
「魔王妃か」
エルデネスは、天井を見上げている。「いない。今も、娶る予定はないな」
その答えに、カグラがちょっと口を尖らせる。
しかし、
(今は──か)
と、思う事にした。
「魔王妃でなくても、子供でも産めば、それなりに遇してくれるわよね」
「無論。約束と対価、だ」
「なら良いです」
カグラは、エルデネスに抱き着いた。
「連れて行って、貴方。私をどこまでも」
翌朝。
エルデネスが玉座に座っていると、ソガークがやってきた。
「毎晩、お楽しみですね」
「と、言いに来たのかね。また魔界から」
「手が空いておりますので」ソガークが、頭を下げる。「魔王様が留守にされていても、平和なものです。皆、帰ってきたときの事を恐れて手を出してきません」
そうそう、ベルジフトが……と、ソガークの話は続く。
エルデネスは頬杖をつき、静かに聞いた。
「ところで、魔王様。いよいよガルノ公国ですね」
「ああ」
「もはや、残された最後の勢力ですが……公国は、存外呑気にやっているようです」
「呑気にか」
魔王の顔が、少し動く。
「公国の技術開発。それしか考えていないようです。変わった国もあるようですな」
「ふむ。……ともかく、言ってみるとしよう」
ソガーク、と、エルデネスが、立ち上がってから言う。
「手出しは無用だぞ」
「無論、公国との戦いにも、戦利品にも手は出しませんよ」
魔王はククと笑い、収納玉をかざした。
ガルノ公国は、大きな島にある。
技術開発が盛んで、沿岸は全て要塞のようだ。砲台などは、撃つ相手がおらずとも、日々改良が続けられている。必要か、ではなくこだわりとして、そうなってゆくらしい。
熱意がひたすら、内に向かっているような公国の一画を、エルデネスが爆破した。
「何だ!?」
と声をあげたのは、技師長のパーナ。短く、煤でくすんだ金髪が、石畳の上を動く。
「パーナ様!」
「ビビ!今の爆発音を聞いたか?」
「はい!何やら、魔王エルデネスらしいです」
ビビは、真っ赤な髪を三つ編みにした、パーナの相棒だ。
その眼は意外にも、怖れではなく、好奇心で輝いている。
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