魔王エルデネス2

葉雲屋

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トーエルフの章

2.

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「矢が避け……何?貴様、傲慢だと?」

ミレイが、一瞬たじろぐ。

「なにが傲慢なものか、魔王!散歩など信じられるか!……ギルグラドを、ハバトを滅ぼした貴様が、この森を狙わぬ訳がない!我らは森を守る!」

「魔法隊!」と、ミレイが叫ぶ。トーエルフの魔法は、自然を使う。木々が動き出し、草が、蔓が、魔王に向かおうとする。

「確かに、君達の事は狙っていた。だが、余は森を狙っていない」

エルデネスが、周囲を確認しながら言う。蔓の先端、草木の先端。しかしこの動きは――トーエルフが持ち出す”自然”の姿ではない筈だと。

「木々の意思とは関係なく、魔法で操る。この行為が、君達エルフの真意だ。”自分達の敵”を”森の敵”にすり替える」

森の数種類が、彼を捕えようとする。エルデネスは、機敏に飛び退いて、それを躱した。

「では、余は逆に、森に肥料を与えるとするかな。――”ベノム・ボム”」

魔力が放たれ、エルフだけを、正確に狙う。

「何!?」

「ぐあぁっ!」

と、エルフたちが、次々に爆散する。正面に居た者、隠れていた者。エルフの血肉が森に広がるが、しかし、森を傷つけていないといえば、そうかもしれない。
エルデネスはあくまで”エルフの敵”を、貫くつもりでいるらしい。

「仲間が……くそ!貴様!」

ミレイは、歯噛みした。
エルデネスが、知っている情報と、ミレイが持つ力を見抜き、それを併せて言う。

「――さて、召喚獣を使うか、ミレイ?森の生命力を使う召喚獣を?……森が見ているぞ、どうする?」

「森が……!」

エルデネスの言葉が、ミレイの魂を握る。

「こいつを、倒さなきゃ。しかし、使えば……森の命……!」

森が、見ている。

矢を、ミレイが、三本番える。
矢に魔力を込め、放つ。彼女は、召喚獣を使えなかった。魔法で従えた矢が、エルデネスに、集まるように向かう。だがエルデネスは力を使わず、純粋にそれを避けた。
迷いはしたが、ミレイの信念が、エルデネスを否定する。

「戯言を抜かすな、魔王!」

「戯言か」

エルデネスが、魔法によって張り出した枝を蹴り、ミレイの下へ跳ぶ。
三本の矢は追いきれず、やはり、森の三か所に刺さった。ミレイの首が抑えられ、背後の樹木に、叩きつけられる。

「ぐっ!」

「安心したぞ、エルフの女。……召喚獣を使っていれば、余は更に、不愉快になる所だった」

そのまま、ミレイの首を持ち、身体を、一度突き放す。
咳き込むミレイに、魔王は、軍刀を突き付けた。

「案内しろ―─貴様らの中心部へ。なるべく、草花を踏まずに行こう」


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