【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 4章~聖なる山とドラゴンと春の精霊と

新たな黒き思念

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 光の剣を振り下ろした時、手応えとしては何か固いものや大きなものを切ったというよりかは……空間を切り裂いたような、大きな繋がりを断ち切ったような……そんな不思議な感覚が全身を駆け抜けた!
 全身から一気に魔力エルナがずるっと抜け落ちて、それが全て包丁に吸い取られる感じ。そしてすぐに大きい倦怠感が俺の五感を支配する…

「くっ! 腹が、一気に減った……」

 その瞬間、俺の頭の中に知覚される何者かの思念。強烈に黒く禍々しいが、どこか不安定な様子を湛える淀んだような声が聴こえる。どこか諦めに似た全ての者を嘲笑しているような、ゆるゆると動く青白い炎とでも言えばいいのか。そんな感覚が伝わってくる。
 誰よりも強い力とか、最大級の魔力とか……そう言った言葉では表せない何か。
 そのどこか空虚でぽっかりと穴の開いたような、この世の深淵が見つめ返してきたとしか俺には表現できなかった。

『君は何者なのですか…?』

 この何物をも寄せ付けないような黒い波動は……まさか!

『素晴らしい……この魔力エルナの波動を感じるのは久しぶりさ! これは楽しめそうだね』

 愉悦にも似た、ゆるゆると水面が揺れ動くようなそんな邪悪なる波動。
 そうか! この波動はドラゴンを支配していた鎖に込められた、黒いローブの男の思念なんだな! 俺は目を見開き、魔力エルナを込めようと、全身に大きく力を込める。

『そう急かさないでよ、まだ時は満ちてはいないさ。ボクのいた種が、この世界エリュハルトで段々と芽吹いていくからさ……なんだかもう待ちくたびれて、メンドクサイからいいかなって思ってたんだけどね。懐かしい魔力を持つ君だったら……君を視ながらゆっくりと世界が終わるのを待つのも悪くないかも』

 くくく……と黒く禍々しい波動を震わせて、ゆるりと笑う様子が感じられる。

「くそ、お前は誰だ! 何をしようとしてんだ! 」

 大声を出したつもりだった。しかしそれは声にならずに、心から発せられる思念として、その黒い波動の主に伝わった。

『また逢えるよ。その時はまた、ボクの遊びに付き合ってね。やっぱりこれから先、時間を掛けて愉しみたいからさ……』

 なにが、愉しむだって……!
 それはどういうことだ……俺はそう言おうとしたが、そのまま魔力エルナが底を尽き、海の底に沈むように意識を失っていった。


✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛


「ふざけるな! 何が遊びだ……ごぶば! 」

 何かを口に突っ込まれたような気がした。口の中に広がる香ばしい焼肉の香り。これは凍り狼の肉じゃないか。もぐもぐ。

「全く、腹減らし小僧が目を覚ましたぞ! あれほど魔力を考えて使えと言っただろ! 」

 ああ、またフィオナが膝枕をしてくれているのか。この暖かい、ごわごわの灰色の毛並みがまた野性味が溢れていい……え?
 俺は一気に目を覚ました! その拍子に覗き込んでいたガルムとしたたかに頭と顎をぶつけてしまう。

「ぐお! レンジ! いきなり起き上がるな! 」

「痛い! なんだよ! ガルムかよ! 」

「なんだよとは挨拶じゃないかレンジ……もう一度寝かせてやってもいいんだぞ? 」

 やめて。あの筋肉で殴られたら、俺の頭が一気に破裂しちまうだろ!
 そんなガルムとの漫才を見ながら心配そうにのぞき込んでいるフィオナとエレノール。良かった、みんな無事だったんだな。
 俺が寝ぼけたような視線で周囲を見渡すと、フィオナとエレノールの後ろに大きな白い体毛を生やした巨大な前足が見え、足には鋭い爪が生えている。そのまま上を見上げると…

「ホワイトドラゴン!? まだ倒れていなかったのか!! 」

 俺は全身に力を込めて立ち上がろうとする。しかしまだ力が回復していないのか、うまく体を動かすことができない。

「レンジさん、良かった……もう起き上がれないんじゃないかと心配しました」

 フィオナの大きな茶色の綺麗な瞳。ガルムに背中を支えられてなんとか上半身を起こしてもらう。俺はもう一度ホワイトドラゴンを見上げる。
 その巨大な白い体躯からは、戦いの最中に感じた様な激しい憎悪や猛々しさは微塵も感じられず、穏やかな視線を俺達4人と1匹に送っていた。

『レンジ。戦いの最中、我のか細い意識の中でもお主の見事な活躍は、しかと目に焼き付けられていたぞ』

 心地良い大地の鳴動のような声が耳に届いた。あの苦しみに塗れた辛そうな声とは対照的な穏やかな波動が発せられている。そうか。俺はなんとかドラゴンを鎖から、黒いローブの男の邪な思念から救えたんだな。良かったよ。

「まーったく、あたしの活躍を全部奪われたような気分よ! この手に負えない魔力バカを一発殴ってやろうかしら。ねぇガルム」

 俺が起き上がったので安心したのか、ツンとした表情で横を向くエレノール。そして肩に乗っていたミンミを優しく撫でながら大きくため息を漏らしていた。いや、お前の導術があってこそだ。あれが無かったら、今俺たちがこの場に笑いあって生き残っている事は無かったさ。
 
(待てよ。ホワイトドラゴンが枷が外れたって言っていたよな)

 ドラゴンの言った言葉を理解すると同時に、俺の目に淡い姿を持つ、小さな羽の生えた丸っこいボディの男の子の姿が飛び込んできた!

『ありがとうレンジ! オレっちはニルフ。春の精霊にして双神カートル・ニルフの化身なんだ。ずっとどうしたらいいかって泣いていたけど、助けてくれて嬉しいよ!』

 双神カートル・ニルフの化身と自ら言い放ったニルフ。
 俺はそのぽちゃぽちゃとした、小さい幼児のような顔に手を伸ばす。ぼさぼさとまとまりのない天然パーマのような髪質の頭を撫でると、嬉しそうに笑うニルフ。しかしやはり神様の化身というだけはあるのか、全身から立ち上る大きな魔力エルナは隠せない。
 俺はそんなニコニコと笑いながら、楽しそう周りを飛び交っているニルフを見ながら安心したように頷いた。

 「レンジ、改めて礼を言いたい。よくぞ我とニルフを縫い付けていた鎖を断ち切ってくれた。ありがとう。礼をいう事しかできぬ我らを許してくれ」

 ホワイトドラゴンが事の次第をゆっくりと語りだす。
 ニルフとドラゴンから語られる事の真相に、俺達はただ度肝を抜かれた……

 
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