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第310話 未来の恩恵 at 1995/11/7
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いよいよ明日から『西中球技大会』がはじまる――。
学校でも、今日はその話題ばかりだった。
やれ、誰がどの競技に出るかだとか、どのクラスのどのチームが手強そうだとか、アイツが要注意だとか。たいていは、競技経験者が多いクラスが話題のトップに上がる。そういう意味では我が二年十一組もそうで、なにしろサッカー部のキャプテンと副キャプテンである小山田と吉川がいるわけで、否が応にも注目の的となっていた。偵察に来る生徒までいたくらいだ。
僕らの『電算論理研究部』はというと。
誰もサッカー経験者はいないわけで、集まって練習しようにも輪になってのパス練習(ワンバウンド以内で交代で拾いあうアレ)くらいしかできないねぇ、というハナシになり、いまさら付け焼刃でどうこうしても、明日からの体力が削られるだけ、ということで早めに解散した。
でも、実は、である。
「まさか、こんなところで役に立つとはなぁ……。下手くそなりに練習に出ててよかった……」
僕は夕食を早めに済ませると、学校指定のジャージに着替えて、町田市立木曽根咲山公園、通称『中央公園』に来ていた。みんなで夏祭りに来たあの公園だ。そして僕と純美子の――。
「……さて、と。ウォームアップついでに、感触を思い出してくれるといいんだけどなぁ」
僕の足元には古びたサッカーボールが転がっている。
二十一時近い満月に照らされた夜の公園には、僕だけしかいない。ひょっとすると、同じようなことを考えたウチの生徒と出くわすんじゃ……と内心ヒヤヒヤしていたのだけれど、歩道より一本奥に入った場所にあることもあって、通りがかるオトナの影すら見えなかった。
ぼん――んぱん――とっとん。
ぼん――んぱん――とっとん。
早速僕は、公園をぐるりと一周する遊歩道沿いに建てられた花壇の壁目がけてボールを蹴り出し、バウンドしてイキオイよく戻ってくるそれをていねいにトラップする。花壇といっても無雑作にツツジが植えられているだけの目隠しが主目的のそれで、土台自体が僕の腰くらいまでの高さがあった。なので、一人で練習するにはもってこいの壁なのだ。
無論、もっと近所の小さな公園でもサッカーの練習はできるのだろうけれど、ドミノのように几帳面に整列している団地棟の間でやろうものなら、それこそ祭りの太鼓より、どん、どん、と景気よく響いてしまい、たちまち四方から怒鳴り声が鳴り響くのだった。
この『中央公園』であればほどよく団地棟から離れているので、その心配がない。まあ、それでも、うるさい!と怒鳴り散らしてくるナイーブでデリケートで厄介な住民はいるのだが。
「でも、結構サイズが違うんだな……。跳ね具合も勝手が違うから、早めに慣れちゃわないと」
また一つ戻ってきたボールをソフトタッチで受け止め、足を乗せて、ぐりぐりと押してみる。
僕がまだまともでフツーに会社に通っていた頃、場所柄渋谷に近いということもあって『ホリィグレイル』の代表・仁藤さんをはじめとした若手社員が、フットサルサークルを結成した。
仁藤さんは、社員同士の交流やコミュニケーションづくりに熱心な人だった。他にもいくつかのサークル――カラオケや登山、スキーだったような気がする――が、会社から部費を出してもらって活動していたのだけれど、そのフットサルサークルに僕が誘われたのだった。
『モリケンさん、町田出身でしょ? だったら、サッカー得意なんじゃない?』
『い、いやいやいや! サッカーはニガテで……そのう……』
『へぇー! 町田に住んでて、サッカー不得意な人なんているのー!?』
経理部で、マネージャーの光村さんは黄色い声で大袈裟すぎるほど驚いてみせた。サッカーが大好きで、J1所属のひいきのチームの試合はスポーツバーで観戦するという光村さんだけに、町田出身のプロサッカー選手が多いなんてことは当然ご存知らしい。
『仁藤さんにも言われたんだよー? モリケンさん誘っといて、って』
『えええ……困ったな……。わ、わかった、わかりましたよぅ。やります』
美人で読者モデルも副業でやっているという光村さんに、至近距離からウインク攻撃されたら、そうカンタンに断れる奴なんていない。おまけに、仁藤さんの名前を出されちゃアウトだ。
そんなこともあって、あの頃とは違い、そこそこサッカーの腕前は上達している、というわけだ。
「ルールの違いもあるけど……フットサルのルールがおぼろげだから、比較になんないか……」
ぼん――んぱん――とっ――。
返ってこないボールを不思議に思い、視線を上げるとそこには――。
学校でも、今日はその話題ばかりだった。
やれ、誰がどの競技に出るかだとか、どのクラスのどのチームが手強そうだとか、アイツが要注意だとか。たいていは、競技経験者が多いクラスが話題のトップに上がる。そういう意味では我が二年十一組もそうで、なにしろサッカー部のキャプテンと副キャプテンである小山田と吉川がいるわけで、否が応にも注目の的となっていた。偵察に来る生徒までいたくらいだ。
僕らの『電算論理研究部』はというと。
誰もサッカー経験者はいないわけで、集まって練習しようにも輪になってのパス練習(ワンバウンド以内で交代で拾いあうアレ)くらいしかできないねぇ、というハナシになり、いまさら付け焼刃でどうこうしても、明日からの体力が削られるだけ、ということで早めに解散した。
でも、実は、である。
「まさか、こんなところで役に立つとはなぁ……。下手くそなりに練習に出ててよかった……」
僕は夕食を早めに済ませると、学校指定のジャージに着替えて、町田市立木曽根咲山公園、通称『中央公園』に来ていた。みんなで夏祭りに来たあの公園だ。そして僕と純美子の――。
「……さて、と。ウォームアップついでに、感触を思い出してくれるといいんだけどなぁ」
僕の足元には古びたサッカーボールが転がっている。
二十一時近い満月に照らされた夜の公園には、僕だけしかいない。ひょっとすると、同じようなことを考えたウチの生徒と出くわすんじゃ……と内心ヒヤヒヤしていたのだけれど、歩道より一本奥に入った場所にあることもあって、通りがかるオトナの影すら見えなかった。
ぼん――んぱん――とっとん。
ぼん――んぱん――とっとん。
早速僕は、公園をぐるりと一周する遊歩道沿いに建てられた花壇の壁目がけてボールを蹴り出し、バウンドしてイキオイよく戻ってくるそれをていねいにトラップする。花壇といっても無雑作にツツジが植えられているだけの目隠しが主目的のそれで、土台自体が僕の腰くらいまでの高さがあった。なので、一人で練習するにはもってこいの壁なのだ。
無論、もっと近所の小さな公園でもサッカーの練習はできるのだろうけれど、ドミノのように几帳面に整列している団地棟の間でやろうものなら、それこそ祭りの太鼓より、どん、どん、と景気よく響いてしまい、たちまち四方から怒鳴り声が鳴り響くのだった。
この『中央公園』であればほどよく団地棟から離れているので、その心配がない。まあ、それでも、うるさい!と怒鳴り散らしてくるナイーブでデリケートで厄介な住民はいるのだが。
「でも、結構サイズが違うんだな……。跳ね具合も勝手が違うから、早めに慣れちゃわないと」
また一つ戻ってきたボールをソフトタッチで受け止め、足を乗せて、ぐりぐりと押してみる。
僕がまだまともでフツーに会社に通っていた頃、場所柄渋谷に近いということもあって『ホリィグレイル』の代表・仁藤さんをはじめとした若手社員が、フットサルサークルを結成した。
仁藤さんは、社員同士の交流やコミュニケーションづくりに熱心な人だった。他にもいくつかのサークル――カラオケや登山、スキーだったような気がする――が、会社から部費を出してもらって活動していたのだけれど、そのフットサルサークルに僕が誘われたのだった。
『モリケンさん、町田出身でしょ? だったら、サッカー得意なんじゃない?』
『い、いやいやいや! サッカーはニガテで……そのう……』
『へぇー! 町田に住んでて、サッカー不得意な人なんているのー!?』
経理部で、マネージャーの光村さんは黄色い声で大袈裟すぎるほど驚いてみせた。サッカーが大好きで、J1所属のひいきのチームの試合はスポーツバーで観戦するという光村さんだけに、町田出身のプロサッカー選手が多いなんてことは当然ご存知らしい。
『仁藤さんにも言われたんだよー? モリケンさん誘っといて、って』
『えええ……困ったな……。わ、わかった、わかりましたよぅ。やります』
美人で読者モデルも副業でやっているという光村さんに、至近距離からウインク攻撃されたら、そうカンタンに断れる奴なんていない。おまけに、仁藤さんの名前を出されちゃアウトだ。
そんなこともあって、あの頃とは違い、そこそこサッカーの腕前は上達している、というわけだ。
「ルールの違いもあるけど……フットサルのルールがおぼろげだから、比較になんないか……」
ぼん――んぱん――とっ――。
返ってこないボールを不思議に思い、視線を上げるとそこには――。
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