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第352話 二学期・期末テスト(1.5) at 1995/11/25
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(もはや、何も入ってない、か……)
今日は、毎週土曜日の『リトライ者』定例会議だったが、僕の家のポストは一般中の下階級の我が家には一切縁のないチラシが数枚投函されていただけで、あとは何もなかった。
で、だ。
『ストレートに切り出せばよいだろう? 「コトセ、何かいいアイディアはないかな?」と?』
「あ――あるのか!?」
『いいや、残念ながら』
また今回も二人きりの定例会議。コトセとの会話に少しは慣れてきたつもりの僕だったが、毎度毎度この調子ではただでさえ気持ちが浮かないところに塩をすりこまれるようなものだ。
「お、お前なぁ……」
『冗談、冗談だとも。そう半べそをかくな、四〇過ぎのいい年したオトナなのだろう? ん?』
きししし、と、とても冗談でやっているとは思えない、実に楽しげな笑い声が届く。まったく……こいつ、ホントに水無月さんの中に隠れてた感情の一部なのかよ……?
『まあ、私も琴世からのまた聞きレベルだからなんともいえないがね?』
こほん、と芝居がかったわざとらしい咳払いをして、時巫女・セツナ=コトセはこう続けた。
『だが、怪しいのは奴だろうよ。前にも忠告したろうが? あの桃月とかいう尻軽のしわざさ』
「い、いやいやいや! それはない……と僕は思っているんだけど」
『……なぜだね?』
「桃月は、小学校の頃にいじめに遭った経験を持つ『元・被害者』だ。その桃月が、今度はいじめる側にまわるだなんてちょっと考えにくいんだよ。小山田に聞いたハナシなんだけどね」
『ふうむ』
時巫女・セツナ=コトセはしばし考えを巡らせるかのようにすぐにはこたえなかった。
そして、とても不思議そうにこう尋ねてきた。
『なぜお前は、昔いじめられていた者はいじめる側にまわるはずなぞない、と思ったのだね?』
「なぜって――! そりゃあ、辛さや苦しみを理解しているからであって――!」
『ああ違う、違うとも! お前はなにも理解できていないようだな、古ノ森ケンタ?』
「……違う? それってどういう――」
『ニンゲンは、そんなに利口でも無垢でも善良でもない、ということさ。完璧じゃないのだよ』
まるで自分は、その『ニンゲン』からは外れているような口ぶりだ。
『立場さえ変わってしまえば、それこそ今までの仕返しとばかりに加害者としてふるまうことを少しも躊躇わない。それをひどいと思うか? それとも、相応に権利があると思うかね?』
「だから……桃月がいじめの主謀者だと?」
僕だって、時巫女・セツナ=コトセが言わんとしていることがわからないわけではない。
でも、
それで、
あれば。
「じゃあ……ツッキーはどうなんだ? 立場が変わったら、機会を得たら加害者になるのか?」
『……ならないだろうな。絶対に』
「だったらおかしいじゃないか!」
『……おかしくはない。琴世は別だ。少なくともこの私が監視して肩代わりしている限りはな』
今しがた耳にした言葉が妙に引っかかる。僕は電話口の向こうには見えない顔をしかめた。
「監視、ってのはわかるけど……その肩代わりってどういう意味だ?」
『はじめに教えたろう? 私は、琴世の負の感情から生まれたのだと』
「うん。覚えている」
『それはつまるところ、悪感情のはきだめ、昏い衝動の隠し場所だ。それこそが私なのだよ。ゆえに、琴世は人を憎むことができない。恨むことができない。その代行者は私なのだからな』
「そうだったのか……。い、いや、でもそれって、かわいそうじゃないか」
『憎んだり、恨んだりできなくて、か?』
「違う違う! ……僕がかわいそうと思ったのは、君――コトセという名の女の子の方だよ!」
そう僕が言ったとたん、電話口の向こう側が静かになり、
やがて切れてしまった。
今日は、毎週土曜日の『リトライ者』定例会議だったが、僕の家のポストは一般中の下階級の我が家には一切縁のないチラシが数枚投函されていただけで、あとは何もなかった。
で、だ。
『ストレートに切り出せばよいだろう? 「コトセ、何かいいアイディアはないかな?」と?』
「あ――あるのか!?」
『いいや、残念ながら』
また今回も二人きりの定例会議。コトセとの会話に少しは慣れてきたつもりの僕だったが、毎度毎度この調子ではただでさえ気持ちが浮かないところに塩をすりこまれるようなものだ。
「お、お前なぁ……」
『冗談、冗談だとも。そう半べそをかくな、四〇過ぎのいい年したオトナなのだろう? ん?』
きししし、と、とても冗談でやっているとは思えない、実に楽しげな笑い声が届く。まったく……こいつ、ホントに水無月さんの中に隠れてた感情の一部なのかよ……?
『まあ、私も琴世からのまた聞きレベルだからなんともいえないがね?』
こほん、と芝居がかったわざとらしい咳払いをして、時巫女・セツナ=コトセはこう続けた。
『だが、怪しいのは奴だろうよ。前にも忠告したろうが? あの桃月とかいう尻軽のしわざさ』
「い、いやいやいや! それはない……と僕は思っているんだけど」
『……なぜだね?』
「桃月は、小学校の頃にいじめに遭った経験を持つ『元・被害者』だ。その桃月が、今度はいじめる側にまわるだなんてちょっと考えにくいんだよ。小山田に聞いたハナシなんだけどね」
『ふうむ』
時巫女・セツナ=コトセはしばし考えを巡らせるかのようにすぐにはこたえなかった。
そして、とても不思議そうにこう尋ねてきた。
『なぜお前は、昔いじめられていた者はいじめる側にまわるはずなぞない、と思ったのだね?』
「なぜって――! そりゃあ、辛さや苦しみを理解しているからであって――!」
『ああ違う、違うとも! お前はなにも理解できていないようだな、古ノ森ケンタ?』
「……違う? それってどういう――」
『ニンゲンは、そんなに利口でも無垢でも善良でもない、ということさ。完璧じゃないのだよ』
まるで自分は、その『ニンゲン』からは外れているような口ぶりだ。
『立場さえ変わってしまえば、それこそ今までの仕返しとばかりに加害者としてふるまうことを少しも躊躇わない。それをひどいと思うか? それとも、相応に権利があると思うかね?』
「だから……桃月がいじめの主謀者だと?」
僕だって、時巫女・セツナ=コトセが言わんとしていることがわからないわけではない。
でも、
それで、
あれば。
「じゃあ……ツッキーはどうなんだ? 立場が変わったら、機会を得たら加害者になるのか?」
『……ならないだろうな。絶対に』
「だったらおかしいじゃないか!」
『……おかしくはない。琴世は別だ。少なくともこの私が監視して肩代わりしている限りはな』
今しがた耳にした言葉が妙に引っかかる。僕は電話口の向こうには見えない顔をしかめた。
「監視、ってのはわかるけど……その肩代わりってどういう意味だ?」
『はじめに教えたろう? 私は、琴世の負の感情から生まれたのだと』
「うん。覚えている」
『それはつまるところ、悪感情のはきだめ、昏い衝動の隠し場所だ。それこそが私なのだよ。ゆえに、琴世は人を憎むことができない。恨むことができない。その代行者は私なのだからな』
「そうだったのか……。い、いや、でもそれって、かわいそうじゃないか」
『憎んだり、恨んだりできなくて、か?』
「違う違う! ……僕がかわいそうと思ったのは、君――コトセという名の女の子の方だよ!」
そう僕が言ったとたん、電話口の向こう側が静かになり、
やがて切れてしまった。
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