【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 3章~エレノールと凍りオオカミと導術と

凍り狼ヴァイフン戦 ③

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『氷の女神たる精霊ブリザルンに命ずる。汝、切り刻む刃と化せ。凍りの踊りアイス・ダンス

 朗々した低い、でも響きの良い綺麗な声だ。突然空中に出現した4本の氷の槍が、今まさにフィオナに襲い掛かろうとした凍り狼ヴァイフンに無慈悲に襲い掛かったのが見えた。

 「導術士か! 」

 ガルムが大斧で5体目を粉砕しながら叫ぶ。
 4本の氷の槍に全身を貫かれ、フィオナに届く寸前でこと切れるヴァイフン。近くで、はぁはぁと肩で息をしながら、その光景を俺は目の当たりにする。
 さっき二人が言っていた、導術の使い手か。俺はその声のする方向に居る、導術士の姿を探した。それはすぐに目の中に飛び込んできた。
 背の高さは160センチくらいか。フィオナより若干低い……真紅のローブを着て、その肩には黒猫が乗っている……すごいな。完璧なファンタジーアニメ系の魔法使いじゃないか!! 俺は自分が消耗しきっているのも忘れ、感動で涙を流しそうになった。

 「ごめんね。|拙い連携が見ていられなかったからね。目の前で誰かがヴァイフンに喰われるのは、あたし的に夢見に良くなさそうだし」

 周囲を流れる、強く冷たい風が真紅のローブのフードをめくりあげた。その下から現れたのは肩までの透き通るような金髪。細く切れ長の青い瞳。ピンと尖った耳、細い顎。

 「エルフや! エルフ様や! 」

 涙を流して喜ぶ俺。完全に自分の消耗具合を忘れてしまっている。

 「ヴェルドワイヤン族の方だったなんて。どうしてこんな辺境の雪山に……」

 フィオナが周囲のヴァイフンに警戒しながら、至極尤しごくもっともな疑問を投げかける。
 それには答えず、先ほどと同じ呪文の詠唱を唱える彼女。すぐにまた空気中に4本の氷の槍が現れ、離れた場所にいたヴァイフンをいとも簡単に貫くのが見えた。
 俺はそのままがくりと膝をついた。ファンタジー世界観バリバリのエルフに会えた喜びでいたが、実は立っている事が限界だと気付いたわけだ。

「あたしの事よりお仲間は大丈夫? なんだか倒れそうになっているわよ」

 彼女はどこか無感動に、この場の状況をフィオナに伝えているのが聞こえた。

「そうだ。レンジ! 」

「レンジさん! 大丈夫ですか! 」

 二人が駆け寄ってくる。俺はそのまま雪の中に頭を突っ伏すようにして、豪快に倒れた。ゆっくりと目の前が真っ暗になっていくのが分かった。

「腹が……減った……」



 くんくん……なんだこのいい匂いは……
 俺はゆっくりと目を開いた。視界がはじめは朧気おぼろげで、もやがかかったような気分だ。頭に感じるやわらかい感覚。

 「レンジさん! ガルムさん。レンジさんが目を覚ましましたよ! 」

 フィオナの心配そうな声が遠くから聞こえるようなそんな感覚。あれ? 俺はどうして倒れたんだっけか……
 段々と意識が覚醒していく。倒れている俺を嬉しそうに覗き込むフィオナの顔が、ぼんやりと視界に入ってきた。
 その向こうには、やれやれといった表情で立つガルムの姿が見える。
 え? 俺は、もしかしてフィオナに膝枕をしてもらっているのか!?
 俺は目を見開き、一気に覚醒すると、がばっと身を起こした。そのせいで、心配そうに覗き込んでいたフィオナの額と、俺の額が激しくぶつかってしまう。

「痛い! 」

「あたた……わりぃ、フィオナ……」

 ガルムはそれを見て、大きなため息をついた。

「一体何をやっているんだ、レンジ。子供でもあるまいし。フィオナ、大丈夫か? 」

 子供でもあるまいしって……地球では、ちゃんと恋愛経験くらいあるんだぞ!


 俺は、周囲に立ち込める肉の焼くような匂いに気付く。さっきから美味しそうな匂いが漂ってくると思っていたが、どこからだ。
 俺はフィオナに支えてもらいながら体を少しずつ起こすと、周囲をゆっくりと見渡した。どうやら山羊蹄車カーフを停めた洞窟の中に戻ってきたようだ。入り口近くに焚火があるのが見え、美味しい肉の匂いはそこから漂ってきていた。

「ようやく起き上がったようね。まったく無駄に時間が移ろうわ」

 このパーティー内では聞き慣れない、女性にしては低い声色。俺は先ほどの状況を思い出してハッとする。エルフさんがまだ居るのか!

「ふん。なぜワシたちの後をつけてきていた。ヴェルドワイヤン族の導術士よ。何か思惑があるのだろう」

 ガルムが低い声で冷静に分析をするのが聞こえた。俺は焚火の前に座っているガルムに目を移す。ガルムは解体した肉を焚火で焼いているようだ。

「ええ。その通りよ。獣人の隊長さん。そうじゃなければ、こんな辺境の洞窟までわざわざ出向こうだなんて思わないわ」

 どこか感情のこもっていない印象を受けるな……俺はボーっとしながらも彼女のミステリアスな様子を不思議に思っていた。

「それに……お前の姿、どこかで見た事があるような、そんな気がするのだ」

 ガルムが記憶を探るように頭を叩いている。
 突然その緊迫感を覆すように、俺のお腹が盛大に大きな音を鳴らした。どうやら空腹に対する抗議を大声で唱えているらしい。なぜかグリューンの怒っている姿が浮かんで力なく笑う。

「まずは座って食べませんか。ガルムさんが凍り狼を捌いて焼いてくれているんですよ。レンジさんを回復させないと! 」

 フィオナはなんとなく気付いているのかもしれないな。俺の『腹具合』が能力のパワーの源だってことを。

「分かった。素性の分からないヴェルド族がいるのは気になるが、食事を取る事に異存はない。『腹が減るのは双神カートル・ニルフも耐えられない』というからな」

 それって地球でいう、『腹が減っては戦ができない』ってやつか?
 俺は余計なことを考えながらフィオナと目を合わせた。その向こうにはヴェルドワイヤン族の金髪の女性が洞窟の壁に寄りかかっている。尖った耳を寒さに少し下げ気味にしながら、肩に乗っている猫を愛おし気に撫でながら、小さく笑った。
 ガルムは肉の焼き具合を見ながら、その中から一つを取ってフィオナに渡している。

「このヴァイフンは身が締まっていて美味いはずだ。凍える山では貴重な食料だ」

 さっきまで戦っていた狼の肉か。弱肉強食という考え方が冒険者の常だとはいえ、モンスターの肉も食べるのか。
 すると腰のベルトケースに入っている萌炎が淡い温かみを発するのが感じられる。
 相棒……早く、早く食べやがれぃ! というグリューンの声が聞こえた様な気がする。
 まだ焼けていない肉には霜降りが綺麗に入っているのが見える。焼きあがった肉からは独特の甘い香りが漂ってくる。俺はその匂いを嗅ぐと、自分の慎重さよりも食欲が勝っている事に気付いた。俺は口を開け、一気にかじり付いた。
 ヴァイフンの肉は思ったよりも柔らかく、しっかり焼かれていたのでとてもジューシーだった。

「うめぇ! なんだこの肉! 全然臭みがない……噛むほどに甘みが! 」

 俺は串を持ち、一気に胃袋の中にヴァイフンの焼き肉を落とし込んでいく。
 俺の体がほのかな淡い赤い光に包まれるのが分かった。

「力が……力が戻ってくるのを感じる……」

 俺は自分の体の中に魔力エルナが徐々に蓄積されていくのを感じた。パワーが元に戻ってくる!
 その時、強い視線を感じて俺は振り向いた。その感じた視線の先にはヴェルドワイヤン族の金髪の女性。彼女は大きく目を見開き、俺の体から放たれる光を凝視していた。

「な、なんでやねん……そないな大きな魔力エルナ! どないなってんねん! 」

 ……なぜ関西弁。そっちがなんでやねんだろ。

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