【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 1章~異世界と再出発と火トカゲと

雪中行軍と食材探知 / 赤いジャガイモと空腹感

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 俺は包丁の導きを信じながら、直感に従い雪の降りしきる中を歩き続けた。
 雪はしばらくすると勢いが弱まり、歩き続けるうちに段々と止んでいく。足元の雪の深さは15センチほどで、かなり歩きにくかったが、包丁の力により暖かく感じるせいかそれほど辛くはなかった。
 それより俺を驚かせたのは自分の体が思ったよりもずっとタフなことだった。

「俺ってこんなに体力あったっけ……」

 包丁の力により、地球にいた頃よりも頑丈な体を手に入れていたわけだが、この時の俺にはまだその自覚は無かった。
 歩き続けて2時間程度が過ぎていた。体力的にはまだ余裕を持って歩くことができたが、周囲の雪景色にほとんど変化がないことに俺は飽きてきていた。
 ふと進む先の雪が周囲よりも少し隆起りゅうきしている事に気付いた。また雪の精霊がでてくるのかとちょっと期待をする。しかし立ち止まって眺めていても何も起こりそうな気配はない。残念に思いながら、また腰のベルトの包丁が暖かくなっている事に気付いた。俺はすぐにベルトから包丁を外し取り出すと、銘が小さく赤く輝いているのを見た。

「えーと……あれはなんだろう」

 頭の中でとある言葉が浮かぶ、俺はその言葉を小さく口から発した。

食材探知レベンスミッテル

 これは便利だな……だが仕組みがまだよくわからない。
 この便利な能力について包丁の力を使うということだけは俺にも分かるようになってきた。そしてこの能力を使うときには、頭に浮かんだ言葉を言う必要がある事。俺は違和感を覚えつつも、この異世界で使える便利な能力はどんどん使っていこうという考えが浮かんでいる。
 俺は包丁に力を込めながら雪が少し隆起した場所をもう一度強く見つめる。包丁を少し強めに握りながら、目頭に軽く力を込めるといった表現が正しいような気がする。実際俺だってよく分かっていないんだ!これでどうなるかなんて予想ができない。
 何か雪の中に、土の中に埋まっているな、という感覚が頭の中に浮かぶ。

「そういえば腹が減ったな……」

 俺は今まで不思議なことが続けざまに起きていたせいで、自分の中の当たり前の感覚である空腹感にまで思いが至らなかった。それに喉も乾いてきている。
 俺は包丁を取り出すと、雪が少し隆起している場所にかざした。すると包丁が赤く輝く。

「これって雪を溶かせるんじゃないか? 」

 俺は雪をすくって片手の上に乗せる。熱を帯びている包丁を近づけると徐々に雪が溶けだし、透明な液体になった。

「み…水だ」

 俺は喉が渇いていたこともあり、片手の中で雪が溶けて作られた水を少しずつ口に含んだ。

「うまい。ちょっと炭酸みたいな風味がするな」

 不格好だが、これならなんとか飲み水には事欠かない。
 雪を溶かした水を飲んで少し喉の渇きがうるおった俺は、更にその雪の下にある埋まっているものに感覚を集中させた。
 すると包丁に彫ってある銘が赤く輝き、包丁自体から伝わってくる熱量が更に大きくなるのを感じる。結構熱い。いや、ちょっと火がでてないかコレ!
 包丁から出ている炎を雪に近づけるとあっという間に雪が溶け、その下の地面の部分が露わになる。

「すげえ! つまりはこれってガスバーナーじゃん! 」

 よくあぶり寿司を握る際に、七輪を使って食材の表面を炙ったりしていた。それと同じようなことがガスバーナーを使えば出来るわけで。炙る事で香りが立って匂いだけでも客の味覚を刺激して店の中が幸せで満たされる。
 その日常の景色からかなり離れたところまで来ちまったな。一瞬感慨にふけるような思いが頭の中をよぎる。
 俺は自分が転生をする瞬間の炎に包まれた蔵の中が思い出した。師匠や『創元寿司』への想い。そして氷雨の存在。俺が居なくなった世界では師匠と氷雨はどうなるんだろうという複雑な感情。

「そうだな。まずはこの世界で生き抜くしかない」

 包丁の『萌炎ほうえん』を握ると手の中に小さな暖かみを感じた。

『萌炎』のガスバーナーのような力により、雪の中の地面があらわになり地面が見えるようになった。俺が更にその地面を少し掘り返すと、野球のボール大の赤色の実がいくつか見つかった。俺はその赤い実を手に取りじっくりと眺める。

「これは…ジャガイモ…のような気がする」

 突然頭の中に赤い実の情報が何となく浮かび、安全に食べられるものだということがうっすらと分かる。

 これはさっきの能力、ファンタジー的に言うとおそらく『呪文』だと思う。俺の頭に浮かんだ『食材探知レベンスミッテル』と唱えることによって、異世界の未知なる食材がある程度分かるようになる便利な呪文だ。
 たぶん…この異世界と地球の食文化を俺が分かっている範囲で認識して繋げられるような能力なんだ。
 俺がすごいというより、包丁の力がすごいんだけどね。
 いや。生き抜くにはとりあえずなんでもいいから使いこなしていかないと。
 更にこの赤い実はでないと食べれないということ、生で食べると表面にある毒素が邪魔して体調を壊してしまう…という事を感じられた。
 茹でると言われてもな。周りには雪しかないし。雪を溶かしたところでそれを溜めて置ける器もないしな。
 せっかく異世界で最初に手に入れた『おそらくジャガイモらしきもの』だったが、調理器具や鍋、まな板などもない俺には今の段階ではどうすることもできない。

「とりあえず持っていくしかないな」

 腹が減ってはなんとやら。俺は見つけた『赤いジャガイモもどき』を全部拾い上げると背負っていたバックに詰め込む。こういう時に転生物のセオリーではなんでも入るアイテムバックとか持っていてさ、どれだけ入っても重さを感じないとか、入れたものは中で時間的概念から隔絶かくぜつされて腐らなくなるとかチートな能力を持っているもんだよ。確かにこの包丁の能力はすごいけど、かなり限定された力じゃないか?
 俺はそんな自分勝手な不満を抱きながらも、ジャガイモの入ったリュックを背負い、周囲をもう一度見渡した。

「腹が……減った……」

 俺は好きだった某独り食べ歩きドラマ番組の名台詞を口にした。本当にあの番組は面白かったよな。映画も嬉々として観に行ったし。なんでおっさんがただ美味しそうに食べているだけの番組なのにあれほど観ていて楽しいのかは今でも分からない。

 その時俺は目を凝らした雪景色の先、山肌の中腹に人が入れるような洞窟があるのを発見した。

「あの中になにかあるな……」

 それが新たな食材なのかなんなのか。それは分からない。
 包丁の力なのか、俺の空腹を満たしたいという寿司職人ゆえの直感なのか。
 単調な雪景色を見続けるのも、もう飽き飽きしていたし。
 俺はその洞窟に向かってゆっくりと歩き出した。
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