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第244話 リトライ者同盟(2) at 1995/9/22
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『ひとつひとつの事象を考察してみる時間はない。だからこそ憶測でしかないのだがね――』
僕とロコは、『電算論理研究部』の部室の真ん中に置かれたちゃぶ台を挟むようにして向かい合って座っていた。長い話になるだろう、そう踏んでティーカップに注がれた温かい紅茶も準備済みだ。まだなにも知らされていなかったロコへの『現実乖離率』についての説明が一通り済んだところで、時巫女・セツナは慎重に言葉を選ぶようにしてゆっくりと話しはじめた。
『――のちの未来でいずれ起こりうることなのだからといって、今時点の時間軸で、意図的に先走りするカタチで引き起こしてしまった場合には、厳密には現実と一致しているとは言えない。かといって、大きく乖離してしまうのかといえばそうではない、ということなのだろうな』
「結果論ではなくて、過程も含めての再現性の問題か……」
『そういうことだろうよ、古ノ森健太』
ゼロと1のデジタルではなく、もっとファジーで流動的なものだということだろう。
『いずれ実がなる木とはいえど、花も咲かぬうちに買い付けることなどできまい? 違うか?』
「けれど、僕らは二十六年も昔の出来事を、逐一正確に再現することなんてできないんだぞ?」
『矛盾することを言うようだが……些細な差異くらいなら、自然に淘汰されるのだろうな。晴天雨天の日数が多少違おうと、木にはやがて花が咲き、実をつける。流れも結末も変わらない』
「その違いが些細じゃないレベルにまで達したら?」
『それはすでにお前自身が体験したはずだ、古ノ森健太。ココロに苦い記憶が刻まれたはずだ』
時巫女・セツナが暗に指し示しているのは、芹ヶ谷公園での苦い失恋体験のことだろう。
あの時、あの時点では、僕が告白して、純美子がオーケーする、ということは、何者かの許容できる範囲をはるかに超えてしまう事象だっただろう。それが誰を指すのかは不明だけれど。
「ならハナシを変えよう。……現実乖離率が一〇〇パーセントに達した場合、なにが起こる?」
『………………わからない』
「おいおいおい。あれほど人を脅かしておいて、わからないって――」
『単純なハナシだ。不可能だ、不可能だったからだ』
「不可、能、って……? もしかして……試した……のか?」
『ああ。試したとも。ありとあらゆる方法を使って、私は――私たちは超えようとしたのだよ』
――私たち。
記憶違いでなければ、以前にも時巫女・セツナは『私たち』という言葉を使った。それは、自分とロコのことを指すのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。ならば――。
いや、今はやめておこう。
僕は、ちらり、と真剣な顔付きで僕たちのやりとりに耳を傾けているロコを見て思い直す。
「つまり……それはこういうことか? 君たちは、今までに何度も『リトライ』している?」
『そうだ』
「それは……僕らの、この過去で、ということなのか?」
『いいや、違う。少なくとも、今までは』
「僕らはどうなんだ? 僕とロコは? これは何回目なんだ?」
『私の知る限りでは、お前たちはこれが一回目だ。そして、これきりで元の時間に戻るだろう』
時巫女・セツナの話す言葉を聞けば聞くほど、タイムリープに巻き込まれた側だとは思えないような発言が目立つ。だが、そうではない、と言われたら僕たちは信じるよりない。
「ひとつ前のハナシに戻そう、時巫女・セツナ。君たちの『リトライ』の起点と終点はどこだ」
『はじまりは、中学二年になった四月だ』
しかし、時巫女・セツナはそこまで言ったっきり、続く言葉をなかなか口にしようとしない。
「お、おい、どうしたんだよ? どこまで進んだら、ふりだしに戻されるんだ?」
『………………今は、言えない』
「どうして!?」
長い間、時巫女・セツナは静かに口を閉ざしていた。
やがてかすれたような声でこういったのだった。
『きっとそれを口にすれば、お前たちを傷つけ、悲しませてしまうことになるだろうからだ』
僕とロコは、『電算論理研究部』の部室の真ん中に置かれたちゃぶ台を挟むようにして向かい合って座っていた。長い話になるだろう、そう踏んでティーカップに注がれた温かい紅茶も準備済みだ。まだなにも知らされていなかったロコへの『現実乖離率』についての説明が一通り済んだところで、時巫女・セツナは慎重に言葉を選ぶようにしてゆっくりと話しはじめた。
『――のちの未来でいずれ起こりうることなのだからといって、今時点の時間軸で、意図的に先走りするカタチで引き起こしてしまった場合には、厳密には現実と一致しているとは言えない。かといって、大きく乖離してしまうのかといえばそうではない、ということなのだろうな』
「結果論ではなくて、過程も含めての再現性の問題か……」
『そういうことだろうよ、古ノ森健太』
ゼロと1のデジタルではなく、もっとファジーで流動的なものだということだろう。
『いずれ実がなる木とはいえど、花も咲かぬうちに買い付けることなどできまい? 違うか?』
「けれど、僕らは二十六年も昔の出来事を、逐一正確に再現することなんてできないんだぞ?」
『矛盾することを言うようだが……些細な差異くらいなら、自然に淘汰されるのだろうな。晴天雨天の日数が多少違おうと、木にはやがて花が咲き、実をつける。流れも結末も変わらない』
「その違いが些細じゃないレベルにまで達したら?」
『それはすでにお前自身が体験したはずだ、古ノ森健太。ココロに苦い記憶が刻まれたはずだ』
時巫女・セツナが暗に指し示しているのは、芹ヶ谷公園での苦い失恋体験のことだろう。
あの時、あの時点では、僕が告白して、純美子がオーケーする、ということは、何者かの許容できる範囲をはるかに超えてしまう事象だっただろう。それが誰を指すのかは不明だけれど。
「ならハナシを変えよう。……現実乖離率が一〇〇パーセントに達した場合、なにが起こる?」
『………………わからない』
「おいおいおい。あれほど人を脅かしておいて、わからないって――」
『単純なハナシだ。不可能だ、不可能だったからだ』
「不可、能、って……? もしかして……試した……のか?」
『ああ。試したとも。ありとあらゆる方法を使って、私は――私たちは超えようとしたのだよ』
――私たち。
記憶違いでなければ、以前にも時巫女・セツナは『私たち』という言葉を使った。それは、自分とロコのことを指すのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。ならば――。
いや、今はやめておこう。
僕は、ちらり、と真剣な顔付きで僕たちのやりとりに耳を傾けているロコを見て思い直す。
「つまり……それはこういうことか? 君たちは、今までに何度も『リトライ』している?」
『そうだ』
「それは……僕らの、この過去で、ということなのか?」
『いいや、違う。少なくとも、今までは』
「僕らはどうなんだ? 僕とロコは? これは何回目なんだ?」
『私の知る限りでは、お前たちはこれが一回目だ。そして、これきりで元の時間に戻るだろう』
時巫女・セツナの話す言葉を聞けば聞くほど、タイムリープに巻き込まれた側だとは思えないような発言が目立つ。だが、そうではない、と言われたら僕たちは信じるよりない。
「ひとつ前のハナシに戻そう、時巫女・セツナ。君たちの『リトライ』の起点と終点はどこだ」
『はじまりは、中学二年になった四月だ』
しかし、時巫女・セツナはそこまで言ったっきり、続く言葉をなかなか口にしようとしない。
「お、おい、どうしたんだよ? どこまで進んだら、ふりだしに戻されるんだ?」
『………………今は、言えない』
「どうして!?」
長い間、時巫女・セツナは静かに口を閉ざしていた。
やがてかすれたような声でこういったのだった。
『きっとそれを口にすれば、お前たちを傷つけ、悲しませてしまうことになるだろうからだ』
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