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2巻 1章~旅立ちと騎士団長と王都到着と
王国騎士団長 ジルベニスタ登場 ①
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宴会もたけなわ。俺達の周囲で踊り出すヒトたちや、歌い出すヒトたち。みんな春が来ることを盛大に祝うような楽し気な雰囲気の中。
突然そんな雰囲気を大きく壊すような……ドドッドドッドドッ! と何かの巨大な生物が走り込んでくるような激しい蹄の音が宴会場に近づいてきている音が聞こえる!
「この音は……もしや闘系山羊! ショルダー・ヴェント種か! 」
闘系山羊? 戦う山羊ってことか? 俺たちの山羊蹄車を引っ張ってくれていた、なんとなくもふもふした優し気な感じのチャッピーとルップーからは戦う姿は全然想像ができないんだが。
さっきまで飲んだくれていたガルムだが、一瞬で真剣な表情に戻っている。エレノールもどこから取り出したのだろう、黒双樹の杖を持ち警戒態勢に入る。
その激しい蹄の音は、この酒場前の宴会場の手前まで聞こえてきている。
「1頭ではないわね。複数頭の魔力を感じるわ。」
エレノールが低く警告の声を上げる。俺も腰の包丁に手を掛ける。隣で握っている拳に力を入れ始めるフィオナ。その時ガルムが呟く。
「いや、待て。おそらくこの音は……」
ガルムが顔に心底苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。おやっさんにはこの音の正体が分かったんだな。俺はガルムの表情を見上げ、その後視線を宴会場の先に向かわせる。
もう蹄の音はすぐ近くまで来ていた。そして宴会場の少し先でその音は止まった。
次の瞬間その場所に現れたのは、チャッピーやルップーよりも一回りは大きく筋肉質に見える3匹の山羊。特に肩や脚の筋肉の付き方が、フィオナの山羊たちとは根本的に違う。チャッピーたちは背中の盛り上がった場所から蒸気を発していたが、この闘系山羊たちは蒸気を出す場所が首の付け根辺りに集中している。なんでだろうと思ったがすぐにその理由が分かった。地球でいう馬に装着する鞍のようなものが山羊の背に乗せてあるからだ。……いや逆か、そういう山羊の品種だから鞍を載せることができるんだな。
「王国騎士団! なんでこんな辺境のラベルク村まで……ガルムさん! 」
フィオナがガルムに向き直り確かめるように問いかける。ガルムは無言で頷く。
「奴らがなぜこんなところまで……」
エレノールも眉を寄せなが小さく呟く。王国騎士団ってあれだろ、ガルムが所属している王国の精鋭部隊なんだろ。
「レンジさん。王国騎士団は戦闘に特化した闘系の山羊を使いこなします。ショルダー・ベント種というのは、彼らの使用する山羊達の総称です。戦いに特化された山羊で、かなり早い速度で長い距離を走破する事が可能な種です」
フィオナの相変わらずの丁寧な説明で俺は納得がいった。
目の前には王国騎士3名が見えた。どの騎士たちも目深にローブを被り表情はこちらからは伺い知れない。ローブの隙間から装備している剣や鎧が見え隠れする。明らかに武装しており、たまたま賑やかな宴会の音が聞こえたから通りかかったというような様相ではない。
俺は3体の中心の山羊に乗っている一人のフィーム族と思われる長身の男に目を向けた。ローブの合間からは鮮やかな銀色のブレストプレートを着ているのが見え、その腰には細い形状の剣を差している。
「相棒。パッ・アウフ! 中央の男は油断ならねぇ! 」
グリューンが小さく警告の声を掛けてくれる。分かっているって。あの男が別格なのは流石に分かるさ。
その男は山羊に乗ったままゆっくりと頭に被ったローブを跳ね上げる。銀色の豪奢な兜がまず俺の目に入り、その兜の中には燃える様な赤髪も見えた。彼は兜を両手で優雅に外すとそれを腰に抱え、慣れた手つきで赤毛を片手で掻き上げる様な仕草をした。端正な顔立ちをしているのがここからでも分かる。しかしどことなくワザとらしく、演技をしているようなそんな感覚を俺は受ける。
「ジル……お前なんでここに! 」
ガルムが小さく呟いた独り言を俺は聞き逃さなかった。ジル? あいつの名前か?
ジルと言われた赤髪の長身の男は、ゆっくりと右手で腰に差してある細い形状の剣を俺達……いやガルムに向けると、良く通る声で高らかに宣言した。
「我が名はジルベニスタ・シュトルムヴォルフ! 鷹の王ヴォルザーク様より王国騎士団団長を賜りしものです。このような時間帯にお騒がせする事をこの通り詫びましょう。しかし王国騎士団にとって大事な要件があるゆえ、失礼つかまつる! 」
待て、今シュトルムヴォルフって言ったよな! 確かガルムのおやっさんも、シュトルムヴォルフってファミリーネームだったような。
ジルベニスタと名乗った男は、ゆっくりと鞍から降り構えた剣を腰に仕舞う。どこまでも演技のようなわざとらしさが垣間見えて、俺はそんなイケメン然とした態度の彼に既に不快感を植え付けられていた。そんなイケメン君はまっすぐに俺たちのところ、ガルムの前に歩みを進めてくる。
ガルムは近づいてくるジルベニスタを制するように前に出る。長身の二人の間に緊張が走る。そのピリピリした緊張を破ったのはガルムの言葉。
「何のようだジル。わざわざこんな辺境の村までご足労なことだ」
ガルムにジルと呼ばれると、王国騎士団長ジルベニスタは、形の整った眉毛をイライラしたように震わせる。
「父上。いやガルム殿。皆の前ではジルと幼名で呼ぶのは止めて欲しいと再三申し上げているはずですが。いや、そんな事を言いにわざわざこの地まで出向いたわけではありません」
ふっ……と自重めいた笑みを口の端に浮かべるガルム。
父上と言ったよな! 俺は赤髪のイケメン騎士団長とガルムを何度も見返す。ガルムは狼獣人、ジルベニスタはどう見てもフィーム族。どうなっているんだ?
突然そんな雰囲気を大きく壊すような……ドドッドドッドドッ! と何かの巨大な生物が走り込んでくるような激しい蹄の音が宴会場に近づいてきている音が聞こえる!
「この音は……もしや闘系山羊! ショルダー・ヴェント種か! 」
闘系山羊? 戦う山羊ってことか? 俺たちの山羊蹄車を引っ張ってくれていた、なんとなくもふもふした優し気な感じのチャッピーとルップーからは戦う姿は全然想像ができないんだが。
さっきまで飲んだくれていたガルムだが、一瞬で真剣な表情に戻っている。エレノールもどこから取り出したのだろう、黒双樹の杖を持ち警戒態勢に入る。
その激しい蹄の音は、この酒場前の宴会場の手前まで聞こえてきている。
「1頭ではないわね。複数頭の魔力を感じるわ。」
エレノールが低く警告の声を上げる。俺も腰の包丁に手を掛ける。隣で握っている拳に力を入れ始めるフィオナ。その時ガルムが呟く。
「いや、待て。おそらくこの音は……」
ガルムが顔に心底苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。おやっさんにはこの音の正体が分かったんだな。俺はガルムの表情を見上げ、その後視線を宴会場の先に向かわせる。
もう蹄の音はすぐ近くまで来ていた。そして宴会場の少し先でその音は止まった。
次の瞬間その場所に現れたのは、チャッピーやルップーよりも一回りは大きく筋肉質に見える3匹の山羊。特に肩や脚の筋肉の付き方が、フィオナの山羊たちとは根本的に違う。チャッピーたちは背中の盛り上がった場所から蒸気を発していたが、この闘系山羊たちは蒸気を出す場所が首の付け根辺りに集中している。なんでだろうと思ったがすぐにその理由が分かった。地球でいう馬に装着する鞍のようなものが山羊の背に乗せてあるからだ。……いや逆か、そういう山羊の品種だから鞍を載せることができるんだな。
「王国騎士団! なんでこんな辺境のラベルク村まで……ガルムさん! 」
フィオナがガルムに向き直り確かめるように問いかける。ガルムは無言で頷く。
「奴らがなぜこんなところまで……」
エレノールも眉を寄せなが小さく呟く。王国騎士団ってあれだろ、ガルムが所属している王国の精鋭部隊なんだろ。
「レンジさん。王国騎士団は戦闘に特化した闘系の山羊を使いこなします。ショルダー・ベント種というのは、彼らの使用する山羊達の総称です。戦いに特化された山羊で、かなり早い速度で長い距離を走破する事が可能な種です」
フィオナの相変わらずの丁寧な説明で俺は納得がいった。
目の前には王国騎士3名が見えた。どの騎士たちも目深にローブを被り表情はこちらからは伺い知れない。ローブの隙間から装備している剣や鎧が見え隠れする。明らかに武装しており、たまたま賑やかな宴会の音が聞こえたから通りかかったというような様相ではない。
俺は3体の中心の山羊に乗っている一人のフィーム族と思われる長身の男に目を向けた。ローブの合間からは鮮やかな銀色のブレストプレートを着ているのが見え、その腰には細い形状の剣を差している。
「相棒。パッ・アウフ! 中央の男は油断ならねぇ! 」
グリューンが小さく警告の声を掛けてくれる。分かっているって。あの男が別格なのは流石に分かるさ。
その男は山羊に乗ったままゆっくりと頭に被ったローブを跳ね上げる。銀色の豪奢な兜がまず俺の目に入り、その兜の中には燃える様な赤髪も見えた。彼は兜を両手で優雅に外すとそれを腰に抱え、慣れた手つきで赤毛を片手で掻き上げる様な仕草をした。端正な顔立ちをしているのがここからでも分かる。しかしどことなくワザとらしく、演技をしているようなそんな感覚を俺は受ける。
「ジル……お前なんでここに! 」
ガルムが小さく呟いた独り言を俺は聞き逃さなかった。ジル? あいつの名前か?
ジルと言われた赤髪の長身の男は、ゆっくりと右手で腰に差してある細い形状の剣を俺達……いやガルムに向けると、良く通る声で高らかに宣言した。
「我が名はジルベニスタ・シュトルムヴォルフ! 鷹の王ヴォルザーク様より王国騎士団団長を賜りしものです。このような時間帯にお騒がせする事をこの通り詫びましょう。しかし王国騎士団にとって大事な要件があるゆえ、失礼つかまつる! 」
待て、今シュトルムヴォルフって言ったよな! 確かガルムのおやっさんも、シュトルムヴォルフってファミリーネームだったような。
ジルベニスタと名乗った男は、ゆっくりと鞍から降り構えた剣を腰に仕舞う。どこまでも演技のようなわざとらしさが垣間見えて、俺はそんなイケメン然とした態度の彼に既に不快感を植え付けられていた。そんなイケメン君はまっすぐに俺たちのところ、ガルムの前に歩みを進めてくる。
ガルムは近づいてくるジルベニスタを制するように前に出る。長身の二人の間に緊張が走る。そのピリピリした緊張を破ったのはガルムの言葉。
「何のようだジル。わざわざこんな辺境の村までご足労なことだ」
ガルムにジルと呼ばれると、王国騎士団長ジルベニスタは、形の整った眉毛をイライラしたように震わせる。
「父上。いやガルム殿。皆の前ではジルと幼名で呼ぶのは止めて欲しいと再三申し上げているはずですが。いや、そんな事を言いにわざわざこの地まで出向いたわけではありません」
ふっ……と自重めいた笑みを口の端に浮かべるガルム。
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