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1巻 1章~異世界と再出発と火トカゲと
夜明けの悲鳴、新たな波乱/炎の剣と初めての戦い
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お腹がいっぱいになり、俺とグリューンは洞窟の入り口に戻ってきた。
洞窟の外は雪が降り積もっていたが、雪自体は降ってはいなかった。天気が良いのか昨日よりは周囲が明るいように感じられた。天を仰ぐと、やはり巨大な星とその周囲の衛星が見える。昨日は灰色っぽかったが今日は少し緑がかったような色をしているように見えた。
グリューンは流石にそのままでは寒かったようで、すぐに俺の白いダウンジャケットの中にすっぽりと納まってしまった。
「オイラはこの中でもうちょっと寝ている事にするぜ」
……いいけど、ダウンジャケットの中から滑り落ちるなよ。
俺は寒さを感じ始めていたので、『保温』と暖かくなる魔法を唱え、体温を保つことにする。ダウンジャケットの中は暑くないかな。暑かったら出てくるだろ。
そんなことを考えていると、突然周囲の静けさを遮るように女性の甲高い悲鳴と、ドォーンという何か重たいものが倒れるような音が響いてきた!
俺は遠く目を凝らす。なにか大きな乗り物が横倒しになっているのが見える。その近くに何かがいる……ここからでは流石によく分からない。
俺はすぐに走り出した!
俺が走り出すと、すぐにダウンジャケットの中から顔を出すグリューン。
「レンジ。この中暑くてよ。ちょっとここから顔出していいか」
そうじゃない!今はそんな場合じゃないだろ。
俺は走りながら遠くに見える大きな乗り物が横倒しになっているところを指さした。グリューンもじっと遠くを見つめている。
「あれは……山羊蹄車という、簡単に言うと馬車だな。こっちの世界では馬自体は存在しなくて、見た目がヤギのような生き物に引かせて荷を運んだり、ヒトを乗せたりするやつだ」
「そうなのか! さすが異世界だな」
「こっちでは様々な種族がいるからな。人類って意味合いで、種族全体を合わせた総称がヒトだ」
グリューンの豆知識披露を聞きながら、俺は必死に走る! 近づくにつれて大きな獣に誰かが襲われて、必死に逃げているのが見える。
「フィーム族の娘が襲われているな。やばいぞ! 」
大きな口を開けてギザギザな歯を見せながらグリューンが警告する。分かっているって! 分かっているんだが……勢い込んで走ってきたがどうすりゃいいんだ?
只でさえ走りづらい雪が降り積もった斜面だ。それでも俺とグリューンはかなり近くまで走ってきていた。ちょっとした崖の上に出ると、真下で大きな獣が女性を追いかけ回しているのがはっきりと確認できた。
女性は冬山での寒さ対策であろうモコモコの毛が目立つ長いコートのようなものを羽織っている。その下に簡素な茶色いニットチェニックを着ており、逃げるたびに長い黒髪が流れるように動いていた。
黒髪の女性は戦う意思があるのか、何度か拳を握りしめ熊の方を向こうとしているが、慌てている様子でなかなか形にならないもどかしさが伝わってくる。
「熊!? グリューン。あれって熊だよな? 」
グリューンは俺のジャケットから落ちないように必死に食らいついているようだった。
俺は腰の包丁をベルトから取り出すと、近くの木の陰に身を潜める。
そこから身を半分ほど乗り出して様子をうかがう。熊のような大きな獣は我を忘れたかのようにチェニックの女性を追いかけている。獣の腕からは大きな爪のようなもの生えているのがこの位置からでもはっきりと分かる。
「さぁ、どうするよ寿司職人さんよ」
グリューンが、にやけた様な表情を浮かべる。
「女性が襲われているんだぜ! まさかそのまま見て見ぬふりをするなんて事は……ないよな! 」
グリューン!お前そんな焚きつけるようなこと言うんだな!
ちょっと待ってくれ。確かに魔法の包丁があって、なんとかなるかもしれないが、俺はケンカは殆どやったことないぞ。格闘技を見るのは好きだったが、自分がまさかやるなんてことは考えもしなかったぞ。
そう俺が考えている間に、熊のような大きな獣の腕に吹き飛ばされ、女性が大きく仰け反る!そのまま雪の斜面に横たわり動かなくなった。
「う……うわあああ! 」
俺は魔法の包丁を構えて、木の陰から飛び出した!
近くで見るとかなり大きな熊さん。
これ3メートルくらいはあるんじゃないか……更にかなり横にもデカイんだけど! 300キロくらいはありそう。マジかよ!
大きな熊―ケイブベアは俺が視界に入ると、倒れている女性から俺の方に体の向きを変えた。俺はゴクリと唾を飲み込む。
「なにか、なにかできないか。なにか戦闘に使える能力! 」
あたふたと俺は包丁をかざすが、慌てるばかりで何も頭に思い浮かばない。いきなり熊に出くわして、更にその熊は臨戦態勢バリバリという状況を想像してみて欲しい。
「あはは! 面白くなってきたな相棒。今こそ包丁の力を見せてやれ! 」
おま! なんだその余裕綽綽な感じは。戦うのは俺だぞ!
そうだ!俺は一瞬頭に浮かんだ言葉を急いで紡ぐ。
『灯火!! 』
俺がそう呪文を叫ぶ!
そうだよ。この『灯火』をケイブベアの目に向かって使えば……俺は咄嗟に思いついた呪文の使い方、つまりは明るい光で目を眩ませるという奇襲作戦!
「グァアアアアァ!」
よし、効いたぞ!
しかしそのホッとしたのも束の間。ケイブベアの鼻が大きく開いて、その鼻の下の大きな口が開き、鋭い牙が見えた。ケイブベアは鼻を器用に動かし、俺の匂いを嗅ぎ当てたような仕草を見せた。
「レンジ! どうやらそう簡単にはいかなかったなぁ! 」
グリューンが面白そうに笑っている。お前、この状況を楽しんでやがるだろ!
ケイブベアは俺に向かって猛スピードで突進してくる! 無理……避けられるわけないだろ!
俺とグリューンはケイブベアの突進を受け、そのまま後方に5メートルほど飛ばされた。
飛ばされた先の木にしたたかに体を打ち付け、俺は「うう……」と小さくうめき声を上げる。感覚では肋骨の3、4本が余裕で折れた様な、それぐらいの衝撃。
だが、突進を受ける直前に包丁から不思議な淡い光が発せられ、俺の体を包んでいた。その光のお陰で大きな怪我にはならなかったのか?
俺はもう一度立ち上がると、無我夢中で包丁を両手に持ち構えなおした! 覚悟を決めた俺の意志を感じ取ったのか、包丁は勢いよく燃え上がり、刀身が長く大きくなる!
『炎の剣!! 』
目の見えないケイブベアは俺の包丁が大きく変化し、炎の剣となったことは分からなかったのだろう。俺に向かって遮二無二突進をしてくるケイブベアに向かって、炎を纏った剣を俺は力の限り振り上げ、そのまま振り下ろした!
「ギャアアア! 」
断末魔の悲鳴にも似た咆哮をあげ、ケイブベアの体は真っ二つになった!
俺は自分自身が放った大きな力を感じ、肩でゼイゼイと息を切りながら、暫らく間その場から動けずにいた。
良かった。とりあえず助ける事には成功した。
でも、いったいこんな雪の降り積もる山の中に、どうしてこの女性は山羊蹄車に乗って現れたんだろう……
俺の中に新たに噴出した疑問。
更に落ち着くと段々と俺の手は震え、生き物をこの手で殺めてしまった事への罪悪感が頭をもたげてきたのだった。
それは寿司職人として様々な食材を扱う中で、魚を捌き、それを調理して頂くといった行為とは違う、エリュハルトという異世界での、初めての弱肉強食にも似た感覚への戸惑いであった。
洞窟の外は雪が降り積もっていたが、雪自体は降ってはいなかった。天気が良いのか昨日よりは周囲が明るいように感じられた。天を仰ぐと、やはり巨大な星とその周囲の衛星が見える。昨日は灰色っぽかったが今日は少し緑がかったような色をしているように見えた。
グリューンは流石にそのままでは寒かったようで、すぐに俺の白いダウンジャケットの中にすっぽりと納まってしまった。
「オイラはこの中でもうちょっと寝ている事にするぜ」
……いいけど、ダウンジャケットの中から滑り落ちるなよ。
俺は寒さを感じ始めていたので、『保温』と暖かくなる魔法を唱え、体温を保つことにする。ダウンジャケットの中は暑くないかな。暑かったら出てくるだろ。
そんなことを考えていると、突然周囲の静けさを遮るように女性の甲高い悲鳴と、ドォーンという何か重たいものが倒れるような音が響いてきた!
俺は遠く目を凝らす。なにか大きな乗り物が横倒しになっているのが見える。その近くに何かがいる……ここからでは流石によく分からない。
俺はすぐに走り出した!
俺が走り出すと、すぐにダウンジャケットの中から顔を出すグリューン。
「レンジ。この中暑くてよ。ちょっとここから顔出していいか」
そうじゃない!今はそんな場合じゃないだろ。
俺は走りながら遠くに見える大きな乗り物が横倒しになっているところを指さした。グリューンもじっと遠くを見つめている。
「あれは……山羊蹄車という、簡単に言うと馬車だな。こっちの世界では馬自体は存在しなくて、見た目がヤギのような生き物に引かせて荷を運んだり、ヒトを乗せたりするやつだ」
「そうなのか! さすが異世界だな」
「こっちでは様々な種族がいるからな。人類って意味合いで、種族全体を合わせた総称がヒトだ」
グリューンの豆知識披露を聞きながら、俺は必死に走る! 近づくにつれて大きな獣に誰かが襲われて、必死に逃げているのが見える。
「フィーム族の娘が襲われているな。やばいぞ! 」
大きな口を開けてギザギザな歯を見せながらグリューンが警告する。分かっているって! 分かっているんだが……勢い込んで走ってきたがどうすりゃいいんだ?
只でさえ走りづらい雪が降り積もった斜面だ。それでも俺とグリューンはかなり近くまで走ってきていた。ちょっとした崖の上に出ると、真下で大きな獣が女性を追いかけ回しているのがはっきりと確認できた。
女性は冬山での寒さ対策であろうモコモコの毛が目立つ長いコートのようなものを羽織っている。その下に簡素な茶色いニットチェニックを着ており、逃げるたびに長い黒髪が流れるように動いていた。
黒髪の女性は戦う意思があるのか、何度か拳を握りしめ熊の方を向こうとしているが、慌てている様子でなかなか形にならないもどかしさが伝わってくる。
「熊!? グリューン。あれって熊だよな? 」
グリューンは俺のジャケットから落ちないように必死に食らいついているようだった。
俺は腰の包丁をベルトから取り出すと、近くの木の陰に身を潜める。
そこから身を半分ほど乗り出して様子をうかがう。熊のような大きな獣は我を忘れたかのようにチェニックの女性を追いかけている。獣の腕からは大きな爪のようなもの生えているのがこの位置からでもはっきりと分かる。
「さぁ、どうするよ寿司職人さんよ」
グリューンが、にやけた様な表情を浮かべる。
「女性が襲われているんだぜ! まさかそのまま見て見ぬふりをするなんて事は……ないよな! 」
グリューン!お前そんな焚きつけるようなこと言うんだな!
ちょっと待ってくれ。確かに魔法の包丁があって、なんとかなるかもしれないが、俺はケンカは殆どやったことないぞ。格闘技を見るのは好きだったが、自分がまさかやるなんてことは考えもしなかったぞ。
そう俺が考えている間に、熊のような大きな獣の腕に吹き飛ばされ、女性が大きく仰け反る!そのまま雪の斜面に横たわり動かなくなった。
「う……うわあああ! 」
俺は魔法の包丁を構えて、木の陰から飛び出した!
近くで見るとかなり大きな熊さん。
これ3メートルくらいはあるんじゃないか……更にかなり横にもデカイんだけど! 300キロくらいはありそう。マジかよ!
大きな熊―ケイブベアは俺が視界に入ると、倒れている女性から俺の方に体の向きを変えた。俺はゴクリと唾を飲み込む。
「なにか、なにかできないか。なにか戦闘に使える能力! 」
あたふたと俺は包丁をかざすが、慌てるばかりで何も頭に思い浮かばない。いきなり熊に出くわして、更にその熊は臨戦態勢バリバリという状況を想像してみて欲しい。
「あはは! 面白くなってきたな相棒。今こそ包丁の力を見せてやれ! 」
おま! なんだその余裕綽綽な感じは。戦うのは俺だぞ!
そうだ!俺は一瞬頭に浮かんだ言葉を急いで紡ぐ。
『灯火!! 』
俺がそう呪文を叫ぶ!
そうだよ。この『灯火』をケイブベアの目に向かって使えば……俺は咄嗟に思いついた呪文の使い方、つまりは明るい光で目を眩ませるという奇襲作戦!
「グァアアアアァ!」
よし、効いたぞ!
しかしそのホッとしたのも束の間。ケイブベアの鼻が大きく開いて、その鼻の下の大きな口が開き、鋭い牙が見えた。ケイブベアは鼻を器用に動かし、俺の匂いを嗅ぎ当てたような仕草を見せた。
「レンジ! どうやらそう簡単にはいかなかったなぁ! 」
グリューンが面白そうに笑っている。お前、この状況を楽しんでやがるだろ!
ケイブベアは俺に向かって猛スピードで突進してくる! 無理……避けられるわけないだろ!
俺とグリューンはケイブベアの突進を受け、そのまま後方に5メートルほど飛ばされた。
飛ばされた先の木にしたたかに体を打ち付け、俺は「うう……」と小さくうめき声を上げる。感覚では肋骨の3、4本が余裕で折れた様な、それぐらいの衝撃。
だが、突進を受ける直前に包丁から不思議な淡い光が発せられ、俺の体を包んでいた。その光のお陰で大きな怪我にはならなかったのか?
俺はもう一度立ち上がると、無我夢中で包丁を両手に持ち構えなおした! 覚悟を決めた俺の意志を感じ取ったのか、包丁は勢いよく燃え上がり、刀身が長く大きくなる!
『炎の剣!! 』
目の見えないケイブベアは俺の包丁が大きく変化し、炎の剣となったことは分からなかったのだろう。俺に向かって遮二無二突進をしてくるケイブベアに向かって、炎を纏った剣を俺は力の限り振り上げ、そのまま振り下ろした!
「ギャアアア! 」
断末魔の悲鳴にも似た咆哮をあげ、ケイブベアの体は真っ二つになった!
俺は自分自身が放った大きな力を感じ、肩でゼイゼイと息を切りながら、暫らく間その場から動けずにいた。
良かった。とりあえず助ける事には成功した。
でも、いったいこんな雪の降り積もる山の中に、どうしてこの女性は山羊蹄車に乗って現れたんだろう……
俺の中に新たに噴出した疑問。
更に落ち着くと段々と俺の手は震え、生き物をこの手で殺めてしまった事への罪悪感が頭をもたげてきたのだった。
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