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1巻 1章~異世界と再出発と火トカゲと
雪の精霊と鏡面の氷柱 / 保温の力とイケメンな俺
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今や俺の近く地面からせりあがった……地面から生えている大きな鏡面状の氷柱とでもいうべきものは5本にもなっていた。それぞれのてっぺんから小さな雪の精霊? とでもいうしかないような存在が出てきて、口々になにやらしゃべる光景を想像してほしい。
俺は驚くのも忘れて、その雪の精霊が口々にしゃべっている様子を聴いていた。そんな状況を見ながら、ぼんやりと……やっぱり俺は異世界に辿り着いてしまったんだなと思い至る。
『……春が来ない! 春が来ないよ! 』
『…春の神様……閉じ込めらた! 』
『……助けて……助けて! 』
口々に小さな声で独り言の輪唱会のようにつぶやく5本の雪の精霊。
「春が来ないのか……だからこんなに寒いんだな」
俺はそう言葉に出した。すると今まで散々好き勝手に喋りまくっていた5本の雪の精霊が、一斉に俺の方を振り向き、大きな声を出した!
『キミ! オイラ達が見えるの! 』
『言葉が分かるの! 』
『すごい! すごいね! 』
『フィーム族かな……それにしてはちょっと変だね! 』
『あたたかい……あたたかい魔力が感じるよ! 』
5本の雪の精霊の視線とでも言えばいいのだろうか、それが俺に全て集中する。俺はかなりびっくりして、半歩どころか3歩ほど後ずさった。
仕方ないだろ。よく考えてみてくれ。異世界に降り立ってすぐに雪の中に落とされて、林の外に出たら5本の雪の精霊が現れて一斉にその精霊たちに話しかけられるんだぞ。
『あはは! 』
『びっくりしてら! 』
『びっくりしたって目になってるぞ! 』
『フィーム族って面白いよね』
『面白い! 面白い! 』
さっきからフィーム族って言っているが、地球でいう人間みたいな種族名なんだろうか。そうしたらもしかして…エルフとか! ドワーフとか! そんなファンタジー色バリバリのたくさんの種族が暮らしている世界なんだろうか。
俺はそれどころではないのに、そんなバカなことを頭の中に思い描いて一人ニヤニヤと悦に入った。
そして俺はそっと手を伸ばして、その鏡面状の氷柱に手を伸ばそうとする。その途端5本の氷柱のうち4本は音もたてずに粉々に砕けてしまった。
「え……あ、どうして? 砕けちまったんだ……」
一瞬動きが固まり、恐るおそるすぐに手を引っ込める。しまった…興味津々で触れようとしたのがいけなかったのか…
割れなかった5本目の氷柱、その上に残っていた氷の精霊はニヤリと笑い俺に向かって小さく呟いた。
『触ると溶けちゃうだろ! そんなこともフィーム族は分からないのか』
それだけ言うとその精霊もその場から姿を消してしまった。
後に残ったのは地面から生えた鏡面状の氷柱だけ。
そうか。そうだよな。と俺は自分の好奇心ゆえの行動を少し恥ずかしく思った。
ふと。さっきまでは雪の精霊だけしか視界に入っていなかったので気づかなかったが、氷柱が鏡のようになっているので、改めてそこに自分の姿がはっきりと映っている事に気付いた。
「なんだこれ。俺…じゃない。誰だよ! 」
氷柱に映った、自分がよく知っているはずなのに自分じゃない姿に俺は驚愕した。黒髪は黒髪なんだが、明らかに長さが違う。確かにさっき前髪が目にかかるような気がして髪を触った時にも違和感を感じたんだ。寿司職人として清潔感のある短髪が基本だったので、髪を伸ばしていたのは引きこもりだった10代中盤くらいの頃までしかない。
長く伸びた黒髪が肩辺りまで掛かり、結ぼうと思えば後ろで一本に結べそうな長さにまでなっていた。更にどういうトリートメントを行ったのか、CMでも見るようなサラサラな触り心地。うーん。自分でもずっと触っていたい。
驚いたのは瞳の色。黒に近い茶色の色合いをしていたはず…しかし氷柱に映っている俺の瞳の色は明るいヘーゼル色というか、緑と茶色の中間の色とでもいうのか。更にこんなに切れ長の瞳ではなかったはずだ。涼し気な目元とすっと通った鼻筋。
贔屓目に見ても、なかなかにイケメンな顔立ちをしていた。女子に好かれる優しげな印象という雰囲気を醸し出している。たしか地球の俺は30歳だったはずだが、明らかに18歳くらいに若返っている!
をいをい! どうなってる! クジャクン俺に何をした。こんな端正な顔立ちをしていたら地球ではさぞ世の女子たちが放っておかなそうだぞ…異世界転生最高か!
しかし異世界の感覚ではこれが端正なマスクとはいかないのかもしれないな……と思い直す。あくまで俺の感覚の、地球の感覚のイケメンイメージ。こちらの世界では全く価値観が違う可能性も高い。
そうあれこれ、この場で考えても答えの全く出ない、現実逃避のような自分の異世界の容姿についての疑問を自分に投げつけること30分。
だんだんと俺は自分の体が冷えてきていることに気付く。雪の中にいるのだから当然といえば当然だ。いくらダウンジャケットを着ているとはいえ、服装は春先を想定した着こなししかしていない。
両手で体を抱えるようにしてその場で立ち尽くす。周囲は雪が降りしきる山の中腹のような場所。雪のせいで視界はかなり悪い。近くに人里でもあるといいのだが…
ふとベルトのあたりが熱くなっているのを感じて右手をお尻付近に伸ばす。そこには包丁が収まっている革の包丁ケースがあるはずだ。俺はケースのボタンを弾くように外し、包丁を取り出した。
包丁は小さく淡い赤い光を放ち、ほのかな熱を発していた。
「すごい……」
包丁が淡い光を放つなんて。信じられないものをみるようにして包丁を顔に近づける。銘である『萌炎』という文字が小さく赤い輝きを放っているように見える。
「包丁自体が熱を放っているのか。なんとか暖は取れそうだな」
包丁の刃の部分を恐る恐る触ってみるが、火傷の時のようなヒリヒリと痛むような感覚は無い。どちらかというと暖かい……カイロや湯たんぽのような感覚だ。
包丁の柄を握り、もう少し暖かい方がいいなとふと思い、その瞬間に俺の頭にある言葉が浮かぶ。
『保温』
全身に一瞬淡い赤い光が広がり、体の周囲が春先の日向ぼっこをしているかようにポカポカと暖かく感じるようになった。包丁を仕舞うとその淡い暖かさも消えてしまうのかと一瞬思ったが、腰の革のケースに包丁を戻しても全身を包む暖かさはいささかも衰えた様子はなかった。
「これは便利じゃないか。なんだか魔法みたいだな!」
さっきの一瞬で頭に浮かんだ言葉といい、魔法のような力といい、普通では絶対に考えられないことだよな。
俺はこの異世界で立て続けに起こっている、地球とは違う出来事の数々に一気に触れたことで、段々と感覚が麻痺してきていていた。
しかし体が暖かくなろうとも、俺の今置かれている状況が進展したわけではない。雪深い山の中腹に置き去りにされ、周囲を見回しても雪景色以外の情報がまったく見当たらない。体が暖かくなっただけで、このままでは遭難者まっしぐらだ。いやすでに遭難者といっても全くの間違いではないのかもしれない。
ものは試しだ……俺はもう一度腰のベルトから包丁を外して右手に持つと、近くになにかないかと考えながら包丁を持つ手に力を込めた。
先程のような魔法の言葉は浮かんでは来なかったが、頭の中にぼんやりとイメージが沸くような感覚が包丁から伝わってくる。目を凝らすように周囲をもう一度見渡すと、自分の左手の方向の先になにかあるような……そんな不思議な感覚。
「あっちか……なにかありそうな気がする」
このままこの林の傍にいても空腹で倒れてしまう未来しか見えない。少なくとも寒さで凍えることだけは暫らくなさそうな気がする。
俺は包丁から伝わってきたイメージを信じることにした。というか信じるしか俺には道がない。
俺は意を決して、包丁の指し示す方向に歩みを進めだした。
俺は驚くのも忘れて、その雪の精霊が口々にしゃべっている様子を聴いていた。そんな状況を見ながら、ぼんやりと……やっぱり俺は異世界に辿り着いてしまったんだなと思い至る。
『……春が来ない! 春が来ないよ! 』
『…春の神様……閉じ込めらた! 』
『……助けて……助けて! 』
口々に小さな声で独り言の輪唱会のようにつぶやく5本の雪の精霊。
「春が来ないのか……だからこんなに寒いんだな」
俺はそう言葉に出した。すると今まで散々好き勝手に喋りまくっていた5本の雪の精霊が、一斉に俺の方を振り向き、大きな声を出した!
『キミ! オイラ達が見えるの! 』
『言葉が分かるの! 』
『すごい! すごいね! 』
『フィーム族かな……それにしてはちょっと変だね! 』
『あたたかい……あたたかい魔力が感じるよ! 』
5本の雪の精霊の視線とでも言えばいいのだろうか、それが俺に全て集中する。俺はかなりびっくりして、半歩どころか3歩ほど後ずさった。
仕方ないだろ。よく考えてみてくれ。異世界に降り立ってすぐに雪の中に落とされて、林の外に出たら5本の雪の精霊が現れて一斉にその精霊たちに話しかけられるんだぞ。
『あはは! 』
『びっくりしてら! 』
『びっくりしたって目になってるぞ! 』
『フィーム族って面白いよね』
『面白い! 面白い! 』
さっきからフィーム族って言っているが、地球でいう人間みたいな種族名なんだろうか。そうしたらもしかして…エルフとか! ドワーフとか! そんなファンタジー色バリバリのたくさんの種族が暮らしている世界なんだろうか。
俺はそれどころではないのに、そんなバカなことを頭の中に思い描いて一人ニヤニヤと悦に入った。
そして俺はそっと手を伸ばして、その鏡面状の氷柱に手を伸ばそうとする。その途端5本の氷柱のうち4本は音もたてずに粉々に砕けてしまった。
「え……あ、どうして? 砕けちまったんだ……」
一瞬動きが固まり、恐るおそるすぐに手を引っ込める。しまった…興味津々で触れようとしたのがいけなかったのか…
割れなかった5本目の氷柱、その上に残っていた氷の精霊はニヤリと笑い俺に向かって小さく呟いた。
『触ると溶けちゃうだろ! そんなこともフィーム族は分からないのか』
それだけ言うとその精霊もその場から姿を消してしまった。
後に残ったのは地面から生えた鏡面状の氷柱だけ。
そうか。そうだよな。と俺は自分の好奇心ゆえの行動を少し恥ずかしく思った。
ふと。さっきまでは雪の精霊だけしか視界に入っていなかったので気づかなかったが、氷柱が鏡のようになっているので、改めてそこに自分の姿がはっきりと映っている事に気付いた。
「なんだこれ。俺…じゃない。誰だよ! 」
氷柱に映った、自分がよく知っているはずなのに自分じゃない姿に俺は驚愕した。黒髪は黒髪なんだが、明らかに長さが違う。確かにさっき前髪が目にかかるような気がして髪を触った時にも違和感を感じたんだ。寿司職人として清潔感のある短髪が基本だったので、髪を伸ばしていたのは引きこもりだった10代中盤くらいの頃までしかない。
長く伸びた黒髪が肩辺りまで掛かり、結ぼうと思えば後ろで一本に結べそうな長さにまでなっていた。更にどういうトリートメントを行ったのか、CMでも見るようなサラサラな触り心地。うーん。自分でもずっと触っていたい。
驚いたのは瞳の色。黒に近い茶色の色合いをしていたはず…しかし氷柱に映っている俺の瞳の色は明るいヘーゼル色というか、緑と茶色の中間の色とでもいうのか。更にこんなに切れ長の瞳ではなかったはずだ。涼し気な目元とすっと通った鼻筋。
贔屓目に見ても、なかなかにイケメンな顔立ちをしていた。女子に好かれる優しげな印象という雰囲気を醸し出している。たしか地球の俺は30歳だったはずだが、明らかに18歳くらいに若返っている!
をいをい! どうなってる! クジャクン俺に何をした。こんな端正な顔立ちをしていたら地球ではさぞ世の女子たちが放っておかなそうだぞ…異世界転生最高か!
しかし異世界の感覚ではこれが端正なマスクとはいかないのかもしれないな……と思い直す。あくまで俺の感覚の、地球の感覚のイケメンイメージ。こちらの世界では全く価値観が違う可能性も高い。
そうあれこれ、この場で考えても答えの全く出ない、現実逃避のような自分の異世界の容姿についての疑問を自分に投げつけること30分。
だんだんと俺は自分の体が冷えてきていることに気付く。雪の中にいるのだから当然といえば当然だ。いくらダウンジャケットを着ているとはいえ、服装は春先を想定した着こなししかしていない。
両手で体を抱えるようにしてその場で立ち尽くす。周囲は雪が降りしきる山の中腹のような場所。雪のせいで視界はかなり悪い。近くに人里でもあるといいのだが…
ふとベルトのあたりが熱くなっているのを感じて右手をお尻付近に伸ばす。そこには包丁が収まっている革の包丁ケースがあるはずだ。俺はケースのボタンを弾くように外し、包丁を取り出した。
包丁は小さく淡い赤い光を放ち、ほのかな熱を発していた。
「すごい……」
包丁が淡い光を放つなんて。信じられないものをみるようにして包丁を顔に近づける。銘である『萌炎』という文字が小さく赤い輝きを放っているように見える。
「包丁自体が熱を放っているのか。なんとか暖は取れそうだな」
包丁の刃の部分を恐る恐る触ってみるが、火傷の時のようなヒリヒリと痛むような感覚は無い。どちらかというと暖かい……カイロや湯たんぽのような感覚だ。
包丁の柄を握り、もう少し暖かい方がいいなとふと思い、その瞬間に俺の頭にある言葉が浮かぶ。
『保温』
全身に一瞬淡い赤い光が広がり、体の周囲が春先の日向ぼっこをしているかようにポカポカと暖かく感じるようになった。包丁を仕舞うとその淡い暖かさも消えてしまうのかと一瞬思ったが、腰の革のケースに包丁を戻しても全身を包む暖かさはいささかも衰えた様子はなかった。
「これは便利じゃないか。なんだか魔法みたいだな!」
さっきの一瞬で頭に浮かんだ言葉といい、魔法のような力といい、普通では絶対に考えられないことだよな。
俺はこの異世界で立て続けに起こっている、地球とは違う出来事の数々に一気に触れたことで、段々と感覚が麻痺してきていていた。
しかし体が暖かくなろうとも、俺の今置かれている状況が進展したわけではない。雪深い山の中腹に置き去りにされ、周囲を見回しても雪景色以外の情報がまったく見当たらない。体が暖かくなっただけで、このままでは遭難者まっしぐらだ。いやすでに遭難者といっても全くの間違いではないのかもしれない。
ものは試しだ……俺はもう一度腰のベルトから包丁を外して右手に持つと、近くになにかないかと考えながら包丁を持つ手に力を込めた。
先程のような魔法の言葉は浮かんでは来なかったが、頭の中にぼんやりとイメージが沸くような感覚が包丁から伝わってくる。目を凝らすように周囲をもう一度見渡すと、自分の左手の方向の先になにかあるような……そんな不思議な感覚。
「あっちか……なにかありそうな気がする」
このままこの林の傍にいても空腹で倒れてしまう未来しか見えない。少なくとも寒さで凍えることだけは暫らくなさそうな気がする。
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