異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第1章 異世界教へようこそ

第7話 異世界教狂想曲(前編)

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「ん~」
 体がギシギシして痛い。

「あ、眠っちゃったんだ」
 既に夜は明け朝の匂いが香ってくる。

「あ、どうりで体が痛いわけだ」
 服装は昨日のまま、時計は6時を回っていた。

「時間に余裕があるから支部にでも言ってみようかなー」
 右手で鼻をこする……って、握られているリンゴ。羽のように軽く美しく輝いていた。

「あ゛~~~」
 黄金色のリンゴ。異世界リンゴと違ったなんともいえない肌触り。
 右手首を握って天に掲げ自分でも何をやっているのか分からない。

「そうだスマホ」
 床に転がっているスマホを拾い上げて沙羅の連絡先をタップ。

「おはよう朔弥、今日は随分と早いわね」
 時計の針は6時10分、『早すぎたかも』と考えたが沙羅の「おはよう」という声を聞いたら些細な不安は直ぐに消え去った。

「り……りんご……黄金色のリンゴが……黄金のリンゴが採れたんだ」
 ……時間が止まったような無言、静寂に耐えられなくなって「沙羅……?」と小さく呟いた。『黄金色のリンゴが採れた』なんて聞いて戸惑っているのだろう。

「そのリンゴ、直ぐに支部へ持ってきてくれる? 私も準備して直ぐに行くから」と電話を切られてしまった。

 黄金のリンゴをタオルで包みリュックの奥に突っ込む。上にフェイクを置いて隠すようにしまい込んだ。
 階段を駆け下りていくと「こんな早くからどこいくのー」と母の声が聞こえたが、返事すること無く自転車を飛ばした。
 
 どうやって支部まで来たのか覚えてない。あるのは必死に自転車をこいだ記憶だけ。

「朔弥、おはよう。凄いわね黄金のリンゴなんて」
 既に沙羅を到着ずみ、電話を切ってから直ぐに出発したのに流石はお金持ち。凄い移動手段をもってるんだろうなぁ。テーブルには食欲をそそる料理が並べられていた。

「朔弥、朝食はまだでしょ。ルーセットに作らせておいたわ」
 沙羅の言葉にメイドが頭を下げた。彼女はルーセットさんって言うのか……そういえば名前を聞いたこと無かったなぁ。

「ありがとう。やっぱりうちとは比較にならないな」
 遠慮も忘れて普段から座っている座席につく。

「毎日ここで食べても良いんですよ。むしろ住んでしまっても構いません」
 沙羅はいらずらな笑顔。本気とも冗談ともとれる表情。
「い……いや、大丈夫だよ」と手のひらをブンブン振って体だけが後ずさる。

「ふふふ、いつでも住んでいいんだからね」と沙羅は椅子に座ると「それで黄金色のリンゴを見せてもらっていい」と手を伸ばした。

 バックの奥に隠すようにしまった黄金色のリンゴを取り出して沙羅に手渡す。

「ああ、これが禁断の果実……」
 うっとりする沙羅。

 禁断の果実……僕もこの果実を見て『禁断の果実』だと思った。もしかしてこの不思議な事象に関わる人間はなんらかの知識が無意識下に生まれているのかも知れない。

 沙羅が合図するとメイドルーセットは黄金色のリンゴを受け取って奥の部屋へと消えた。

「果実は支部の金庫に保管しておきますね。いつかきっと必要なときが来るでしょう。さぁ、朝食を召し上がって学校にいきましょう」

 色とりどりに並べられた料理。ひとつひとつが素晴らしくうまい。朝食は食べない派なのだが美味しい料理に手が止まらなくなってしまった。


 * * *

 異世界教の噂が流れ始めると知名度は上がり着実に教徒は増えていった。
 同じクラスから始まり高校に広がり近隣の学生にまで広がるとSNSで爆発的に広がった。大人からの入信希望者も増え教徒は100人を越える大所帯にまでなった。

 雫からは何度も異世界教を止めるように言われ、琢磨の紹介で来た憲久の仲間たちは手のひらを返したように異世界リンゴを求めてきた。
 いまさら異世界リンゴを求めた所で奉納金をほとんど準備出来ない高校生にとってそうそう自分の番が回ってくることはなかった。 

「おい、俺達のことを最初に誘ったんだろ、だったら優先して異世界リンゴを寄越せよな」
 高圧的な態度で迫ってくる。

「何言ってやがる、あの時に断ったのはお前たちだ」
 異世界教の神子として名前が売れている僕は絡まれることも増えてきた。それを琢磨くんが守ってくれている。

「俺たちラノベ仲間だっただろ。昔から語り合ってきた俺達とまた語り合いたいだろう」
「自分の番を待っている人たちがいるんだよ。どうやってもダメなものはダメだ」
 軽くあしらう琢磨。そして余計なことを言い放つ。
「お前たちのように脅してくるような奴なんか異世界教にいらないんだよ。奉納金は諦めてさっさと脱退したらどうだ」

 何回も断ったがしつこく迫ってくる。そしてとうとう彼らがキレた。

高校生Aは空手、高校生Bこいつは剣道をやってるのは知ってるだろ」
 凄む高校生A。ファイティングポーズをとるが琢磨くんは動じる様子はない。それどころか手のひらを前に出して顔を傾け、揃えた指先をクイッと動かして挑発した。

「これで戦えるな。明智さんにスキルを使って暴力を振るうなってうるさく言われてるからな」 
 異世界に繋がったことで得た力やスキルがこちらの世界でも使えるようになっていた。

 高校生Aは握りしめた拳を琢磨に向けて放った。怯むこと無く襲いくる拳を軽く右手で掴んだ。

 瞬間──

「いてー」
 掴まれた拳を一生懸命に引き抜こうともがく高校生A、その顔は苦痛に歪んでいる。

「これに懲りたら異世界教徒として奉納に励むんだな」
 高校生Aの拳を開放することなく言い放つ琢磨。苦悶に喘ぐ高校生Aを気にすること無く説教を続けた。

 高校生Bは袋から竹刀を取り出すと「ヤメロー」と力強く踏み込んで竹刀を勢いよく振り下ろした。

 バキッ──

 迷うことなく左腕でガードする琢磨。木が折れる音を響かせ剣先は回転しながら弧を描いて地面に転がった。

 バッキーン──

 吹き抜ける風と共に高校生Bの持つ折れた竹刀が粉砕。琢磨は高校生Aを開放すると赤く染まった拳をさすりながら高校生Bと共にへたり込んだ。

「憲久め余計なことしやがって」
 呟く琢磨。ゆっくりと転がっている竹刀の剣先を拾い上げて高校生Bに放ると「本気で異世界教徒になりたいんだったら姑息なことなんかしてないで必死になることだな」と言い捨てた。
 
 呆然とする僕の肩を琢磨はポンと叩く。
「行こうぜ」

 琢磨くんの強さ、憲久くんも関与したような呟き……僕は一体何に関わっているのだろう。湧き出る焦燥感。

「琢磨くんすごいね。今のは一体何なのか支部で教えてよ」
 平静を装って言える最大限の言葉。力強い拳を前に突き出して「いいぜ、朔弥くんのおかげでこの力を手に入れられたんだからな」と琢磨は自信満々だった。

 琢磨はスマホを開くと、個別にメッセージを送ることが出来るdoconeドコネを使って「憲久にも支部に来るように言っておくぜ」と一言。直ぐに返信があったようで「すぐ来るって言うから支部に向かおう」と歩き始めた。
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