【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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2巻 序章~春の訪れと宴会となんでも包みと

本物のヴェルド族~Elinor, shrouded in mystery

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「今回も魚を釣って捌くんですよね。刺身が楽しみです!」

 フィオナが嬉しそうに釣れるのを待ってくれている。この間はこの湖で釣れたランガンという大きな湖の主を村の皆に炙り焼きをして振舞ったのを思い出す。さすがに今回はランガンが釣れないだろうから、この湖に生息しているリールライでいいんじゃないかな。
 ちなみに『ランガンの炙り焼きサンドイッチ』の件があるから、もう生魚=毒と警戒するヒトたちはこのラベルク村にはいない。俺も安心して刺身を提供できるってもんだ。

「そういえば刺身ってあたしは食べた事ないのよね。ほんとに毒じゃないの? レンジ君を信じているから大丈夫だとは思っているんだけど、どうしても拒否反応がねぇ」

 エレノールの言いたい事はよく分かる。彼女はロイヒテン・ピルツェを食べているから、この異世界の間違った認識から頭を切り離してくれているけど、意識に根付いた恐怖感っていうのはなかなか拭えないもんさ。俺も子供の頃にお化け屋敷で迷子になったことがあって、それから幽霊の類の話には極端に怖さを覚えるようになったしな。
 この『生魚=毒』って概念どうにかならないのか……寿司を握りたいのに、俺からすれば邪魔くさい概念がエリュハルトにあるせいでどうにもやりにくい!
 まぁいいさ。王都に行ってもその概念を吹っ飛ばしてやるさ。

 大量に釣れたリールライは、地球でいうところのアジのような魚。実は前回、村人たちには味わってもらっていないので、今回こそ新鮮なうちに捌いて出したいところだ。

品質保持クヴァリテート

 リールライに向かって魔法を唱える。リールライはゆっくり淡い光を放つが、その光は一瞬で落ち着く。『品質保持』とはつまりは清潔魔法の事。食べ物限定だけどな。寄生虫なども除去されているのでかなり便利だ。
 ふと横を見るとエレノールが目を緑色に光らせながら、真剣な表情で俺が魔法を唱えている一部始終をジッと見つめている。

「エレノール止めてくれ。いくら探っても良いぞと言ったけど、そんなあからさまにやる事もないだろ……」 

 俺たちは大量に取れたリールライを抱えて、村の酒場のゼルバスのところに向かう。お皿とかを貸して欲しいしな。

「おおレンジ! 魚を分けてくれるんだな。助かるぞ」

 ゼルバスが手放しで喜んでくれて、内心ホッとしている。前回は村人たちの大きな拒否反応を見ているだけに、リールライを見せるまでちょっと怖かったのが正直なところだ。
 酒場の前の広くなっているところを宴会場所とするみたいで、たくさんの机や椅子が出されていたり、かまどのようなものが幾つか設置されていたりするのが分かった。まだ店の中にしか食材は出ていなかったが、これからどんどん作っていくぞ! とゼルバスが意気込んでいるのが嬉しい。村の人たちからも色々食材が提供されるみたいで、それもとても楽しみだ。
 山菜のようなものや、パンを焼いたもの、豆類やちょっとした肉があるのが見える。その肉がヤギの肉だと教えてもらってびっくり! そうか。地球でも移動手段の馬は、馬肉としても重宝するもんな。それはエリュハルトでも事情は同じか。

「前回来たときは酒も飲まなかったからな。レンジやフィオナは飲めるんだろ? 」

 ゼルバスは飲みながら料理を作っているんだろう。既にちょっと顔を赤らめながらかまどに火を入れ始めている。

「俺は18歳だから飲めるけどそんなに強くはないぞ。フィオナはどうなんだ。この間は飲めるけど遠慮しますって言っていたよな」

 その言葉を聞いて、少し固まったような表情を浮かべたフィオナ。どうしたんだ?

「えっとその、わたしも18歳なので飲めるんです。でも……そうですね! やはり神官という立場ですので。今回も遠慮しておきます。ええ」

 妙に慌てているのが怪しい。なんか過去にお酒を飲んで嫌なことでもあったのかな。まぁいいか、深くはツッコまずにおこう。

「なんだ果実酒もあるのね。あたし好きなのよ。レンジ君、先に飲んでいるね」

 勝手に机に置いてある果実酒に手を出すエレノール。尖った耳が嬉しそうにピクピクと動いている。お前、初めて会った時のミステリアスな雰囲気はどこいった! 可憐なエルフ娘という第一印象だったのに、俺の抱いていたイメージを返しやがれ。

「年齢の話を女性に聞くのはどうかと思うんだけどな。エレノールっていくつなんだ」

 恐る恐る、エレノールに小声で聞いてみる。ほら地球で言うエルフってすごく長く生きるってイメージがあるじゃないか。これからパーティーを組むのにそこら辺の感覚のすり合わせって必要だろ?

「なにそれ。地球ってところの常識なの? エリュハルトじゃ別にそんな常識無いわよ。あたしは46歳くらいだったかな……あんまり自分の年齢を気にしたことってないのよね」

 あははっと果実酒を飲むと、機嫌が良さそうに笑いながらエレノールが答えてくれる。
 ……ていうか46歳! 本当かよ!

 俺はまじまじとエレノールの顔、体を見ながら自分との年齢差に愕然がくぜんとする。

「地球だとエルフ……じゃないな、ヴェルドワイヤン族だっけか? 千年くらい生きるって言われているんだ。そういう長命の種族なのか? 」

 それを聞いて、目を大きく見開いて口に入れたばかりの果実酒を吐き出しそうになるエレノール。

「千年! バカな事言わないでよ! さすがにそんなに生きないわよ。それにヴェルド族で良いわよ。だいたいみんな縮めてそう呼んでいる」

 美味しそうに追加の果実酒を飲みながら、エレノールが話を続ける。

「それでもヴェルド族はフィーム族の2倍くらいは生きるかな。長く生きている長老クラスでも2.5倍くらいが限界と言われている。導術を扱えば多少の延命ができるから最長って考えたらもしかしたら果てしないのかもしれないけど、あたしはそんなに長く生きるのはごめんだわ。だって生きること自体に飽きそうじゃない? 」

 確かにそう言われるとそうなんだが……なんだか価値観の違いに頭が痛くなってくる。俺が頭に手を置いたのを、にやりとした目でエレノールが見やる。

「導術士を見た目で判断するのは大して意味がないわ。外見年齢なんて実はどうとでもなるのよ……今度詳しくお姉さんが教えてあげようか。なんてね」

 そう言ってエレノールは俺の背中を大きく叩いて、あははっと笑った。
 くそ……なんだこの年上のお姉様にうまくあしらわれた様な感覚は!



「まぁ……本物のヴェルドワイヤン族ならって話よ……」

 その言葉は俺の耳には聞こえなかったこと。
 エレノールが真面目な表情になって俺の背中に向けて小さく呟いた言葉だ。この時エレノールが、どこか儚げな雰囲気を醸し出していたことは……この段階の俺には分からなかったんだ。



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