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第114話 夜のブランコ at 1995/7/13
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――キーコ、キーコ。
「ふーん……モリケンは自分が嫌いなんだ、かー……。やっぱ大親友様々だねー」
なんとなくぎこちない雰囲気のまま部活を終え、家に帰って夕飯を済ませたタイミングだった。通りに面したキッチンの窓の外から聴こえる、チッ、チッ、という舌打ちに似た音に首を傾げながら顔を出して見下ろすと――はるか下の方に見慣れたパーカー短パン姿のロコがいたのだ。
舌打ちや喉をポコンと鳴らして合図するのは、団地族ならではの地域ルールのようなものである。のっぺりとした武骨な建造物が一定間隔で並んでいるので、よく反響して聴こえるのだった。
慌てて親父とお袋に出かける許可をもらい、僕も似たような姿で急いで飛び出してきた。今いるのは、団地の中に設けられた小さな遊具付きの公園である。相手がロコであると知らされた両親は、『広子ちゃんは女の子なんだから、早めに帰してあげなさいよ』と言っただけだ。
――キーコ、キーコ。
で、今は二人してブランコに揺られてる、ってわけ。
「な、なんだよ。わかるわー、みたいな言い方。ロコまでそんな風に見えるっていう気かよ?」
「じゃあ、ケンタは自分で自分のこと好き?」
――キーコ、キーコ。
「………………好きじゃない」
「ほーら。やっぱそーなんじゃん」
――キーコ、キーコ。
「そ、そっちこそどうなんだよ?」
「今はあたしのハナシじゃないもーん。残念でしたー教えませんー」
――キーコ、キーコ。
「……好きなわけないじゃん。こんなネクラでちょい太で、地味な底辺ザコ男子。取柄なんて、他の奴より少しくらい勉強ができる、ってだけだ。一番じゃなくって、少しくらい、ってだけ」
「そういうの、自分で言うかなーフツー……。っと、それはおいといて」
――キッ。
惰性で揺れていたブランコがぴたりと止まったのは、ロコが僕の方の鉄鎖を掴んだからだ。
「ケンタには、もっといいとこあるじゃん? なんで知ってるかって? そりゃあ師匠だもん」
「な……。だ……だったら言ってみろよ」
なぜかロコの言葉を耳にした途端急に気恥ずかしくなって、イキオイでごまかしてしまえと催促した自分のセリフにますます頬が熱くなった僕は、まともに顔を合わせることができなくなってしまった。が――しばらくたっても返事がこないので、そろり、と視線を横に向ける。
「おい……。なんでロコが真っ赤になってんだよ……」
「べっ!? べっつにー!? あ、赤くとかぜんっぜんなってませんけどぉー!?」
「なってるじゃん……」
公園の四方に立てられた水銀灯の薄青緑がかった白光の下でも、ロコの頬がほんのり赤らんでいるのがわかるくらいだ。その顔が、ぷい、とそっぽを向いてポニーテールが大きく揺れた。
「あ、あたしが言ったって、あんた自身がそう思わなかったらちっとも意味ないの。でしょ?」
「けど……けどさ? 自分でいくら考えたって、思いつかないものは思いつかないんだってば」
「はぁ……。ったく、ホント、世話が焼けるんだから……」
ぶつぶつと呟いたロコは、背を向けたままブランコからすっと腰を上げ、ひと呼吸する。
「た、たとえばよ? 他の誰かを守るためなら真剣に怒るとこ、とかあるじゃない。うんうん」
「うんうん、ってうなずかれても。全然共感できないんだけど」
「と・に・か・く、そういうとこっ! あとは他の子に聞きなさい! あ……あたし、帰るっ」
「あ……! お、おい! ロコってば!」
ずかずかと踏み鳴らす足音もやかましく、ほのかにシャンプーの香りを漂わせたロコは、そのまま二度と振り返ることなく僕をひとり残して家へと帰ってしまったのだった。
「ふーん……モリケンは自分が嫌いなんだ、かー……。やっぱ大親友様々だねー」
なんとなくぎこちない雰囲気のまま部活を終え、家に帰って夕飯を済ませたタイミングだった。通りに面したキッチンの窓の外から聴こえる、チッ、チッ、という舌打ちに似た音に首を傾げながら顔を出して見下ろすと――はるか下の方に見慣れたパーカー短パン姿のロコがいたのだ。
舌打ちや喉をポコンと鳴らして合図するのは、団地族ならではの地域ルールのようなものである。のっぺりとした武骨な建造物が一定間隔で並んでいるので、よく反響して聴こえるのだった。
慌てて親父とお袋に出かける許可をもらい、僕も似たような姿で急いで飛び出してきた。今いるのは、団地の中に設けられた小さな遊具付きの公園である。相手がロコであると知らされた両親は、『広子ちゃんは女の子なんだから、早めに帰してあげなさいよ』と言っただけだ。
――キーコ、キーコ。
で、今は二人してブランコに揺られてる、ってわけ。
「な、なんだよ。わかるわー、みたいな言い方。ロコまでそんな風に見えるっていう気かよ?」
「じゃあ、ケンタは自分で自分のこと好き?」
――キーコ、キーコ。
「………………好きじゃない」
「ほーら。やっぱそーなんじゃん」
――キーコ、キーコ。
「そ、そっちこそどうなんだよ?」
「今はあたしのハナシじゃないもーん。残念でしたー教えませんー」
――キーコ、キーコ。
「……好きなわけないじゃん。こんなネクラでちょい太で、地味な底辺ザコ男子。取柄なんて、他の奴より少しくらい勉強ができる、ってだけだ。一番じゃなくって、少しくらい、ってだけ」
「そういうの、自分で言うかなーフツー……。っと、それはおいといて」
――キッ。
惰性で揺れていたブランコがぴたりと止まったのは、ロコが僕の方の鉄鎖を掴んだからだ。
「ケンタには、もっといいとこあるじゃん? なんで知ってるかって? そりゃあ師匠だもん」
「な……。だ……だったら言ってみろよ」
なぜかロコの言葉を耳にした途端急に気恥ずかしくなって、イキオイでごまかしてしまえと催促した自分のセリフにますます頬が熱くなった僕は、まともに顔を合わせることができなくなってしまった。が――しばらくたっても返事がこないので、そろり、と視線を横に向ける。
「おい……。なんでロコが真っ赤になってんだよ……」
「べっ!? べっつにー!? あ、赤くとかぜんっぜんなってませんけどぉー!?」
「なってるじゃん……」
公園の四方に立てられた水銀灯の薄青緑がかった白光の下でも、ロコの頬がほんのり赤らんでいるのがわかるくらいだ。その顔が、ぷい、とそっぽを向いてポニーテールが大きく揺れた。
「あ、あたしが言ったって、あんた自身がそう思わなかったらちっとも意味ないの。でしょ?」
「けど……けどさ? 自分でいくら考えたって、思いつかないものは思いつかないんだってば」
「はぁ……。ったく、ホント、世話が焼けるんだから……」
ぶつぶつと呟いたロコは、背を向けたままブランコからすっと腰を上げ、ひと呼吸する。
「た、たとえばよ? 他の誰かを守るためなら真剣に怒るとこ、とかあるじゃない。うんうん」
「うんうん、ってうなずかれても。全然共感できないんだけど」
「と・に・か・く、そういうとこっ! あとは他の子に聞きなさい! あ……あたし、帰るっ」
「あ……! お、おい! ロコってば!」
ずかずかと踏み鳴らす足音もやかましく、ほのかにシャンプーの香りを漂わせたロコは、そのまま二度と振り返ることなく僕をひとり残して家へと帰ってしまったのだった。
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