【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

文字の大きさ
62 / 155
2巻 1章~旅立ちと騎士団長と王都到着と

王国騎士団長 ジルベニスタ登場 ①

しおりを挟む
 宴会もたけなわ。俺達の周囲で踊り出すヒトたちや、歌い出すヒトたち。みんな春が来ることを盛大に祝うような楽し気な雰囲気の中。
 突然そんな雰囲気を大きく壊すような……ドドッドドッドドッ! と何かの巨大な生物が走り込んでくるような激しい蹄の音が宴会場に近づいてきている音が聞こえる!

「この音は……もしや闘系山羊とうけいやぎ! ショルダー・ヴェント種か! 」

 闘系山羊? 戦う山羊ってことか? 俺たちの山羊蹄車カーフを引っ張ってくれていた、なんとなくもふもふした優し気な感じのチャッピーとルップーからは戦う姿は全然想像ができないんだが。
 さっきまで飲んだくれていたガルムだが、一瞬で真剣な表情に戻っている。エレノールもどこから取り出したのだろう、黒双樹の杖を持ち警戒態勢に入る。
 その激しいひづめの音は、この酒場前の宴会場の手前まで聞こえてきている。

「1頭ではないわね。複数頭の魔力エルナを感じるわ。」
 エレノールが低く警告の声を上げる。俺も腰の包丁に手を掛ける。隣で握っている拳に力を入れ始めるフィオナ。その時ガルムが呟く。

「いや、待て。おそらくこの音は……」

 ガルムが顔に心底苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。おやっさんにはこの音の正体が分かったんだな。俺はガルムの表情を見上げ、その後視線を宴会場の先に向かわせる。
 もう蹄の音はすぐ近くまで来ていた。そして宴会場の少し先でその音は止まった。
 次の瞬間その場所に現れたのは、チャッピーやルップーよりも一回りは大きく筋肉質に見える3匹の山羊。特に肩や脚の筋肉の付き方が、フィオナの山羊たちとは根本的に違う。チャッピーたちは背中の盛り上がった場所から蒸気を発していたが、この闘系山羊たちは蒸気を出す場所が首の付け根辺りに集中している。なんでだろうと思ったがすぐにその理由が分かった。地球でいう馬に装着するくらのようなものが山羊の背に乗せてあるからだ。……いや逆か、そういう山羊の品種だから鞍を載せることができるんだな。

「王国騎士団! なんでこんな辺境のラベルク村まで……ガルムさん! 」

 フィオナがガルムに向き直り確かめるように問いかける。ガルムは無言で頷く。

「奴らがなぜこんなところまで……」

 エレノールも眉を寄せなが小さく呟く。王国騎士団ってあれだろ、ガルムが所属している王国の精鋭部隊なんだろ。

「レンジさん。王国騎士団は戦闘に特化した闘系の山羊を使いこなします。ショルダー・ベント種というのは、彼らの使用する山羊達の総称です。戦いに特化された山羊で、かなり早い速度で長い距離を走破する事が可能な種です」

 フィオナの相変わらずの丁寧な説明で俺は納得がいった。
 目の前には王国騎士3名が見えた。どの騎士たちも目深にローブを被り表情はこちらからは伺い知れない。ローブの隙間から装備している剣や鎧が見え隠れする。明らかに武装しており、たまたま賑やかな宴会の音が聞こえたから通りかかったというような様相ではない。
 俺は3体の中心の山羊に乗っている一人のフィーム族と思われる長身の男に目を向けた。ローブの合間からは鮮やかな銀色のブレストプレートを着ているのが見え、その腰には細い形状の剣を差している。

「相棒。パッ・アウフきをつけろよ! 中央の男は油断ならねぇ! 」

 グリューンが小さく警告の声を掛けてくれる。分かっているって。あの男が別格なのは流石に分かるさ。
 その男は山羊に乗ったままゆっくりと頭に被ったローブを跳ね上げる。銀色の豪奢な兜がまず俺の目に入り、その兜の中には燃える様な赤髪も見えた。彼は兜を両手で優雅に外すとそれを腰に抱え、慣れた手つきで赤毛を片手で掻き上げる様な仕草をした。端正な顔立ちをしているのがここからでも分かる。しかしどことなくワザとらしく、演技をしているようなそんな感覚を俺は受ける。

「ジル……お前なんでここに! 」

 ガルムが小さく呟いた独り言を俺は聞き逃さなかった。ジル? あいつの名前か?
 ジルと言われた赤髪の長身の男は、ゆっくりと右手で腰に差してある細い形状の剣を俺達……いやガルムに向けると、良く通る声で高らかに宣言した。

「我が名はジルベニスタ・シュトルムヴォルフ! 鷹の王ヴォルザーク様より王国騎士団団長を賜りしものです。このような時間帯にお騒がせする事をこの通り詫びましょう。しかし王国騎士団にとって大事な要件があるゆえ、失礼つかまつる! 」

 待て、今シュトルムヴォルフって言ったよな! 確かガルムのおやっさんも、シュトルムヴォルフってファミリーネームだったような。
 ジルベニスタと名乗った男は、ゆっくりと鞍から降り構えた剣を腰に仕舞う。どこまでも演技のようなわざとらしさが垣間見えて、俺はそんなイケメン然とした態度の彼に既に不快感を植え付けられていた。そんなイケメン君はまっすぐに俺たちのところ、ガルムの前に歩みを進めてくる。
 ガルムは近づいてくるジルベニスタを制するように前に出る。長身の二人の間に緊張が走る。そのピリピリした緊張を破ったのはガルムの言葉。

「何のようだジル。わざわざこんな辺境の村までご足労なことだ」

 ガルムにジルと呼ばれると、王国騎士団長ジルベニスタは、形の整った眉毛をイライラしたように震わせる。

「父上。いやガルム殿。皆の前ではジルと幼名で呼ぶのは止めて欲しいと再三申し上げているはずですが。いや、そんな事を言いにわざわざこの地まで出向いたわけではありません」

 ふっ……と自重めいた笑みを口の端に浮かべるガルム。
 父上と言ったよな! 俺は赤髪のイケメン騎士団長とガルムを何度も見返す。ガルムは狼獣人、ジルベニスタはどう見てもフィーム族。どうなっているんだ?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

ショボい人生のやり直し?!絶対に消えたくないので真逆の人生でポイント貯める

亀野内アンディ
ファンタジー
「佐藤さんはお亡くなりになりました」 「え?」 佐藤竜、独身リーマン。ビルの倒壊で享年(40)案内役に連れられ天へと向かうが⋯⋯⋯⋯ 「佐藤竜はさぁ、色んな世界でも特に人気の高い地球の日本に産まれて一体何を成し遂げたの?」 「え?」 「五体満足な体。戦いの無い安全な環境で育ち、衣食住は常に満たされて、それで何をしたの?」 俺は恵まれた環境であまりにもショボい人生を送っていたらしい。このままでは⋯⋯⋯⋯ 「はぁ。どうしようかな。消すかな」 「な、何をですか?!」 「君を」 「怖いです!許して下さい!」 「そう?消えれば無に還れるよ?」 「お、お願いします!無は嫌です!」 「う~ん。じゃあ君は佐藤と真逆の人生を歩ませようかな?そこで人生経験ポイントを佐藤の分まで貯めなよ?佐藤とこれから転生する君の二人分の体験だよ?失敗したら今度こそは無にするからね」 「はい、死ぬ気で頑張ります!!」 ここから真逆の人生で経験ポイント貯める佐藤の戦いが始まる?!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

処理中です...