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第195話 あのときの返事を at 1995/8/27
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「スミ………………ちゃん?」
「ケンタ君……! まさか会えるとは思ってなかった……! だって……だってね……!」
僕は我が目を疑った。
あの青白い光が、祭りの会場である『中央公園』のいくつかある出入口の方へ消えていくのを見て、急いで追いかけ、角をひとつ曲がり、またもうひとつ曲がった。そのはずだった。
そして僕は――河東純美子と出会ったのだ。
合宿の時にはじめてその美しさに惹かれ、今またなおその愛らしさに胸がきゅっと絞めつけられる思いになる淡いピンクの中に一対のランチュウが舞い泳ぐそのあでやかな浴衣姿。見つめていると、純美子は照れたように耳元のほつれ髪を震える指先でそっとかき上げた。
「……絶対に勝てっこない、そう思っちゃってた。だから、本当にびっくりしちゃって……!」
「勝つ……? 一体誰に? それってなんの――?」
「それよりも、です。あの――あたしのお話し、聞いてくれますか、古ノ森健太君?」
僕が発した問いにこたえるより早く、純美子は思いつめたような顔で僕の目をまっすぐ見た。その硬く冗談の入り込む隙間ひとつない真剣な表情を、祭のおだやかな灯りが柔らかく照らす。
「う、うん」
僕は、うなずいた――と思う。
「あのね? あたし……あたしは、他の女の子に比べて、勝てるところがひとつもなかったの」
純美子は今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
僕は何も言えないまま、優しく首を振った。
「でもね? ケンタ君、前に言ってくれたでしょう? 『あたしの声が好き』だって。あれがあたし、とっても嬉しかったんだ、あのケンタ君の言葉が……。とっても、とっても……!」
純美子は潤んだ瞳をそっと伏せ、胸元で合わせた両手を、ぎゅっ、と握り締めた。
「だからね? あたし、夢を持ったの。誰にも負けない、あたしの夢……それさえ叶えば、あたしは他の女の子たち、誰にだって負けないはずだから。そう、きっと、あの子にだって……」
僕が誰かを問う前に、純美子は目を開き、その大きく濡れそぼった中に僕だけを映していた。
「古ノ森健太君。あたしは、ケンタ君にも負けたくなかったの。だってケンタ君は、いつもみんなのことを応援して、励まして、勇気づけてくれるから。そんなケンタ君にも勝ちたかった」
「そんなこと……」
「ううん」
純美子は、僕の弱々しい反論に首を振ってこたえた。
「だって、そうじゃなかったら、ケンタ君の隣には恥ずかしくって立っていられないもの。何もない、何も持ってないあたしじゃ……あたしは、あたしらしくいられる何かが欲しかったの」
「それって……何?」
「さっき言ったでしょ? あたしは、ケンタ君が好きって言ってくれた『あたしの声』で誰にも負けない子になるんだって、そう決めたの。だから、ケンタ君があの時、勇気を出してあたしに告白してくれた時に、ノーって答えちゃった……。もしかして……嫌いになっちゃった?」
純美子は一歩前に踏み出すと、不安そうに上目遣いで僕を覗き込んでくる。僕は首を振った。
「嫌いになってなんかないよ。嫌いになれるわけ……ないじゃないか。だって、僕はまだ――」
「……ダメだよ? それ以上は言っちゃ」
ぴと、と純美子の人差し指が僕の唇に触れ、あとから出てくる言葉を封じてしまった。
「やっと言えるんだもん。今度はあたしから――ケンタ君、あたし、あなたのことが好きです。とっても優しくって、優しすぎるケンタ君が……ねえ、お願いです、抱きしめてくれますか?」
どどん――打ち上げられた大輪の花火が、ひとつになったシルエットを浮かび上がらせる。
そして、僕の閉じゆく視界の端の方で青白い蝶が、ち、ち、ち、と舞い――やがて、消えた。
「ケンタ君……! まさか会えるとは思ってなかった……! だって……だってね……!」
僕は我が目を疑った。
あの青白い光が、祭りの会場である『中央公園』のいくつかある出入口の方へ消えていくのを見て、急いで追いかけ、角をひとつ曲がり、またもうひとつ曲がった。そのはずだった。
そして僕は――河東純美子と出会ったのだ。
合宿の時にはじめてその美しさに惹かれ、今またなおその愛らしさに胸がきゅっと絞めつけられる思いになる淡いピンクの中に一対のランチュウが舞い泳ぐそのあでやかな浴衣姿。見つめていると、純美子は照れたように耳元のほつれ髪を震える指先でそっとかき上げた。
「……絶対に勝てっこない、そう思っちゃってた。だから、本当にびっくりしちゃって……!」
「勝つ……? 一体誰に? それってなんの――?」
「それよりも、です。あの――あたしのお話し、聞いてくれますか、古ノ森健太君?」
僕が発した問いにこたえるより早く、純美子は思いつめたような顔で僕の目をまっすぐ見た。その硬く冗談の入り込む隙間ひとつない真剣な表情を、祭のおだやかな灯りが柔らかく照らす。
「う、うん」
僕は、うなずいた――と思う。
「あのね? あたし……あたしは、他の女の子に比べて、勝てるところがひとつもなかったの」
純美子は今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
僕は何も言えないまま、優しく首を振った。
「でもね? ケンタ君、前に言ってくれたでしょう? 『あたしの声が好き』だって。あれがあたし、とっても嬉しかったんだ、あのケンタ君の言葉が……。とっても、とっても……!」
純美子は潤んだ瞳をそっと伏せ、胸元で合わせた両手を、ぎゅっ、と握り締めた。
「だからね? あたし、夢を持ったの。誰にも負けない、あたしの夢……それさえ叶えば、あたしは他の女の子たち、誰にだって負けないはずだから。そう、きっと、あの子にだって……」
僕が誰かを問う前に、純美子は目を開き、その大きく濡れそぼった中に僕だけを映していた。
「古ノ森健太君。あたしは、ケンタ君にも負けたくなかったの。だってケンタ君は、いつもみんなのことを応援して、励まして、勇気づけてくれるから。そんなケンタ君にも勝ちたかった」
「そんなこと……」
「ううん」
純美子は、僕の弱々しい反論に首を振ってこたえた。
「だって、そうじゃなかったら、ケンタ君の隣には恥ずかしくって立っていられないもの。何もない、何も持ってないあたしじゃ……あたしは、あたしらしくいられる何かが欲しかったの」
「それって……何?」
「さっき言ったでしょ? あたしは、ケンタ君が好きって言ってくれた『あたしの声』で誰にも負けない子になるんだって、そう決めたの。だから、ケンタ君があの時、勇気を出してあたしに告白してくれた時に、ノーって答えちゃった……。もしかして……嫌いになっちゃった?」
純美子は一歩前に踏み出すと、不安そうに上目遣いで僕を覗き込んでくる。僕は首を振った。
「嫌いになってなんかないよ。嫌いになれるわけ……ないじゃないか。だって、僕はまだ――」
「……ダメだよ? それ以上は言っちゃ」
ぴと、と純美子の人差し指が僕の唇に触れ、あとから出てくる言葉を封じてしまった。
「やっと言えるんだもん。今度はあたしから――ケンタ君、あたし、あなたのことが好きです。とっても優しくって、優しすぎるケンタ君が……ねえ、お願いです、抱きしめてくれますか?」
どどん――打ち上げられた大輪の花火が、ひとつになったシルエットを浮かび上がらせる。
そして、僕の閉じゆく視界の端の方で青白い蝶が、ち、ち、ち、と舞い――やがて、消えた。
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