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2巻 4章~包丁の共鳴と幻妖蜘蛛とアリーゼと
グリモワール子爵邸へ
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3日後、古龍の息吹にて寛いでいた俺たちの前に再度セバスさんが現れ、グリモワール子爵家に案内してくれることになった。ガルムは獣人だからなのか回復速度が以上に早く、初日こそ痛そうな素振りを見せてはいたが、次の日には全身の打ち身や痣も引き、元気に斧を振り回し体を動かしていた。さすがAランク冒険者……化け物だよ。
フィオナはその日迎えに来てくれた妹のセリナの顔を見るなり、その場で泣き崩れてしまった。やはりかなりショックだったんだな。
セリナはフィオナを抱きしめながら、何度も頷いていた。エレノールがフィオナに明るく振舞っていたのが印象的だ。なんかこういう時こそ、チームの絆っていいよなって思う。
「フィオナ。無理だけはするな。こういう時は家族に甘えてゆっくりするのもいいんだぞ」
俺は先ほど勢いで抱きしめてしまった手前、なんとも居心地の悪いような気持ちを引きずりながらも、フィオナに優しい声を掛ける。意中の女性が精神的に参っている時を狙って口説き落とすみたいな感じに取られちゃうと嫌じゃん。というか、フィオナをそういう目線で見ているって訳じゃなくてな。いやでも、フィオナが俺をなんとなく好いてくれるのは薄々感じているわけで。でもさ……
いきなり俺の後ろ頭をどこから出したのかハリセンで叩くエレノール。
「レンジ君。あんたの考えている事丸わかりよ。そういうウジウジしたところ、あたし大っ嫌い」
肩の上に乗り、慰めるように俺の頭に手を置くグリューン。なんだよ、お前もエレノールに同意するってか。
セバスさんが来ることはルーシィさんから伝言を受けていたので、朝早くにはパーティー全員がギルドに集まっていた。フィオナもまだ沈んだ瞳は隠せなかったが、どこか覚悟を決めたような表情でギルドに顔を出してくれていた。
「わたし、この事件が落ち着いたら御師様に申し出ようと思っていたことがあって。セリナとも真剣に話したんです。もちろん大喧嘩になりましたけど、最後にはあの子も分かってくれました」
何を申し出ようとしていたのか、その場では俺には話そうとはしなかったフィオナ。幻妖蜘蛛の一件が大きく彼女の申し出を後押ししたのだけは分かった。ガルムとエレノールが大きく頷いていたので、二人にはなんとなく察しがついていたんだな。
「相棒。おめぇは時々冴えているのか、鈍いのかよく分からねぇなぁ……」
グリューンが俺の顔を見ながら、瞼が半分閉じたような諦めに似た表情を見せていた。
そんな俺達4人と1匹は、セバスさんが用意してくれた子爵専用の山羊蹄車に乗り、王都の王城から南東部にあるノーブルヒルと呼ばれる、つまりは貴族の住んでいる区画に足を踏み入れる。こちらの区画は緩やかな丘陵地になっていて、内壁によってしっかりと守られている。
「あまり我らのような一介の冒険者は立ち寄らんところだからな」
ガルムは居心地が悪そうに、品のある豪華な装いのカーフに揺られている。
周囲を見渡すと美しい庭園を持つ壮麗な邸宅が並び、静かで緑が多い。エレノールが言うには中心には『星屑の噴水』と呼ばれる場所があり、夜になると水しぶきが星屑のように輝く魔法的な噴水だそうだ。
「その星屑の噴水から引いた水を沸かして、温浴施設として使用している建物がこの辺にあるって噂よ。星の雫って名前だったような気がするわ。入湯税やら、施設内の料金がバカ高くて、もっぱら貴族御用達の施設みたいよ」
お風呂なんてどこで入っても一緒でしょうに……とエレノールらしい達観した考えが聞こえてきた。
フィオナはあまり喋らずに、そのエレノールが言った星屑の噴水の様子を山羊蹄車の中から、あまり興味が無さそうに見ている。いつもはこういう王都の情報はフィオナが率先して喋っているだけに、なんか変な感じだ。
グリューンはそんなフィオナの頭の上に乗って、食い入るように周囲のきらびやかな風景を楽しんでいる様子だった。
「着きましたよ、皆様方。こちらがグリモワール子爵邸にございます」
荷台からセバスの声がして、程なく山羊蹄車の扉が開けられる。降りたった俺たちの前に広がったのは、周囲の華麗な建物や屋敷といったものとは対照的な、華美ではないがどこか知的な雰囲気が漂う石造りの館。大きな門は開かれており、その奥に広くしっかりと手入れされた庭があるのが目に入る。
「屋敷の奥に塔のような建物が見えるな」
俺は庭の向こう、大きな屋敷の裏手に見える白い石で築かれた古い3階建てのくらいの塔を見上げる。フィオナは俺の隣に立ち、その白い塔を視界に入れながら小さく呟く。
「何か……大きな力に守られている様な、そんな印象を受けますね」
その言葉が聞こえたのか、フィオナの肩に手を乗せて塔を見上げるエレノール。
「フィオナは相変わらず魔力に関する勘が鋭いわね。神官にしておくには勿体ないわ。どう? あたしが教えてあげるから今度導術の勉強始めてみない? 」
「わたしが導術……考えたこともなかったけど」
あははっと仲良さそうに笑いあうエレノールとフィオナ。あれ? 今エレノールに対して敬語が取れてなかったか。
「ふ……。仲良い事はいいことではないか。我らはチームだ。だが初めから全員が想いが通じているわけでは無いさ。絆が育つには時間と努力もまた必要だ」
そう言いながら、俺に片目をつぶって見せるガルム。ガルムのウィンクは柄じゃねぇとは思うけど、言っていることは確かにその通りだ。俺とガルムだって毎日飲みながら色々な事を語って、少しずつ信頼関係を築いていったんだしな。
その時グリューンが大きなくしゃみをした。俺の背中にぞくりと、なにか良くないことでも起こりそうな寒気が急に感じられた。俺の腰の包丁がわずかに振動したように感じる。この震えは、もしかして!
フィオナはその日迎えに来てくれた妹のセリナの顔を見るなり、その場で泣き崩れてしまった。やはりかなりショックだったんだな。
セリナはフィオナを抱きしめながら、何度も頷いていた。エレノールがフィオナに明るく振舞っていたのが印象的だ。なんかこういう時こそ、チームの絆っていいよなって思う。
「フィオナ。無理だけはするな。こういう時は家族に甘えてゆっくりするのもいいんだぞ」
俺は先ほど勢いで抱きしめてしまった手前、なんとも居心地の悪いような気持ちを引きずりながらも、フィオナに優しい声を掛ける。意中の女性が精神的に参っている時を狙って口説き落とすみたいな感じに取られちゃうと嫌じゃん。というか、フィオナをそういう目線で見ているって訳じゃなくてな。いやでも、フィオナが俺をなんとなく好いてくれるのは薄々感じているわけで。でもさ……
いきなり俺の後ろ頭をどこから出したのかハリセンで叩くエレノール。
「レンジ君。あんたの考えている事丸わかりよ。そういうウジウジしたところ、あたし大っ嫌い」
肩の上に乗り、慰めるように俺の頭に手を置くグリューン。なんだよ、お前もエレノールに同意するってか。
セバスさんが来ることはルーシィさんから伝言を受けていたので、朝早くにはパーティー全員がギルドに集まっていた。フィオナもまだ沈んだ瞳は隠せなかったが、どこか覚悟を決めたような表情でギルドに顔を出してくれていた。
「わたし、この事件が落ち着いたら御師様に申し出ようと思っていたことがあって。セリナとも真剣に話したんです。もちろん大喧嘩になりましたけど、最後にはあの子も分かってくれました」
何を申し出ようとしていたのか、その場では俺には話そうとはしなかったフィオナ。幻妖蜘蛛の一件が大きく彼女の申し出を後押ししたのだけは分かった。ガルムとエレノールが大きく頷いていたので、二人にはなんとなく察しがついていたんだな。
「相棒。おめぇは時々冴えているのか、鈍いのかよく分からねぇなぁ……」
グリューンが俺の顔を見ながら、瞼が半分閉じたような諦めに似た表情を見せていた。
そんな俺達4人と1匹は、セバスさんが用意してくれた子爵専用の山羊蹄車に乗り、王都の王城から南東部にあるノーブルヒルと呼ばれる、つまりは貴族の住んでいる区画に足を踏み入れる。こちらの区画は緩やかな丘陵地になっていて、内壁によってしっかりと守られている。
「あまり我らのような一介の冒険者は立ち寄らんところだからな」
ガルムは居心地が悪そうに、品のある豪華な装いのカーフに揺られている。
周囲を見渡すと美しい庭園を持つ壮麗な邸宅が並び、静かで緑が多い。エレノールが言うには中心には『星屑の噴水』と呼ばれる場所があり、夜になると水しぶきが星屑のように輝く魔法的な噴水だそうだ。
「その星屑の噴水から引いた水を沸かして、温浴施設として使用している建物がこの辺にあるって噂よ。星の雫って名前だったような気がするわ。入湯税やら、施設内の料金がバカ高くて、もっぱら貴族御用達の施設みたいよ」
お風呂なんてどこで入っても一緒でしょうに……とエレノールらしい達観した考えが聞こえてきた。
フィオナはあまり喋らずに、そのエレノールが言った星屑の噴水の様子を山羊蹄車の中から、あまり興味が無さそうに見ている。いつもはこういう王都の情報はフィオナが率先して喋っているだけに、なんか変な感じだ。
グリューンはそんなフィオナの頭の上に乗って、食い入るように周囲のきらびやかな風景を楽しんでいる様子だった。
「着きましたよ、皆様方。こちらがグリモワール子爵邸にございます」
荷台からセバスの声がして、程なく山羊蹄車の扉が開けられる。降りたった俺たちの前に広がったのは、周囲の華麗な建物や屋敷といったものとは対照的な、華美ではないがどこか知的な雰囲気が漂う石造りの館。大きな門は開かれており、その奥に広くしっかりと手入れされた庭があるのが目に入る。
「屋敷の奥に塔のような建物が見えるな」
俺は庭の向こう、大きな屋敷の裏手に見える白い石で築かれた古い3階建てのくらいの塔を見上げる。フィオナは俺の隣に立ち、その白い塔を視界に入れながら小さく呟く。
「何か……大きな力に守られている様な、そんな印象を受けますね」
その言葉が聞こえたのか、フィオナの肩に手を乗せて塔を見上げるエレノール。
「フィオナは相変わらず魔力に関する勘が鋭いわね。神官にしておくには勿体ないわ。どう? あたしが教えてあげるから今度導術の勉強始めてみない? 」
「わたしが導術……考えたこともなかったけど」
あははっと仲良さそうに笑いあうエレノールとフィオナ。あれ? 今エレノールに対して敬語が取れてなかったか。
「ふ……。仲良い事はいいことではないか。我らはチームだ。だが初めから全員が想いが通じているわけでは無いさ。絆が育つには時間と努力もまた必要だ」
そう言いながら、俺に片目をつぶって見せるガルム。ガルムのウィンクは柄じゃねぇとは思うけど、言っていることは確かにその通りだ。俺とガルムだって毎日飲みながら色々な事を語って、少しずつ信頼関係を築いていったんだしな。
その時グリューンが大きなくしゃみをした。俺の背中にぞくりと、なにか良くないことでも起こりそうな寒気が急に感じられた。俺の腰の包丁がわずかに振動したように感じる。この震えは、もしかして!
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