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1巻 4章~聖なる山とドラゴンと春の精霊と
ロイヒテン・ピルツェ
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俺たちは先頭がガルム、そのすぐ後ろに俺とエレノール、最後はフィオナの順でゆっくりと細い通路を下っていく。急な坂道になっていたその通路は、20メートルほど下るとまた大きな広間のようなところに出た。
「ここか……ぐっ! この強い臭いはなんだ! 」
一番最初に広間に入ったガルムが、危険を瞬時に察知して口を塞ぐ。俺やエレノールにも強い臭いが漂ってくるのが分かった。フィオナも顔を顰めている。
「広間が毒素で埋め尽くされています! かなり強いですよ……」
フィオナが警告の声を出す。エレノールも緑色の瞳を曇らせる。グリューンは鼻を器用に両手で抑えて、くぐもった声を出している。
「相棒。これはやばい……やばいぜ」
そのままブワッと白い煙となって消えてしまう。おまえ逃げたんかい。ずるいぞ。
広間内が独特の黄色い臭気とでもいうべき、小さな花粉状のようなものが舞っているのを感じた。そうあれだ。スギ花粉が漂っているような、そんな感覚だ。
「レンジ君。この毒素は池の水の中から出ているような感じがする」
ガルムも口を塞ぎながら頷く。俺も、どす黒い色で染まった水面を気味悪げに見やる。するとエレノールが大きな声を上げる!
「見て! 池の中央、ほら! 雑草に隠れて小さな茶色のキノコが生えているのが見えない? 」
確かに、俺たちの立っている場所から15メートルくらい先、毒池の中にある小島のような場所。赤黒く変色した草花の側に、茶色い小さなキノコの姿が見える! そのキノコから立ち昇る微細な魔力を感じて、エレノールの瞳の緑色が一層強く輝く!
「あれよ! あのキノコこそがあたしの探し求めていたもの!『ロイヒテン・ピルツェ』よ! 」
やはりそうか……でもこのままじゃ。
「レンジ! あれがエレノールの探しているキノコなのは分かった。放出している微細な魔力もなかなかのものだ。しかし、この状況。どうするんだ」
「そうなんだ。キノコを取るには、毒の池をなんとかしないといけねぇよな」
俺は真剣な表情で、池の小島に生えているキノコを睨みつける。ガルムが大きくため息をつき、頭を強く振った。
「この洞窟に来る前にエレノールさんが使っていた導術、浮かぶ円盤! あれに乗っていけばなんとかなりませんか」
「あ、そうか。それいいじゃん! それならこの毒池を渡るときだけ息を止めていればなんとかなるんじゃないか? 」
フィオナの閃きに俺も賛同する。しかしエレノールはその言葉に首を横に振った。
「そうね。ここが洞窟内じゃなかったら、なんとかなったかもしれないわ」
エレノールが悔しそうな表情を浮かべる。尖った耳がピンと張らずに、少しすぼんだ様に見えるのは気のせいか。
「あれは風の微精霊に呼びかけて使う導術なの。この空間には、あのディスクを構築するのに必要な精霊力が足りないのよ。導術は強力だけど、魔紋の錬成が必要だったり、複雑な構成だったりで、手軽に使えるわけじゃないわ」
そうなのか……なんでもちょっと唱えれば色々できる都合のいい力なんだと思っていたぞ。そういうリスクもあるんだな!
その時ガルムがゴホッと大きく咳き込んだ。毒素を少し吸い込んだのか! とりあえずこの場所にずっと居るのもまずいんじゃないか?
『毒性中和』
フィオナが優しく俺たちに触れる。フィオナが触れたところから温かい力が全身を巡る感覚。少し息を楽そうにして、ゆっくりと深呼吸するガルム。
「フィオナ、すまんな。ワシも無理が効かなくなってきたのかもな」
「ガルムさんに倒れられたら困ります。私たちの誰が大きなガルムさんを運ぶんですか」
結構辛辣な事をしれっと言うフィオナ。
「でも良かった。毒を少しでも中和できて。私の癒しの力はそれ程強く無いので、これ以上の強力な毒素だと太刀打ちできませんよ」
うーんと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるエレノール。
「なんとかならないのかしら! 目の前にあのロイヒテン・ピルツェがあるのに……」
うん? 待てよ……これならなんとかならないか? 頭の中に瞬時に閃いたある事。俺はベルトケースから包丁を取り出すと、念じるようにして力を込める!
包丁は眩い光を纏い、瞬時にその姿を魔法の釣り竿に変化させる!
「そうか、レンジ! これなら! 」
「レンジさんの魔法の釣竿なら、あのキノコを釣り上げられますね! 」
俺の発想を理解したんだろう。ガルムとフィオナが頷き合う。
「なんやの、その包丁! 聞いてへんよ! 」
関西弁を喋りながら、驚愕の表情を浮かべて固まるエレノールは放っておく。今は説明している暇はない。
魔法の釣竿を力一杯振る! 釣竿から放たれた糸と釣り針は魔力を迸らせながら、まるで意志でもあるかのように的確にキノコの傘の部分に引っ掛かった!
「よし、レンジ! 一気に引き寄せろ! 」
投げた俺もびっくりなんだよ。こんなに自分の意志を反映するように動くなんて……すごいを通り越して怖すぎるっつーの!
力強くリールを回す。それと同時に糸が天井に向かって高く跳ね上がるようにイメージする。毒池に入ってしまったらせっかくの苦労が台無しだからな。
こちらの意志を正確に反映するように、糸と釣り針は引っ掛けたキノコと一緒に宙を舞う。キノコからの微細な魔力が弧を描くように空中に飛散し、周囲にあったスギ花粉のような毒素が中和されていく。
空中をゆっくりと飛翔するように俺の手の中に引き寄せられるロィヒテン・ピルツェ。それは、手の中に収まると神々しいばかりの光を発する!
隣でエレノールが、喜びのあまり両目から涙を流しそうになっている。
「ロィヒテン・ピルツェが光っているうちに早く胞子を採取しないと! 地面から抜くとすぐに枯れちゃうのよ」
エレノールは背負っているカバンから、ガラス製のシリンダーのようなものを取り出し、キノコを裏返してシリンダーの中に少しでも胞子を入れようと四苦八苦していた。
「このロィヒテン・ピルツェは、魔導協会の指定クエストなの。胞子に魔力を増幅する特性があって、とても希少なのよ。さすがに一人では採取できなかったと思うわ。レンジ君、みんな、ほんまおおきに! 」
それでこのキノコを求めて聖なる山にまで足を運んできたのか。こんな子供のようにエレノールが喜びを表現するなんてびっくりだ。
その時俺は、このキノコのもう一つの価値を見出していた。『生命感知』の魔法を唱えた時に頭の中に浮かんだこと。エレノールはあくまでも、キノコの胞子が目的だったんだけど、こっちの目的はキノコを……食べる事だ!
「さっきこのキノコを調べた時に、食べられる上に、すごく旨いという直感が働いたんだ。萌炎の炎で炙れば、旨味が凝縮される予感がする! エレノール、胞子を取り終わったら、そのキノコを俺に渡してくれないか?」
俺の言葉をエレノールは最初理解できていないのか、目をキョトンとさせていた。しかし次の瞬間爆発するように言い放った!
「ロイヒテン・ピルツェを食べるですって! 少し炙るって、まさか生食に近い状態で食べるってこと? そんなことをしたら、キノコの毒素にやられて一巻の終わりよ! レンジ君。本気で言っているの! 」
ここでも毒の話か。『生魚=毒』という認識もあるし、この世界の『生食に対する認識』ってなにか問題があるな。いったいどういう経緯でそんなことが言われるようになったんだ?
「またレンジの直感か! まったくこれを言い出したら聞きゃしないからな」
ガルムはランガンの炙り刺身のサンドイッチを思い出したのか、やれやれといった表情を向ける。
「レンジさんの直感で美味しくなかったって事は無いですからね。わたしはレンジさんを信じます! 」
信じられない……という顔をするエレノール。
よし! では一丁やってみるか!
「ここか……ぐっ! この強い臭いはなんだ! 」
一番最初に広間に入ったガルムが、危険を瞬時に察知して口を塞ぐ。俺やエレノールにも強い臭いが漂ってくるのが分かった。フィオナも顔を顰めている。
「広間が毒素で埋め尽くされています! かなり強いですよ……」
フィオナが警告の声を出す。エレノールも緑色の瞳を曇らせる。グリューンは鼻を器用に両手で抑えて、くぐもった声を出している。
「相棒。これはやばい……やばいぜ」
そのままブワッと白い煙となって消えてしまう。おまえ逃げたんかい。ずるいぞ。
広間内が独特の黄色い臭気とでもいうべき、小さな花粉状のようなものが舞っているのを感じた。そうあれだ。スギ花粉が漂っているような、そんな感覚だ。
「レンジ君。この毒素は池の水の中から出ているような感じがする」
ガルムも口を塞ぎながら頷く。俺も、どす黒い色で染まった水面を気味悪げに見やる。するとエレノールが大きな声を上げる!
「見て! 池の中央、ほら! 雑草に隠れて小さな茶色のキノコが生えているのが見えない? 」
確かに、俺たちの立っている場所から15メートルくらい先、毒池の中にある小島のような場所。赤黒く変色した草花の側に、茶色い小さなキノコの姿が見える! そのキノコから立ち昇る微細な魔力を感じて、エレノールの瞳の緑色が一層強く輝く!
「あれよ! あのキノコこそがあたしの探し求めていたもの!『ロイヒテン・ピルツェ』よ! 」
やはりそうか……でもこのままじゃ。
「レンジ! あれがエレノールの探しているキノコなのは分かった。放出している微細な魔力もなかなかのものだ。しかし、この状況。どうするんだ」
「そうなんだ。キノコを取るには、毒の池をなんとかしないといけねぇよな」
俺は真剣な表情で、池の小島に生えているキノコを睨みつける。ガルムが大きくため息をつき、頭を強く振った。
「この洞窟に来る前にエレノールさんが使っていた導術、浮かぶ円盤! あれに乗っていけばなんとかなりませんか」
「あ、そうか。それいいじゃん! それならこの毒池を渡るときだけ息を止めていればなんとかなるんじゃないか? 」
フィオナの閃きに俺も賛同する。しかしエレノールはその言葉に首を横に振った。
「そうね。ここが洞窟内じゃなかったら、なんとかなったかもしれないわ」
エレノールが悔しそうな表情を浮かべる。尖った耳がピンと張らずに、少しすぼんだ様に見えるのは気のせいか。
「あれは風の微精霊に呼びかけて使う導術なの。この空間には、あのディスクを構築するのに必要な精霊力が足りないのよ。導術は強力だけど、魔紋の錬成が必要だったり、複雑な構成だったりで、手軽に使えるわけじゃないわ」
そうなのか……なんでもちょっと唱えれば色々できる都合のいい力なんだと思っていたぞ。そういうリスクもあるんだな!
その時ガルムがゴホッと大きく咳き込んだ。毒素を少し吸い込んだのか! とりあえずこの場所にずっと居るのもまずいんじゃないか?
『毒性中和』
フィオナが優しく俺たちに触れる。フィオナが触れたところから温かい力が全身を巡る感覚。少し息を楽そうにして、ゆっくりと深呼吸するガルム。
「フィオナ、すまんな。ワシも無理が効かなくなってきたのかもな」
「ガルムさんに倒れられたら困ります。私たちの誰が大きなガルムさんを運ぶんですか」
結構辛辣な事をしれっと言うフィオナ。
「でも良かった。毒を少しでも中和できて。私の癒しの力はそれ程強く無いので、これ以上の強力な毒素だと太刀打ちできませんよ」
うーんと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるエレノール。
「なんとかならないのかしら! 目の前にあのロイヒテン・ピルツェがあるのに……」
うん? 待てよ……これならなんとかならないか? 頭の中に瞬時に閃いたある事。俺はベルトケースから包丁を取り出すと、念じるようにして力を込める!
包丁は眩い光を纏い、瞬時にその姿を魔法の釣り竿に変化させる!
「そうか、レンジ! これなら! 」
「レンジさんの魔法の釣竿なら、あのキノコを釣り上げられますね! 」
俺の発想を理解したんだろう。ガルムとフィオナが頷き合う。
「なんやの、その包丁! 聞いてへんよ! 」
関西弁を喋りながら、驚愕の表情を浮かべて固まるエレノールは放っておく。今は説明している暇はない。
魔法の釣竿を力一杯振る! 釣竿から放たれた糸と釣り針は魔力を迸らせながら、まるで意志でもあるかのように的確にキノコの傘の部分に引っ掛かった!
「よし、レンジ! 一気に引き寄せろ! 」
投げた俺もびっくりなんだよ。こんなに自分の意志を反映するように動くなんて……すごいを通り越して怖すぎるっつーの!
力強くリールを回す。それと同時に糸が天井に向かって高く跳ね上がるようにイメージする。毒池に入ってしまったらせっかくの苦労が台無しだからな。
こちらの意志を正確に反映するように、糸と釣り針は引っ掛けたキノコと一緒に宙を舞う。キノコからの微細な魔力が弧を描くように空中に飛散し、周囲にあったスギ花粉のような毒素が中和されていく。
空中をゆっくりと飛翔するように俺の手の中に引き寄せられるロィヒテン・ピルツェ。それは、手の中に収まると神々しいばかりの光を発する!
隣でエレノールが、喜びのあまり両目から涙を流しそうになっている。
「ロィヒテン・ピルツェが光っているうちに早く胞子を採取しないと! 地面から抜くとすぐに枯れちゃうのよ」
エレノールは背負っているカバンから、ガラス製のシリンダーのようなものを取り出し、キノコを裏返してシリンダーの中に少しでも胞子を入れようと四苦八苦していた。
「このロィヒテン・ピルツェは、魔導協会の指定クエストなの。胞子に魔力を増幅する特性があって、とても希少なのよ。さすがに一人では採取できなかったと思うわ。レンジ君、みんな、ほんまおおきに! 」
それでこのキノコを求めて聖なる山にまで足を運んできたのか。こんな子供のようにエレノールが喜びを表現するなんてびっくりだ。
その時俺は、このキノコのもう一つの価値を見出していた。『生命感知』の魔法を唱えた時に頭の中に浮かんだこと。エレノールはあくまでも、キノコの胞子が目的だったんだけど、こっちの目的はキノコを……食べる事だ!
「さっきこのキノコを調べた時に、食べられる上に、すごく旨いという直感が働いたんだ。萌炎の炎で炙れば、旨味が凝縮される予感がする! エレノール、胞子を取り終わったら、そのキノコを俺に渡してくれないか?」
俺の言葉をエレノールは最初理解できていないのか、目をキョトンとさせていた。しかし次の瞬間爆発するように言い放った!
「ロイヒテン・ピルツェを食べるですって! 少し炙るって、まさか生食に近い状態で食べるってこと? そんなことをしたら、キノコの毒素にやられて一巻の終わりよ! レンジ君。本気で言っているの! 」
ここでも毒の話か。『生魚=毒』という認識もあるし、この世界の『生食に対する認識』ってなにか問題があるな。いったいどういう経緯でそんなことが言われるようになったんだ?
「またレンジの直感か! まったくこれを言い出したら聞きゃしないからな」
ガルムはランガンの炙り刺身のサンドイッチを思い出したのか、やれやれといった表情を向ける。
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