ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

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第205話 意外な真犯人 at 1995/9/8

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「………………やっぱりか」


 僕はトイレに行くと嘘をつき、追加作業で慌ただしい部室をひとり抜け出して、昇降口に来ていた。そして、あることを確認し終えた自分の物ではない上履きを元の場所にそっと戻す。


 あらかじめ手尺で計っておいた靴跡ともサイズは一致した。

 なにより、靴底の溝にこびりついたままの絵の具がなによりの証拠だった。


 昇降口からグラウンドを見ると、まだサッカー部は練習中のようだ。町田は昔から、サッカーが盛んな街だ。なかでも有名な『町田SSSスリーエスサッカークラブ』は、Jリーガーも多数排出している名門クラブである。町田っ子にとってサッカーがうまいということはステータスだ。


(っていうか……底辺陰キャの僕なんかにこだわる意味がちっともわかんないんだよなぁ……)


 もう勝負をはじめる前から、とはとっくに大きな差が付いているのだ。

 にもかかわらず、あえてここで対決し、勝敗を決しておきたい理由として考えられることは。


(はぁ……。あんまり考えたくもないけれど、その可能性が高いな……)


 僕はげんなりして、ひとり溜息をつく。

 ともかく、確認すべきことはもう済んだ。
 誰かに見つからないうちに部室へ戻るとしよう。





 と――。





「……そこで何してるんだ、モリケン?」

「なにも。というか、僕が下駄箱にいたらいけないのかい、ムロ?」


 堅い表情のまま声をかけてきたのは、イケメングループのリーダー、室生秀一だった。教室ではあんなに愛想よく、男女問わず平等に接しているはずなのに、今はその面影は、微塵も、ない。


「質問に答えろ。ここで何をしていた?」

「……おいおい、なんか怖いぜ、ムロ? クラスの人気者がしていい顔じゃないだろ、それは」

「馴れ馴れしく呼ぶなよ、モリケン――」


 室生は僕のおどけた口調を耳にして、心底嫌そうに眉根を寄せた。


「僕の顔の話なんてどうでもいい。いいから質問に答えろよ、今すぐに。さもないと――」

「『また何かがぞ』か? さすがに文化祭に間に合わなくなるから勘弁して欲しいな」


 次第に口調が荒れてきた室生のセリフを遮るように僕がさらりとそう告げると、目の前の端正なマスクにひびが入り、その色合いはたちまち青っぽいものに変化した。続けて僕は言った。


「正直、意外だったよ、ムロ。あの二人ならやりかねない、そう思ってたんだから。でも、上履きに付いていた絵の具はまだ乾いてなかった。なら、時間はそれほど経ってない。だろ?」

「……」

「安心しろって。僕は誰にも絶対言うつもりはないし、センセイに告げ口もしなければ、君を脅したりなんかしないから。けれど……理由は知りたい。どうしてだ? どうしてなんだ?」


 室生はふてくされたように僕から視線をそらしたまま、口を開こうとはしなかった。


 だが、辛抱強くまっていると、ようやくかすれた声でこう答えた。


「……お前には言わない。お前にだけは」

「はぁ……」


 僕は長い溜息をはいて、首を振るしかなかった。


「小学校の頃、同じクラスだった友だちだろ? ほら、よくロコと三人して遊んだりさ――」

「だからだ。僕はそれが……たまらなく嫌だった」


 ……どういう意味だ?

 だが、僕は聴き返す前に、室生はくるりと背を向ける。
 そして、背中越しにこう告げた。


「言いふらしたかったらそうすればいい。でも……僕はこの勝負、必ず勝つ。勝ってみせるよ」


 そして、もう二度と振り返ることなく、室生は僕の心に疑問を残したまま立ち去って行ったのだった。


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