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第302話 襲撃(1) at 1995/10/30
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『――以上で、全校朝礼を終わります。一同――気を付け――礼――』
校舎ほぼ中央の丸時計の上に据え付けられたメガホン型のスピーカーから、梅田センセイのそのシメのひとことが出てくるまで、僕はずっと緊張しっぱなしだった。ようやくこり固まってしまったカラダのチカラを抜いて、深々と長い息を吐く。
その原因はもちろん、あの『草食獣的過激思想少女』こと三溝優子さんが無謀にも企てた、『無敵の悪』こと赤川龍彦の偽装殺人計画(未遂)だ。
あれだけの事故だ、あとになって怖ろしくなった運転手が学校側に通報したりしてやしないかと思ったのだ。そうでなくても、あの瞬間の常軌を逸したブレーキ音で騒ぎに気づいた住民がいたところで少しもおかしくはないし、主犯格である三溝さんがすっかりビビッてしまい、ご両親に洗いざらい打ち明けてしまっている可能性だってあった。第一、僕は直接見ていないものの、三溝さんがタツヒコの自転車に仕掛けたという確たる証拠でも残っていたとしたら、事故ではなく事件として取り上げられる可能性だってあるのだ。
だが実際には――。
今日の全校朝礼では、『殺人計画』のサの字も出ないどころか、あやうく被害者――犠牲者になるところだったタツヒコの姿も見えないではないか。
(もしかして……あまりのショックに、登校拒否になっちゃった、とか……?)
にま、と笑みのカタチをとりそうになる表情筋を叱りつけ、難しい顔つきのまま背伸びをするようにして二年一組の列をもう一度眺めてみる。うん、うんうんうん、確かに――いない。
――が、その時だった。
ブォン! ブォンブォン!
騒がしく落ち着きのないエンジン音とそれを悪意と敵意で増幅させるマフラーが咆哮する。あたりに焼け焦げたようなケミカルな臭気と白い煙を撒き散らしながら、数台の原動機付自転車が開け放たれた校門から乱入してきたのだ。その先頭の一台に座るのは――。
「ま、まさか……タツヒコか……!?」
ヘルメットもかぶらず、身に着けている服装も中学指定の制服ではなかった。暴走族が着るいわゆる特攻服という奴だ。真っ白いツナギのような上下は、上がファスナーで開くらしく、腰のベルト近くまで開け広げになっているその中から、どうやらサラシらしきものまで見えた。
そして、タツヒコの右手がゆっくりと上げられた。
「おぉう! おぉおおおおおう! いくぜぇ!」
号令を合図に、タツヒコの後ろに控えていた原動機付自転車が一斉に走り出す。思い思いの方向目掛け、生徒が立っていようがいまいがお構いなし、といったスピードで駆け抜ける。目を凝らして見たが、どのライダーもノーヘルで、一人も見知った顔はない。どういうつながりなのだろう、と思っていると、いよいよタツヒコまでスロットルを回し、やかましいエンジン音をそこら中に垂れ流しはじめた。そうしてひとしきり自分の奏でた雑音に酔いしれると――。
「おぉう! おぉおおおおおう! ひひひっ!」
脇目もふらずにタツヒコは、進路を僕らのいる二年十一組にしっかりと定め、猛スピードで走らせた。
「くそっ!! スミちゃん! 渋田! みんなを集めて固まって!」
とっさに僕は方々に声をかけると、集まってくる部員たちを見届けてから、守るように一歩足を踏みだした。危ない、待って、そんな声が聴こえた気がしたが、僕にはもっと大事な――。
――じゃりっ。
「……ンだよ、ナプキン王子? てめぇの出る幕じゃねえって。ひっこんでろ!」
「誰かに守ってもらえるだなんて、虫の好いハナシは信じないようにしてるんだ」
同じ歩調で足を踏みだした少年――小山田徹に向けて、僕は、にやり、と不敵な笑みを浮かべてみせるのだった。
校舎ほぼ中央の丸時計の上に据え付けられたメガホン型のスピーカーから、梅田センセイのそのシメのひとことが出てくるまで、僕はずっと緊張しっぱなしだった。ようやくこり固まってしまったカラダのチカラを抜いて、深々と長い息を吐く。
その原因はもちろん、あの『草食獣的過激思想少女』こと三溝優子さんが無謀にも企てた、『無敵の悪』こと赤川龍彦の偽装殺人計画(未遂)だ。
あれだけの事故だ、あとになって怖ろしくなった運転手が学校側に通報したりしてやしないかと思ったのだ。そうでなくても、あの瞬間の常軌を逸したブレーキ音で騒ぎに気づいた住民がいたところで少しもおかしくはないし、主犯格である三溝さんがすっかりビビッてしまい、ご両親に洗いざらい打ち明けてしまっている可能性だってあった。第一、僕は直接見ていないものの、三溝さんがタツヒコの自転車に仕掛けたという確たる証拠でも残っていたとしたら、事故ではなく事件として取り上げられる可能性だってあるのだ。
だが実際には――。
今日の全校朝礼では、『殺人計画』のサの字も出ないどころか、あやうく被害者――犠牲者になるところだったタツヒコの姿も見えないではないか。
(もしかして……あまりのショックに、登校拒否になっちゃった、とか……?)
にま、と笑みのカタチをとりそうになる表情筋を叱りつけ、難しい顔つきのまま背伸びをするようにして二年一組の列をもう一度眺めてみる。うん、うんうんうん、確かに――いない。
――が、その時だった。
ブォン! ブォンブォン!
騒がしく落ち着きのないエンジン音とそれを悪意と敵意で増幅させるマフラーが咆哮する。あたりに焼け焦げたようなケミカルな臭気と白い煙を撒き散らしながら、数台の原動機付自転車が開け放たれた校門から乱入してきたのだ。その先頭の一台に座るのは――。
「ま、まさか……タツヒコか……!?」
ヘルメットもかぶらず、身に着けている服装も中学指定の制服ではなかった。暴走族が着るいわゆる特攻服という奴だ。真っ白いツナギのような上下は、上がファスナーで開くらしく、腰のベルト近くまで開け広げになっているその中から、どうやらサラシらしきものまで見えた。
そして、タツヒコの右手がゆっくりと上げられた。
「おぉう! おぉおおおおおう! いくぜぇ!」
号令を合図に、タツヒコの後ろに控えていた原動機付自転車が一斉に走り出す。思い思いの方向目掛け、生徒が立っていようがいまいがお構いなし、といったスピードで駆け抜ける。目を凝らして見たが、どのライダーもノーヘルで、一人も見知った顔はない。どういうつながりなのだろう、と思っていると、いよいよタツヒコまでスロットルを回し、やかましいエンジン音をそこら中に垂れ流しはじめた。そうしてひとしきり自分の奏でた雑音に酔いしれると――。
「おぉう! おぉおおおおおう! ひひひっ!」
脇目もふらずにタツヒコは、進路を僕らのいる二年十一組にしっかりと定め、猛スピードで走らせた。
「くそっ!! スミちゃん! 渋田! みんなを集めて固まって!」
とっさに僕は方々に声をかけると、集まってくる部員たちを見届けてから、守るように一歩足を踏みだした。危ない、待って、そんな声が聴こえた気がしたが、僕にはもっと大事な――。
――じゃりっ。
「……ンだよ、ナプキン王子? てめぇの出る幕じゃねえって。ひっこんでろ!」
「誰かに守ってもらえるだなんて、虫の好いハナシは信じないようにしてるんだ」
同じ歩調で足を踏みだした少年――小山田徹に向けて、僕は、にやり、と不敵な笑みを浮かべてみせるのだった。
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