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第4章 獣に植物に聖女結衣
第51話 戦いの爪痕 ──【4章完結】
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神殿の頂上にまで響いてくる歓声。
外では両手を挙げて喜ぶ兵士たち、傍らでは機能を失ったゴーレムが横たわり、この戦いで負傷した多くの兵士たちも倒れていた。
「こんな風景を見たら素直に喜べないね」
「そうね、戦いなんてどっちに正義があるかなんて本当のところは分からないからー」
落ち込んでしまう。本当にこれで良かったのだろうか……。
一般部隊はリュウコウ兵の誘導によってリュウコウへ戻り始める。
「僕たちも行こうか」と、上ってきた入口への道のりを戻り始めた。通ってきた通路を冷静になって見回すと生々しい戦いの傷跡が残されていた。
「ユピアたちが来るはずだった道から戻ろう」
どうしてもユピアたちの動向が気になった。モイセスの話だとゴーレムに襲われてラインさんが死んだという話しだが……。
「でもおかしいわねー」
「どうしたのケアルナさん」
「すべてのゴーレムは訓練用プログラムで動いているはずなの。ラクナシアちゃんのときも容赦がなかったし、ラインにしてもそうだし、ゴーレムが人を殺すような行動をするなんて考えられないのよー。だれかがプログラムを書き換えたとしか考えられないわねー」
思い出すだけで身の毛がよだつ。ケアルナさんがいなかったらラクナシアが刃に……うわぁ、考えるだけで怖い想像しか出てこない。
冷たい汗を背中に感じながら通路を走る。襟を抜けて入ってくる風が背中の汗を冷やし始め気持ち悪さを感じ始めたころ、絶壁のような場所に出た。
数十メートル下に見える地、その先は滑り台のような通路が入口のほうから伸びている。ケアルナの蔓を使って下に降りると4等分に切断されたゴーレムとラインさんの亡骸があった。
セッカさんとユピアはモイセスさんたちが助け出してくれたのだろう。
「うぅ……」
泣き叫びたい程の悲しさだった。しかし、涙も声を出てこない。冷たくなってしまったような心に嫌悪感が悲しさを占領する。
「サクラちゃん、自己嫌悪する必要はないわ。それは戦争というものを理解したの。心の奥底にあった、どちらに正義があるかという迷いと良心で心がいっぱいになってしまったのね」
「私はまだ子供だからサクラ様やケアルナ様が正しいと思った道をついていくことしか出来ません。私はサクラ様が間違ったことをしたと思えないのです。だから元気をだして下さい」
こんな小さな子にまで心配をかけるなんて……ラインさんが死んでしまったことは悲しい。いくら悲しんだ所でこの事実が変わることはない。ラクナシアやケアルナの気分を変えることは出来る。
それなら今やるべきことは一つか……
「ありがとう、ふたりとも。さぁ、僕たちは勝利の立役者になった訳だ。胸を張って戻ろう」
1階フロアでは多くのリュウコウ兵が待ち構えていた。しかしピリピリと張り詰めているような空気を感じる。
「大勢で兵士たちがお出迎えとはよっぽど嬉しかったのねー、ラクナシアちゃん」
「ケアルナ様すごい人数です。わたし胴上げに憧れてるんですけどやってもらえますかねー」
僕たちに目線を合わせることもない兵士たち。統率のとれた動きで道を作ると、結衣が歩いてきた。紛れもなく幼馴染の結衣、白を基調とした服がいかにも聖女といった雰囲気を醸し出している。
「ご苦労さまでした。まさか討伐隊の中に神子を退ける者がいるとは思いませんでした」
いや、退けたわけじゃなくって引いてくれただけだけど……僕たちの返事を待つこと無く結衣は言葉を続けた。
「おかげで結界を用いずにニッケを取り戻せましたので、被害を最小限に抑えることが出来ました。これから私はマルコ神殿の神子となる儀式を行いますのでどうぞお引取り下さい」
結衣は多くの兵士に取り囲まれ歩みを進める。
「結衣、話しを、少し話しをさせてくれ」
必死に叫ぶが返事はない……が、立ち止まり「私はあなた方を存じません、一刻も早く神子となって負傷者の傷を癒やさなければなりませんので失礼致します」と神殿の奥へと入っていった。
「お前たち、良くやった」
入ってきたのはメルギンスさん。その顔は歓びと申し訳無さが混じり合った表情をしていた。
「運が良かったんです……それ以上でもそれ以下でも……」
「まぁ、良い」メルギンスさんの顔が急に強ばり「ヴィクトリア女王が7日後にお前たちを緊急指名手配することになった」
はい? 頼まれた命令を遂行しただけの僕たちがなんで指名手配?
「サクラちゃん、最初に気づくべきだったわー。用心深いヴィクトリア女王がどんな方法であれ神子を退けた者たちを放っておけないなんて想像に容易いことだったわー」
「個人的にはすまないと思っている。しかしヴィクトリア女王の命令は絶対なんだ。俺にはどうすることもできん、分かってくれ」
深く頭を下げるメルギンス、功労者として讃えてたいと思ってくれる気持ちをヒシヒシと感じた。
「分かりました、どちらにしろこの後はラクナシアの故郷であるマーサンに行こうと思ってましたのでそっちに向かうことにします」
「すまない、発令までの7日以内に国外に出てもらえれば問題はない。せめてものお礼に馬車と食料を用意してある、それを使ってくれ」
こうして僕たちは、ニッケを出て南に向かった。
馬車なんて引いたことないし困ったが、幼い頃から動物と共に過ごしていたラクナシアが扱うことができた。
「わたしはサクラ様の奴隷ですから……何でも言って下さい」
と僕たちにとっては悲しい言葉を言っていたが、ケアルナも馬車牽きは苦手なようでラクナシアにお願いすることになった。
……
後日、ヴィクトリア女王と神子の対立のキッカケを知ることになる。
女王と神子が戦うキッカケになったのは、ウッドバーレンの南にある獣人の国マーサン。
人間はパライソの実によって資質を元にした13種類の加護によってスキルを身につける。それに対して獣人はギフテッドという強力なスキルを授かり、生まれながらにして身体能力も高かった。
そして獣人には温厚的な者が多く、周囲の国にさほど影響を及ぼすことはなかったが、獣人たちに驚異を抱いたウッドバーレンはマーサンの南に隣接するサクヤに同盟をもちかけて協力し滅ぼした。
戦争の拠点として獣人の国に近い街である神殿の街に作ろうとしてが、神子はこれを拒否した。
国を守るための作戦に協力しなかったことで、女王は怒り狂ってニッケの占領作戦を決行、しかし、ゴーレムに阻まれ失敗した。しかし、ニッケを閉鎖して勝利とし、街の東に拠点として街を作ったのだ。
「そして今回の騒動に繋がったというわけか」
「ユニ様はマーサンの民を守りたかったの。『戦わずの誓い』がある神子が出来る最大限の抵抗だったわけね」
「そういえば僕はユニと戦ったけど……」
「ユニ様はね、サクラちゃんを敵だと認識してなかったの、友人として鍛えてくれたのねー」
「そうだったのか……それにしてもエグい強さだったな。勝てる気が全くしなかった」
「そりゃーそうよ、世界の理を超えない限りはあの高みには到達できないわ」
そしてユピア隊が黒ゴーレムに敗北したことも聞いた。
敗北を悟ったセッカとラインはユピアを逃がすために逃亡しようとしたが、絶壁のような段差に阻まれラインが犠牲となった。
数少ないゼウスの加護を持つセッカはの『雷霆』をもってしてもゴーレムに傷すら付けられなかったという。
さんざんひとりで逃げるように言われたが仲間を置いて逃げられなかったユピア、セッカも死まで秒読みか……という時にモイセスたちが助け出したようだ。
終わってみれば参加した討伐隊は150名、重傷者は100名を超え死者まで出ていた。
「何が正しかったのだろう……」
そう思わずにはいられない。
「サクラちゃん、何が正しいのかなんてその人次第なのよ。今回は歴史にヴィクトリア女王が国を裏切った神子から街を取り戻した。ということになるでしょうね」
なんだか腑に落ちない。
「そんな顔をしないの。聖女にも会えたしユニ様も納得したんだから良いじゃない」
そうだ結衣……容姿も声も確かに結衣だった。しかし雰囲気が全然違う。でもあの時見えた手のひらにあったほくろは間違いなく結衣のもの。
「ふぁぁ……眠い」
「慣れないことが続いたからねー。わたしはラクナシアちゃんとお喋りしてるから少し寝なさい……」
「おやすみ……マーサンはどんなところなんだろうなぁ……」
『朔弥ー僕と一緒にちょっと旅しよう……』
ハル……ハルがしゃべった? 「……夢かな」
深い眠りにつくのであった。
──第4章 獣に植物に聖女結衣 完
=====
思い返してみれば8月末にこの小説を投稿、気づいてみれば50話超えまで来ました。低空飛行ながらもコメントなどをくれる皆様のおかげでここまでこれたものと思っております。
今後とも是非、よろしくお願いいたします。
外では両手を挙げて喜ぶ兵士たち、傍らでは機能を失ったゴーレムが横たわり、この戦いで負傷した多くの兵士たちも倒れていた。
「こんな風景を見たら素直に喜べないね」
「そうね、戦いなんてどっちに正義があるかなんて本当のところは分からないからー」
落ち込んでしまう。本当にこれで良かったのだろうか……。
一般部隊はリュウコウ兵の誘導によってリュウコウへ戻り始める。
「僕たちも行こうか」と、上ってきた入口への道のりを戻り始めた。通ってきた通路を冷静になって見回すと生々しい戦いの傷跡が残されていた。
「ユピアたちが来るはずだった道から戻ろう」
どうしてもユピアたちの動向が気になった。モイセスの話だとゴーレムに襲われてラインさんが死んだという話しだが……。
「でもおかしいわねー」
「どうしたのケアルナさん」
「すべてのゴーレムは訓練用プログラムで動いているはずなの。ラクナシアちゃんのときも容赦がなかったし、ラインにしてもそうだし、ゴーレムが人を殺すような行動をするなんて考えられないのよー。だれかがプログラムを書き換えたとしか考えられないわねー」
思い出すだけで身の毛がよだつ。ケアルナさんがいなかったらラクナシアが刃に……うわぁ、考えるだけで怖い想像しか出てこない。
冷たい汗を背中に感じながら通路を走る。襟を抜けて入ってくる風が背中の汗を冷やし始め気持ち悪さを感じ始めたころ、絶壁のような場所に出た。
数十メートル下に見える地、その先は滑り台のような通路が入口のほうから伸びている。ケアルナの蔓を使って下に降りると4等分に切断されたゴーレムとラインさんの亡骸があった。
セッカさんとユピアはモイセスさんたちが助け出してくれたのだろう。
「うぅ……」
泣き叫びたい程の悲しさだった。しかし、涙も声を出てこない。冷たくなってしまったような心に嫌悪感が悲しさを占領する。
「サクラちゃん、自己嫌悪する必要はないわ。それは戦争というものを理解したの。心の奥底にあった、どちらに正義があるかという迷いと良心で心がいっぱいになってしまったのね」
「私はまだ子供だからサクラ様やケアルナ様が正しいと思った道をついていくことしか出来ません。私はサクラ様が間違ったことをしたと思えないのです。だから元気をだして下さい」
こんな小さな子にまで心配をかけるなんて……ラインさんが死んでしまったことは悲しい。いくら悲しんだ所でこの事実が変わることはない。ラクナシアやケアルナの気分を変えることは出来る。
それなら今やるべきことは一つか……
「ありがとう、ふたりとも。さぁ、僕たちは勝利の立役者になった訳だ。胸を張って戻ろう」
1階フロアでは多くのリュウコウ兵が待ち構えていた。しかしピリピリと張り詰めているような空気を感じる。
「大勢で兵士たちがお出迎えとはよっぽど嬉しかったのねー、ラクナシアちゃん」
「ケアルナ様すごい人数です。わたし胴上げに憧れてるんですけどやってもらえますかねー」
僕たちに目線を合わせることもない兵士たち。統率のとれた動きで道を作ると、結衣が歩いてきた。紛れもなく幼馴染の結衣、白を基調とした服がいかにも聖女といった雰囲気を醸し出している。
「ご苦労さまでした。まさか討伐隊の中に神子を退ける者がいるとは思いませんでした」
いや、退けたわけじゃなくって引いてくれただけだけど……僕たちの返事を待つこと無く結衣は言葉を続けた。
「おかげで結界を用いずにニッケを取り戻せましたので、被害を最小限に抑えることが出来ました。これから私はマルコ神殿の神子となる儀式を行いますのでどうぞお引取り下さい」
結衣は多くの兵士に取り囲まれ歩みを進める。
「結衣、話しを、少し話しをさせてくれ」
必死に叫ぶが返事はない……が、立ち止まり「私はあなた方を存じません、一刻も早く神子となって負傷者の傷を癒やさなければなりませんので失礼致します」と神殿の奥へと入っていった。
「お前たち、良くやった」
入ってきたのはメルギンスさん。その顔は歓びと申し訳無さが混じり合った表情をしていた。
「運が良かったんです……それ以上でもそれ以下でも……」
「まぁ、良い」メルギンスさんの顔が急に強ばり「ヴィクトリア女王が7日後にお前たちを緊急指名手配することになった」
はい? 頼まれた命令を遂行しただけの僕たちがなんで指名手配?
「サクラちゃん、最初に気づくべきだったわー。用心深いヴィクトリア女王がどんな方法であれ神子を退けた者たちを放っておけないなんて想像に容易いことだったわー」
「個人的にはすまないと思っている。しかしヴィクトリア女王の命令は絶対なんだ。俺にはどうすることもできん、分かってくれ」
深く頭を下げるメルギンス、功労者として讃えてたいと思ってくれる気持ちをヒシヒシと感じた。
「分かりました、どちらにしろこの後はラクナシアの故郷であるマーサンに行こうと思ってましたのでそっちに向かうことにします」
「すまない、発令までの7日以内に国外に出てもらえれば問題はない。せめてものお礼に馬車と食料を用意してある、それを使ってくれ」
こうして僕たちは、ニッケを出て南に向かった。
馬車なんて引いたことないし困ったが、幼い頃から動物と共に過ごしていたラクナシアが扱うことができた。
「わたしはサクラ様の奴隷ですから……何でも言って下さい」
と僕たちにとっては悲しい言葉を言っていたが、ケアルナも馬車牽きは苦手なようでラクナシアにお願いすることになった。
……
後日、ヴィクトリア女王と神子の対立のキッカケを知ることになる。
女王と神子が戦うキッカケになったのは、ウッドバーレンの南にある獣人の国マーサン。
人間はパライソの実によって資質を元にした13種類の加護によってスキルを身につける。それに対して獣人はギフテッドという強力なスキルを授かり、生まれながらにして身体能力も高かった。
そして獣人には温厚的な者が多く、周囲の国にさほど影響を及ぼすことはなかったが、獣人たちに驚異を抱いたウッドバーレンはマーサンの南に隣接するサクヤに同盟をもちかけて協力し滅ぼした。
戦争の拠点として獣人の国に近い街である神殿の街に作ろうとしてが、神子はこれを拒否した。
国を守るための作戦に協力しなかったことで、女王は怒り狂ってニッケの占領作戦を決行、しかし、ゴーレムに阻まれ失敗した。しかし、ニッケを閉鎖して勝利とし、街の東に拠点として街を作ったのだ。
「そして今回の騒動に繋がったというわけか」
「ユニ様はマーサンの民を守りたかったの。『戦わずの誓い』がある神子が出来る最大限の抵抗だったわけね」
「そういえば僕はユニと戦ったけど……」
「ユニ様はね、サクラちゃんを敵だと認識してなかったの、友人として鍛えてくれたのねー」
「そうだったのか……それにしてもエグい強さだったな。勝てる気が全くしなかった」
「そりゃーそうよ、世界の理を超えない限りはあの高みには到達できないわ」
そしてユピア隊が黒ゴーレムに敗北したことも聞いた。
敗北を悟ったセッカとラインはユピアを逃がすために逃亡しようとしたが、絶壁のような段差に阻まれラインが犠牲となった。
数少ないゼウスの加護を持つセッカはの『雷霆』をもってしてもゴーレムに傷すら付けられなかったという。
さんざんひとりで逃げるように言われたが仲間を置いて逃げられなかったユピア、セッカも死まで秒読みか……という時にモイセスたちが助け出したようだ。
終わってみれば参加した討伐隊は150名、重傷者は100名を超え死者まで出ていた。
「何が正しかったのだろう……」
そう思わずにはいられない。
「サクラちゃん、何が正しいのかなんてその人次第なのよ。今回は歴史にヴィクトリア女王が国を裏切った神子から街を取り戻した。ということになるでしょうね」
なんだか腑に落ちない。
「そんな顔をしないの。聖女にも会えたしユニ様も納得したんだから良いじゃない」
そうだ結衣……容姿も声も確かに結衣だった。しかし雰囲気が全然違う。でもあの時見えた手のひらにあったほくろは間違いなく結衣のもの。
「ふぁぁ……眠い」
「慣れないことが続いたからねー。わたしはラクナシアちゃんとお喋りしてるから少し寝なさい……」
「おやすみ……マーサンはどんなところなんだろうなぁ……」
『朔弥ー僕と一緒にちょっと旅しよう……』
ハル……ハルがしゃべった? 「……夢かな」
深い眠りにつくのであった。
──第4章 獣に植物に聖女結衣 完
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思い返してみれば8月末にこの小説を投稿、気づいてみれば50話超えまで来ました。低空飛行ながらもコメントなどをくれる皆様のおかげでここまでこれたものと思っております。
今後とも是非、よろしくお願いいたします。
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