最強つがいはもふもふ猫男の子育てに奮闘中!

あきたいぬ大好き(深凪雪花)

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第一話 プロローグ1

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「げっ!?」

 コトコトと煮込んでいた鍋を開けたら、ルウが真っ黒焦げになっていた。真っ白なホワイトシチューになるはずだったのに。
 俺ことフィラは、慌てて『とある魔法』を使った。すると、魔法陣が発動して鍋だけが淡い白光に包まれる。光が消えたら、中身が焦げる前のホワイトシチューもどきに戻っていた。
 俺はほっと安堵の息をもらす。よかった。これであいつにおいしいシチューを食べさせることができる。
 今度はきちんと火加減を調節し、綺麗なホワイトシチューを完成させた。橙色の人参、緑色のブロッコリー、白い玉ねぎやじゃがいも。色鮮やかな具材たちがゴロゴロと入っている。あいつはゴロゴロとしたシチューが大好きなんだ。

「クオード」

 あいつことクオードの名前を台所から優しく呼ぶと、居間から寝起きの恋人――クオードが顔を出した。栗色の柔らかい短髪は寝癖だらけで、淡い緑色の瞳はまだ眠そうにうとうとしている。しかも、まだ寝間着だ。かろうじて顔は洗っているようだけど。
 俺はやってきたクオードの肩を、ぽかっと軽く小突いた。

「そろそろしっかり起きろよ。ほら、朝ご飯だよ」
「おー、ありがとう」

 クオードは、ふああっとあくびをする。ようやく目が覚めてきたのか、俺のことを正面からぎゅっと抱き締めてきた。

「!?」
「おはよう。今日も可愛いな」

 甘い言葉を耳元で囁かれ、俺は耳まで真っ赤だ。可愛い、かわいい、カワイイ……! 毎度毎度、恥ずかし気もなくよく口にできるものだ。
 とはいえ有頂天になりながら、俺もクオードのことを抱き締め返す。

「あ、ありがとう。クオードも……その、カッコイイよ」
「ん、サンキュ」

 ぎゅーっと抱き締め合い、朝食をいただく。ちなみに食卓に並んでいるのはホワイトシチューだけじゃない。白いふわふわのパンや新鮮なサラダもある。クオードは笑顔で「おいしい」としきりに頷きながら、朝食を食べてくれた。
 幸せだ、とても。
 ふっと笑みがこぼれる。
 平和な日常。今でこそ当たり前だけど、昔は大変だった。思い返すと、血生臭い現実に辟易としてしまうほど、つらい毎日だったなと思う。
 そう、昔――『前世』の俺たちは、こうしたささやかな幸せのひと時さえろくになかった。
 ここ、レジェステア王国は、かつて亡国の危機に瀕したことがある。今では戦国時代と呼ばれる暗黒期の話だ。その時代、俺は王子として、クオードは兵士として、国のために奔走していた。
 のち、俺は天才魔術師として、クオードは英雄として、名を馳せることになるが……俺たちは身分の差から結婚できなかった。
 だからきっと、天が温情を授けてくれたんだろう。俺たちは前世の記憶を持ったまま転生した。俺は平民のフィラ、クオードもまた平民のクオードとして。
 平民同士だから今世では結婚できる。……はず、なのに。

「なぁ、クオード。いつになったら結婚できるんだよ」

 口を尖らせながら言うと、真向かいに座っているクオードは毅然として返す。

「まだだ。騎士として半人前である以上、フィラの親御さんに胸を張って挨拶に行けない。出世するのを待ってくれ」

 相変わらず、堅物な奴。そんなところも好き……なんだけど、今回ばかりはほとほと嫌気が差す。王立騎士というだけで立派な職業なのに、昇進するのを待ってろって。いつになるんだよ、俺たちの結婚は。

「俺の親なら認めてくれるよ。早くクオードと結婚したい」
「もう少し待って」
「~~っ、なんだよ、この頭でっかち! 俺、もう二十二歳なのに! 周りのみんなはもう結婚し始めてる!」

 声を荒げると、クオードは弱った顔で言う。

「じゃあ、せめてあと三年」
「はぁああああ!?」

 とうとう頭にきた俺は、クオードからホワイトシチューが入った木皿を奪い取る。クオードの持つフォークが空を切り、ガコンとテーブルにぶつかった。

「三年も待てるわけないだろ! 何歳になると思ってるんだ!」

 二十五歳なんて、結婚適齢期も終わりかけだ。出産する年齢だって二十代後半が一番多いわけで、それでは二人だけの甘々な結婚生活を送れない。
 怒鳴りつけると、クオードは困り果てた顔だ。ますます腹立たしい。なんで俺が困らせているみたいな反応なんだ。

「フィラ……分かってくれよ。俺たちが周りから祝福されるために必要なことなんだよ」
「分かるはずないだろ! もうそんな古い価値観なんて絶滅危惧ものだ!」

 両親の許しを得なければとか、周りから祝福されなければとか、人の目を気にしてばかりの婚姻なんてイマドキ流行らない。生きた化石か。
 こっちはもう、うん十年も……クオードとの結婚を待ちかねているっていうのに。

「そっちこそ、俺の気持ちを分かれよ! この頑固者っ!」

 どんっと、木皿を置き返すと、中身のホワイトシチューが少しテーブルに飛び散った。けれど、俺は構わずに自分の食事を食べる手を再開する。
 もぐもぐと食べる。おいしいけど、……なんだかしょっぱい。気付いたら、涙がホワイトシチューの中に落ちていた。
 俺が泣いていることに気付いたクオードはぎょっとし、慌てふためく。

「フィ、フィラ? 泣くことないだろ」

 手近にあったハンカチを渡される。俺はむんずと受け取り、鼻をかんだ。誰のせいだと思っているんだ。

「クオードが分かってくれないからだろ」
「う……ごめん。俺の都合ばかり押し付けて。じゃああと一年。一年後に結婚しよう」
「本当に?」
「当たり前だろ。俺だってフィラと結婚したいんだから」
「クオード!」

 ぱっと顔を明るくし、笑顔を弾けさせた。やった。一年なら、どうにか待てる。それに挙式の準備をしていたらあっという間に時間は経つ。ということは、今から動き出すという話に違いない。
 俺はうきうきとして訊ねた。

「じゃ、結婚式はどこで挙げる?」
「え、挙げるのか? 気恥ずかしいから、俺はちょっと……」
「はぁ!? ふざけんな――っっ!」
「うおっ!?」

 手近にあった空っぽの木皿をクオードに向かってぶん投げる。クオードはひょいとかわし、さらには木皿を手でキャッチしてしまった。元英雄さまはさすがの身体能力だ。
 騒がしい俺たちの毎日。いや、一緒に住んでるわけじゃなくて、俺が一方的に通い夫しているだけなんだけど……ともかく、結婚まで道のりは遠い。なんでだ。

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