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第六十四話 嘘つきと賞金首
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(く……そ……!)
(俺は……俺はフリムルを……助けてやれなかった……!!)
それからさまざまなことが、茫然と立ち尽くすだけの俺の目の前で繰り広げられた。
まず、残されたもうひとりの妖精、水の精霊・ウンディーネ、マルレーネ・フォレレの身柄の拘束と、彼女が生み出した《異界渡り》の壁――禍々しい輝きを湛えた――の検分および調査が行われた。
「うーがー! はぁーにゃーしぇー!」
「はぁ……まったく。かしましい子ですこと」
《七魔王》の中でも、最も魔導・魔術に長けている《森羅の魔王》、白耳長族の長たるフローラ=リリーブルームは、ふたりのオークの刑務官に両脇から抱えられながらもじたばたと足をばたつかせているマルレーネを一瞥し、問題の《壁》をしげしげと観察していた。
「これが……貴女の言う《異界渡り》の秘儀なのかしら?」
「そーよ! どっからどーみても、そーじゃん!」
「どう見ても、ですか……うっ」
禍々しく、どろり、と渦を巻いているそれは、誰がどう見ても怪しげで不気味だった。ときおり、ぼこり、と泡が浮き、嗅覚を刺激するガスがあたりに漂う。フローラ=リリーブルームは端正な顔を顰め、手にした白い生成りのハンカチを、ぎゅっ、と顔の中心に押しつけた。
「これ……入ったら、どうなりますの? ――仮に、死ななかったとして」
「そりゃー、どっかに行くに決まってるっしょー! 《異界渡り》の秘術だもーん!」
「………………秘術? 秘儀ではなくて?」
「ひ・じゅ・つ・! あの羽虫ヤローの出来損ないとは違うんですー!」
そこでフローラ=リリーブルームは他の《魔王》の方へ振り返り、同意を求めるように片眉を吊り上げてみせた。それに応じたのは、彼女の次に魔道・魔術に明るいであろう《不死の魔王》、ノーライフキングだ。
霞のごとく輪郭のあやふやな髑髏が、かか、と笑った。
「秘儀ト……秘術ハ……似て非なルものダ。貴公ノ見立てハ……正しイだろウ……」
「はぁ……ええ、そのようですわね、《不死王》」
「すまんが――説明を頼めるかの?」
「ええ」
見た目とは反して、まだ歳若いらしき《大地の魔王》、グズウィン・ニオブが他の皆を代表して問うと、フローラ=リリーブルームは快く頷き、《壁》から距離を置くように歩いてきた。
「あのウンディーネが生み出したものは、名前こそ同じ《異界渡り》とは言えど、まったくの別物のようですわ。いえ――本当は別の、違った名を持っているのかもしれません。けれど」
いまだ、きーきー! と喚き続けるマルレーネを一瞥し、フローラ=リリーブルームは再び《魔王》たちの方へ視線を戻してこう続ける。
「所詮、あの子も精霊です。誰かにそうと吹き込まれたのでしょうね。とかく、信じ込みやすいから、あの子たちは」
「おっとー! 意外な発言じゃないのさー、所詮、ってー」
「……ここだけの秘密にしてくださいな、リオネラ」
あの厳粛なフローラ=リリーブルームらしからぬ茶目っ気のあるウインクを目にして、獣人族の長、《蛮勇の魔王》、リオネラは目を丸くして驚いていたが、それ以上茶化すようなそぶりもなく、苦笑いして肩を竦めるだけだった。ふむ――と顎髭をしごき、グズウィン議長は問う。
「では、あちらにあるもうひとつの《光の壁》が――」
「ええ、《異界渡り》の秘儀で生み出された、異界から勇者を召喚するための正真正銘の本物」
「……なんということじゃ」
言葉を失ったグズウィンの隣に立った者が、拾い上げた石礫を放り捨てながら鼻を鳴らした。
「ふン。まだマシだった、というべきだろうよ。違うかね、土喰らいの爺様?」
「土なぞ喰いやせんわ、ひねくれ者の代行者め」
交わす言葉はとげとげしいものの、意外と仲は悪くなさそうだ。《天空の魔王》代行者、ネェロはつまらなさそうにもう一度鼻を鳴らすと、こう言い捨てる。
「あの裏切り者が、勇者候補らの暮らす《異世界》へ行ってみろ。ならば今頃は、とても軽口なぞ叩けぬ心持ちだろうよ」
「た、たしかに……」
はたしてどうなることやら想像もつかないことだったが、少なくとも双方の世界にとって良からぬことが起こるであろうとの察しはつく。腐ってもひとつの種族の長まで登りつめた者だ。
しかし――。
「が――幸いなことに、ヤツめがくぐったのはこっちの《壁》だ。はてさて、どこに繋がっていたのやら……」
ネェロは、先程までフローラ=リリーブルームが検分を行っていたもう一方の《壁》を指さし、にやり、と笑ってみせたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、次に。
「よーし! おとなしくしろ!」
「もちろんですとも。無駄な抵抗なぞ致しませぬ」
また別のオークの刑務官に引っ立てられて一同の前へと連れてこられたのは、薄汚れたローブに身を包んだ、ひとりの老人だった。その老人は穏やかな顔つきで、抵抗するそぶりはない。
「さて……お主は誰じゃね?」
「これはこれは《大地の魔王》、グズウィン・ニオブ様。お噂はかねがね。わたくしめは、ベリストン、かつて、王国魔導士長を務めておりました者にございます。どうぞお見知りおきを」
「………………聞き捨てならんな、その名」
ネェロは忌々しそうに一歩踏み出すが、隣から岩のようにごつごつした手が伸び、制される。
「愚王、ユスス・タロッティア五世に仕えし魔導士かね? なぜ結界を破った? そして、どうやってそれを成したのじゃ?」
「恐れながら、議長閣下。わたくしめはたしかにあの者の傘下におりました。しかし――」
ベリストンさんは力なく首を振ってみせ、そして、俺の方へ、ちらり、と視線を向けた。
「あの者に、心からの忠誠を誓ったことは一度たりともございませぬ。一度たりとも、です。わたくしめは自らの罪を恥じ、その罪を償うべく、そこな勇者エイ・アスマ殿の手助けをしたまでのこと。もとより裁きを受ける覚悟は……できておりまする」
「どうして――!?」
「カンタンなことですよ、エイ・アスマ殿」
ベリストンさんは顔を歪めて問い質した俺を、優しくなだめるように微笑んだ。
「あなた様は、わたくしの願いどおり、あの哀れな花妖精を助けようと、チカラを尽くしてくださった。あなた様には、こんな愚かしきわたくしめの願いを聞き届ける理屈も義理もないというのに。あなた様は、嘘のない、本当に良いお方です。で、あるならば――」
「違う……違うよ、ベリストンさん……! 俺は……俺なんて……何もできない……!」
「できる、できないは、まだ決しておりませんぞ、エイ・アスマ殿――いいや、勇者エイ殿!」
ベリストン元・王国魔導士長は、節くれだった人さし指を、そろり、と伸ばし、マルレーネが秘術によって開いてみせた扉、禍々しい《壁》を指さした。
「この扉は、あなた様の元いた世界には繋がっておりませぬ。《別世界》には。行き先は《この世界》のどこか。されど、それを探ることは難しい……くぐってみるのが確実ですが――」
「……そういうワケにはいかないよ、ベリストンさん」
俺が溜息とともに告げると、ベリストンさんは肯定するように何度も首を縦に振った。
「でしょうとも。あなた様ならばそのように仰ると思うておりました。まずは、その身の潔白を晴らしてから、と」
「俺だって、今すぐにも追いかけたいよ。でもさ――?」
俺は控えめに視線を巡らせて、後ろの方で《六魔王》となにやら言い争っている様子のエリナを見てから前を向く。
「この審問会は、もう俺が助かるかそうじゃないかだけの話じゃなくなってるんだ。ひとりの女の子の意地とプライドと、名誉を賭けた戦いになっててさ。フリムルが心配じゃない、っていったら嘘になるけど……」
「分かっておりますとも。それに、フリムルであれば、今しばらくは猶予もありましょうから」
「……どういう意味です? それ?」
「当分の間は《異界渡り》の秘儀は使えませぬでしょうからな」
「??」
ベリストンさんの言っている意味が分からない。俺は渋い顔をした。すると、辛抱強く会話の切れ目を伺っていたらしきフローラ=リリーブルームが口を開いた。
「……どうやらお詳しいようですね、魔導士長」
「元、でございますよ、《森の貴婦人》。今は老いさらばえた、ただの年寄りにございます」
ベリストンさんは皺ぶいた微笑みとともに応じると、その場に片膝をつき、右手を胸に添えて頭を垂れた。示された敬意に深く感じいったように、フローラ=リリーブルームは手を差し伸べてベリストンさんを引き起こす。老魔導士の瞳は、子どものようにきらきらと輝いていた。
「しかし――長くは生きてみるものですな。こうして貴女様にお会いすることが叶いましたぞ」
「ふふふ。彼の伝説の――と仰るのでしょう? ただのカビ臭い年寄りに過ぎませんわ」
「いえいえ! まさかまさか! ああ、まるで夢のようにございます――」
――なんだよ、ずいぶん仲良さげじゃないか。
白耳長族の長ともなれば、魔導・魔法の熟練者だ。魔導士長まで登りつめたベリストンさんだからこそ、その頂点、《森羅の魔王》であるフローラ=リリーブルームに会えて感激しているようだ。ただ、傍から見ていると、熟年ふたりのイチャコラに見えて顔がにやけてしまう。
「なんだかふたりだけの世界って感じですね……」
「おお、そうでした!」
……やれやれ、俺の皮肉は通じていなかったようだ。
すっかり上機嫌なベリストンさんは、俺とフローラ=リリーブルームに向けて――主に魔導・魔術に疎いであろう俺に向けて、一本指を立てると、こう告げたのだった。
「フリムルの魔力は、《異界渡り》の秘儀、一回分しかござらんのです。再び満ちるまでは、あの乱暴者も黙って待つよりないでしょう」
(俺は……俺はフリムルを……助けてやれなかった……!!)
それからさまざまなことが、茫然と立ち尽くすだけの俺の目の前で繰り広げられた。
まず、残されたもうひとりの妖精、水の精霊・ウンディーネ、マルレーネ・フォレレの身柄の拘束と、彼女が生み出した《異界渡り》の壁――禍々しい輝きを湛えた――の検分および調査が行われた。
「うーがー! はぁーにゃーしぇー!」
「はぁ……まったく。かしましい子ですこと」
《七魔王》の中でも、最も魔導・魔術に長けている《森羅の魔王》、白耳長族の長たるフローラ=リリーブルームは、ふたりのオークの刑務官に両脇から抱えられながらもじたばたと足をばたつかせているマルレーネを一瞥し、問題の《壁》をしげしげと観察していた。
「これが……貴女の言う《異界渡り》の秘儀なのかしら?」
「そーよ! どっからどーみても、そーじゃん!」
「どう見ても、ですか……うっ」
禍々しく、どろり、と渦を巻いているそれは、誰がどう見ても怪しげで不気味だった。ときおり、ぼこり、と泡が浮き、嗅覚を刺激するガスがあたりに漂う。フローラ=リリーブルームは端正な顔を顰め、手にした白い生成りのハンカチを、ぎゅっ、と顔の中心に押しつけた。
「これ……入ったら、どうなりますの? ――仮に、死ななかったとして」
「そりゃー、どっかに行くに決まってるっしょー! 《異界渡り》の秘術だもーん!」
「………………秘術? 秘儀ではなくて?」
「ひ・じゅ・つ・! あの羽虫ヤローの出来損ないとは違うんですー!」
そこでフローラ=リリーブルームは他の《魔王》の方へ振り返り、同意を求めるように片眉を吊り上げてみせた。それに応じたのは、彼女の次に魔道・魔術に明るいであろう《不死の魔王》、ノーライフキングだ。
霞のごとく輪郭のあやふやな髑髏が、かか、と笑った。
「秘儀ト……秘術ハ……似て非なルものダ。貴公ノ見立てハ……正しイだろウ……」
「はぁ……ええ、そのようですわね、《不死王》」
「すまんが――説明を頼めるかの?」
「ええ」
見た目とは反して、まだ歳若いらしき《大地の魔王》、グズウィン・ニオブが他の皆を代表して問うと、フローラ=リリーブルームは快く頷き、《壁》から距離を置くように歩いてきた。
「あのウンディーネが生み出したものは、名前こそ同じ《異界渡り》とは言えど、まったくの別物のようですわ。いえ――本当は別の、違った名を持っているのかもしれません。けれど」
いまだ、きーきー! と喚き続けるマルレーネを一瞥し、フローラ=リリーブルームは再び《魔王》たちの方へ視線を戻してこう続ける。
「所詮、あの子も精霊です。誰かにそうと吹き込まれたのでしょうね。とかく、信じ込みやすいから、あの子たちは」
「おっとー! 意外な発言じゃないのさー、所詮、ってー」
「……ここだけの秘密にしてくださいな、リオネラ」
あの厳粛なフローラ=リリーブルームらしからぬ茶目っ気のあるウインクを目にして、獣人族の長、《蛮勇の魔王》、リオネラは目を丸くして驚いていたが、それ以上茶化すようなそぶりもなく、苦笑いして肩を竦めるだけだった。ふむ――と顎髭をしごき、グズウィン議長は問う。
「では、あちらにあるもうひとつの《光の壁》が――」
「ええ、《異界渡り》の秘儀で生み出された、異界から勇者を召喚するための正真正銘の本物」
「……なんということじゃ」
言葉を失ったグズウィンの隣に立った者が、拾い上げた石礫を放り捨てながら鼻を鳴らした。
「ふン。まだマシだった、というべきだろうよ。違うかね、土喰らいの爺様?」
「土なぞ喰いやせんわ、ひねくれ者の代行者め」
交わす言葉はとげとげしいものの、意外と仲は悪くなさそうだ。《天空の魔王》代行者、ネェロはつまらなさそうにもう一度鼻を鳴らすと、こう言い捨てる。
「あの裏切り者が、勇者候補らの暮らす《異世界》へ行ってみろ。ならば今頃は、とても軽口なぞ叩けぬ心持ちだろうよ」
「た、たしかに……」
はたしてどうなることやら想像もつかないことだったが、少なくとも双方の世界にとって良からぬことが起こるであろうとの察しはつく。腐ってもひとつの種族の長まで登りつめた者だ。
しかし――。
「が――幸いなことに、ヤツめがくぐったのはこっちの《壁》だ。はてさて、どこに繋がっていたのやら……」
ネェロは、先程までフローラ=リリーブルームが検分を行っていたもう一方の《壁》を指さし、にやり、と笑ってみせたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、次に。
「よーし! おとなしくしろ!」
「もちろんですとも。無駄な抵抗なぞ致しませぬ」
また別のオークの刑務官に引っ立てられて一同の前へと連れてこられたのは、薄汚れたローブに身を包んだ、ひとりの老人だった。その老人は穏やかな顔つきで、抵抗するそぶりはない。
「さて……お主は誰じゃね?」
「これはこれは《大地の魔王》、グズウィン・ニオブ様。お噂はかねがね。わたくしめは、ベリストン、かつて、王国魔導士長を務めておりました者にございます。どうぞお見知りおきを」
「………………聞き捨てならんな、その名」
ネェロは忌々しそうに一歩踏み出すが、隣から岩のようにごつごつした手が伸び、制される。
「愚王、ユスス・タロッティア五世に仕えし魔導士かね? なぜ結界を破った? そして、どうやってそれを成したのじゃ?」
「恐れながら、議長閣下。わたくしめはたしかにあの者の傘下におりました。しかし――」
ベリストンさんは力なく首を振ってみせ、そして、俺の方へ、ちらり、と視線を向けた。
「あの者に、心からの忠誠を誓ったことは一度たりともございませぬ。一度たりとも、です。わたくしめは自らの罪を恥じ、その罪を償うべく、そこな勇者エイ・アスマ殿の手助けをしたまでのこと。もとより裁きを受ける覚悟は……できておりまする」
「どうして――!?」
「カンタンなことですよ、エイ・アスマ殿」
ベリストンさんは顔を歪めて問い質した俺を、優しくなだめるように微笑んだ。
「あなた様は、わたくしの願いどおり、あの哀れな花妖精を助けようと、チカラを尽くしてくださった。あなた様には、こんな愚かしきわたくしめの願いを聞き届ける理屈も義理もないというのに。あなた様は、嘘のない、本当に良いお方です。で、あるならば――」
「違う……違うよ、ベリストンさん……! 俺は……俺なんて……何もできない……!」
「できる、できないは、まだ決しておりませんぞ、エイ・アスマ殿――いいや、勇者エイ殿!」
ベリストン元・王国魔導士長は、節くれだった人さし指を、そろり、と伸ばし、マルレーネが秘術によって開いてみせた扉、禍々しい《壁》を指さした。
「この扉は、あなた様の元いた世界には繋がっておりませぬ。《別世界》には。行き先は《この世界》のどこか。されど、それを探ることは難しい……くぐってみるのが確実ですが――」
「……そういうワケにはいかないよ、ベリストンさん」
俺が溜息とともに告げると、ベリストンさんは肯定するように何度も首を縦に振った。
「でしょうとも。あなた様ならばそのように仰ると思うておりました。まずは、その身の潔白を晴らしてから、と」
「俺だって、今すぐにも追いかけたいよ。でもさ――?」
俺は控えめに視線を巡らせて、後ろの方で《六魔王》となにやら言い争っている様子のエリナを見てから前を向く。
「この審問会は、もう俺が助かるかそうじゃないかだけの話じゃなくなってるんだ。ひとりの女の子の意地とプライドと、名誉を賭けた戦いになっててさ。フリムルが心配じゃない、っていったら嘘になるけど……」
「分かっておりますとも。それに、フリムルであれば、今しばらくは猶予もありましょうから」
「……どういう意味です? それ?」
「当分の間は《異界渡り》の秘儀は使えませぬでしょうからな」
「??」
ベリストンさんの言っている意味が分からない。俺は渋い顔をした。すると、辛抱強く会話の切れ目を伺っていたらしきフローラ=リリーブルームが口を開いた。
「……どうやらお詳しいようですね、魔導士長」
「元、でございますよ、《森の貴婦人》。今は老いさらばえた、ただの年寄りにございます」
ベリストンさんは皺ぶいた微笑みとともに応じると、その場に片膝をつき、右手を胸に添えて頭を垂れた。示された敬意に深く感じいったように、フローラ=リリーブルームは手を差し伸べてベリストンさんを引き起こす。老魔導士の瞳は、子どものようにきらきらと輝いていた。
「しかし――長くは生きてみるものですな。こうして貴女様にお会いすることが叶いましたぞ」
「ふふふ。彼の伝説の――と仰るのでしょう? ただのカビ臭い年寄りに過ぎませんわ」
「いえいえ! まさかまさか! ああ、まるで夢のようにございます――」
――なんだよ、ずいぶん仲良さげじゃないか。
白耳長族の長ともなれば、魔導・魔法の熟練者だ。魔導士長まで登りつめたベリストンさんだからこそ、その頂点、《森羅の魔王》であるフローラ=リリーブルームに会えて感激しているようだ。ただ、傍から見ていると、熟年ふたりのイチャコラに見えて顔がにやけてしまう。
「なんだかふたりだけの世界って感じですね……」
「おお、そうでした!」
……やれやれ、俺の皮肉は通じていなかったようだ。
すっかり上機嫌なベリストンさんは、俺とフローラ=リリーブルームに向けて――主に魔導・魔術に疎いであろう俺に向けて、一本指を立てると、こう告げたのだった。
「フリムルの魔力は、《異界渡り》の秘儀、一回分しかござらんのです。再び満ちるまでは、あの乱暴者も黙って待つよりないでしょう」
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