【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 1章~異世界と再出発と火トカゲと

雪原の目覚めと新たな姿 / 転生したのは銀世界

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 海棠蓮司かいどうれんじはゆっくりと目を開けた。
 まず目に飛び込んできたのは、針葉樹林のような高い樹木。その樹木の合間から天に浮かぶ巨大な星。その星の周囲を回るいくつかの衛星。巨大な星は曇ったような濁ったような灰色をしている。
 俺はまどろむ意識の中で自分が地面に横たわっている事を理解する。地面から感じる冷たさ……冷た……え?

 「寒い……いや! 寒すぎだろコレ! 」

 一気に意識が覚醒して、俺は体を跳ね上げるようにして起き上がる。

「いたっ……くそ。頭がビリビリしやがる……」

 頭の痛みに片目をつぶり左手を額に持っていく。サラッとした髪の感触が自分の手に伝わり違和感を感じる。あれ? 俺って短髪だったはずだよな。
 そのまま俺は周囲をゆっくりと見渡す。冷たく澄んだ空気の匂い。明らかに今まで自分がいた千葉の房総の空気とは違う。どこかからか小さくキン……キン……という金属のような音が聞こえる。
 雪……なのかこれは。
 俺が横たわっていた地面は白い……とても冷たく感じる、雪としか呼べない形状のものが降り積もっている。
 異世界でも雪って白くて冷たいんだな。
 俺は地面に積もっている雪のような物体を片手で触り、地球と同じような感触であることを確かめる。しかし空から時折降ってくる雪は……小さくなったり大きくなったりと少しずつ形を変えながら降り、それが地面に付くとサラッとほぐれる様に崩れて地面に積もっていく
 周囲は針葉樹林ような樹木が生い茂るちょっとした林のような場所となっていて、降りしきる雪から俺の体をさえぎってくれている。
 俺はゆっくりと自分の両手を見つめ、更なる違和感に気付く。体が軽い。自分の体に18歳の頃のような躍動感やくどうかんあふれる感覚が戻ってきているような……
 その場ですっと立ち上がり、大きく伸びをしてみる。両手を上に上げ、体を横にひねり、大きくジャンプをしてみる。いつもよりだいぶ動かしやすい気がする。
 特に体を動かしてみて、地球上と違うような空気感は今のところ感じない。実は今までのことが夢だったのではないか、北方にある寒い雪の地方で倒れて目覚めただけなのではないかと、若干じゃっかんの希望を俺は抱いたが……もう一度天を見上げると、やはり太陽とは思えない巨大な星と衛星があり、ここが異世界であることを再認識させられた。
 しかし寒すぎる! 服装はどうやら地球で着ていたままのようだ。地元の商店街で購入した緑がかったチノパンに長袖の灰色っぽい上着。その上には白いダウンジャケットを羽織はおっている。しかし着ているものが地球で言えば春先に向けた服装なだけに、雪深いこの景色の中では少し軽装過ぎた。
 この異世界にはダウンジャケットなんてあるんだろうかと疑問を抱きながらも、ジャケットのチャックを上まで上げしっかりと閉めた。肩をすくめ、なるべく冷たい空気が体の中に入ってこないように心がける。俺が寝転がっていた傍には自宅近くの量販店で買った革製のリュックが落ちていた。そんなものまでこの世界に一緒に来ていたのかと俺はびっくりしながらもそれを拾いあげると背中に背負いこむ。

 ふと、腰の辺りに身に覚えのない重さを感じ、慌てて腰に巻いてあるベルトのあたりを両手で探る。

「良かった! お前が無いとどうなる事かと思ったよ」

 それはこの異世界に俺を連れてくるきっかけとなった古びた包丁。その包丁はいつのまにか包丁の刃とつかおおうようにして作られ、ベルトに通せるようになった革のケースに入り腰にしっかりと収まっていた。
 ここに来る前はそんな革のケース、持っていなかったよな……
 俺は奇妙な感覚を覚えながら、その革のケースのボタンを外しその中に入った包丁を取り出した。
 あれ、おかしいな。この包丁、持ち出した時にはびついていたよな?
 俺はゆっくりと包丁を眺め、刃触りや持ち具合を確かめてみた。
 包丁はいつの間にか綺麗にがれていて、元々あった輝きを取り戻したかのような印象を受けた。
 ふと刃の根元、俗にいうアゴの部分に彫り込んであるめいに目がいく。
 確かそこには『焔柱ほむらばしら』と記されていたはずだ。
 しかし今、俺が持っている包丁に彫り込んである銘は……『萌炎』

「ほう、えん? 」

 俺はゆっくりと読んでみた。もちろん読めたからと言って意味まで分かるわけでは無い。
 どんな意味だったかな?流石に国語はあまり得意ではなかったからな。
 そういえば……と思い返す。クジャクンが出てくる気配がないことに改めて気づく。

「あいつ、俺の包丁として傍にいるって言っていたような……」

 答えるものは俺の周囲にはいない。
 俺は右手に持っている包丁をもう一度見つめた。包丁が一瞬うなづくように光り輝いたように思えた。
 とりあえず深く考えるのは止めよう。クジャクンが出てきたような魔法の包丁なんだ、いつの間にか研がれていたり、銘が急に変わっていても不思議じゃないだろう。クジャクンもまたそのうち出てきそうな気がする。そうだ。そう思うようにしよう。
 俺は自分の中に沸き起こりそうになった不安を強引に打ち消した。
 まずは周りを確認しないとな……俺はゆっくりと周囲の様子をうかがいながら先ほど起き上がった林のような場所から少しずつ歩みを進める。
 林のような場所を抜けると目の前が一気に開ける。見渡す限りの雪景色。視界は降り続く雪の為か、あまり遠くまでは見渡せない。
 ふと、足元の雪が少しずつ空に向かって伸びてきている事に俺は気づいた。俺はびっくりして目を見開き、少しずつせりあがってくる雪をじっと眺めた。それは俺の肩辺りまで伸びてくると……キン……キンという音を立てて一瞬でこおり付く!凍り付くとすぐに表面が滑々すべすべするような鏡面状となり、その氷の柱のてっぺんからポンッと小さな雪の結晶のようなかたまりが飛び出したのが見えた。

『……った! ……ちゃった! 』

 俺はその雪の結晶のような塊に、ふたつの愛らしい目があって、小さな口があるように思えた。その小さな口からなにか言葉のようなものが発せられたのを聞いた。

『行っちゃった! 怖いの行っちゃったよ! 』

 俺は目をまん丸く開ききると、その氷の柱のようなモノを見据えながら大きな声を出した!

「氷の……柱が! しゃべったぞ!! 」
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