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第121話 シミュレーションなら二度やった(おかわり) at 1995/7/15
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『……へー。はじめてきたけど、結構な数の本があるのねー!』
『しーっ。図書館ではお静かに。本の虫の僕にとっては、夢の国みたいなモンだよ。最高さ!』
おほん! という咳払いが聴こえ、びくっとカラダを震わせた僕らは顔を突き合わせてくすくすと忍び笑いをこぼした。確かにロコの言うとおりだ。こんなに近いと子供の頃を思い出す。
『あたしはこーゆー……なんて言うんだっけ? ラノベ、っての読まないんだけど。面白い?』
『そりゃあ、モノによるよ。そんなの、どんな本だって一緒じゃんか』
『ふーん……ま、それもそっか』
わかったのかわからなかったのか、ロコは口元をへの字に曲げて、眉根を寄せながら背伸びをし、書架から一冊、また一冊取り出しては表紙を眺めていた。ロコの向こう側には縦長の採光窓があり、柔らかく弱められた陽光が差し込んで、ワンピースに包まれたロコの滑らかな肢体をシルエットに浮き出していた。僕は素直にキレイだ、としばし見とれていたように思う。
すると、ロコが僕の視線に気づき、照れたように、困ったように控えめな笑顔を浮かべた。
「な、なによ? どうかしたの?」
「う――ううん。なんでもない。なんでもないよ……」
ロコは息を吸い――一旦溜めたそれを静かに吐き出すと、僕の耳に唇を寄せて囁いた。
『ごめん。やっぱあたし、こーゆー場所、ニガテだわ。……公園、行かない? 芹ヶ谷公園』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
町田中央図書館をあとにした僕らは、文学館通りの急な坂を上がり町田街道を越えて、豊かな緑と水と、彫刻が点在する市民の憩いの場、『芹ヶ谷公園』へとやって来た。
半日授業終わりに出発し、さんざん寄り道もしてきたから、もう陽はだいぶ傾いている。谷間に横たわるように広がるこの公園内にも長い影が落ち、少し肌寒く感じるくらいだった。
「ねえ――聞いてもいい?」
「何を?」
レンガ造りの花壇の上を、ひとつひとつ弾むように、踏み鳴らして歩きながらロコが尋ねる。まるでピアノの鍵盤で遊ぶ子猫のようだ。僕は、ロコの少し赤くなった踵に貼られたキャラクター入りの絆創膏を見つめながら問い返した。すると――。
「スミの――どこが一番好き?」
「――!? おまっ! な、何を――!?」
「いーじゃん、教えてくれたってー。けちんぼケンター」
突然、ロコが隣を歩く僕の背中に飛び乗るようにじゃれついてきた。やめろやめろ! と僕は笑いながら振り解こうとして、あの夜、二十六年後の同窓会の光景を思い出していた。
柔らかく丸められた拳が僕の背中を叩き、その振動が僕の心臓へと伝わっていく。
屈託なく笑うロコの声と甘くて熱い息が僕の首筋を、耳元を優しくくすぐる。
「もうっ! いい加減にやめろって――!」
次の瞬間、僕とロコは、互いの肩を掴むようにして、しばし見つめ合っていた。
距離が、近い。
弾む息が、顔を撫でる。
「「……」」
二人の間を涼風が通り過ぎ、刹那の呪縛が解けると、僕らはどちらからともなく身を離した。
「僕は……好きなんだ……スミちゃんのことが……!」
ロコは笑った。
いつものように、少し困ったような笑顔を浮かべて。
そして――家に帰るまでの道のりの中、僕とロコは一言も口を開かなかったのだった。
『しーっ。図書館ではお静かに。本の虫の僕にとっては、夢の国みたいなモンだよ。最高さ!』
おほん! という咳払いが聴こえ、びくっとカラダを震わせた僕らは顔を突き合わせてくすくすと忍び笑いをこぼした。確かにロコの言うとおりだ。こんなに近いと子供の頃を思い出す。
『あたしはこーゆー……なんて言うんだっけ? ラノベ、っての読まないんだけど。面白い?』
『そりゃあ、モノによるよ。そんなの、どんな本だって一緒じゃんか』
『ふーん……ま、それもそっか』
わかったのかわからなかったのか、ロコは口元をへの字に曲げて、眉根を寄せながら背伸びをし、書架から一冊、また一冊取り出しては表紙を眺めていた。ロコの向こう側には縦長の採光窓があり、柔らかく弱められた陽光が差し込んで、ワンピースに包まれたロコの滑らかな肢体をシルエットに浮き出していた。僕は素直にキレイだ、としばし見とれていたように思う。
すると、ロコが僕の視線に気づき、照れたように、困ったように控えめな笑顔を浮かべた。
「な、なによ? どうかしたの?」
「う――ううん。なんでもない。なんでもないよ……」
ロコは息を吸い――一旦溜めたそれを静かに吐き出すと、僕の耳に唇を寄せて囁いた。
『ごめん。やっぱあたし、こーゆー場所、ニガテだわ。……公園、行かない? 芹ヶ谷公園』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
町田中央図書館をあとにした僕らは、文学館通りの急な坂を上がり町田街道を越えて、豊かな緑と水と、彫刻が点在する市民の憩いの場、『芹ヶ谷公園』へとやって来た。
半日授業終わりに出発し、さんざん寄り道もしてきたから、もう陽はだいぶ傾いている。谷間に横たわるように広がるこの公園内にも長い影が落ち、少し肌寒く感じるくらいだった。
「ねえ――聞いてもいい?」
「何を?」
レンガ造りの花壇の上を、ひとつひとつ弾むように、踏み鳴らして歩きながらロコが尋ねる。まるでピアノの鍵盤で遊ぶ子猫のようだ。僕は、ロコの少し赤くなった踵に貼られたキャラクター入りの絆創膏を見つめながら問い返した。すると――。
「スミの――どこが一番好き?」
「――!? おまっ! な、何を――!?」
「いーじゃん、教えてくれたってー。けちんぼケンター」
突然、ロコが隣を歩く僕の背中に飛び乗るようにじゃれついてきた。やめろやめろ! と僕は笑いながら振り解こうとして、あの夜、二十六年後の同窓会の光景を思い出していた。
柔らかく丸められた拳が僕の背中を叩き、その振動が僕の心臓へと伝わっていく。
屈託なく笑うロコの声と甘くて熱い息が僕の首筋を、耳元を優しくくすぐる。
「もうっ! いい加減にやめろって――!」
次の瞬間、僕とロコは、互いの肩を掴むようにして、しばし見つめ合っていた。
距離が、近い。
弾む息が、顔を撫でる。
「「……」」
二人の間を涼風が通り過ぎ、刹那の呪縛が解けると、僕らはどちらからともなく身を離した。
「僕は……好きなんだ……スミちゃんのことが……!」
ロコは笑った。
いつものように、少し困ったような笑顔を浮かべて。
そして――家に帰るまでの道のりの中、僕とロコは一言も口を開かなかったのだった。
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