魔王エルデネス

フラウベル王国の章

1.

フラウベル王国、第一要塞。
要塞の上下で、臨戦態勢を整えるフラウベル軍。
この王国の強みは、騎士達。そしてその真っ直ぐな精神性だ。
しかしそんなフラウベルは、今、未曾有の危機を迎えていた。
要塞の前に立つ、制帽に外套、軍服姿に、軍刀を佩いた、魔王エルデネスによって。

「フラウベル王国の騎士達よ。余は、魔王エルデネス。この国を、この世界を余の傘下とすべく参った。降伏せよ。でなくば、全力で攻撃してくるがよい」

「魔王、エルデネス……！」

と歯噛みしたのは、フラウベル王国の王女、カノン。王女の、癖のある茶髪が、風に揺れる。
彼女は今、要塞の上から、エルデネスを見下ろしている──腰の剣は、伊達ではない。彼女は剣術に秀で、普段は穏やかな性格ながら、フラウベル軍を纏めていた。

「如何なさいます、姫様」

と、隣で言うのは、鎧に身を包んだ騎士団長、アレサ。

「決まっています！魔王などに、屈するわけにはいきません！弓隊、放て！」

カノンの号令で、土砂降りのような矢の雨が、エルデネスに降りかかった。





思えば、エルデネスには、「軍」がいない。
ただ一人、要塞の前に立っている。

「"バッシュ"」

◇
反射魔法：バッシュ
攻撃を跳ね返す。基本的な魔法だが、術者の力量に委ねられるため、エルデネスが使えば最強の性能になる。
◇

エルデネスの周囲に、半透明のバリアが展開。
すると、撃たれた矢が、返りだす。地面に刺さるか、要塞に刺さるか。兵士に刺さるものもある。
制帽の下の目で、エルデネスは、その様子を確認しながら、

「"ゼウス"」

◇
雷魔法：ゼウス
エルデネスが得意とする、雷の魔法。神の如き雷が敵を襲う。
◇

と、空が一気に暗転、魔力に呼ばれた雲が、要塞に雷を降らせる。

「うわあっ！」

豪雷の音に、悲鳴が被さる。城壁を崩し、兵士を吹き飛ばした。

カノンとアレサが、城壁の縁に掴まっている。

「な、何？この魔法……」

「だ、大丈夫ですか、姫様？」