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第1章:最悪な幕開け

第2話:これって夢ですよね?

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「おぉ……お?」

 なんとも間の抜けた声が出てしまった。

 気づけばそこは、異世界だった!なんていう、王道な展開が、
 まさか自分の身にふりかかるとは思ってなかったから何が起こったのかよくわからなかった。

「やぁ勇者クン?   ようやくお目覚めかな」

 はい?私が勇者?ちょっと何言ってんですか。

 まだ頭がぼんやりする。
 視界もなんだか曇って見える。
 けれど、段々と意識がハッキリしてきて……

「え……えっ?  ここどこ?  私どうなったの?!  
 いや、え?!   生きてる?   いやいや……は?」

 私は綺麗に整理された本が並ぶ、小さな書斎にいた。
 なんか、めっちゃ高級そうな椅子に座ってる。

 でもって、パニックを起こしてあたふたしてる私を、
 おかしそうに見守ってるイケメンが同じような椅子に座ってた。

「キミ、面白いね」
「何が面白いんですか!   パニックっすよ!  あなたが私を呼んだんですか?」
「まぁ、そんな感じかな。さてと、早速だけどキミに頼みがあるんだが、いいかな?」

 問答無用って感じで紺色の髪をおかっぱにした、
 綺麗な緑の瞳のイケメンは微笑んだ。

「た、頼み……ってなんですか」

 ぐぬぬ!私がイケメンに弱いって知ってるのかっ!

 こんなありえない状況なのに、胸がドキドキしてやばい。

「単刀直入に言うと、キミにはある物語の世界へ行って、
 ボクら管理者が"シミ"と呼ぶ敵を倒すのに力を貸してほしいんだ。
 この仕事はキミのような人にしか頼めない。
 長く説明してる暇がなくて申し訳ないが……受けてくれるかい?」
「は、い?」

 ちょっと何言ってるか分かんないです

 いや、私にしか頼めないって……敵を倒すって……
 お門違いもいいとこでしょ。

 私、ただのニートで、オタクで、面倒くさがりのダメ人間っすよ?

 好きなことはカラオケ、アニメ、ライブ行くことだし……

 ってか私さ、そういう敵を倒すゲーム的なやつ?あんまやったことないんだよね。
 ゲームセンターとかうるさいし、なんか怖いしで行ったことないし、
 テレビゲームもまるで知らないし、
 やったことあるのはスマホのMMOとか、RPGくらいだもん。
 ちなみに、ド下手です。あと、ボッチです。

 なので、私はお兄さんの申し出を丁重にお断りした。
 もっと適任がいるはずだって、そう言った。
 けれど、お兄さんはため息をついて私の顔を見るのだ。

 やめて、そんな綺麗な瞳でこっちを見ないで、
 死ぬから!尊すぎて死ぬから!涙出るから!やめろ!

「残念だな。けれどね、キミ。例えボクの頼みを断ってももう帰る場所はないんだよ」
「え?   なんでですか?   
 死んだら、地獄か天国に行くんじゃないんですか?」
「そうだけど……キミの死は特殊だからな。
 さっき言った"シミ"という敵に、キミは殺されたんだよ。
 "シミ"によって殺された物語の住人は、存在が消されてしまう。
 つまり、もうすぐキミは消える」

 おおっと……意味わからないことになってきたぜ

「え、なんで私がそんな敵に……。私、何もしてませんよ!
 ただのニートですけど?!   
 そんなよくわからないやつに存在消される理由とかないっすよ!」

 いや、そもそも物語ってなに?
 私が今まで生きてきた人生ってシナリオ的なのがあったのか?

「"シミ"は物語を食べて増える魔物なんだ。
 その物語にはね、世界、記憶、人生なんでも含まれる。
 キミは運悪くその敵のターゲットに偶然選ばれてしまったんだ」
「えぇ……」

 そんな異世界の化け物的なのに殺されるとか……私、前世でなにしたんだよ

「どうやったら倒せるんですか」
「受けてくれるってことだね」
「えぇ……まぁ。だって、ここにいたっていずれ消えちゃうんでしょ?
 やることひとつしかないじゃないですか」
「ふふ……まぁね。でも、ボクから説明できることはもうないよ。
 これから行く場所で、
 "シミ"を見つけてキミなりのやり方でそいつを倒してくれればそれでいい」

 見つけ方とか!倒し方とか!何も教えてくれないのー?!
 あと、私、今からどこへ飛ばされるのー?!

 聞きたいことは山ほどあった。

 いや、あと!そもそも私を選んだ理由、教えて貰ってませんけど?!

 でも、お兄さんは慌てふためく私を無視して、
 どこから取り出したのか真っ黒な表紙の本をペラペラめくり出す。

「ちょっと待ってくださいよ!   あ、あの!   
 あなた、何者なんですか?!   これから私に何する気ですか!」
「ボクはトゥリオ・ファルネーゼ。創造の魔書の管理人。
 これ以上、管理する世界を壊されてはかなわない。
 キミにはボクの代わりに害虫駆除をしてもらう。
 しっかり働いてくれよ?」

 ほんと、私が何をしたっていうんだ。

 トゥリオさんが本に手をかざすと、周囲がぱあっと明るくなった。
 段々と白い光に包まれて、部屋が消えていく。

 最後に見えたのは、トゥリオさんの綺麗な緑の瞳だった。
 けれど、その瞳は光がない、アニメとかで見る悪役の瞳というのだろうか……。
 とても、恐ろしい、悪魔のような瞳だった。










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