263 / 539
第262話 波乱ぶくみの運動会(8) at 1995/10/10
しおりを挟む
「午後からの競技で二年生が出るのは……障害物競争、借り物競争、組体操、組対抗リレーか」
「まぁ、とかいって、さすがに組対抗リレーに出る奴なんて、ウチの部にはいないけどね?」
「あ、あのぅ……僕、出ることになっちゃってるんですけど……」
「………………えええええ!? マジぃ!?」
世界一幸福な昼食を終え――とはいえ、お袋が作ってくれた分までキレイにたいらげるのは拷問に近かったけれど――半分うとうととしながら午後のプログラムを確認していた僕と渋田は、佐倉君の遠慮がちなカミングアウトにたちまち眠気がぶっ飛んでいた。
「組対抗リレーって、騎馬戦の直前じゃないの!? いやいやいや! なんでまた――!?」
「もう。かえでちゃんが足の速いことは知ってるじゃない、ケンタ君」
「………………あ」
そうだった。
純美子を誘って『成瀬クリーンセンターテニスコート』で行われた国内ジュニアのランキング試合を見た僕らならば知っている。並み居る選手たちと比べるとやや体格で劣る小柄な佐倉君が、彼らと対等に渡り合うために磨き抜いた武器、それが佐倉君のずば抜けた脚力なのだ。
「す、すみませんっ! で、でもっ! スタミナ的にはぜんぜん問題なくって――!」
「いやいやいや! 謝るのはこっちの方だって!」
しきりに頭を下げようとする佐倉君を押し留め――いい匂いするぅ!――逆に深々と頭を下げた。
「凄いよ! 凄いじゃん、リレーの選手に選ばれるだなんて! まさに漢の見せどころだよ!」
「カッコいいところ、あたしにも見せてよね、か・え・で・ちゃん!」
「ごくり……お、漢の見せどころ……! ぼ、僕、がんばりますっ!」
僕の口にした『漢』というキーワードと、横からカットインしてきたロコのチャーミングなウインクとおねだりに、佐倉君の魂に、ぼっ、と炎が灯ったのがわかる。ポーズかわいいけど。
「まあ、人数多い学校だから、一人最低三種目出場しろ、ってルールはむしろありがたいよな」
「全員参加の徒競走と騎馬戦で二つだから、あとは午後のどれかに出ればいいだけだもんねー」
「って言ってるシブチンは? 何にしたんだ?」
「ん? 僕は組体操だけど?」
おい……その体形で、っていうツッコミ待ちか?
「に、似合わねえ……」
「似合う似合わないじゃないよ、モリケン。ポイントに関係ないから気楽にできる、ってわけ」
「な、なるほど……それも一理あるな……」
世の人間は、リーダー格、陽キャ、陰キャ、モブの四種類に分けられるが、ほとんどの連中がその垣根を超えて『チームとしての勝利』のため勇往邁進するのが運動会というものだ。だからこそ、慣れない不得手な競技に出てさんざんな結果を残そうものなら、あとで吊し上げにあってしまう。それを避けるため、あえて『組体操』を選んだ渋田は賢いと言えるだろう。
「つーか、モリケンは何にしたの?」
「ええと………………借り物競争です」
「マジで!? あの、毎年変なお題ばっかりで、途中で棄権する選手続出のアレ選んだの!?」
すっかり忘れてたんだよぉ……。
そういわれてみれば徐々に記憶が蘇ってくる。フツーに『お父さん』『お母さん』とか家族の誰かを連れてくるとかにすればいいのに、『かつらをかぶってる人』とか『魚屋の大将』とか、しまいには『好きな子のリコーダー』とかまであった気がする。犯罪助長するなよ……。
まさかそんな奇想天外なお題をセンセイたちが書くとは思えないので、恐らくクラス委員から選抜された運動会実行委員会の連中が悪ノリした結果なのだろう。いつからそうなったかは不明だけれど、それが毎年となり、恒例となり、それが楽しみで観に来ている客もいるらしい。
「も、もう選んじゃったんだから仕方ないだろ!? つーか、逆にクリア率が低いからこそ、ギブアップしても怒られないし、クリアできちゃったら大幅に差をつけることができるんだ!」
「ポ……ポジティブだね、ケンタ君って」
「そうじゃないと、ココロが折れそうなだけです……」
「まぁ、とかいって、さすがに組対抗リレーに出る奴なんて、ウチの部にはいないけどね?」
「あ、あのぅ……僕、出ることになっちゃってるんですけど……」
「………………えええええ!? マジぃ!?」
世界一幸福な昼食を終え――とはいえ、お袋が作ってくれた分までキレイにたいらげるのは拷問に近かったけれど――半分うとうととしながら午後のプログラムを確認していた僕と渋田は、佐倉君の遠慮がちなカミングアウトにたちまち眠気がぶっ飛んでいた。
「組対抗リレーって、騎馬戦の直前じゃないの!? いやいやいや! なんでまた――!?」
「もう。かえでちゃんが足の速いことは知ってるじゃない、ケンタ君」
「………………あ」
そうだった。
純美子を誘って『成瀬クリーンセンターテニスコート』で行われた国内ジュニアのランキング試合を見た僕らならば知っている。並み居る選手たちと比べるとやや体格で劣る小柄な佐倉君が、彼らと対等に渡り合うために磨き抜いた武器、それが佐倉君のずば抜けた脚力なのだ。
「す、すみませんっ! で、でもっ! スタミナ的にはぜんぜん問題なくって――!」
「いやいやいや! 謝るのはこっちの方だって!」
しきりに頭を下げようとする佐倉君を押し留め――いい匂いするぅ!――逆に深々と頭を下げた。
「凄いよ! 凄いじゃん、リレーの選手に選ばれるだなんて! まさに漢の見せどころだよ!」
「カッコいいところ、あたしにも見せてよね、か・え・で・ちゃん!」
「ごくり……お、漢の見せどころ……! ぼ、僕、がんばりますっ!」
僕の口にした『漢』というキーワードと、横からカットインしてきたロコのチャーミングなウインクとおねだりに、佐倉君の魂に、ぼっ、と炎が灯ったのがわかる。ポーズかわいいけど。
「まあ、人数多い学校だから、一人最低三種目出場しろ、ってルールはむしろありがたいよな」
「全員参加の徒競走と騎馬戦で二つだから、あとは午後のどれかに出ればいいだけだもんねー」
「って言ってるシブチンは? 何にしたんだ?」
「ん? 僕は組体操だけど?」
おい……その体形で、っていうツッコミ待ちか?
「に、似合わねえ……」
「似合う似合わないじゃないよ、モリケン。ポイントに関係ないから気楽にできる、ってわけ」
「な、なるほど……それも一理あるな……」
世の人間は、リーダー格、陽キャ、陰キャ、モブの四種類に分けられるが、ほとんどの連中がその垣根を超えて『チームとしての勝利』のため勇往邁進するのが運動会というものだ。だからこそ、慣れない不得手な競技に出てさんざんな結果を残そうものなら、あとで吊し上げにあってしまう。それを避けるため、あえて『組体操』を選んだ渋田は賢いと言えるだろう。
「つーか、モリケンは何にしたの?」
「ええと………………借り物競争です」
「マジで!? あの、毎年変なお題ばっかりで、途中で棄権する選手続出のアレ選んだの!?」
すっかり忘れてたんだよぉ……。
そういわれてみれば徐々に記憶が蘇ってくる。フツーに『お父さん』『お母さん』とか家族の誰かを連れてくるとかにすればいいのに、『かつらをかぶってる人』とか『魚屋の大将』とか、しまいには『好きな子のリコーダー』とかまであった気がする。犯罪助長するなよ……。
まさかそんな奇想天外なお題をセンセイたちが書くとは思えないので、恐らくクラス委員から選抜された運動会実行委員会の連中が悪ノリした結果なのだろう。いつからそうなったかは不明だけれど、それが毎年となり、恒例となり、それが楽しみで観に来ている客もいるらしい。
「も、もう選んじゃったんだから仕方ないだろ!? つーか、逆にクリア率が低いからこそ、ギブアップしても怒られないし、クリアできちゃったら大幅に差をつけることができるんだ!」
「ポ……ポジティブだね、ケンタ君って」
「そうじゃないと、ココロが折れそうなだけです……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる