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第374話 汚れ役は底辺男子に適した職業(3) at 1995/12/15
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「……」
桃月はしばらく黙り込み、
「………………あたしだって、こんなことになるとは思ってなかったんだもん」
と、震える声でつぶやいたのだった。
僕は無言のままうなずき返すと、ていねいに揃えた写真を茶封筒の中に静かにしまいこみ、ブレザーの内ポケットにそれを滑り込ませた。もうこれ以上、これを使う必要はないだろう。
僕は、打ちひしがれ、精気を失った桃月を見て、わずかに逡巡したが――続けて言う。
「でも、もしそうだったならば、アレを脅迫の道具に使うべきじゃなかった。……違うかい?」
「脅迫、って……あたし、そんなつもりは――!」
「結果的には、そうなったんだ。その気があろうがなかろうが」
「ちょっぴり痛い目をみたらいい、そう思っただけじゃない!」
「その、ちょっぴり、が、絶望、この世の終わりくらいに感じる人だっているんだよ、桃月」
開き直ったような桃月のセリフに、僕のココロの片隅に隠しておいた怒りが顔を覗かせた。それでも口調だけは冷静さを失わないように、慎重に言葉を選びながら言い聞かせる。
「品行方正に生きてきて、みんなの信頼を集めて、波風の立たない上々の人生を歩んできたニンゲンにとって、こんな突然のスキャンダラスな事態はとても受け入れがたいことなんだ。もうダメだ、自分は終わりだ、二度と陽の当たる道は歩けない大罪人なんだ、そう感じてしまう」
そんな心境にあった元・副部長、境屋センパイの様子は、目に見えておかしかったのだろう、と容易に想像がついた。失くし物が見つからず、それこそ生きた心地がしなかったに違いない。
咲都子の情報網を駆使して、僕は境屋センパイの周囲からの評価を聞き出し、調べ上げていた。成績優秀。人望に厚く、学年を問わず友人・知人が多い。体操部の副部長以外にも、生徒会で書記をやっていたこともあり、地域のボランティア活動にも参加している。
そして、姉がお付き合いしている男子の、その弟に密かな恋心を抱いている。
そんなときに、ふと魔が差した一瞬でしでかしてしまった、はめを外した馬鹿げた行為が、それらすべての大事なモノを一瞬で奪い去り、めちゃくちゃに引き裂いてしまう、と知らされた時、カノジョが感じたであろう絶望感たるや想像することすら難しい。
もしも、そこから救われるのであれば――。
カノジョは悪魔のささやきにすら耳を貸したはずだ。
僕が桃月に言いたかったのは、まさにそこだ。さらに僕は自分の推理を語り続ける。
「写っていなかった体操部員は三人。部長の大河内センパイ、副部長の境屋センパイ、そして……ロコ。つまりこの写真は、偶然にも三年生はひとりも写っていなかったってわけだ。そして、このインスタントカメラを拾ってからの境屋センパイの様子は、誰の目にもおかしかった」
他の三年生部員たちは、すでに引退して受験勉強に勤しんでいたのだろう。部長・副部長の引継ぎを兼ねて、最後まで部活に参加していたのが大河内センパイと境屋センパイだったのだ。
「カノジョが落とし主だと、すぐに君は気づいたんだろ、桃月? あの人、表情やしぐさに出やすいもんな。それがあまりにあからさまで、ついでにもうひとつ悪戯をしかけることにした」
「……っ。ち、違うっ! や、やめて――!」
僕のハナシがまさかそこまで及ぶとは思ってもいなかったのだろう。桃月は蒼褪めた顔で僕の言葉を必死に遮ろうとする。途中、ひとこともしゃべらないロコを怯え切った表情で見た。
それでも、僕は構わず続ける。
「あの写真が校内に出回っても『損をしないひとり』がいることが、桃月にとって実に都合がよかったんだ。それは……二年生の中で、唯一写真に写っていない体操部員――上ノ原広子」
「やめてぇえええええ――!!」
絶叫を上げ、両耳を手のひらで塞いで、桃月はその場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。
桃月はしばらく黙り込み、
「………………あたしだって、こんなことになるとは思ってなかったんだもん」
と、震える声でつぶやいたのだった。
僕は無言のままうなずき返すと、ていねいに揃えた写真を茶封筒の中に静かにしまいこみ、ブレザーの内ポケットにそれを滑り込ませた。もうこれ以上、これを使う必要はないだろう。
僕は、打ちひしがれ、精気を失った桃月を見て、わずかに逡巡したが――続けて言う。
「でも、もしそうだったならば、アレを脅迫の道具に使うべきじゃなかった。……違うかい?」
「脅迫、って……あたし、そんなつもりは――!」
「結果的には、そうなったんだ。その気があろうがなかろうが」
「ちょっぴり痛い目をみたらいい、そう思っただけじゃない!」
「その、ちょっぴり、が、絶望、この世の終わりくらいに感じる人だっているんだよ、桃月」
開き直ったような桃月のセリフに、僕のココロの片隅に隠しておいた怒りが顔を覗かせた。それでも口調だけは冷静さを失わないように、慎重に言葉を選びながら言い聞かせる。
「品行方正に生きてきて、みんなの信頼を集めて、波風の立たない上々の人生を歩んできたニンゲンにとって、こんな突然のスキャンダラスな事態はとても受け入れがたいことなんだ。もうダメだ、自分は終わりだ、二度と陽の当たる道は歩けない大罪人なんだ、そう感じてしまう」
そんな心境にあった元・副部長、境屋センパイの様子は、目に見えておかしかったのだろう、と容易に想像がついた。失くし物が見つからず、それこそ生きた心地がしなかったに違いない。
咲都子の情報網を駆使して、僕は境屋センパイの周囲からの評価を聞き出し、調べ上げていた。成績優秀。人望に厚く、学年を問わず友人・知人が多い。体操部の副部長以外にも、生徒会で書記をやっていたこともあり、地域のボランティア活動にも参加している。
そして、姉がお付き合いしている男子の、その弟に密かな恋心を抱いている。
そんなときに、ふと魔が差した一瞬でしでかしてしまった、はめを外した馬鹿げた行為が、それらすべての大事なモノを一瞬で奪い去り、めちゃくちゃに引き裂いてしまう、と知らされた時、カノジョが感じたであろう絶望感たるや想像することすら難しい。
もしも、そこから救われるのであれば――。
カノジョは悪魔のささやきにすら耳を貸したはずだ。
僕が桃月に言いたかったのは、まさにそこだ。さらに僕は自分の推理を語り続ける。
「写っていなかった体操部員は三人。部長の大河内センパイ、副部長の境屋センパイ、そして……ロコ。つまりこの写真は、偶然にも三年生はひとりも写っていなかったってわけだ。そして、このインスタントカメラを拾ってからの境屋センパイの様子は、誰の目にもおかしかった」
他の三年生部員たちは、すでに引退して受験勉強に勤しんでいたのだろう。部長・副部長の引継ぎを兼ねて、最後まで部活に参加していたのが大河内センパイと境屋センパイだったのだ。
「カノジョが落とし主だと、すぐに君は気づいたんだろ、桃月? あの人、表情やしぐさに出やすいもんな。それがあまりにあからさまで、ついでにもうひとつ悪戯をしかけることにした」
「……っ。ち、違うっ! や、やめて――!」
僕のハナシがまさかそこまで及ぶとは思ってもいなかったのだろう。桃月は蒼褪めた顔で僕の言葉を必死に遮ろうとする。途中、ひとこともしゃべらないロコを怯え切った表情で見た。
それでも、僕は構わず続ける。
「あの写真が校内に出回っても『損をしないひとり』がいることが、桃月にとって実に都合がよかったんだ。それは……二年生の中で、唯一写真に写っていない体操部員――上ノ原広子」
「やめてぇえええええ――!!」
絶叫を上げ、両耳を手のひらで塞いで、桃月はその場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。
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