異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第2章 異世界教と異世界教

第17話 小さな想い

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「凄い……」

 通された部屋は大河ドラマの時代劇で将軍が座っていそうな大広間。金の屏風に美しい畳、武将たちがずらりと並んで座れそうな広さ。

「朔弥……あなたはここで一生を過をごすの。身の回りのことはメイドに全て任せてあるわ」

「へ? どういうこと?」
 あまりにも唐突な話しに思わず変な声がでてしまった。

「異世界リンゴを採ってくれれば後は自由。この総本山にあるものは全てあなたのもの。教祖としての地位、名誉、そして女性もお金も全てね」

 何を言っているんだ。意味不明すぎる。
「僕が帰らなかったら父さんと母さんが心配するんじゃないか」
 分からなすぎてこんな言葉しか出てこない。

「大丈夫よ。あなたの両親はこれから上級国民として扱われるの、朔弥はここでただ欲望のまま好きなように過ごせばいいのよ」

 頭がボーッとする。それが正しいことなのかもしれない……認識が変わっていく……自分だけじゃない、家族だってこれから素晴らしい人生が待っているんだ。もう深く考える必要なんてない……。

 この時僕はどんな表情をしていただろう……沙羅の顔がニヤリとほくそ笑んだように見えたがそんな細かいことは気にならなかった。

 ……あれから何日経っただろう。
 身の回りのことはメイドのミヅキが全てやってくれた。ストレスがないようにきめ細やかに。

 高校生としての理性が働いたのか、今まで通り学校に通うことを希望した。するとすぐに学校が準備されフロアを移動するだけで通えるようになった。
 クラスメイトもしっかりいる、恋も勉強もスポーツも楽しめる充実した学校生活が送れていた。

 部屋に戻ればミヅキがいる。買い物だって行楽だって思いのまま。昔のことなんて何も思い出すことなんて無い。

「朔弥さま、ご両親がいらっしゃいました」
「ありがとうミヅキ」

 こんな風に定期的に両親が会いに来てくれる。

 おかしいことなんて何もない。夜はいつも通り異世界リンゴを1つ採って1日が終わる。
 ……当たり前の景色、当たり前の人達、当たり前の日々。そんな今が当たり前。

 しかし、心にくすぶる不安は何なのだろう。絶対に忘れては行けないと心が警鐘を鳴らしている。この警鐘を忘れないためにも瞑想部屋で一生懸命に不安を探った。

 コンコンッ……

「はい」
 瞑想をしているとミヅキが夕飯を呼びに来てくれる日常の光景……いや、今日はいつもと違った。

 慌てて目を覆ってしまう。

「朔弥様……わたしの体をもらってくれませんか」

 入ってきたのは裸のミヅキ。

「ちょっとミヅキ、いきなりどうしたのさ……早く服を着て……」
 確かにいつも一緒にいるミヅキが好きになっていた。僕にとっては嬉しいお誘いだったが、心の警鐘がそれを阻んだ。

 瞑想着メディケーションマントを裸の彼女に羽織る。

「わたしの役割は朔弥様がストレスなく日々を過ごせるようにお手伝いすること。男性の欲求に応えるのも大事な役割なのです」
 ミヅキはメディケーションマントの前立て抱きしめて俯いてた。

「それならミヅキとデートを重ねてお互いにもっと知り合ってからがいいな」
 ミヅキの肩を掴んで出口の方を向かせる。手の中に感じる震え……彼女の本心は別にあるようだ。

 夕飯後、僕はミヅキを呼び出した。瞑想中に警鐘から引き出したアイデアを実行するために。

「瞑想部屋の続きをしたいんだ……」

 ミヅキはコクリと頷く……悲しそうな表情をしながら。
 その顔に僕は確信した。何らかの事情があるということに。その事情こそがミヅキに抱く不安の正体である気がした。

 ミヅキを抱きしめると心に新たな不安が生まれた。彼女の温もりに感じる懐かしさ。なんでこんなに落ち着くのだろう。

 ミヅキを見ていると小さかった不安が大きくなる……考えれば考えるほど深い懐かしさを覚える。

 彼女にしてみればこの場所に来るということはどういうことなのか容易に想像できただろう。小さく揺れる肩に心からの行為でないことは容易に想像できた。

○。○。「ただ欲望のまま好きなように日々を過ごして……」○。○。 

 頭に浮かんできた言葉が僕を締め付ける。欲望……好きなようにしていい……好きな女の子……。

 いやいやいや……駄目だ駄目だ駄目だ。どっちが正しくてどっちか悪いか分からなくなる。

「ん?」

 宙空を彷徨う歪んでいる空間……どこかで見たことがある。
『風の加護』……ふと頭に浮かんだ。僕は監視されているんだ……近しい人に。

「朔弥様、優しくしてください」
 薄手の白い服を身にまとい微かに肌が透けて見えている。白い服で映える美しく長い髪、整った顔。そんな彼女の服に手をかけた。

○。○。「ただ欲望のまま好きなように日々を過ごして……」○。○。 

 誘惑が頭を駆け巡る。

「ミヅキ、布団に横になってもらっていいかな」

 抱きしめたまま呟く、彼女はコクリと頷くと言われるがままベッドに横になった。
 僕は布団に滑り込んで覆うように掛け布団をかける。

…………

 宙空を漂う空気の歪み。監視されているという気持ちがあったからこそ欲望に打ち勝てたのだろう。

「大丈夫だよミヅキ。君に聞きたいことがあるんだ……小声で話してもらっていいかい」
 僕は小さく話しかけた。

「朔弥様……一体何を……」
 布団の中で彼女に覆い被さりゴソゴソ動く、監視している空気の歪みを惑わすためにも。

「大丈夫、君を襲ったりしないよ。監視されているようだから抱きつかせてはもらうけど」 

 密着しながらミヅキの顔を見ていると欲望が大きくなってしまう……ダメだダメだダメだ。

「それはあなたの子供を生むためです」

 ミヅキは一体何を言っているんだ。あの時悲しげな表情を浮かべていたのは望まない関係を強いられていたからではないのか。頭の中が混乱する……しかし話しを続けなければ。

「ミヅキ、悪いんだけど服を脱いで布団の外に放ってもらっていいかな。監視に怪しまれないようにするために……大丈夫絶対に襲ったりしない。約束する」
「いいんですよ。元より体の関係をもつ覚悟できましたから」

 ミヅキは布団の中でゴソゴソしながら白い服を脱ぐとベッドの外に放った。キングサイズの4倍はあろうかというベッド、そして布団。そのおかげでうまくごまかせる。

「なんで僕との子供を生みたいと思ったの?」
「それは……」

 言葉を濁すミヅキ。やっぱり何かを隠しているのだろう。彼女は僕の手を掴むとそのまま自分の胸に押し当てた。
「朔弥様お願いします。あなたとの子供を作れば全て救われるんです」
 ミヅキの言葉に確信、やっぱり何かを背負わされているのだろう。望んで僕に体を預けたかったわけでないことに。

「ミヅキ、僕ができることは協力する。だから子供を作るなんて自暴自棄にならないでちゃんと説明してほしい。子供を作ることが目的ならまずは僕の彼女になってくれないか」
 僕の言葉に涙ぐむミヅキ。手に感じる柔らかな感覚が失われていく……。

「朔弥様。普通にあなたと出会いたかったわ。そうすればキットあなたを愛せた……は……ず」

 既にミヅキの姿はそこにはなかった。

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