【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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2巻 1章~旅立ちと騎士団長と王都到着と

王国騎士団長 ジルベニスタ登場 ②

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「ガルム殿の騎士団への報告義務違反と、先の任務放棄の件について。わたくしが直接確認をしに参りました。あまりにもガルム殿からの報告が遅すぎるので、しびれを切らしてしまったというところでしょうか」

 ジルベニスタはガルムに皮肉を込めて返す。
 
(ガルムの部隊が全滅して絶望し、何も手につかなくなり、この村でやけ酒を飲む生活を続けてしまった。それは騎士団として不名誉な行為で、除名もあり得るのではないかって。こういうことか! )

 そう思いながら、俺はその赤髪のイケメンの騎士団長を上から下まで観察する。
 その探るような視線に気づいたのだろう。スッと俺と目線を合わせてくる赤髪のジルベニスタ。ふと俺に向けている視線が止まったまま動かなくなる。
 いや……これは俺を見ていないな。
 自分の横にチラッと視線を送る。そうなんだ。ジルベニスタの視線はそちら……つまりはフィオナに注がれているんだ。
 エレノールが呆れたようにため息をついた。

「美しい…まるで母上がお好きだった…白百合のような澄んだ瞳をお持ちの方…」

(おいおい。独り言なんだよなそれ。まさかフィオナに一目惚れとか? )

 居るんだよ…自分でイケメンと信じて疑わない、この世の女性は全部自分を好きになるのが当然って思っているタイプの人間。俺の知り合いにも一人そういう奴が居たのを思い出し虫唾が走った。
 俺の一番嫌いなタイプだ、こいつ。絶対……間違いなく好きにはなれねぇ。

「お、おい……ジル。お前」

 ほら見ろ。ガルムが困惑してるぞ。こんだけ緊迫感モリモリにしておいて、その全てをここで台無しにするんかコイツは!
 ジルベニスタの呆れかえるほどの熱い視線に急に見つめられ、キョトンとしているフィオナ。あれはたぶん、この状況に全く気付いてないな。
 そんな俺の内心を知ってか知らずか。ジルベニスタは流れる様な動作でフィオナの右手を握りしめると、その前に片膝をついてフィオナを見上げた。そんな明らかに当然のことをしていますみたいな自然過ぎる様子を見せつけられて、俺はイライラが募る。
 フィオナは急に手を取られ、びっくりしたようにジルベニスタを見つめている。おいフィオナ!いいからその手を払いのけろ!
 ジルベニスタはフィオナを柔らかな視線でジッと見つめ、饒舌に話し出した。

「この清らかな美しい魔力エルナの波動は……思い出しました。王都のアルベルト教会での式典の際にグラーチス様と一緒に演台に登っていた女性ですね。気づかず大変失礼いたしました。これほどの美貌の持ち主を今まで記憶から忘れていたなんて、何たる不覚! 人生の損失というべきですな。大変失礼ですが、白百合のような貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

 ヤバい……このままこいつを張り倒したい衝動に駆られているぞ! その優雅に、さも当たり前のようにペラペラとしゃべりまくる口を止めやがれ。

「フィオナ・ルーセントと申します、騎士団長様。御師様……グラーチス様をご存じなのですか?あの式典では確かに、わたしもグラーチス様や妹セリナと一緒に演台に上がりました。しかし緊張でほとんど記憶が定かではありません。団長様もあの場にいらっしゃったのですね」

 フィオナはジルベニスタに取られた手をどうしたらいいのかと目が泳ぎながらも、その時の様子を思い出したのだろう。確かめるように奴の質問に答えている。

「フィオナ・ルーセント……素晴らしい響きですな! 光の輝きを示すような、透明感のある響きを感じます。貴方にぴったりの名前だ」

 ジルベニスタはフィオナの言葉を反芻はんすうするかのように目を瞑り、恍惚とした表情を浮かべる。その瞬間、フィオナの手をぐっと自分に向かって引き寄せると、更に顔をフィオナに近づける。フィオナは突然の出来事で、綺麗な二重の茶色の瞳を瞬たかせている。

「そう、私もあの場に居たのですよ! いや、わたくしのことなど覚えてくださらなくても問題はありません。今こうやって再び出逢う事ができたのですから。今日この日が二人にとって奇跡の再会という訳ですな!運命神シャウザ・ニークに祝福を……なっ! 」

 俺は我慢しきれずに二人の間に強引に割り込むと、フィオナの手を握りしめて離さないジルベニスタの手を力強く払いのけた。

「今日、久しぶりに会った只の知り合いなんだろ? それにしちゃ随分と距離が近すぎじゃねぇのか……騎士団長さんよ」

 俺はジルベニスタを切れ長の瞳で睨み返す。ジルベニスタは払われた手をゆっくりと下に下ろすと優雅な笑みを顔に浮かべた。

「これは失礼。我が姫にはすでに忠臣がいらっしゃったか。一体何者なのかは存じませんがね。お前、名は何と言うのだ? 覚えておいてやろう」

 尊大な態度でジルベニスタが尋ねる。俺は勢い込んで自分の名前を叩きつける様に奴に告げる

「俺の名はレンジ。海棠蓮司だ! 覚えておけ……イケすかねぇ、イケメン野郎! 」

 その言葉を聞いて、片方の眉をゆっくりと上げ、理解できないものでも見るかのような表情になるジルベニスタ。

「イケすかねぇイケメン? よく分からぬ方言を使う奴だ。レンジとやら、その言葉はもちろん、わたくしに対する挑戦と受け取っていいのだろうな? ふん……愚かな! 」

 シャラン! と静かにジルベニスタが腰に差してある小剣を抜き、俺に向かって突くように構える。奴の周囲の空気が大きく対流するような魔力の流れを感じて俺は目を見張る。大きくジルベニスタの赤髪が揺れている!
 それを見ていたエレノールが瞳を緑色に光輝かせながら言葉を放つ。

「凛とした風の精霊力を感じるわ。それがかの有名な『シルフィ・ソーン』ね。風の精霊の名を冠した優美な魔道具。噂にたがわぬ業物わざものをお持ちのようね…」

 ほう……という表情を浮かべ、エレノールに一瞬目を向けるジルベニスタ。それでも俺に対して突くような構えは崩さない。隙のないその構えに、俺は腰の包丁に手を掛けたまま動けないでいた。


✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛


突然現れた不穏な空気を醸し出す王国騎士団団長ジルベニスタ。彼とガルムの関係とは……そしてレンジとの確執が広がる。一触即発の事態が平和なラベルク村を揺るがす。

そしてもう一人、レンジを注視している者がこの場に居たのだ。もちろんまだその存在には誰も気づいてはいない……



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