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第43話 鮮血に染まる乙女ゴコロ事件(1) at 1995/4/26
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「ややや!? これは凄いモノを発見しちゃいましたよー!?」
突如教室に響き渡ったのは、やや興奮気味にうわずった吉川の声だった。
そのあだ名のごとくカエルのように平たく低い姿勢のガニ股でしゃがみこんだ吉川の声がした方向に、クラス全員が反射的に注目する。すると吉川は、もったいをつけるようにゆっくりと、その手に握った『戦利品』を高々と頭上に掲げてみせたのだった。
そう――僕はこの事件のことをはっきりと覚えている。
「これは一体なんですかねえー!? ふむふむ……ボク、わかんないなあー! くんくん……」
吉川が右手の中の白くて柔らかそうな包みに鼻を寄せて匂いを嗅ぐフリをすると、途端にクラスの女の子たちは怒りと羞恥が入り混じったような複雑な表情を浮かべて視線をそらした。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(くそっ! わかってるって! これが二度目だってことくらい!)
僕はブレザーの内ポケットで存在を主張し続けるスマホを憎々しげに睨みつける。
「うーん、いい匂い! これ、誰のですかねえー? なんだかドキドキしてきますねえー!」
今、吉川がこれみよがしに弄んでいるもの、それはクラスの女子の誰かの生理用品だった。
「おい、カエル! 俺にも貸してみろ!」
「ほいきた!」
小山田の一声に吉川が即座に応じる。受け取った小山田はごそごそと机の中を漁ると、目当ての物を見つけて取り出し、ぶにゅり、と押し出し塗りつけてから再びそれを高く掲げた。
「今日アノ日なのは誰だろうなー!? ええっと、体育見学してたのは……ん? お前か?」
乱暴に広げられた生理用品の中央には、真っ赤な絵の具がこれみよがしに塗りたくられていた。そのある種グロテスクで生理的嫌悪感を抱かせる即席のアートが、女の子たちのごく普通の日常を、穢れた忌まわしいものででもあるかのように貶め、辱めていた。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(うるさい! こう言いたいんだろ、お前は!? 僕はあの時何もできなかったって!!)
僕はひとりっ子だ。
姉がいるわけでも妹がいるわけでもない。
けれど、わかる。
今目の前で行われている行為が、どれほど残酷で、どれほど心を傷つけて、苦しめるかを。
「うへえっ! これ、やっべえ! きったねえの! ほれ、パスだパス!」
「うわっ! やめろよ小山田! こんなもん投げるなよ! ふざけんな、って!」
「ぎえええっ!? 触っちゃったじゃねえか! 手に付いちまったじゃねえかよ! くそっ!」
そして、小山田がそれをボールのように丸めて他の男子生徒に向けて投げつけると、あたかも罰ゲームかなにかのようにそれが教室中をあちこちと飛び交い始め、狂気にあてられたように喜悦まじりの嘲笑を浮かべた男子連中だけが、見るのもおぞましいゲームを開始した。
「お前片づけてこいよ! ほらっ!」
「やだよ!? こいつの持ち主がやればいいじゃん!」
もう、階層の高い低いもない。
もう、理性の欠片もなかった。
どうして誰も気づかないのか。
クラス中の女の子たちが屈辱にまみれ歯を喰いしばって耐えていることに。
どうして誰も気づけないのか。
こんなもの心を殺す公開処刑でしかないことに。
だから僕は――ゆっくりと立ち上がった。
突如教室に響き渡ったのは、やや興奮気味にうわずった吉川の声だった。
そのあだ名のごとくカエルのように平たく低い姿勢のガニ股でしゃがみこんだ吉川の声がした方向に、クラス全員が反射的に注目する。すると吉川は、もったいをつけるようにゆっくりと、その手に握った『戦利品』を高々と頭上に掲げてみせたのだった。
そう――僕はこの事件のことをはっきりと覚えている。
「これは一体なんですかねえー!? ふむふむ……ボク、わかんないなあー! くんくん……」
吉川が右手の中の白くて柔らかそうな包みに鼻を寄せて匂いを嗅ぐフリをすると、途端にクラスの女の子たちは怒りと羞恥が入り混じったような複雑な表情を浮かべて視線をそらした。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(くそっ! わかってるって! これが二度目だってことくらい!)
僕はブレザーの内ポケットで存在を主張し続けるスマホを憎々しげに睨みつける。
「うーん、いい匂い! これ、誰のですかねえー? なんだかドキドキしてきますねえー!」
今、吉川がこれみよがしに弄んでいるもの、それはクラスの女子の誰かの生理用品だった。
「おい、カエル! 俺にも貸してみろ!」
「ほいきた!」
小山田の一声に吉川が即座に応じる。受け取った小山田はごそごそと机の中を漁ると、目当ての物を見つけて取り出し、ぶにゅり、と押し出し塗りつけてから再びそれを高く掲げた。
「今日アノ日なのは誰だろうなー!? ええっと、体育見学してたのは……ん? お前か?」
乱暴に広げられた生理用品の中央には、真っ赤な絵の具がこれみよがしに塗りたくられていた。そのある種グロテスクで生理的嫌悪感を抱かせる即席のアートが、女の子たちのごく普通の日常を、穢れた忌まわしいものででもあるかのように貶め、辱めていた。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(うるさい! こう言いたいんだろ、お前は!? 僕はあの時何もできなかったって!!)
僕はひとりっ子だ。
姉がいるわけでも妹がいるわけでもない。
けれど、わかる。
今目の前で行われている行為が、どれほど残酷で、どれほど心を傷つけて、苦しめるかを。
「うへえっ! これ、やっべえ! きったねえの! ほれ、パスだパス!」
「うわっ! やめろよ小山田! こんなもん投げるなよ! ふざけんな、って!」
「ぎえええっ!? 触っちゃったじゃねえか! 手に付いちまったじゃねえかよ! くそっ!」
そして、小山田がそれをボールのように丸めて他の男子生徒に向けて投げつけると、あたかも罰ゲームかなにかのようにそれが教室中をあちこちと飛び交い始め、狂気にあてられたように喜悦まじりの嘲笑を浮かべた男子連中だけが、見るのもおぞましいゲームを開始した。
「お前片づけてこいよ! ほらっ!」
「やだよ!? こいつの持ち主がやればいいじゃん!」
もう、階層の高い低いもない。
もう、理性の欠片もなかった。
どうして誰も気づかないのか。
クラス中の女の子たちが屈辱にまみれ歯を喰いしばって耐えていることに。
どうして誰も気づけないのか。
こんなもの心を殺す公開処刑でしかないことに。
だから僕は――ゆっくりと立ち上がった。
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