【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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2巻 3章~ザックマーニャとファーバンとギャングの刺身と

汚部屋女子

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「おーい、エレノール。レンジだ。ちょっと相談があってきたんだ。開けてくれ」

 少し間があり、ドタバタと大きな物音が中から聞こえてきた。突然何かが家の中で落下するような大きな音がする。エレノールのものと思われる大きな悲鳴。ぼんっという鈍い音がして、家の煙突から緑色の煙がもあもあと上がるのが見えた。
 なんだ……と思っていると、ゆっくりと赤い扉が開き、2週間ぶりのエレノールの姿が俺たちの前に現れた。

「ちょっとレンジ君。いきなり何よ! 今あたし、すっごい忙しいだけど」

 いつもの真紅の導術士のローブ。その合間から時折見える際どい服装。おまえ、家でもそのままの恰好なんかい。着替えとかしないのか。

「折り入って頼みたい事がある。寿司の調味料を作るのを手伝ってくれ! 」

 いきなりの発言に、キョトンとした目をするエレノール。頭を抱えるガルム。フィオナとグリューンが目を見合わせている。

「おいレンジ。それだけではエレノールも訳がわからんだろう。もう少し説明をしてやれ。お前はそういう単刀直入過ぎるキライがあるぞ」

 やさしく諭すガルム。おお、確かにそうだよな。でもエレノールだって王都で寿司を握ろう計画に賛成してくれたじゃん。

「なに意味の分かんない事言ってんのよ。そういう事は、自分の泊っている宿でやんなさいよ。あたしの研究の邪魔になるじゃない! 」

 あれ? 結構ストレートに拒否られたぞ。エレノールを調味料作りに引き込もう作戦失敗か……? グリューンが両手を広げて、首を左右に振っている。
 俺はフィオナ、ガルムと目を合わせる。フィオナは腰に手を当てて少し諦めムード。ガルムは頭を掻きながら遠くを眺めている。
 もうこうなったら奥の手だ。俺は強い視線をエレノールに向ける。

「エレノール……俺の包丁、調べたくないか」

 その言葉にガルムとフィオナがびっくりして固まる。グリューンは両手で自分自身を抱きかかえるようにしてその場に倒れ込んでしまう。
 そんな真剣な視線に、真っ直ぐな緑色の眼差しで応じるエレノール。

「それ……ちょっと、レンジ君。ホンマに言うてんの? 」

「本気で言ってるさ! やっぱり寿司は酢と醤油が無いと始まらないんだ。短期間だけでいいんだ。エレノールが協力してくれたら、完成するようなそんな気がする」

 そんな気がする、というのも不確かな感覚だと言われればそれまで。でも俺にはそれが一番いいとしか思えない。

「俺の魔法とエレノールの導術の知識。それが合わさったら寿司酢と醤油が完成するイメージが頭の中でふつふつと湧いてきているんだ。だから、頼む。なんでもするから、俺に協力してくれ! 」

 俺はエレノールに向かって、折れ曲がって倒れるくらい頭を下げた。
 やや間があって、エレノールの表情が和らいだような感覚があった。

「レンジ君、分かったわよ。もう頭を上げて頂戴。こんな、家の前に大人数で押しかけてきて頭を下げられても困っちゃうわ」

 するとフィオナが俺の肩に手を置く。

「そんな楽しそうな事、エレノールだけにやらせておけません。わたしも勿論混ぜてくれるんですよね」

 ガルムも頷く。グリューンは俺の肩の上に登ると、嬉しそうにガッツポーズしている。

「元々ワシも手伝う気満々だぞ。なにせ謹慎期間3か月だからな。暇を持て余している獣人をどんどん使ってやってくれ」

 俺は下げた頭を勢いよく戻すと、ぐっと目から出る熱い汗を堪えるように腕で拭う。

「お前ら……ありがとう」


✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛


「全く、レンジ君の寿司への情熱には負けたわよ。ちょっと散らかっているけど入って」

 エレノールが扉を開け、自宅内へ俺たちを招き入れる。先に家の中に戻っていった彼女の後に続く様に入った俺たちの目に入ったのは……散らかった完全なる汚部屋女子の部屋だった。
 まず入ってすぐの玄関から既に足の踏み場の無いほどの靴の山。いや待て。エレノールってそんな沢山靴とか持っている意味ないよな。倒れている鉢植えや何か分からないような植物が玄関の周囲の壁を這いまわるように生えている。時々植物がポンと弾けるようにして種子をばら蒔いているのだが、それが更に散らかりようを加速している。

「あぁ、適当に靴脱いで入ってね。一応貴重な研究資料とかそこら辺に置いてあるからさ」

(この惨状に靴を脱いで入るのか……? )

 俺は絶句し、フィオナはわなわなと身を震わせているのが分かる。グリューンは鼻をつまみながら肩の上で縮こまり、ガルムは割と気にしないのか大股で室内に入ってきている。

「右の扉があたしの寝室だから入んないでね。左が研究室よ。そんなに広くないからうまく置いてあるものを掻き分けて場所を作ってね」

 エレノールが研究室の扉を開ける。途端にその中から独特の異臭……埃っぽさや古くなった紙の匂い、薬品のツンとするような匂い……が充満し、俺とフィオナはそっと鼻をつまむ。

(俺はもしかして開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのか)

 エレノールに頼むという自分の直感を今、かなり信じられなくなっている。

 研究室の中は、まさに雑多なもので溢れかえっていた。足の踏み場もないほどの散らかった書類の山、魔法の道具であろうなにやら得体のしれない器具が無造作に転がり、魔紋が途中で途切れたままになっている床が辛うじて見える。奥の本棚からは溢れかえったような導術書や論文の数々なんだろう、本自体が雪崩を起こしているようにしか見えない。

「うへぇ……エレノール。この中で研究しているのか。なんかその、大丈夫なのか」

 俺はそう聞くしかなかった。隣で美人が台無しなくらい顔を歪めているフィオナ。ガルムはなにかを踏んでしまったようで、「すまんな。なにか柔らかい物があったか」と無頓着な様子。さすが歴戦の戦士だよ。

「なんか適当にどかして座って。そこにソファーがあるはずだから。色々乗っているけどたぶん床に置いちゃっても大丈夫なはず」

 え。どこにソファーが? これか……なんかちょっと変な薬品を被ったように色が剥げちゃっているぞ。というかここに食べ終わった食器を載せるな! しかも洗っていないから大変なことになってるじゃないか。
 その時ぶちん……という何かが切れる様な、微かな音が間近で聞こえた様な気がした。

「ああああ! ふざけないで! エレノーーーーール! 」


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