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2巻 4章~包丁の共鳴と幻妖蜘蛛とアリーゼと
フィオナの変化
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すると俺たちが乗ってきた馬車のすぐ隣に、重厚なつくりの山羊蹄車がゆっくりと停車した。荷台の先端には二頭の獅子が巨大な盾を守るような、そんな紋章があつらえてあるのを俺は見逃さなかった。
「この山羊蹄車は、まさか……」
ガルムの鼻の穴が大きく開かれる。もう一度大きくグリューンがくしゃみをすると、フィオナの頭から俺の肩に飛び移ってくる。
「おやおやおや。このような場所でおそろいとは奇遇ですな。父上、レンジ」
重厚な作りの山羊蹄車から、燃えるような赤髪を揺らしながら降りてきた男。言わずと知れた王国騎士団団長ジルベニスタ! 更にその後ろからは青い髪と冷たい瞳が印象的なコーマが続いている。
「コーマ、お前……」
俺がコーマに対して一言喋ろうとするより早く、ジルベニスタの口が滑るように動き出すのが見えた。
「フィオナ姫。まさかまたお会いできるとは! もう3度目の逢瀬とは運命的なものを感じますな。この近くに貴族御用達の『星の雫』という温泉施設がございます。後でご一緒に旅の疲れを癒しに参りましょうぞ」
いつもならそこでジルベニスタの言葉に愛想笑いのひとつも浮かべるのがフィオナなのだが、今日は違った。キッと眉を寄せてかなり嫌そうな表情を前面に押し出す。
「ジルベニスタさん。わたし達はこちらのグリモワール子爵邸に用事があって来たのです。あなたのくだらないお喋りの相手をしている暇はありません」
俺とグリューンはびっくりしてフィオナを二度見する。ガルムは軽く眉を上げただけ、エレノールは腹を抱えて大笑いしている。
全く予想だにしなかったフィオナの突然の口撃に、目を白黒させているジルベニスタ。その後ろでコーマが音もたてずに笑ったのが見えた。
「フィオナ様、王国騎士団長ジルベニスタ様と、副官のコーマ様をお呼びしたのは私共でございます。騎士団には内密に此度の事件に関して、別方向より調べを進めてもらっておりました」
セバスが二人の間に入り、諫めるように事情を説明する。
「ということは、俺達と騎士団長の色男は同じようにグリモワール子爵邸に呼ばれたという訳だな」
内心ジルベニスタがフィオナに手厳しく振られて、いい気味だと思いながらセバスに確認する。
「色男とはずいぶんな誉め言葉じゃないか、レンジ。ここで死ぬか」
フィオナからの口撃の腹いせだろう。いきなり腰に下げてある魔法のレイピアに手を掛け、一気に抜くようなそぶりを見せる。
「あぁ? やるって言うならやってやんぞ。こっちはお前の嫌みに付き合うのはもうごめんなんでな」
俺も俺で、ジルベニスタの前になるとどうしても好戦的な面が出てしまう。腰の皮ベルトに入っている萌炎に手を掛け、威嚇するように奴を睨みつける。
そんな俺とジルベニスタの頭に筋肉を強化させた手が添えられる。そのまま抵抗できないほどの力強さで、万力のように頭を締め付けられる。
「レンジ、ジル! お前たちいい加減にしろ。喧嘩腰の子供の様に振舞うのであれば、ワシも本気を出すぞ……!」
やばい。ガルムが本気だ。高まる闘気が半端ない。ジルベニスタも掴まれた頭を押さえられて身動きが取れない。
その時であった。小奇麗な庭の先にある、大きな両開きの玄関が開き、明瞭で心に残るような綺麗な声が響き渡った。
「グリモワール邸にようこそ。お初にお目にかかる、当主のアリーゼ・フォン・グリモワールだ」
切れ長の目に、すっと通った鼻筋、バランスの取れた口元。整った顔立ちが印象的な茶色い髪の妙齢のフィーム族の女性。身長はフィオナくらいか。かなりの知的な美人顔だ。
「ふふ。元気な殿方の声が聞こえたものでな。ついつい出てきてしまったのだ。この辺りは人通りも少ない貴族街の外れにあるから、大きな声を出すとかなり響いてしまうぞ」
始め持っていた印象とはだいぶ違うな。俺は小気味よい初夏の風を思わせるような、どちらかというと男勝りなそんなアリーゼ子爵の声に、ジルベニスタとのいざこざもどこか吹き飛んでしまったかのような感覚を受ける。
ジルベニスタも同様だったのだろう。すぐに髪を整え、アリーゼ子爵に向き直ると正式な騎士の礼を披露する。それに続くコーマ。
「そう緊張せんでもいい。我々がお呼び立てしてしまったのに申し訳がないわ。セバス。この方々を応接室にお通ししてくれ」
「かしこまりました。アリーゼ様」
嬉しそうにセバスさんが頭を下げるのが俺にも分かった。
こうして俺達とジルベニスタ、コーマの6人と1匹はグリモワール邸に足を踏み入れる事になったのだった。
「この山羊蹄車は、まさか……」
ガルムの鼻の穴が大きく開かれる。もう一度大きくグリューンがくしゃみをすると、フィオナの頭から俺の肩に飛び移ってくる。
「おやおやおや。このような場所でおそろいとは奇遇ですな。父上、レンジ」
重厚な作りの山羊蹄車から、燃えるような赤髪を揺らしながら降りてきた男。言わずと知れた王国騎士団団長ジルベニスタ! 更にその後ろからは青い髪と冷たい瞳が印象的なコーマが続いている。
「コーマ、お前……」
俺がコーマに対して一言喋ろうとするより早く、ジルベニスタの口が滑るように動き出すのが見えた。
「フィオナ姫。まさかまたお会いできるとは! もう3度目の逢瀬とは運命的なものを感じますな。この近くに貴族御用達の『星の雫』という温泉施設がございます。後でご一緒に旅の疲れを癒しに参りましょうぞ」
いつもならそこでジルベニスタの言葉に愛想笑いのひとつも浮かべるのがフィオナなのだが、今日は違った。キッと眉を寄せてかなり嫌そうな表情を前面に押し出す。
「ジルベニスタさん。わたし達はこちらのグリモワール子爵邸に用事があって来たのです。あなたのくだらないお喋りの相手をしている暇はありません」
俺とグリューンはびっくりしてフィオナを二度見する。ガルムは軽く眉を上げただけ、エレノールは腹を抱えて大笑いしている。
全く予想だにしなかったフィオナの突然の口撃に、目を白黒させているジルベニスタ。その後ろでコーマが音もたてずに笑ったのが見えた。
「フィオナ様、王国騎士団長ジルベニスタ様と、副官のコーマ様をお呼びしたのは私共でございます。騎士団には内密に此度の事件に関して、別方向より調べを進めてもらっておりました」
セバスが二人の間に入り、諫めるように事情を説明する。
「ということは、俺達と騎士団長の色男は同じようにグリモワール子爵邸に呼ばれたという訳だな」
内心ジルベニスタがフィオナに手厳しく振られて、いい気味だと思いながらセバスに確認する。
「色男とはずいぶんな誉め言葉じゃないか、レンジ。ここで死ぬか」
フィオナからの口撃の腹いせだろう。いきなり腰に下げてある魔法のレイピアに手を掛け、一気に抜くようなそぶりを見せる。
「あぁ? やるって言うならやってやんぞ。こっちはお前の嫌みに付き合うのはもうごめんなんでな」
俺も俺で、ジルベニスタの前になるとどうしても好戦的な面が出てしまう。腰の皮ベルトに入っている萌炎に手を掛け、威嚇するように奴を睨みつける。
そんな俺とジルベニスタの頭に筋肉を強化させた手が添えられる。そのまま抵抗できないほどの力強さで、万力のように頭を締め付けられる。
「レンジ、ジル! お前たちいい加減にしろ。喧嘩腰の子供の様に振舞うのであれば、ワシも本気を出すぞ……!」
やばい。ガルムが本気だ。高まる闘気が半端ない。ジルベニスタも掴まれた頭を押さえられて身動きが取れない。
その時であった。小奇麗な庭の先にある、大きな両開きの玄関が開き、明瞭で心に残るような綺麗な声が響き渡った。
「グリモワール邸にようこそ。お初にお目にかかる、当主のアリーゼ・フォン・グリモワールだ」
切れ長の目に、すっと通った鼻筋、バランスの取れた口元。整った顔立ちが印象的な茶色い髪の妙齢のフィーム族の女性。身長はフィオナくらいか。かなりの知的な美人顔だ。
「ふふ。元気な殿方の声が聞こえたものでな。ついつい出てきてしまったのだ。この辺りは人通りも少ない貴族街の外れにあるから、大きな声を出すとかなり響いてしまうぞ」
始め持っていた印象とはだいぶ違うな。俺は小気味よい初夏の風を思わせるような、どちらかというと男勝りなそんなアリーゼ子爵の声に、ジルベニスタとのいざこざもどこか吹き飛んでしまったかのような感覚を受ける。
ジルベニスタも同様だったのだろう。すぐに髪を整え、アリーゼ子爵に向き直ると正式な騎士の礼を披露する。それに続くコーマ。
「そう緊張せんでもいい。我々がお呼び立てしてしまったのに申し訳がないわ。セバス。この方々を応接室にお通ししてくれ」
「かしこまりました。アリーゼ様」
嬉しそうにセバスさんが頭を下げるのが俺にも分かった。
こうして俺達とジルベニスタ、コーマの6人と1匹はグリモワール邸に足を踏み入れる事になったのだった。
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