【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 1章~異世界と再出発と火トカゲと

フィオナ・ルーセント登場/助けた彼女は神官でした

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ズーパーすごい! すごいぜレンジ! 」

 俺はグリューンの大きな歓声で我に返った。手元には炎をまとった剣があったが、俺が元の姿に戻るように願うと、いつもの包丁の姿に変化した。
 目の前に真っ二つに両断されて、切ったところが炎でげて倒れているケイブベアを、信じられないものでも見るかのように見下ろす。

「これも包丁の力なのか。すごいなんてもんじゃない……」

 包丁をベルトの皮ケースに仕舞おうとしたが、俺は手が震えて雪の中に落としてしまう。
 まさか、こんな戦闘的な能力も使えるなんて!
 確かに、なにか戦闘で使える能力はないかと願ったさ。でもここまでの能力が出せるなんて。熊がちょっと怖がってその場から逃げてくれるだけで良かったのに。
 無我夢中とはいえ、一瞬で生き物を死に追いやってしまった罪悪感を俺は感じていた。

「どうしたレンジ。何を考えこんでいる」

 呑気のんきにグリューンが俺に話しかけてくる。
 もしかしたらこれはこの異世界では当たり前なのかもしれない。確かに女性を助けなければいけなかったし、襲っていたケイブベアを何とかしなければならなかったことも事実だ。
 そうだよ。あの娘は……
 自分が感じた罪悪感を無理やり振り払うように頭を振った。
 熊が倒れているところから10メートルくらい先の雪の上に、先ほどの女性が倒れているのを発見してすぐに近寄る。

「おい、大丈夫か」

 両手で肩のあたりをすって反応を確かめる。華奢きゃしゃな肩のラインから続く、しなやかで均整きんせいの取れた体つき。揺すった力で折れてしまわないのかと心配になった。そして胸元のやわらかなふくらみがゆっくりと上下しているのを確かめる。とりあえず息をしているな。

「このチュニックの紋章は……レンジ。この娘は神官だぜ」

 グリューンが彼女の着ている長めのモコモコのコートの肩辺りに見える、十字架に双頭そうとうの蛇の女神が寄り添っているような紋章を見つけて、そうつぶやく。
 とりあえず血は出ていないし、怪我をしている様子もない。俺の直感も彼女の命に別状はないと告げている。

「とりあえずこの雪の中で彼女をこのまま寝かせておくわけにもいかないだろ」

「そうだなレンジ。洞窟まで運んで起きるのを待つか……」

 グリューンの言うとおりだな。それぐらいしか今の俺には思いつかない。彼女が目を覚ませば色々と話を聞けるかもしれないし。
 彼女を両手で抱えると、もと来た雪の斜面を引き返し、洞窟にひとまず戻る事にした。


 『灯火リヒト』の魔法を使うと、もう一度洞窟内を照らし出し、入り口付近の比較的寒さのしのげそうな場所に彼女を横たわらせた。横たわった彼女の体の上に自分の着ていたダウンジャケットを乗せる。

「このままという訳にはいかねぇよな」

 更に『保温ヴァルム』を唱える。彼女の体を淡い暖かい光が一瞬包み込む。幾分、呼吸が楽になったように見える。
 少し水分を口に含ませたいよな……そう考え、ある事をひらめく。今日の朝、思いついた呪文を使えばいいんじゃないか。

生成ツォイゲン

 俺はリュックの中に入れておいた古木の残りを使って願いを込めた。
 そう、水が飲みやすい容器が作れるといいなと念じた。イメージは日本酒を飲むときのお猪口ちょこだ。古木は小さな光に包まれると手の中で3個のお猪口を創り出した。俺は雪を包丁の熱で溶かすとそのお猪口の中に水を溜めた。

「水だぞ。ちょっと飲んでみてくれ」

 俺はドギマギしながらも、そう伝えて彼女の口元にお猪口を持っていく。彼女が無意識に開けた口に少しずつ飲ませるようにお猪口を傾ける。コクっと喉が動いて水を飲み込んだのが分かる。

「……う」

 彼女が少しずつ両目を開くのを見ながら、俺とグリューンは安堵あんどの表情を浮かべる。

「良かった。目を覚ましたのか。おい、大丈夫か」

 ゆっくりと簡素かんそなニットチュニックを羽織はおった女性が目を開ける。彼女は自分の体の上にダウンジャケットが掛かっているのを不思議そうな目で見ている。

「これは……わたしは……どうなったんですか? 確か突然、横からケイブベアに襲われて……」

 ゆっくりと意識と記憶が鮮明せんめいになってきているのだろう。彼女は起き上がると心配そうにのぞき込んでいた俺とグリューンを交互に見やった。

「あなたが吹き飛ばされたわたしを助けてくれたのですか? 」

 彼女は俺をボーっと見つめて呟く。
 俺は自分がゴクリとつばを飲み込んだのが分かった。吸い込まれそうな大きな茶色の瞳だ。大きな二重の目はパチパチと何度か俺を見つめながらまたたきをした。たぶん今の俺と同じくらいの年齢だろう。綺麗な鼻筋からりんとした唇の形。地球でいうなら純和風の美人顔だ。長い黒髪が余計にそう思わせる。
 俺と目が合って彼女は顔を赤らめ、その後、視線を横にいたグリューンに向けた。

「あら、かわいい使い魔さん。トカゲなんて珍しいですね」

 使い魔じゃないんだけどな。そう思いながら『使い魔』という表現を聞き逃さなかった。やはり剣と魔法が当たり前の世界なんだ。俺はグリューンの頭を撫でながら話し始める。

「こいつの名はグリューン。使い魔というか俺の仲間みたいなもんだ。そして俺は蓮司。海棠蓮司って言うんだ」

 まだ意識が完全には覚醒かくせいしていないのかもしれない。それでも今の自分の置かれている状況を把握したいと無意識に顔を振る彼女。

「レンジ……様とお呼びすればいいのかしら。カイドーはファミリーネームですか? かなり珍しい、『王都』では聞いたことがありません。この地方独特の名前なのですか? 」

 そうか。そうだよな。海棠なんて苗字みょうじがこの世界にあるわけがない。それにこの世界って英語読みが一般的なのか?名前がはじめに来て、ファミリーネーム……つまりは苗字が後から表記されるパターンなのか?

「そうだな……まぁそんなところだ」

 俺は目を逸らして適当な事を言った。まさか異世界転生してきたなんて言えないし、信じてもらえるとも思えない。

「はじめまして。私は王都で聖アルベルト教会の神官見習いをしているフィオナ・ルーセントと申します」

 フィオナは俺に自分の名を名乗ると深々と頭を下げた。そして細い両手を握手でもするかのように重ねて祈るような仕草をする。

「幸運の女神アネッタ様のお導きなのかもしれません。このような雪深い土地で、レンジ様のような強い力をお持ちのフィーム族の旅人に会えるとは思ってもいませんでした」

 幸運の女神アネッタ? もちろん聞いたことはない。フィーム族か……確かグリューンもそんな事を言っていたよな。この娘も俺と同じ種族って事か。
 すると俺の隣で、興味津々な目をしながらフィオナの自己紹介を聞いていたグリューンが口を開いた。

ゼルビスやぁやぁ! 嬢ちゃんはフィオナって言うんだな。オイラはグリューンって言うんだ。よろしくな! いやぁ……かなりの美人さんでおったまげたぜ! 俺の心はもうドッキドキだぜ。なぁレンジ! 」

 おい!いきなりなんて恥ずかしいこというんだ!初対面の女子に対して……

「よくわからない言葉が混じってましたが、わたし褒められたのかしら。ありがとうございます。でもよくお話になる使い魔さん……え? 使い魔が……フィーム族の言葉をしゃべっている! うそ! なんで……」

 そのまま彼女は「う~ん」とうなりながらその場に再度倒れ込んでしまう。

「おい。どうした、大丈夫か! 」

 俺はフィオナの肩を小さくする。

「あ、わりぃレンジ。この世界の使い魔ってしゃべらないんだよな。あはは。この娘、かなりビックリさせちまったな」

 頭をくようにして済まなそうな顔をするグリューン。
 え? そうなの? しゃべらないものなのか?
 ちょっと待て。倒れちゃったけど、どうするんだよこの娘。

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